一昨日、この作品が削除される夢を見て戦慄していた雪希絵です
エアコンついてたはずなのに、冷や汗ダラダラでした
それはそれとしまして
今回から、お話は第二巻の魔術競技祭編に入ります
これからもよろしくお願い致します!
また、活動報告でのアンケートもまだまだ募集中ですので、ぜひ投票お願いします!
それでは、今回もごゆっくりどうぞ!
魔術競技祭
「はーい、『飛行競走』の種目に出たい人、いませんかー?」
壇上から教室全体に向けて、システィーナが呼びかける。
だが、まるで葬式のように静まった生徒達は、誰一人として反応しない。
「……じゃあ、『変身』の種目に出たい人ー?」
質問を変えるが、やはり無反応。
システィーナはため息をついた。
かれこれ、こんな状態が数十分は続いている。
今行われているのは、アルザーノ帝国魔術学院で年に三度に分けて行われている、学院生同士による魔術の技の競い合いだ。
それぞれ学年ごとに、各クラスの代表生徒が様々な魔術競技で技を比べ、最も優秀なクラスを選出する。
なお、総合優勝したクラスの担当講師には、特別賞与が出るとか出ないとか。
そして、いよいよ近づいた競技祭のため、その参加種目を決めている訳だが、これが一向に決まらない。
今まで数々の競技の名前を挙げたが、誰一人手を挙げない。
それどころか、一言発する者さえいない状態だった。
「それじゃあ、『読み取り』の競技に出たい人ー?」
半ば諦めたようにそう言って、システィーナはクラスを見回す。
すると、
「ん」
一人の生徒が手を上げる。
それはもう残像しか見えないのではないかと思うほどの高速でシスティーナがそちらを見ると、そこに座っているのは黒髪青眼の少年。
システィーナとも長い付き合いである幼馴染み、ルイスだった。
「る、ルイス、いいの!?この競技、難しいって色んな人から言われてるのに……」
慌てるシスティーナ。
しかし、ルイスは表情一つ変えずに答える。
「おう。大丈夫だって、任せとけよ」
「た、頼もしい……!」
「かっこいいですわ……!」
「僕もあんなふうにハッキリ言えたらなぁ……」
堂々とした態度のルイスに、教室の様々な場所から関心の声が上がる。
約一名ほど黄色い声も上がっているが。
「……ごめん。ありがとう、ルイス」
「なんで謝るんだよ」
厄介なものを押し付けてしまったと申し訳無さそうなシスティーナに、ルイスは苦笑いで返す。
「それより、ルミア。一人じゃ書くの大変だろ?手伝うよ」
言いながら席を立ち、チョークを持ってルミアの近くに寄る。
「ううん、平気だよ。でも、ありがとう、ルイス君」
「いいってことよ」
そんなやり取りに幾らか空気は軽くなるが、依然として沈黙は続く。
「はぁ、困ったなぁ……来週には競技祭だっていうのに全然決まらないなぁ……」
システィーナは頭を掻きながら、書記を務めるルイスとルミアに目配せする。
二人は頷き、最初にルミアが穏やかながらもよく通る声で呼びかけた。
「ねぇ、皆。せっかくグレン先生が今回の競技祭は『お前達の好きにしろ』って言ってくれたんだし、思い切って皆で頑張ってみない?ほら、去年、競技祭に参加できなかった人には絶好の機会だよ?」
次にルイスが肩を竦めながら、それに同意する。
「あのグレンのことだ。どうせいつも通りやる気がないだけだと思うけど、逆に言えばグレンに文句言われることはないわけだ。だったら、祭りらしく騒ごうぜ?」
それでも、誰も反応しない。
ルイスの身も蓋もない言い方に、若干苦笑する者はいても、ほとんどの生徒が視線すら合わせようとしない。
「……無駄だよ、三人とも」
その時、膠着状態にうんざりしたのか、眼鏡を押し上げながらギイブルが立ち上がる。
「皆、気後れしてるんだよ。そりゃそうさ。他のクラスは例年通り、クラスの成績上位陣だけが出場してくるに決まってるんだ。最初から負けるとわかっている戦いは誰だってしたくない……そうだろ?」
「……でも、せっかくの機会なんだし」
むっとしながら反論しようとするシスティーナを無視し、ギイブルが続ける。
「おまけに今回、僕達二年次生の魔術競技祭には、あの女王陛下が賓客として御尊来なさるんだ。皆、陛下の前で無様を晒したくないのさ」
嫌味な言い方だが、実に的を射ている。
魔術競技祭は、かつてはクラス全体で盛り上がる、まさしく祭りのような催しだった。
しかし、近年ではそんな楽しい競技祭は廃れてしまった。
今では、クラス上位の生徒を使いまわして競技をこなし、平凡な生徒は観戦しか出来ないような退屈なものになってしまった。
学年でも五本の指に入る優等生であるシスティーナや、クラスで数えればそこそこに優秀なルイスもそんな決まりに従い、去年の一年次の魔術競技祭に参加した。
その時のことを振り返り、二人は口を揃えてこう言う。
『欠片も面白くなかった』と。
だからこそ、今年はそんなことにならないようにと考えていたのだが、ギイブルはさっさと上位者で固めろと言っているわけだ。
反論を続けるシスティーナに、自分勝手な持論を展開し続けるギイブル。
二人とも互いの考えを一歩も譲らないため、雰囲気はどんどん劣悪になっていく。
クラスの生徒達も、気まずそうに萎縮するばかりだ。
さらに言い争いは続き、とうとう我慢の限界に達したシスティーナが怒声を上げようとしたその時、
「待て」
ルイスが片手を上げて静止する。
驚いてルイスを見ると、その口は楽しそうに端が上がっていた。
「ルイス?なに笑って……?」
「いいから落ち着けよ。これから面白くなる」
何のことがわからないシスティーナが首を捻った……その時だった。
ドタタタ────と廊下を勢いよく走る音がしたかと思うと、一人の青年が教室に飛び込んで来た。
「話は聞いたッ!ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生様にな─────ッ!」
開け放たれた扉には、意味不明な決めポーズで現れたグレンが立っていた。
「……ややこしいのが来た」
システィーナが頭を抱えてため息をつくが、ルイスは声を押し殺すように笑っている。
呆然として静まり返るクラス一同を前に、グレンは教壇に胸を張って立った。
「喧嘩はやめるんだ、お前達。争いは何も生まない……何よりも───」
グレンはきらきらと輝くような、爽やかな笑みを満面に浮かべて続ける。
「俺達は、優勝という一つの目標を目指して共に戦う仲間じゃないか」
(──────キモい)
その瞬間、クラス全員の心の声な完璧に一致した。
ただ一人、堪えきれなくなったルイスが肩を震わせて笑っているが。
しかし、そんな空気に気がついていないのか、はたまた気にしないだけなのか。
「まぁ、なんだお前ら。競技決めに苦戦してるようだな」
頭を掻きながらグレンがそう言う。
「ったく、何やってんだ、やる気あんのか?他のクラスの連中はとっくに種目決めて、来週の競技祭に向けて特訓してんだぞ?やれやれ、意識の差が知れるぜ」
「いや、やる気なかったのはお前の方だろ、グレン」
「そうですよ!ルイスの言う通りです!だいたい先生、私とルイスが魔術競技祭はどうするのか尋ねたら、『お前達の好きにしろ』って言ったじゃないですか!なんで今更になってそんなこと言うんですか!?」
あんまりな言い方をするグレンに冷静にルイスがツッコミ、システィーナがそれに同意してまくし立てる。
すると、グレンはいかにも心外そうな顔をして、
「えっ?そうなの?いや、全く記憶にないんだけど……」
と言う。
「やっぱり面倒くさくて人の話聞いてないんですね……!」
怒りでわなわなと肩を震わせるシスティーナ。
そんなシスティーナを、ルイスとルミアの二人で宥める。
隣の騒ぎを無視しつつ、グレンは教室の生徒達に向き直る。
「まぁ、んなことはどうでもいいとして、だ。お前らに任せても決まらない以上、ここはこのクラスを率いる総監督たるこの俺が、超カリスマ魔術講師的英断力を駆使し、お前らが出場する競技を決めてやろう。言っとくが────」
野心と熱情に燃えた瞳が、生徒達をまっすぐに捉える。
「俺が総監督するからには、全力で勝ちに行くぞ。全力でな。俺がお前らを優勝させてやる。だからそう言う編成をさせてもらう。遊びはナシだ。覚悟しろ」
そうして、システィーナから競技種目のリストを受け取り、にらめっこを始める。
そんなグレンの様子を眺め、ルイスは楽しそうに笑う。
「やる気出して来たな……。足音からしてもしやとは思ってたけど。ここからどうなる事やら」
これから先に起こることに胸を踊らせ、ルイスは黒板を書くルミアを手伝い始めた。
お読みいただきありがとうございました!
最近急に暑くなりましたね
こうなってくると、私はすぐに体調を崩してしまうので、ちょっと心配です
皆様も、体調にお気をつけて過ごしてください
それでは、また来週お会いしましょう!