ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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どうも皆様

ようやく少しだけ立ち直れた雪希絵です

気合と根性でメモを復旧していきたいと思います

さて、今回からいよいよ第三巻編です!

皆様に投票して頂いた新キャラクターも登場するので、ぜひご覧になってください!

ごゆっくりどうぞ!


第三巻
波乱の編入生


朝、ルイスは朝食を作っていた。

 

システィーナとグレンとの鍛錬が終わり、軽くシャワーを浴びて早速調理に取り掛かったのだ。

 

(……それにしても、あんな徹底的にやらなくてもなぁ……)

 

グレンはシスティーナに拳闘を教える時、基本的に容赦がない。

 

結果、システィーナはヘロヘロになる訳だが。

 

汗だくの美少女幼馴染みを毎日見るというのは、思春期男子的にかなりくるものがある。

 

「いや、忘れよう。うん」

 

頭を振ってそう呟き、ルイスは調理を再開する。

 

今朝のメニューはフレンチトーストだ。

 

卵液にパンを浸し終わり、フライパンにバターを敷いて焼き始める。

 

(どうせ母さん徹夜だろうし、味薄めにしてシロップで調整するか)

 

最近、ルイスの母親は新薬の調合に掛り切りだ。

 

そうなると当たり前のように徹夜をするので、味の濃さを抑えて油も少なめにする。

 

パチパチと油の弾ける音と、ふんわりと甘い香りが周囲に満ちる。

 

その音に釣られたのか、ガチャリと扉が開く。

 

「おはよう、ルイス」

 

出てきたのは、細身だが筋肉質の男性。

 

頭にはタオルを巻き、上はTシャツ一枚というラフな格好。

 

どう見ても厳つそうだが、垂れ気味な目には微笑みが浮かんでいる。

 

いかにも人が良さそうだ。

 

彼こそがルイスの父親『レオン=ハルズベルト』。

 

国に認められた一級鍛冶師である。

 

「今日はフレンチトーストか。美味しそうだなぁ」

「おはよう、父さん。ったく……また鍛冶場で寝てたのか?とりあえず、風呂入ってこいよ」

「はいはい、いってくるよ」

「タオルと着替えは置いてあるから」

「はーい。ありがとう」

 

一言お礼を言い、レオンは風呂場に入っていった。

 

「……よし、そろそろかな」

 

フレンチトーストをくるりとひっくり返し、またしばらく焼く。

 

すると、レオンが入って来た扉とは、反対側の扉が開いた。

 

「………はよ」

 

不機嫌そうな顔で、目の下に隈を作り、おまけに髪もボサボサの女性が入ってきた。

 

しかし、それだけ乱雑な状態でも、その女性はかなりの美人なことが分かる。

 

気の強そうな目鼻立ちで、薄目の唇。

 

背中を丸めてはいるが、スタイルも相当だ。

 

彼女こそ、ルイスの母親『アミリア=ハルズベルト』。

 

帝国内随一と言われる薬師だ。

 

「おはよう、母さん。また徹夜?」

「まあな……。ルイス、コーヒーくれ」

「はいはい」

 

慣れた手つきでコーヒーを入れ、軽くミルクだけ注いで、しんどそうに椅子にもたれるアミリアに差し出す。

 

黙ってそれを受け取り、一口啜る。

 

「……なんだ?豆変えたのか?」

「システィに貰ったんだよ。おすそ分けだってさ」

「ああ、あのフィーベルの娘か……。お前がご執心の」

「……ほっとけ」

 

バツが悪そうに呟き、ルイスはフレンチトーストを仕上げる。

 

「母さん、シロップいる?」

「いや、いらん」

「やっぱりな」

 

予想通りの一言に苦笑いし、自分とレオンの分にだけシロップをかける。

 

「ふー、さっぱり。あ、おはよう、ママ」

「未だにそう呼ぶのやめろって言ってるだろうが」

 

そこへちょうどレオンが戻り、アミリアが不機嫌そうに返す。

 

「あはは、いいじゃない、別に」

「よくない」

「喧嘩すんなよ、朝っぱらから……」

 

相変わらず騒がしく、相変わらず賑やかな朝食で、ルイスの一日は始まるのだった。

 

───────────────────────

 

辺りもすっかり明るくなり、ルイスは家を飛び出す。

 

「待てこらルイス!せっかく新薬が出来たのに飲まないとは何事だ!」

「実験台になれの間違いだろうが!いくら毒に慣れてるって言っても、しんどいものはしんどいんだよ!」

 

朝から薬の実験台にされそうになったので、ダッシュで走り去る。

 

「我が母親ながら、めちゃくちゃ過ぎる……」

 

ブツブツと言いながら、歩くこと十分ほど。

 

「あ、ルイス!おはよう!」

「おはよう、ルイス君」

 

フィーベル家の屋敷に辿り着いた。

 

毎朝フィーベル家の前に行き、そこから通学するのがルイスの日課だ。

 

微妙に逆方向なのは完全に無視である。

 

「おはよう、二人とも」

 

挨拶を済ませ、揃って歩き出す。

 

システィーナとルミアが他愛ない話をし、ルイスがそれに時々コメントをしながらしばらく歩くと。

 

先の十字路から、

 

「おはようさん、お三方」

 

いかにも『僕眠たいです』と言いたげなグレンが、挨拶を投げかけてきた。

 

「あはは、もう、先生ったら……私のことなんか気にしないで、朝はもっとゆっくりしていいんですよ?」

「……別に。俺、朝の散歩が好きなだけだし。たまたま、お前らと通学に使う道が一緒な上に、偶然、お前らの通学時間帯と被るだけだし」

「お前の場合、ゆっくりしたら遅刻するしな」

「うるせー、黙ってろい」

 

ルイスは元からだったが、最近ではグレンもこの通学メンバーに加わった。

 

口では色々と言うが、グレンもルミアのことを気にしているのだ。

 

しかし、事情を知らない生徒からは、二人のストーカーだの、生徒に手を出すクズ教師などと言われているが。

 

とくに、ルミアは美少女な上に性格よし、器量よし、誰にでも分け隔てなく接するため、美人だが性格のきついシスティーナよりも人気がある。

 

そのため、グレンは意図せずに学院の多くの男子生徒を敵に回してしまっているのだ。

 

それはルイスも例外ではない。

 

本人の性格もよく、授業中に様々な解説で生徒を助け、おまけに見た目もいいルイスだが、それと女性関係の話はまた違う。

 

むしろ美少女二人と幼馴染みであるため、一部の男子生徒からはかなり僻まれている。

 

だが、グレンもルイスも全く気にしない。

 

グレンはその担力で、ルイスは二人さえ無事ならいいと、そんな小さなことは捨て置いているのだ。

 

ルミアは、自分のせいで二人が非難されるのは心苦しいが、やめてくれとは言えない。

 

それは、二人の信念を冒涜する行為だ。

 

「じゃあ、今日もよろしくお願いしますね。いつもありがとうございます、先生」

 

だから、ルミアはいつも通り、きちんと感謝を表明するだけだ。

 

「あっはっは。なーんのことだか、俺にはサッパリ」

 

おどけて応じるグレンもいつも通り。

 

「ルイス君も、ありがとう」

「気にすんなよ。ルミアのためなら当然だ」

 

素直に答えるルイスも、いつも通りだ。

 

そして、やはりいつも通り、四人揃って学院に向かう。

 

そんな日常の光景に、異物が紛れ込んでいた。

 

「……あれ?」

 

ふと、システィーナが見た方向には、一人の少女がいた。

 

帝国では珍しい、鮮やかな薄青色の髪が特徴的な小柄な少女が、アルザーノ帝国魔術学院の制服を纏っている。

 

「ねぇ、ルイス……」

「ん?」

 

ちょうど隣にいたルイスに話しかけた直後、システィーナの背筋が凍りつく。

 

おもむろに、少女が地面に拳を叩きつけたかと思うと、引き上げた手に大剣を握っていたのだ。

 

地を蹴り、猛烈な速度で駆け出す。

 

(ま、まさか、あの子は……!)

 

白昼堂々襲いかかってくる連中の心当たりは、システィーナには一つしかない。

 

謎の魔術結社、天の知恵研究会。

 

(いけない……ルミアを……ルミアを守らないと……!)

 

「……何やってんだ、あいつ?」

 

ルイスが何事か呟くが、システィーナには聞こえない。

 

身体は、まるで時間が止まったかのように動かない。

 

突然やってきた敵に、その少女が振りかざす大剣の凶悪な輝きに。

 

システィーナは一歩たりとも動けない。

 

「システィ!」

 

動けないシスティーナを庇うようにルミアが一歩前に出て、ルイスが片手を二人の前に翳しながら少女を睨む……その直後。

 

少女は一際高く飛び上がり、三人の背後へ。

 

「どぉおおおあああああああ────!」

 

自分に襲いかかる大剣を、どうに白羽取りしたグレン。

 

「……会いたかった、グレン」

 

そんなグレンに、感情の起伏に乏しい声で挨拶するのは、帝国宮廷魔導師団特務分室所属『戦車』の『リィエル=レイフォード』だった。

 

─────────────────────

 

「というわけで、編入生のリィエルだ。仲良くしてやってくれ」

 

場所は変わって、学院の教室内。

 

壇上に立ったリィエルを、グレンが紹介する。

 

「おぉ……」

「……可憐だ」

「綺麗な髪……」

「お人形さんみたいな子ですわね……」

 

クラスメイト達が様々な感想を言うのを、ルイスは一人頬杖をついて聞いていた。

 

(まさか、噂の編入生がリィエルだったとはな……)

 

表向きは編入生として、特務分室の誰かがやってくる。

 

それはセリカから事前に聞いていたが、それが誰かは全く知らされていなかった。

 

(っていうか、護衛の任務できるのか?)

 

グレンから聞いたリィエルの仕事中の内容は、ハッキリ言って破綻の一言だ。

 

そんなリィエルに、日常生活に溶け込んでルミアを守る、という任務が務まるのか疑問だった。

 

(まあ、なんかあったらフォローするか)

 

そう考え、ルイスは意識をリィエルに戻す。

 

「一つだけ、よろしいでしょうか?」

 

どうやら質問タイムらしい。

 

ツインテールのお嬢様、最近ルイスと何かと仲の良いウェンディが手を挙げた。

 

(わたくし)、リィエルさんについて一つ疑問が御座いまして。よろしいですか?」

「あー、ここに来る長旅でリィエルも疲れているはずだ。そういう質問はまた後で……」

「ん。なんでも聞いて」

「お前はね!ちょっとは空気読んで!?それとも何!?俺に恨みでもあんの!?」

 

話を切り上げようとしていたグレンが怒鳴るが、質問は進む。

 

「差し障りなければ教えて頂きたいのですけど。貴女、イテリア地方から来たって仰りましたが、貴女の御家族はどうされているんですの?」

「!」

「……家族?」

 

その質問に、グレンが微かに目を見開き、リィエルが言葉に詰まる。

 

「……家族。家族……は……兄が一人、いたけど……」

「ふふっ、お兄様ですか?なんという御方なんでしょう?何をしていらっしゃるのですか?」

 

ウェンディの質問は、別に不自然ではない。

 

だが、リィエルは言葉に詰まる。

 

「兄の……名前……名前は……」

「すまん、こいつに今身寄りはいない。それで察してやってくれないか?」

 

珍しく神妙な顔をしたグレンが、割って入る。

 

「えっ!?そんな……でも、たしか『いた』と……。申し訳ありません!私、そんなつもりは……!」

「ん……問題ない。気にしてない」

 

しかし、教室の空気が多少重くなってしまう。

 

「じゃ、じゃあさ!リィエルちゃんとグレン先生ってどんな関係なの?」

 

そこへ、クラスの兄貴分カッシュが明るい質問をする。

 

クラスメイト達も興味津々だ。

 

「グレンと私の関係……?」

「あー……それはだな……」

 

どう誤魔化そうかとグレンが考えていると、

 

「グレンは私の全て。私はグレンのために生きると決めた」

 

一撃で致命傷を与えられた。

 

「ちょ……お前っ……!」

 

危機を感じたグレンが反論するより早く、

 

「きゃぁあああああ────ッ!大胆〜!情熱的〜!」

「ぐわぁああああ!出会って一目で恋に落ちて、もう失恋だぁああああああ!」

「禁断の恋愛!先生と生徒の禁断の関係よ〜ッ!」

「……先生と生徒が出来てるのは関心しないな」

「ちくしょー!先生のこと最近は尊敬して来たってのによぉ……久しぶりに完全にキレちまったよ、表出ろやコラァァァ!」

「夜道背中に気をつけろやぁあああああ───ッ!」

 

一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図である。

 

「……うるせぇ」

 

耳を塞ぎ、ルイスは一人冷静にコメントする。

 

「あぁぁぁ──もぉぉぉぉ────!うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

しばらく大騒ぎした後、グレンの大音響によって教室がようやく静まる。

 

それでも、ざわざわとはしているが。

 

「ぜぇ……ぜぇ……。今日はもう一人編入生がいるんだ。いいから静かにしてろ、お前ら」

 

肩で息をし、グレンは教室の扉を開く。

 

流れるような動作で、教室に入ってくる人影。

 

静寂に包まれる教室内。

 

一歩、また一歩と歩みを進める一人の少女。

 

そこにいるだけで、存在感を放つ。

 

ある種の神々しさでさえ感じる、優雅な足取りで、少女は壇上に立った。

 

腰まである長い金髪。

 

直視することさえ憚るような美貌。

 

露出の多い制服越しに分かる、見事なプロポーション。

 

「!?」

 

一目見た瞬間、ルイスは椅子を鳴らして立ち上がった。

 

音に驚いたクラスメイト達が注目するが、そんなものは全く気にしない。

 

それに気づいたのか、少女はルイスの方を振り返り、微笑みを浮かべる。

 

まるで、何かを懐かしむように。

 

「……お久しぶりですね。ルイスさん」

「………………ジャンヌ?」

 

ルイスは掠れる声を、辛うじて絞り出した。




というわけで、投票の結果、新キャラクターは『ジャンヌ・ダルク』に決定しました!

皆様、たくさんの投票ありがとうございました!

それにしても、色んな情報を詰め込み過ぎてすごい文字数になってしまいました(^_^;

来週からは、もっと整理して書きますね

それでは、また来週お会いしましょう!

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