ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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どうも皆様

いつの間にか眠っておりました、雪希絵です……

新学期が始まったからでしょうか、なんだか疲れやすくて……

それでは、ごゆっくりどうぞ


おやすみなさい

呆然とするリィエルの中で、何かが巡る。

 

「わ、わたしは……」

 

自分は、何のために生きるのだろうか。

 

兄を失い、自分を失い、心の拠り所を失い、虚空に立たされるような感覚。

 

体が竦む、何も分からない。

 

自分は何のために生きるのか。

 

心の奥底を、さらう。

 

ルイスの言う通り、自分の願いを見つめ直す。

 

願うなら、叶うなら。

 

ルミアと、システィーナと、また一緒に居たい。

 

またクラスのみんなと、一緒に、遊びたい。

 

「あ…………」

 

今、はっきりと分かった。

 

リィエルの心の底にあったのは、穏やかで、くすぐったくて、暖かくて、楽しかった魔術学院での日々。

 

「ぁ……ぁ……あ……っ……!」

 

涙が、溢れ出る。

 

取り返しのつかないことをしてしまった。

 

もう、自分はルミアとシスティーナのそばにはいられないけれど。

 

グレンが、ルイスが、いなくなったら。

 

二人はきっと悲しむ。

 

もう、クラスのみんなと笑い合うことは出来ないけれど。

 

グレンとルイスがいなくなったら、あのクラスから笑顔がなくなってしまう。

 

嫌だ、嫌だ、それは……すごく、嫌だ。

 

「……ぅ……」

 

リィエルの冷えきって鉛のように重くなっていた体が……動く。

 

ふつふつと湧き上がる激情が、体の奥底から燃え上がる熱情が、徐々にリィエルの四肢に力を与え、魂に火を灯す。

 

「───うわぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───ッ!」

 

それは、一陣の暴風だった。

 

死に体だったリィエルは、咆哮と共に駆け出す。

 

残像すらも置き去りにする速度で、躍動した。

 

動けなくなったルイスとグレンを台風の目に、旋回。

 

刹那に翻る斬閃、三閃。

 

それだけで、たったそれだけで。

 

グレンとルイスを相手に圧倒していたリィエル・レプリカは、盛大な血花を咲かせ、その儚い命を散らした。

 

「……ごめん。私の妹たち。勝手だけど……あなた達の分まで生きるから……。……さようなら」

 

ポソリと、リィエルはそう呟いた。

 

その頬を、再び涙が伝った。

 

「ば、ば、馬鹿なぁぁぁぁぁぁ────!?」

 

リィエル・レプリカがいとも簡単に倒され、床を転がる。

 

そんな光景に、ライネルは頭を抱えて叫ぶ。

 

「有り得ない!何故だ!?なぜ、レプリカ達が簡単に倒される!?こいつらは、リィエルと全く同じ性能を持つ人形なんだぞ!?」

「十分有り得る話だよ」

 

若干よろけながらも、グレンが立ち上がってライネルに歩み寄る。

 

ルイスは身体も魔力も使い切り、もはや立ち上がれる状態ではなかった。

 

一応、立ち上がろうとはするが、フラフラと倒れそうになる。

 

「……全く、無茶しすぎです。ルイスさん」

「……ジャンヌ」

 

そんなルイスを、ジャンヌが正面から抱きとめた。

 

柔らかな感触が顔全体に当たる。

 

それも当然、場所はジャンヌの胸中央である。

 

状況的にそんな場合ではないが、思春期男子的にはドキドキせざるを得ない。

 

「無理をさせないために付いてきたのに……結局こうなっちゃうんですね」

「……お、おう」

 

体が動かないのもあるが、離れたくないのも本音である。

 

そんなルイスの心情は梅雨知らず、ジャンヌは体勢を変えて肩を組み、ルイスを支えた。

 

「おい、ルイス。お前はどうする」

 

グレンの元へと近寄ると、くるりと振り返りながらグレンがそう言う。

 

見れば、ガタガタと震えるライネルに対して、グレンが銃口を向けていた。

 

「先生、ダメ────!ルイス君!お願い、先生を止めて────!」

「……いいぜ。やれよ、グレン」

「ルイス君……!」

 

ルミアが呼びかけるが、ルイスはその場から動かない。

 

ジャンヌはそんなルイスを複雑な表情で見つめるが、何も言わない。

 

「悪いなルミア。目ぇつぶってろ───」

「ひぃいいいい!?」

 

恐怖のあまり、悲鳴をあげるライネル。

 

「黙れ!てめぇはレプリカ一体作るために何人の魂を犠牲にしやがった!自我すら奪われて無理矢理生み出されたレプリカ達に、心があったら何を思ったか分かるか!?なんの関係もない命をてめぇのくだらねぇ都合でオモチャにしやがって……!自分のことばっかりも大概にしやがれクソがァ────!」

 

グレンの恫喝に、ライネルがガタガタと心の底から震える。

 

「じゃあな……久遠の悪魔によろしく伝えてくれや……」

「ひ、ひぃぃぃぃ────ッ!」

 

昔の、宮廷魔導師団にいた頃の、冷たい瞳でグレンはそう言い……引き金を引いた。

 

ライネルが一際大きく叫びながら、体がを縮こませる。

 

カチン────ッ

 

そう甲高い音が鳴り……何も起きなかった。

 

グレンの銃の引き金は、たしかに引かれている。

 

「あれぇ?おっかしいなぁ。弾切れかなぁ?あ、そっかー!僕ってば途中でカニの化け物に撃ってたんだぁ!いやー、うっかりうっかり」

 

困惑するライネルを他所に、グレンはぐっと拳を握る。

 

「めんどくせぇことにね、俺は今教師なわけ。すなわち暴力反対、ラブアンドピース!ってことで────」

 

グレンの腕が大きくしなり、ライネルを思い切り殴りつけた。

 

直後、そのライネルの体がくの字に折れる。

 

ルイスが全力で投擲した剣が、腹部に突き刺さったのだ。

 

「……魔力が足んねぇのかな。刃、ついてなかったぜ……チクショウ……」

 

チカチカと明滅する意識を必至に繋ぐが、やがてルイスは静かに目を閉じた。

 

体が休息を求めているのだろう。

 

「……お疲れ様でした、ルイスさん。まだまだ一悶着ありそうですけど……今は休んでください」

 

ジャンヌはそう呟き、ルイスの額に優しくキスを落とした。




お読みいただきありがとうございました

長かった3巻、4巻編も次回でいよいよ最終回となります

それでは、また来週お会いしましょう!

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