ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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どうも皆様

無人島に一つだけ持ってくなら何がいいと聞かれて『スマホ』と答えたら『スマホ中毒がっ!』と罵倒された雪希絵です

スマホの何がいけないんでしょうか

少しだけ時間過ぎてしまいました、申し訳ございません

構成が上手くいかなくて、一度全部書き直してしまいまして……

それでは、ごゆっくりどうぞ


緋色の記憶

そこは火の海だった。

 

今まで、昨日まで、つい先程まで自分が過ごしていた場所。

 

そんなものはもう、跡形もなかった。

 

灼熱に照らされる中、二人の子供が走り続けていた。

 

身体は全身傷だらけ、服や肌は煤がついてところどころ黒く染まっていた。

 

この辺りでは唯一の同年代。

 

そして、恐らく唯一の生存者。

 

どこへ行くのか、どこへ向かえばいいのか、全く分からない。

 

それでも、走り続けるしかなかった。

 

だが、二人に向けられた牙は、ここで逃がすような甘いものではなかった。

 

火の手が迫る。

 

生けるもの全てを食い尽くさんと、大口を開けて追いかけてくる。

 

何度も何度も、それに飲み込まれる人達を見てきた。

 

どうなるかは知らない。

 

断末魔の叫びと共に、目を逸らしてきたから。

 

とにかく離れた位置へ、安全な場所へ。

 

そうして走る中。

 

片方の子供、少女の足に何かが絡まった。

 

それは、半ば爛れた誰か。

 

顔の判別などつかない、かつて人だったそれ(・・)は、少女の足を焦がしながらしがみつく。

 

苦痛に絶叫する少女。

 

もう片方の子供、少年は必死でそれを蹴り飛ばす。

 

炎の勢いは止まらない。

 

少女の足からそれは離れたが、もはや走ることは叶わない。

 

だからこそ少年は、炎に立ち向かった。

 

両手を広げ、虚勢を張りながら。

 

しかし、運命とはここまで残酷なのか。

 

炎は、少年に興味などないかのように。

 

少年の目の前で、目と鼻の先で。

 

少年をひらりと避けて、少女を飲み込んだ。

 

「ジャンヌ────!!!」

 

炎に照らされ、ほのかに茜色に染め上がる夜闇に、絶叫がコダマした。

 

それは、遠い日の記憶。

 

かつて彼らを絶望へと引きずり込んだ、緋色の記憶だった。

 

───────────────────────

 

「……どういうことだ?」

 

疼く頭を抑えながら、ルイスは尋ねる。

 

ジャンヌは頷き、答える。

 

「言葉通りです。別の世界で、英雄として名を残したジャンヌ・ダルク……その全てが、私の中に宿っているんです」

「……だから、生きてるってことか?」

「はい」

 

ジャンヌが嘘をつくような性格でないことは、ルイスが一番よく知っている。

 

それでも、ルイスには到底信じられなかった。

 

「別世界……?英雄って……」

「……ここで私が何を言っても、おそらく全ては理解出来ないと思います」

 

頭を抱えるルイスに、ジャンヌは目を伏せながらそう言う。

 

「ルイスさん、私の知り得る全てを話します。お願いですから、信じていただけませんか?」

「……わかった」

 

そうしてジャンヌは語り始めた。

 

ここではない異世界には、自分達が扱える者とは違う魔術体系が存在する。

 

その世界で行われている、『聖杯戦争』という儀式。

 

その為だけに呼ばれる、過去の英雄達を使い魔とした『サーヴァント』という存在。

 

「そのサーヴァントのうちの一人。英雄『ジャンヌ・ダルク』が、何らかの原因で呼び出され、死の淵にあった私を、融合するという形で救ってくれたんです」

 

話を聞き終わっても、ルイスは黙ったままだ。

 

ジャンヌがルイスを見つめ続け、ルイスは僅かに天を仰いだまま固まる。

 

そして、

 

「……しばらく、時間をくれ」

 

ルイスは、受け入れるために考えることを決めた。

 

───────────────────────

 

「……え、『楽園』はここにあったのか……!」

「焦らずとも『楽園』はいずれ俺達の前におのずと現れるから今日のところは退け……全て、先生の言う通りでした……」

「ごめんなさい、先生……俺達が間違っていました……ッ!」

「なのに俺達ときたら、先生に散々呪文ぶつけて痛めつけて……ッ!目先のことばかりしか考えられなくて……ッ!」

「ありがとうございます、先生……どうか、あの世で安らかに眠っていてください……俺達のこと、ずっと見守っていてください……」

「いや、生きてるから、俺」

 

青く輝くビーチ、白い砂浜。

 

そして、

 

「きゃっ、ちょっとルミア!冷たい!」

「システィだってさっきやったもん!」

「ちょ、ちょっとテレサ!あまり沖に行くと危険ですわよ!」

「大丈夫ですよ、ウェンディ!ほら、こちらへ!」

 

浜辺ではしゃぐ水着の美少女達。

 

多くの男子生徒達が夢にまで見た『楽園』がそこにはあった。

 

「ったく、お前ら手加減なしてやりやがって……。非殺傷系の呪文なのに死ぬかと思ったぞ?まーだ痺れるような感覚が残ってやがる……」

「あはは……色々とすんません」

 

ぶつぶつと零れるグレンの愚痴に、一同反論の余地はないようだ。

 

ちなみに、ルイスの攻撃は全て刃が潰れた剣を投影していたため、一晩寝たら全員すっかり元気である。

 

「まあいい。今日は予備日、一日自由時間だ。好きなだけ遊んでこい。俺はここで寝てるわ……なんかあったら呼んでくれ」

「わかりました!先生!」

 

そう言い、カッシュを先頭に海へと駆け出す。

 

そんな浜辺で遊ぶクラスメイト達を、ルイスは一人少し離れた位置で眺めていた。

 

水着に着替えてこそいるが、海にも入らずひたすら空を見つめる。

 

ジャンヌはシスティーナ達に手を引かれ、楽しそうに遊んでいる。

 

思わず頬が緩むが、すぐに表情を引き締めた。

 

(……分かってる。あれは紛れもなくジャンヌだ。俺がよく知ってる、ジャンヌ・ダルクその人だ。けど……)

 

その中身が違う人物かもしれない、そんな嫌な考えが浮かんでしまう。

 

そのため、ルイスは景色を楽しむ気にも、クラスメイト達と遊ぶ気分にもなれなかった。

 

(……変わらないな。あのころと)

 

屈託のない笑顔を見せるジャンヌを見ながら、ルイスはそう思った。

 

ジャンヌとルイスは、辺境の村で出会った。

 

珍しい薬草が取れると聞いたアミリアが、そこまで行きたいと言ったので、一週間ほど滞在することになったのだ。

 

なにしろ名前もないような辺境の村である。

 

当然宿屋もないため、ルイス達は教会で宿を借りていた。

 

アミリアとレオンが出かけている間、ルイスはジャンヌと遊んでいたのだ。

 

初めての同年代の友人に、ジャンヌは大喜びだった。

 

しかし、アミリアとレオンが一度近くの街を見に行った時のことだ。

 

洞窟に入ったルイスとジャンヌは、何か奇妙な入れ物を見つけた。

 

興味本位で近づき、ルイスはそれに触れた。

 

その瞬間、それは猛烈な勢いで発光し、飛び上がりながら次々と炎を吐き出した。

 

家が燃え、人が燃え、村全てが炎に包まれる。

 

二人は逃げて、必死に逃げて逃げ続けた。

 

だが、ルイスの目の前でジャンヌは……。

 

「──────っ!」

 

頭を抑え、ルイスは考えるのをやめる。

 

あれから三年。

 

それだけの時間が経っても、記憶は焼き付いて離れなかった。

 

「……どうしろってんだよ」

 

独り言のようにそう呟き、ルイスはどこまでも晴れた空を見上げた。




お読みいただきありがとうございました

お分かりだとは思いますが、補足させていただきます

この小説上のジャンヌは、マシュような擬似サーヴァントと状態となります

しかし、その融合対象は『平行世界の一般人として生きているジャンヌ・ダルク』ですので、性格などはまるっきり同じです

もちろん、キャラクターもそのままです

以上となります

それでは、また来週お会いしましょう!

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