ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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こちらは、テーマを皆様に募集した短編小説になります!

幼なじみ三人の馴れ初めになります!

お楽しみ頂ければ幸いです

よろしくお願い致します!


君と出会った日(システィーナ編)

「その時ルイスってば、泣きながらそこら中を走り回ってね!」

「あはは、昔はそんなに酷かったんだ」

「もうやめてくれ、マジで」

 

部屋の中に、二人分の少女の笑い声と、一人分のため息がこだまする。

 

現在、ルイスはフィーベル家に泊まりに来ていた。

 

元々そんなつもりはなかったが、帰ろうとした矢先に唐突な土砂降り。

 

止むまで待ってはみたものの、残念ながら止む気配はない。

 

むしろ強まっているようだ。

 

時間がもったいないからと夕食をいただき、お風呂まで入らせてもらい、今に至る。

 

結局雨は止まず、このまま泊まることになったのだった。

 

夜も更け、寝る前に少し話をしようということになり、システィーナの部屋に集まった。

 

「っていうか、なんでこんな昔の黒歴史掘り下げられなきゃいけないんだよ……」

 

そこで、何故かルイスの思い出したくもない過去を明かされることになった。

 

「ルイスの話が一番面白いからじゃない?」

「それ絶対褒めてはいないだろ」

「ふ……うふふ……!」

「ルミアもそんな笑わないでくれ……」

 

先程と同じく、笑い声とため息が響く。

 

それでも、二人が笑っているならいいかな、と思っているのがルイスの本音である。

 

そんなこんなで話は続き、話題は別のことに(ようやく)なった。

 

「そういえば、システィとルイス君って、何年くらい前から仲がいいの?」

 

ルイスが紅茶を入れて部屋に戻り、一息ついた時にルミアがそう言う。

 

すると、システィーナとルミアは顔を見合わせ、

 

「「……………?」」

 

不思議そうに首を傾げる。

 

「あ、あれ?」

 

予想外の反応に、ルミアは拍子抜けする。

 

てっきり、はっきり覚えているものだと思ったのだ。

 

「……いつからだっけな?」

「結構前だったはずだけど……」

「「わからない……」」

 

二人して腕を組み、まったくわからないと言わんばかりに考え込む。

 

「けど、会った時のことは覚えてるよ。しっかりと」

「それは私も覚えてるわ」

 

そう言い、二人で微笑み合う。

 

それを聞き、ルミアが身を乗り出す。

 

「その話、聞きたいな。二人で話してくれないかな?」

「んー、まあ、それくらいならいいわよ」

「特に隠す事じゃないしな」

「やった!ありがとう」

 

ルミアとシスティーナはベッドに座り、ルイスは椅子に座った。

 

「あれはたしか……俺の実家が初めて配達に来た時だったな」

 

─────────────────────

 

「これで全部ですね。ご購入ありがとうございました」

「いえいえ、そんな。質のいい物ばかりですし、こうして配達までしてくれたんですから」

 

フィーベル家、その門前にて。

 

細身だが筋肉質な男性と、人の良さそうな男性が話している。

 

筋肉質な方がルイスの父親、もう片方はフィーベル家の主である男性だ。

 

「よろしかったら、お茶でもいかがですか?天気もいいですし、妻も呼びますから」

「いえ、そんな……。お気持ちだけで」

「遠慮しないでください。ちょうど美味しい茶葉が手に入ったんです」

「では、お邪魔させていただきます」

「お邪魔致します」

 

もう一人、気の強そうな美人の女性、ルイスの母親も行儀よく礼をし、敷地内に入る。

 

「おじゃまします」

 

ルイスもそう言い、中庭と思われる場所に入る。

 

両親は一緒に屋敷の中に入ってしまったので、ルイスは中庭を歩き回った。

 

「……広いなー」

 

適当な感想を呟きながら、さらに歩き進めると、ルイスの鋭敏な耳が何かを捉えた。

 

ルイスは生まれつき、五感が鋭い。

 

そのせいで、今母親と一緒に行っている『毒物に慣れる訓練』になかなか苦痛を伴っているため、ルイスはあまり好きな体質ではないが。

 

辺りを見回し、音の方向に歩みを進める。

 

近づくにつれ、それが人の啜り泣く声であることに気がついた。

 

やや急ぎ足になり、しまいには走り出してルイスは声の主の元へ辿り着いた。

 

やや大きめ木が影を作る、のどかな風景。

 

そこには、一人の少女が座り込んでいた。

 

後ろ姿だけだが、その美しい銀髪は、離れた位置からでも目を引いた。

 

「……どうした?どっか痛いのか?」

 

そんな少女の元へ近づき、ルイスは話しかける。

 

すると、少女はびくっと肩を震わせて、

 

「……誰?」

 

恐る恐る、といった様子で尋ねてくる。

 

「オレはルイスっていうんだ。えっと、ここに配達に来たんだよ」

「……ああ。お父様が言ってた……」

「そうなの?」

 

こくり、と頷く少女に、ルイスは頭を搔く。

 

何があったのかはわからないが、どうやらかなり落ち込んでいるらしい。

 

「どうしたんだ?」

「……これ」

 

少女の差し出したものを見てみると、それは一冊の本だった。

 

分厚く、表紙や紙の状態から、相当に古い本であることがわかる。

 

しかし、その本の開かれたページは、茶色の液体でびしょびしょだった。

 

「お爺様の大事な本に……紅茶をこぼしちゃって……」

「それで落ち込んでたのか」

「……うん」

 

小さく頷きながらそう言い、少女はまた落ち込み始めた。

 

「どうしよう……お爺様に怒られる……」

 

そうして、また肩を震わせて泣き始めた。

 

すすり泣く声の正体は、自分がやったことの罪の意識耐えきれず、泣いている声だったのだ。

 

(どうしよ……)

 

なんとかしたい、とは思うが手が思いつかない。

 

ルイスに思いつくのは、せいぜい一緒に謝りに行くことくらいだ。

 

すすり泣く少女を前に、あわあわと慌てるルイス。

 

頭から湯気が出るほど考え込み、ルイスは奇跡的に手を思いついた。

 

「ちょ、ちょっと待ってて!」

 

少女にそう言い、ルイスは庭を駆け抜けて屋敷に飛び込む。

 

「母さん!薬袋見せて!」

「え?まあ、いいけれど……」

 

そう母親が答えるや否や、薬袋の中をゴソゴソと探り、必要なものを引っ張り出す。

 

「これもらうよ!」

 

そして、ろくに薬を見せすらしないで、ルイスは走り去った。

 

中庭に戻り、相変わらず座り込んでいる少女の元へ走り寄る。

 

いくつかの試験管を広げ、使う順番を思案する。

 

実は、ルイスはそれなりに薬の種類と効果を記憶しているのだ。

 

伊達に道具屋の看板息子はやっていない。

 

「……よし。それ、貸してくれ」

「うん……」

 

半信半疑……というか、八割疑っているような感じで、少女は本を手渡す。

 

ルイスはそれを受け取ると、栓を抜いて中の黄色の液体を躊躇いなくぶっかけた。

 

「ちょ、なにを……!」

「大丈夫、見てて」

 

止めようとする少女をなだめ、ルイスは本を指さす。

 

首を傾げながら本を見ると、そこには驚くべき光景があった。

 

紅茶の色が段々と抜けていき、薬と一緒に地面にこぼれていくのだ。

 

この薬は、元々衣服の染色する際に、元の色を脱色するためのものだ。

 

それを水で薄め、紅茶の色を抜いたのだ。

 

「あとは、これで……」

 

別の薬をかけ、本のページを引っ張る。

 

すると、みるみるうちに本から水気がなくなっていく。

 

これは、水を吸収する性質のある薬の効果だ。

 

本当は別の用途があるが、今回は水気を失くすために使用した。

 

「ん、ちょっとしわしわだけど、結構マシじゃないか?」

「本当だ……。すごい、魔術師みたい!」

 

本を手渡すと、少女は飛び跳ねて喜んだ。

 

今度は嬉し涙すら浮かべるほどだ。

 

「ありがとう!ルイス!」

 

満面の笑みでそう言い、手を握る少女に、ルイスは思わず目を逸らしながら答える。

 

「お、お、おう……」

 

よくよく見てみれば相当な美少女だったため、手を握られるだけで緊張するのだ。

 

「で、でも、オレは魔術師じゃないから……」

「わかってる。でも、すごいわ!」

「あ、ありがと……」

 

ぶんぶん、と手を上下に振り、再びお礼を言う。

 

しかし、その笑顔は徐々に曇り、やがて元の沈んだ表情になってしまった。

 

「ど、どうした?」

「わたしも……こんなすごいことが出来たらなぁ……」

 

ため息をつき、少女は続ける。

 

「わたしもいつか、立派な魔術師になって、あの空に浮かぶ城……『メルガリウスの天空城』の謎を解き明かすの。それは、ぜったいに叶えたい」

「うん……」

「だけど、わたしの周りの人が言うの。そんなの叶わない、お爺様でもできなかったことを、わたしができるわけないって。だから……」

 

再び瞳が涙に濡れ、少女はそれを必死で拭う。

 

「もう、だめなのかな……」

 

空を見上げ、そこに浮かぶ巨大な城を眺めながら、少女はそう言う。

 

隣に座るルイスも、それにならう。

 

風が吹き、天空城の周りの雲が流れていく。

 

しばらく、空を見上げ続けていたが、

 

「……だめじゃないよ」

 

ルイスが、ふとそう言った。

 

「え……?」

「だめじゃないよ。きっとできる」

 

念を押すように、繰り返す。

 

「その……うまく言えないけど、お爺さんはすごいんだろ?」

「それはもちろん!お爺様は偉大な魔術師よ!」

「じゃあ、大丈夫だって」

「……?」

 

意図がわからず、不思議そうな顔をする。

 

「お爺さんがすごいなら、孫だってすごいはずだ。きっとそうだよ」

 

少年らしい、理屈も何もない理論。

 

大雑把で、適当この上ない励ましだ。

 

しかし、どうしてか、心は軽くなる。

 

「……そうね。わたしのお爺様がすごいなら、わたしにもできるわよね!」

「そうそう、その意気だ」

 

少女は立ち上がり、ガッツポーズをして気合いを入れる。

 

どうやら、すっかり立ち直ったようだ。

 

「ありがとう、ルイス。ちょっと元気になれたわ」

「いいよ、気にしないで。えーっと……」

 

そういえば名前を聞いていないことに気がつき、ルイスは言葉に詰まる。

 

「あ、ごめんなさい。私はシスティーナ。仲がいい人は、みんな『システィ』って呼ぶわ」

 

ぺこり、と一礼してそう言うシスティーナ。

 

ルイスは慌てて一礼を返し、

 

「わかった。よろしくな、システィ」

 

と、笑顔で手を差し出した。

 

システィーナは、しばらくパチパチと瞬きをしながら手を眺めていたが、

 

「うん。よろしく、ルイス」

 

そう言い、彼女も笑顔で手を握った。




かなり長くなってしまったので、2話構成に分けたいと思います

来週、この続きのルミア編を投稿しますので、よろしかったら見てください!

……決して、ネタが尽きたとかではないですよ?

それでは、また来週お会いしましょう!

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