ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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どうも皆様

一日で三箇所怪我をしてしまった雪希絵です

切り傷、火傷、痣が出来ました(^_^;

少々時間を過ぎてしまい、申し訳ありません

課題が立て込んでいまして……

短編の方もなんとか近いうちに仕上げますので、その時はよろしくお願い致します


海風に吹かれて

馬車は夜通し走り続けた。

 

すっかり日も落ち、喋り続けたことで疲れたのか、生徒達はすっかり寝てしまった。

 

しかし、

 

「……寝れるか」

 

パチリと目を開き、ルイスは小声で悪態をついた。

 

ふとルイスが左側を見ると、左肩にもたれかかるように眠るジャンヌ。

 

下を見ると、膝を枕にすぴすぴと寝息をたてて眠るリィエル。

 

少女の心地よい体温、そして寝息が身体に当たり、寝ようとしても動悸が収まらない。

 

実際のところ、リィエルは慣れているが。

 

「……寝れるわけがない」

 

もう一度悪態をつき、細くため息を吐く。

 

とはいえ、動くわけにもいかない。

 

二人を起こすのも申し訳ないし、離れたくないという気持ちがあるのもの否定出来ない。

 

「……どうしよ」

 

何となくリィエルの頭を撫でながら、とりあえず眠る手段を考える。

 

「むにゅぅ……」

「……ちょっと楽しいな」

 

撫でると可愛らしい反応をするので、しばし続けることにした。

 

(相変わらず手入れしてないな……。せっかく綺麗な青色なんだから、櫛くらい通せばいいのによ……)

 

「まったく、手のかかるやつだ」

 

システィーナやルミアがやることもあるだろうが、たまには自分がやろうかと考え、微笑む。

 

「みゅぅ……」

「……ふふ」

 

月に照らされ、夜風が吹き抜けるのどかな風景。

 

そんな時、

 

「ルイス……起きてますの?」

 

ふと、近くの席から話しかけられた。

 

「ウェンディか?」

 

そちらの方を向くと、困ったように微笑むウェンディがいた。

 

「私もなかなか眠れなくて……。少々、お話してもよろしくって?」

「ああ、もちろん」

 

快く了承し、気がついた。

 

「……すまん、こっちに来てもらってもいいか?」

「……そ、そうですわね」

 

残念ながら、ルイスはそこから動けないのだ。

 

正面の席にウェンディが座り、こほんと咳払いをする。

 

「なんだか久しぶりですわね。こうしてゆっくり話すのは」

「そういやそうだな。前は色んな本の話をしたからな」

 

ルイスとウェンディの共通の趣味とは、お互い物語が好きなことだ。

 

とはいえ、ルイスは元々システィーナの影響によるところが大きく、ジャンルに偏りがある。

 

そこで、ウェンディに良い本はないか尋ねているうちに、二人で本の話をするようになったのだ。

 

「そういえば、最近ルイスに教えて頂いた物語を読み返しましたの。そこで、新たに主人公について気がついたことがありまして……」

「お、そうなのか?ぜひ聞いてみたいな」

 

二人の趣味トークは、静かに緩やかに、夜遅くまで続いた。

 

───────────────────────

 

「………死にそう」

 

馬車で丸一日以上移動し続け、翌日の午後。

 

ウェンディが眠った後、結局ルイスは眠れなかった。

 

結果、完徹するはめになり、ルイスは具合が悪くて仕方ない。

 

「ルイス君、大丈夫……?」

「……大丈夫だと思いたい」

 

ルイスの母親であるアミリアはよく徹夜をするが、ルイスは寝不足には慣れていても、徹夜にはあまり慣れていない。

 

徹夜特有の気持ち悪さと、頭痛がルイスの精神を磨り減らす。

 

「ルイス、病気?」

「……原因が何を言う」

 

とはいえ、リィエルにもジャンヌにも悪気はない。

 

ここで二人を責めるのは御門違いというやつだろう。

 

「……船乗ったら寝る。頼むから着くまで起こさないでくれ」

「ちょっと勿体ないような気もするけど……わかったわ」

「ルイスさん、飲み物を用意しました。少しでもリラックスしてください」

「ありがとう」

 

カップを受け取り、その中身を煽る。

 

柑橘系の心地よい酸味と、鼻を抜ける果物の香りが、いくらか体調を良くしてくれる。

 

「……試しに母さんの薬でも飲むかなぁ」

「だ、大丈夫なの……?それ飲んでも」

「回復薬だし大丈夫だろ。毒って言わない限り毒は飲ませないしな」

 

アミリアは恐ろしい程に素直だ。

 

作った毒を飲ませる時は、必ず『これは毒だ。せいぜい気をつけろ』と言って飲ませる。

 

逆に言えば、毒だと言わない限りは一応、薬だ。

 

「なら、大丈夫なの……かな?」

「おうよ」

「ひとまず、風にでも当たって来たら?」

「そうする」

 

そう言い、ルイスは港の海近くに歩いていった。

 

今いるのは、フェジテの南西にある港町シーホーク。

 

ここで、食事休憩を兼ねた自由時間をとり、船でサイネリア島に向かうのだ。

 

しばらくルイスが海風に当たり続けていると、いつの間にか集合時間となっていた。

 

のだが、

 

「遅い!!!」

 

例によってグレンが遅刻である。

 

「……わたしが探してくる」

 

探しに行こうとするリィエルをルミアが呼び止めた。

 

「待って、リィエル。あまり大きくない町だけど、人一人探すには広いよ。行き違いになっても困るし、ここでわたし達と一緒に待っていよう?ね?」

「でも……」

 

不満気なリィエル。

 

今にも飛び出しそうな勢いだ。

 

「ああもうっ!大体、十分前行動が社会人の常識でしょ!?今日という今日は一言ガツンと言ってやらないと………ッ!」

 

システィーナがそう声を荒らげていると。

 

「へーい、そこのお嬢さんがたぁ〜?ちょおっといいかなぁ〜?」

 

軽薄そうな声がシスティーナ達の背後から飛びかかってきた。

 

何事かと思えば、シルクハットに小洒落たフロックを着用した青年が声をかけてきたようだ。

 

いかにもボンボンの軟派師といった見た目で、軽薄そうな笑みを浮かべている。

 

「ねぇねぇねぇってば〜?」

 

そんな青年がルミアの肩に手を置いた瞬間、

 

「何か用ですか?」

 

システィーナがその手を素早くはらった。

 

「いやぁ〜、お嬢さん達可愛いねぇ〜?その制服、フェジテの魔術学院の制服でしょ?ね?ね?こんな所で何やってるのぉ〜?」

 

あまりに馴れ馴れしい態度にイラッとしながら、システィーナが怒声を交えて答える。

 

「私達は遠征学修でここまで来ました。今はサイネリア島の定期便を待ってるところです」

「へぇ〜?そうなんだぁ〜?それで船待ってるんだ?ふぅん、これは偶然だねぇ。実は僕もそのサイネリア島に用事があってさぁ〜?あはは、なんだか運命感じちゃうなぁ〜?君もそう思わない?」

「……思いません」

 

周りの生徒達も何人かが気がついているが、止めることはしない。

 

というか、その必要性がない。

 

『全自動軟派ブレイカー』ことルイスが速攻で止める(もしくはぶちのめす)からだ。

 

それが分かりきっているため、心配こそしても止めに行くことはない。

 

しかし、青年が話しかけてから時間が経っても、ルイスは一向に動かない。

 

徹夜で疲れている……というわけではないようだ。

 

ずっと軟派男を見続けてはいるが、何とも言えない微妙過ぎる表情でじっとしている。

 

システィーナはひたすら容赦なく切り捨て続けるが、青年は食い下がる。

 

すると、

 

「はぁ〜い、ストップ」

 

いきなり現れたグレンが、その軟派青年の首根っこを背後から掴んでいた。

 

「げ!?な、なんなんだよ、お前!?じゃ、邪魔するなよ!?これは僕とこのお嬢さん達とのプライベートな……」

「あえ、遅れてすまんな、白猫。説教は後で受けるわ。俺、このお兄さんとちょぉ〜っと『お話』があるからさ。出航時間までには戻ってくるなら、クラスのまとめを頼むわ」

 

淡々とそう言って、グレンは青年を路地裏に引きずっていく。

 

「ぎゃあー!ぼ、暴力反対!?お嬢さん達、助けてぇぇぇぇぇ!!!」

 

情けない悲鳴を上げながら連れ去られる青年。

 

「何だったのかしら、あれ」

 

呆れるやら情けないやらで、システィーナは深いため息をつく。

 

だが、少しきょとんとした様子のルミアに気づき、声をかけた。

 

「……どうしたの?ルミア」

「うーん、なんていうか……あの人、どこかで見たような気が……?」

 

(まあ、アルベルトさんだからな。相変わらず鋭いぜ、ルミアは)

 

トコトコ、とシスティーナ達の方に歩みながら、ルイスはそんなことを考える。

 

「……おう。災難だったな、三人とも」

「あ、ルイス。体調はもういいの?」

「どうにかこうにか。あとは寝ればなんとかなるだろ」

 

海風にしばらく当たって、少しだけ目が覚めたのだろうか。

 

先程よりも、顔色は良く見える。

 

それからしばらくして、戻って来たグレンと共に、生徒達は船に乗り込んだ。

 

いよいよ、サイネリア島での遠征学修の時が間近に迫っていた。




お読みいただきありがとうございました!

アルベルトさんの演技力本当にすごいですよね……

アニメでは軟派師ではなく、店の店員だったので、ちょっと残念です

声付きで見てみたかったです……(´・ω・`)

それでは、また来週お会いしましょう!

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