待ってくださった方、お待たせして申し訳ありません!
気合い入れて書きましたので、お楽しみいただければ幸いです!
それでは、ごゆっくりどうぞ!
「そっかー……。ルイス君は昔から変わらないんだね」
「そうね。相変わらず優しいわ」
「なんだ、今度は褒め殺しか」
にこやかに笑う二人に対し、ルイスはどこか不審そうな顔をしている。
「それに、二人らしい話だね。なんかすごく納得できるよ」
「それって、私がドジってこと?」
「あー、そういうところはあるよな」
「そういうところはあるよね」
「二人とも失礼じゃない……?」
今度はシスティーナがむくれる番だ。
「まあまあ、そう怒るな。ほら、クッキー持ってきたから」
言いながら、鞄からクッキーを取り出す。
もちろん手作りである。
「……まあ、そこまで言うなら」
システィーナはクッキーを見ると、いそいそとそれを手に取った。
「良かった」
「そうだな」
そんなシスティーナの様子に、ルミアとルイスは顔を見合わせて微笑む。
しばらくの間、ルイス作のクッキーを食べながら雑談していると、
「昔の話といえば、ルイスとルミアって、仲良くなるの早かったわね」
クッキーを咥えながら、システィーナが思い出したように言う。
「……そういえば、そうだな」
「システィよりは早かったかも」
「『かも』じゃなくて早かったわよ」
唇を尖らせるシスティーナ。
しかし、すぐに顔を直し、
「ルミアがうちに来て、そう時間は経ってなかったはずよね?何かあったの?」
身を乗り出しながら二人に尋ねる。
「うーん……そうだね。あったといえば、あったかな」
そう答え、ルミアが微笑む。
「へー!聞きたい!」
「どうする?ルイス君」
「俺はルミアがいいなら構わないよ」
ルイスが許可し、紅茶を啜りながら話始めた。
「ルミアと最初に会ったのは、ルミアがシスティの家に来てから五日目くらい……だったかな?」
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「あーもー!なんでそんな言い方しか出来ないのよ!?いい加減にしてよ!?」
「だって本当のことだもん!私のことは放っておいてって言ってるでしょ!?」
少々久しぶりにフィーベル邸へとやって来たルイスは、そんな少女二人の怒号によって、熱烈な歓迎を受けた。
「ごめんね、ルイス君。ちょっと今、騒がしくて」
「ああ、いえ。お気になさらず。うちよりはまだ静かな方ですよ」
「あら、そうなの?」
「はい。うちの両親がうるさいもので」
すっかり慣れた敬語でシスティーナの母親をフォローすると、ルイスは屋敷に上がる。
件の怒声は、屋敷のリビングから聞こえるようだ。
「おーい……システィ?」
扉からひょっこり顔を出し、部屋の中を覗き込む。
「うわ……」
そして、思わず眉をひそめた。
部屋の中は凄惨な状態だった。
少女二人がどんな暴れ方をしたらこうなるのか、まるで泥棒にでも入られたかのようだ。
カーテンは破れ、机や椅子は傷だらけ。
ソファからは綿が飛び出し、絨毯の上には紅茶などが大量にぶちまけられている。
窓ガラスも、どうやら一、二枚は割れているようだ。
「な、何があったんだ……?」
恐る恐る中に入り、システィーナではない別の少女の方を見る。
先程の怒号のうち、聞き覚えのない方だろう。
部屋の中央に座り込み、瞳一杯に涙を蓄えている金髪の少女。
遠目からでもわかるその美貌は、怒りとも悲しみともつかない表情をしていて、目は虚ろになっていた。
その少し離れた位置で座り込むシスティーナのところへ、ルイスは歩み寄る。
「な、なぁ、システィ」
「あ……ルイス……おはよ」
「お、おう……おはよう」
曖昧に挨拶を返し、システィーナの顔を見る。
「って、システィ!切れてる、ほっぺた切れてるって!」
「えっ……?」
焦るルイスの言葉に、システィーナは頬に手を当てる。
指にぬるりとした感触。
頬から感じる、刺すような痛み。
その手のひらを見てみると、赤い血がベッタリというほどではないが付着していた。
「───本当だ。いつの間に」
「落ち着いてる場合かよ!結構傷大きいじゃねぇか……!」
ルイスがそう言うと、金髪の少女がビクリと肩を震わせる。
「………?」
多少気にはなったが、今は無視。
ひとまずシスティーナを治療するための道具を取り出し、薬を傷口に塗る。
「痛っ───!」
「我慢してくれ。深くはないけど、傷が残ったら嫌だろ?」
「うん……」
納得したシスティーナは、歯を食いしばって痛みに耐える。
やたらとしみるが、効果は折り紙つきだ。
その薬を適度に塗り、仕上げに絆創膏を貼る。
「よし、これで大丈夫だ」
「ありがと、ルイス」
「いいってことよ。で……何があったんだよ、これ」
立ち上がり、周りを見回すと、相変わらず酷い有様だ。
「……なんでもないわ。その子と、ちょっと言い合いになっただけよ」
「お前らの声には攻撃力があるのかよ」
「うっ……。と、とにかく、その子と喧嘩になったの!それだけ!」
「ふーん……」
とくに驚いた様子もなく、ルイスはそう言う。
システィーナが誰かと喧嘩になるなど、もはや慣れたことだ。
そんなことを気にしていたら、システィーナという少女とは付き合えない。
「というかそもそも、あの子のこと知らないんだけど……」
「ああ、そっか。ルイスは会うの初めてだったわね」
まるで睨むように少女の方を見ると、システィーナは続ける。
「あの子は最近うちで引き取ることになった、『ルミア=ティンジェル』って子なのよ。ここに来る前に色々あったらしいんだけど、どうにも関わり辛くて」
「なるほどね。で、喧嘩になったと」
「べ、別に私が悪いわけじゃないわよ!あの子の言い方が────!」
「だから、気に入らなければ関わらないでよ!」
システィーナの言葉を遮り、金髪の少女、ルミアが怒鳴る。
そうして、部屋を飛び出して外に走り去ってしまった。
「────っ」
システィーナは、一瞬だけ何か言いたそうにするが、すぐに口を閉じる。
(わっかりやすいなぁ……)
その行動の理由など、ルイスにはお見通しだった。
ようは、システィーナもルミアが心配で仕方ないのだ。
だから話しかけて、それを拒否されて、つい苛立つ。
(素直じゃないよな、まったく)
肩を竦め、ルイスは胸中でそう呟く。
口に出したら何をされるかわからない。
「仕方ないな。ちょっと待ってろよ、システィ」
「え?」
「部屋をめちゃくちゃにしたんだから、二人揃ってご両親に謝れよな。ちょっと行ってくる」
そして、システィーナの返事も聞かず、ルイスは屋敷を飛び出した。
門を走り抜け、しばらく歩き続ける。
すぐに追いつけると判断していたが、意外に足が速かったようだ。
「っていうか、たしか裸足だったよな……」
裸足で走る体力も凄いが、それで街中に出る度胸もすごい。
やがて街に出たルイスは、その場にいた人たちに聞きこみすることにした。
中には道具屋の看板息子であるルイスを知っている人もいて、丁寧に答えてくれた。
そうして辿り着いた結論は、
「街の方には来てないな……?」
というものだった。
多少目撃情報はあったが、街の少し奥の方に行くとそれがパッタリとなくなる。
ということは、街中には入っていないということだ。
「ってことは、あそこか?」
呟き、ルイスは街外れのある場所を見上げる。
視線の先には、ルイスのお気に入りの場所である、小高い丘があった。
慣れたこと道をささっと上り、ルイスは丘の上に着いた。
案の定、ルミアはそこにいた。
膝を抱えて座り込み、また瞳一杯に涙を溜めていた。
「……見つけた」
「!?」
ルミアの傍に行き、声をかけると、まるで怯えているかのように肩を震わせた。
「……な………に……?」
その尋常ではない怯えっぷりに、流石のルイスも焦る。
「あー、いや、驚かせようとした訳じゃないんだ。ごめん。そんなに怯えないでくれ」
「や……来ないで……」
「え、えぇ……?」
ただ事ではないのはわかるが、そうはっきり拒絶されると傷つくものだ。
仕方ないので、近づくのは諦める。
代わりに、ちょっと離れた位置に立ち、肘を置いて身体を預ける。
ひたすら気まずい沈黙。
普段は心地よく感じる風も、気まずさを助長させるようにしか感じられない。
ある程度高かったはずの日も落ち始め、辺りを茜色に染め上げる。
その頃になってようやく、
(そろそろ話しかけないとまずい)
と決心を固めた。
「………あー、えっと」
「!?」
「えぇ……?」
最初に話しかけた時と同じ反応をされ、傷つくルイス。
長丁場になることを覚悟し、ルイスは再び話しかける。
「えっと……何か……あったのか?」
「あなたには、関係ない……から」
(取り付く島もねぇ……)
あまりにも突っぱねられた言い方に、若干泣きそうになる。
(あー、もう、いいや)
嫌気が差したのか、ルイスが態度をガラリと変える。
「そうだよ、関係なんざねぇよ」
「………え?」
口調は若干荒々しく、雰囲気も少々変わった。
「あのな、今日会ったばかりのやつに何を期待してるんだよ?同情か?慰めか?出来るわけねぇよ」
「そ、そんなこと……!」
ルミアは咄嗟に言い返そうとするが、言葉が続かない。
自分の中にそういう気持ちがなかったとは、言いきれないからだ。
「会ったばかりで何も知らないやつに、言えることなんてある訳ないだろ。出来るのはせいぜい────」
そこで一旦言葉を切り、つかつかとルミアに近寄る。
距離は、数十センチ程だろうか。
「こうして歩み寄ることくらいだろうが」
そんな近距離で、真っ直ぐルミアを見つめ、そう言う。
「けどな、歩み寄ったところで、お前が逃げてどうするんだよ、ルミア」
「…………」
的を射た発言なのか、ルミアはひたすら沈黙する。
「近寄っても逃げられたら、距離なんか変わらない。ルミアも歩み寄るか、せめて動くな。そうしたら、いくらでも近づいて行ってやる」
「────!」
ルミアが息を呑む。
同情はされてきた。
不自然な程優しい言葉も、不遇な境遇を慰める声も嫌になるほど聞いた。
「いくらでも近づいて、絶対そこから動かない。それともなんだ、それすら嫌か?」
けれど、ここまで強い言葉は初めて聞いた。
優しくもなければ、こちらを気遣うわけでもない。
考え方によっては、自分勝手にも思える程だ。
だが、偶然か、それともそれが欲しい言葉だったのか。
「───うっ……っ……!」
「なっ、お、おい……!そんな嫌か……?」
「ち、違うの……これは、あの……」
赤く腫れた目を擦り、ルミアが続ける。
「そんなこと、言われたことなくて……。フィーベルの人たちも、システィーナも、ずっと私のこと可哀想って言うから……」
「…………」
それは、もちろん当然だ。
むしろ、ルイスのようなことを言う方が変わっている。
「……けど、お前の人生だろ」
「え……?」
困惑するルミアに、ルイスは続ける。
「色々あって、いっぱい傷ついたんだろう。嫌なことがたくさんあって、なんでこんな目にって思ったんだろ?」
「う、うん……」
「けど、それでもルミアの人生だろ?嫌なことも全部、ルミアの人生なんだ。自分で否定してどうすんだよ」
「……あ」
気がついたように、ルミアが呟いた。
「自分の人生否定したら、今までも、これからも否定することになる。後悔しても、嫌になっても、否定するのだけはやめろ」
「………うん」
「そうするなら、俺もルミアのことを否定なんてしないから」
そうして、初めてニッコリと笑い、
「約束するよ。絶対俺は、ルミアの傍にいるよ。意地でも離れてやるもんか」
堂々と、そう言った。
「………う…ん……ありが、とう」
さっきまでと同じように、さっきとは全く逆の表情で、お礼を言うルミア。
出会ったころの死んだような瞳では、もうなかった。
─────────────────────
「……なんか、劇的ね」
「そうか?」
「そうかな?」
話を聞き終わり、システィーナが呟くと、ルイスとルミアが首を傾げる。
「いや、途中から物語を読んでる気分だったわ」
「やめてくれ、結構恥ずかしいこと言ってた自覚はあるんだ」
「素敵だったよ?ルイス君」
「普段なら褒め言葉だけど、今ばかりは別の意味に聞こえる」
話が終わった直後から弄られる現状に、ルイスは嘆息した。
「まあ、でも、確かに納得だわ。それだけのことがあったなら、私よりも先には仲良くなったりするわよ」
「うん。あの時のことは本当に感謝してる。改めて、ありがとう。ルイス君」
「ん……おうよ」
屈託のない笑顔を向けられ、ルイスは恥ずかしそうに頭を搔く。
「んで、そういう二人はどうなったんだよ。きっかけは知ってるけど、仲良くなった理由詳しく知らないんだけど」
「そうね。何話したっけ?」
「色々話したねー。例えば……」
こうして、幼なじみ三人の話は朝日が登るまで続いた。
翌日に授業があるというのに、大丈夫なのだろうか、この三人は。
二部構成に切ったにも関わらず、5000文字オーバーとは……
自分でびっくりです
如何でしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただければ、私はとても嬉しいです
また、つい最近UAが10万を突破しました!
これを記念して、また短編小説を書きたいと思っています
いつになるかはわかりませんが、そちらもよろしくお願い致します!
それでは、また来週お会いしましょう!