ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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どうも皆様

早く花粉の脅威がさらないかと切実に願う雪希絵です

さて、やって参りました更新日!

前回の後書きにも書きました通り、短編も投稿します!

……もう少し後ですが!


ルイス=ハルズベルト

ルイス=ハルズベルトという少年について話しておこう。

 

今から六年前、グレンがアルザーノ帝国魔術学院に入学したころ。

 

セリカは二人目の弟子を探していた。

 

グレンの教育も一段落し、さらに実践的な鍛錬を積む必要があると判断して、弟子同士で競わせることを思いついたのだ。

 

しかし、なかなか適した人物も見つからず、時折街に出ては肩を落として屋敷に帰る。

 

そんな日々を過ごしていた。

 

弟子を探し始めて五日目。

 

いつも通り街の中を歩き回っていると、大きな道具屋が目に入った。

 

元々は自分も通っていた店だが、店の規模がどんどん大きくなり、それに応じて客も増えた。

 

そんな中に入っては悪目立ちしてしまうので、いつの間にか行かなくなっていたのだ。

 

店内を覗くと、偶然にも人はいない。

 

久しぶりに店主の顔を見てみようと思い、気まぐれで店に入った。

 

僅かに軋む音とともに扉が開く。

 

その音に気がついたのか、奥から足音がする。

 

店主かと思いながらそちらを見ると、そこにいたのは十歳前後の少年、まだ幼いルイスだった。

 

ルイスを一目見た瞬間、セリカは理解した。

 

逸材だ、と。

 

今まで目をつけた魔術師は何人もいたが、彼ら彼女らとは何かが決定的に違う。

 

長い時を生きたセリカにもはっきりとはわからなかったが、それでも理由は充分。

 

そこからのセリカの行動は早かった。

 

ルイスに話しかけ、魔術師にならないかという問いに即決したことに戸惑いながらも頷く。

 

そしてルイスの両親の元へ行き、事情を説明。

 

両親も即座に頷き、またまた面食らう。

 

かくして、ルイスはセリカの弟子となった。

 

グレンとも顔合わせし、初めて出来た兄弟弟子に恥ずかしそうにしながらも、仲は良好。

 

武道や魔術の筋もよく、セリカは満足そうにしていた。

 

しかし、反面わからないことが浮上する。

 

初めて会った時に感じた『何か』が埋まらない。

 

武道も、頭脳も、魔術師としての能力も、高くはあるが他を圧倒するほどではない。

 

そのうちわかるだろうと、セリカは考え、ルイスの教育に一層の熱を注いだ。

 

だがその『何か』は、セリカの知らないところで解決されることになる。

 

セリカに魔術を習い始めて二年。

 

ルイスが十二歳になった時のこと。

 

おつかいを頼まれた帰り、ルイスはお気に入りの場所に向かった。

 

街が一望できる小高い丘だ。

 

今日はそこで何をしようかと一人で丘に向かったルイスは、黄昏の中である人物に出会った。

 

その人物は、ただただまっすぐに、夕日を見つめる。

 

まるで何かを懐かしむかのように。

 

近づいたルイスは、その人物の風貌に珍しさを感じた。

 

逆だった白い髪、浅黒い肌、赤と黒を基調とした衣服を着た青年。

 

どこか浮世離れした姿だった。

 

ほんの好奇心で、ルイスは彼に話しかけた。

 

見慣れないな顔だな。名前はなんだ、と横に並び立って尋ねた。

 

青年は驚いたような顔をしたあと、ただ一言『無銘』と名乗った。

 

そうして、無銘はルイスの全身を流しみる。

 

何かに気がついたように目を見開き、そうしてまた一言。

 

私に魔術を教わる気はないか、と。

 

果たして偶然か、はたまた定められた運命か。

 

この出会いが、ルイスの人生を変えることになる。

 

─────────────────────

 

「うっ……つっ……」

 

腹部に激痛が走り、ルイスは重い瞼を開く。

 

徐々に戻っていく感覚。

 

鼻をつく消毒液の匂い、白い天井、背中に感じる柔らかい感触。

 

「医務室……?」

 

思い至り、呟く。

 

それで気がついたのか、

 

「ルイス……?意識が戻りましたの?」

 

ウェンディが顔を覗かせる。

 

「ルイスも目が覚めたの……?よ、良かった……もう、二人ともダメかと……」

 

じわり、とシスティーナの目に涙が浮かぶ。

 

「馬鹿……もう……本当に馬鹿なんだから……二人してあんな無茶するなんて……」

「まったくですわ……。さんざん心配したこっちの身にもなってくださいませ」

どうやら二人は、グレンとルイスにそれぞれ【ライフ・アップ】をかけてくれていたようだ。

 

ルイスが自分の身体とグレンを見ると、ルイスは腹部に、グレンは身体中に包帯が巻かれていた。

 

一方、システィーナとウェンディも酷い状態だった。

 

大量出血していた二人を運んだせいか、制服どころか顔や髪にもべったりと血がついている。

 

システィーナに至っては、マナ欠乏症の前兆が現れている。

 

「やめろ……もう、いい……大丈夫……だ……」

「行かないと……ルミアが……」

 

途切れ途切れに言いながら、グレンとルイスは身体を起こそうとするが、二人が慌てて押し止める。

 

「だ、大丈夫なわけないじゃない!?出血はなんとか止まったけど、まだ全然、傷が塞がってないのよ!?」

「そうですわ、先生、ルイス!先生は全身に傷を負っていますし、ルイスに至っては背中まで貫通していたんですから、大人しくしていてください!」

「ただでさえ【ディスペル・フォース】で白猫には魔力を使わせたんだ……。ウェンディだって、治癒魔術が得意なわけじゃねーんだから、相当無理してんだろ……。これ以上やったら死ぬぞ……」

「その前にあなた達が死んじゃうわよ!魔力なら大丈夫よ。普段から少しずつ、ペンダントの魔晶石に予備魔力を蓄えてあったから」

「そう……か……。悪い……回復頼むわ……すまん……」

「はぁ……普段もこのくらい殊勝だといいんだけど。ね、ウェンディ」

「まったくですわね」

 

そんな三人の会話を、ルイスは未だにモヤがかかったような意識の中で聞いていた。

 

どうやら、自分の症状は思ったよりもかなり重いらしい。

 

「ルイス、平気ですの?起きているのか辛いなら、寝ていても構いませんわよ?」

「ああ……そうするよ……」

 

そうして、ルイスは目を閉じる。

 

それに安心したように息を吐き、ウェンディは【ライフ・アップ】の施術を続ける。

 

しばらくして、不意にルイスが口を開いた。

 

「……良かった……今度は……まも……れた……」

「えっ?」

 

か細く、小さな呟きは、誰に聞かれることもなく消えていった。

 

─────────────────────

 

「……おい、ルイス。大丈夫か」

「……? グレン?」

 

さらに時が経ち、時刻はすでに夕刻。

 

ルイスはグレンに起こされた。

 

部屋を見渡すと、システィーナとウェンディが疲れ果てて眠っていた。

 

「グレン、傷はもう平気なのか?」

「これが大丈夫なわけねーだろ……。まあ、でも、どうにか動ける」

「そうか……」

 

言いながらルイスも身体を起こす。

 

「ぐぁっ……!」

 

直後、腹部と背中から引き攣るような痛み。

 

悶絶しそうになるが、生憎ルイスには便利なものがある。

 

懐に手を伸ばし、中から治療薬の入った試験管を取り出す。

 

「良かった……こいつだけは無事か」

 

しかし、他は全て戦闘中に割れてしまったらしい。

 

試験管の強度を上げるのが今後の課題だな……などと場違いなことを考えながら、ルイスは中身を半分煽る。

 

そして、残り半分をグレンに差し出した。

 

「飲めよ。多少マシになる」

「普段なら全部飲めって言ってるところだが、ここは有難くもらっとく」

 

グレンが中身を飲み干し、試験管を近くのテーブルに置く。

 

「さて、行くか」

「おう」

 

途中、グレンはシスティーナに近づき、

 

「ありがとうな、システィーナ。お前がいてくれて本当に良かった」

 

そう言って、ごしゃごしゃと頭を撫でた。

 

ルイスも部屋を出る直前に、

 

「ありがとな。システィ、ウェンディ」

 

と言って扉を閉めた。

 

「場所の見当はついてるのか?」

「ああ。転送方陣だ」

「転送方陣?なんでだ?」

「走りながら説明する。俺の推測が正しければ、もう時間がない───!」

「わかった」

 

そうして、二人は駆け出した。

 

最後の決着をつけるために。




うわぁ、時間ギリギリ!

本当はもっと前に書けてたんですけど、短編に掛り切りでした!

では、また来週お会いしましょう!

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