ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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どうも皆様

最近健康のために朝走ろうと思い至り、走った翌日に全身筋肉痛で結局動けなくなった雪希絵です

さて、やって来ました更新日!

今回はいつもより時間ありますよ!

本当はもう少し早くしたいんですけども

では、ごゆっくりどうぞ!


無限の剣製

話は少し前に遡る。

 

「遅い!」

 

いつも通りの配置で席に座り、授業開始を待っていると、システィーナがそう叫んだ。

 

「あいつったら……最近は凄く良い授業してるから、少しは見直してやったのに、これなんだから、もう!」

「でも、珍しいよね?最近グレン先生、ずっと遅刻しないで頑張っていたのに」

 

そんなやり取りを聞いていたルイスが、不意に思い立ったように、

 

「あれだな。グレン曰く『人型全自動目覚まし時計』ことセリカ姉がいないからだ」

 

と、言った。

 

それに納得したように頷く二人。

 

「ま、わざとじゃないんだし、とりあえずお説教程度で済ませてやろう」

「そうね……今日こそは一言言ってやらないと……って、どこ行くのよルイス」

「トイレ。あいつのことだから、どうせしばらく来ないだろ」

「そうね……でも、早めに戻って来なさいよ?ルイスの解説だって大事なんだから」

「昨日の範囲で教えて欲しいところもあるから、お願いできるかな?」

「任せとけ」

 

そうして、ルイスは教室を出た。

 

用を足し、鏡で少し髪を整えて(結構大人数に見られるので気にしている)から便所を出る。

 

時間を食ったと思い、少し急いで教室に戻る。

 

しかし、その教室の手前、ルイスは気がついた。

 

今、この学院にはルイスのクラスの生徒しかいない。

 

だというのに、あまりにも静か過ぎる。

 

普通なら、開始前の雑談か、グレンが来たなら授業の声が聞こえるはずだ。

 

(それに、あくまでも勘だが、嫌な予感がする……)

 

自分の勘はよく当たる。

 

そこで、

 

「《定めよ・見渡せ・万象を見据えよ》」

 

静かに詠唱。

 

目を閉じ、先の教室に意識を集中。

 

白魔【オーバー・センス】。

 

選択した五感のうちの一つを拡張する魔術だ。

 

ルイスが選んだのは耳。

 

そうした研ぎ澄ました耳に聞こえたのは、

 

「《ズドンッ!》」

 

知らない男の一言。

 

直後、鳴り響く雷激の音と、長い悲鳴、三人分の別の声。

 

その音には聞き覚えがあった。

 

最も頻繁に使われる軍用魔術の一つ、【ライトニング・ピアス】。

 

汎用魔術【ショック・ボルト】と似たような見た目だが、その威力は比較にならない。

 

真正面から受ければ、簡単に身体を貫通する。

 

(まさか、今のが詠唱だったのか……?)

 

だとしたら常識外れの神業だ。

 

こんな超高速一節詠唱ができるやつなど、まともな魔術師じゃない。

 

それこそ、ルイスはセリカしか知らなかったくらいだ。

 

「くそっ、まさか誰かに当たったか!?」

 

思わず壁を殴りそうになるが、必死で堪える。

 

殴って音を立てたら、絶対にバレる。

 

(相手は少なくとも三人。いや、この学院に入ったってことは、結界を破ったってことだ。ってことは結界魔術の専門家が間違いなく追加で一人いる。下手したらもっと……)

 

ルイスは思考を加速させる。

 

今この瞬間にも、クラスメイトが、システィーナが、ルミアが、どんな目にあうかわからない。

 

だが、

 

「くそっ……!」

 

自分では、勝てない。

 

汎用魔術が使えたところで意味は無い。

 

相手の手段は【ライトニング・ピアス】以外にもあるだろうし、そもそも自分よりシスティーナの方がよほど優秀だ。

 

白魔も使えるが、そんなものを使ってどうするのか。

 

ルイスに残された手段は、時間がかかる。

 

考えに考え、彼は苦渋の決断を下す。

 

(……一旦、身を隠す)

 

やつらは自分たち生徒を舐めきっている。

 

だとしたら、ここに来た目的を達成するために、手分けをし始めるはずだ。

 

(相手の数が多いなら、各個撃破で潰す)

 

そう考え、ルイスは教室を離れる。

 

とっくに【オーバー・センス】は解除していた。

 

だからこそ、彼は気づかなかった。

 

ダークコートの男に連れて行かれる、ルミアに。

 

─────────────────────

 

ルイスが潜伏場所に選んだのは、校舎の端。

 

警戒するのが一方向だけでいいという利点があるからだ。

 

そこで、ルイスは全力で深層意識を改変していた。

 

「これは違う……これでもない。くそっ、なんで上手くいかない───!?」

 

悩んで悩んで、それでも何も思いつかない。

 

「くそっ……くそっ……!」

 

床を叩き、壁を殴り、周りに当たり散らす。

 

しかし、焦りが募る度に自分の中のイメージが霧散していく。

 

「どうすればいい……!」

 

そんな時だった。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 

悲鳴が響いて来た。

 

「っ───!? ウェンディ!?」

 

声に聞き覚えがあった。

 

ウェンディは特別仲がいいわけではない。

 

ただ単に、多少趣味が合い、多少他の生徒より顔を合わせる機会が多いだけ。

 

しかし、そんなものは関係ない。

 

目の前が一気に赤くなる。

 

燃え上がる赤熱した感情と、その奥のどす黒い感情の渦。

 

ルイスはこの感情を知っている。

 

怒りと殺意だ。

 

「《定めよ・見渡せ・万象を見据えよ》」

 

【オーバー・センス】を発動。

 

飛び込んで来たのは、ちょうど真上からの声。

 

「クククク……いーい悲鳴ですねぇー……?あなたのような高飛車な少女を切り刻むのが、一番楽しみなんですよねぇー……?」

 

聞くだけで吐き気がするような、薄気味悪い男の声。

 

「いや……いやぁ……!」

 

そして、だんだん弱くなるウェンディの声。

 

ギリッ────!!

 

歯が砕けるほどに噛み締める。

 

ようやく頭が冴えた。

 

なんとも簡単な事だったのだ。

 

こんなところで立ち止まっている暇などない。

 

ウェンディを助け、クラスメイトを助ける。

 

もう、迷わない。

 

本当に求めていた言葉は、無意識に口から出た。

 

「──────《体は剣で出来ている・」

 

ゆっくりと、殊更にゆっくりと、詠唱する。

 

「《血潮は鉄で心は硝子・───」

 

足を踏み込み、駆け出す。

 

階段を駆け上がり、さらに続ける。

 

「《幾たびの戦場を越えて不敗・───」

 

両手に意識を集中する。

 

「《ただの一度も敗走はなく・ただの一度も理解されない・」

 

(間に合え……!間に合え……!!)

 

ひたすら願いながら、走り続ける。

 

「《彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う・」

 

教室の前に辿り着く。

 

扉に向かって、脚を振り上げる。

 

「《故に生涯に意味はなく・」

 

全力で、扉を蹴り壊す。

 

「な!?」

「…………え…?」

 

突然扉が弾け飛び、驚く二人。

 

茶髪のツインテールの美少女と、まるでピエロのような顔の巨大な鋏を持った男。

 

敵を見据え、最後を紡ぐ。

 

「《その体はきっと剣で出来ていた》────!!!」

 

現れる青色の煙のようなもの。

 

魔力を全力で注ぎ込み、自分の中の幻想を具現化する。

 

(頼む────来い!来い……!)

 

成功したことなどほとんどない。

 

自分にあるのはただの種だ。

 

ひたすら育てて来たそれを、ここで目覚めさせられる保証などない。

 

だが……、

 

「ここでやらなきゃどこでやる!」

 

全てを賭け、最後の文言を叫ぶ。

 

「─────投影(トレース)

 

両手を振り上げ、

 

開始(オン)!!」

 

勢いよく振り下ろす。

 

煙が輝き、青白い光を放つ。

 

それはまるで、空間から今引き抜かれたように。

 

何もなかったはずのルイスの両手に、たしかな硬さと重さ。

 

そこにあったのは、右手に白色、左手に黒色の幅広の剣。

 

まるで最初からそこにあったかのように、当然のように、それは収まっていた。

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

 

成功の喜びも捨て置き、ルイスは男に斬り掛かる。

 

「ぐぅ……!?」

 

突然現れ、見たこともない魔術を見せられたためか。

 

男はつい、魔術を使わずに鋏を振り下ろした。

 

迫る凶器。

 

しかし、ルイスは欠片も動揺しない。

 

「ふっ───」

 

短い気合いとともに、右手の白い剣を叩きつける。

 

キンッ───!

 

と、やけに小さな音が鳴り、鋏が簡単に砕ける。

 

「はいぃぃぃ!?」

 

男は二つのことに驚かされた。

 

一つ、男の鋏は、特注品の巨大な鋏に付呪(エンチャント)を施した特別製。

 

今までいとも簡単に人体を切り裂いてきた、無敵の刃のはずだった。

 

それが、たった一合で破壊されたこと。

 

二つ、扉の前から部屋中央付近にいた男に、一瞬で詰め寄ったルイスの歩法。

 

そして、鋏の弱点である留め金を攻撃する技量。

 

ルイス自身の剣術に、舌を巻いていた。

 

さらにルイスの攻撃は続く。

 

左の剣を右脇に差し込むような体勢から、全力の横薙ぎ。

 

咄嗟に飛び下がる男だが、胸元に浅くはない傷を負う。

 

思わずよろける男に、ルイスは両手の剣を振り下ろす。

 

しかし、

 

「《大いなる風よ》!」

 

【ゲイル・ブロウ】で男は距離を開けた。

 

その間にルイスは男とウェンディの間に滑り込む。

 

「ウェンディ!無事かっ!?」

 

背後を振り返り、ウェンディを見る。

 

「ルイ……ス……?ですの……?」

「ああ、助けに来た。大丈夫……か……」

 

ルイスの語尾が掠れる。

 

ウェンディは酷い状態だった。

 

全身に複数の切り傷を負い、そこから出血している。

 

恐怖による涙の後がくっきりと残り、身体中を震わせている。

 

加えて、彼女の制服の上半身は、上から下まで真っ二つになっていた。

 

再び湧き上がる黒い感情。

 

「……おい。クソ野郎」

「なんですか急に。人のこといきなり斬りつけて今度はクソ呼ばわりですかぁ?異常ですねぇ、あなたぁ。まあ、惨殺愛好家の私も異常ですけどねぇ、ククククククッ」

 

妙に甲高い、耳障りな声。

 

もはや一挙手一投足に嫌悪感しか湧かない。

 

そんな男に右手の剣を向け、

 

「……グレンやセリカ姉が相手をするまでもない。俺が、この場でお前を切り刻む」

 

殺意のこもった眼差しで、そう言った。

 

「ほぉぉぉ?あなたがぁ?私をぉ?切り刻むとぉ?」

 

つくづく腹が立つ喋り方でそう言う。

 

「甘いですねぇ、私の本気が鋏だけだと?」

 

言いながら、男は纏っていたコートを跳ね上げる。

 

「私は『フィレスト』!付呪(エンチャント)の専門家ですよぉぉぉぉぉ!?」

 

叫び、大量のナイフを引っ張り出す。

 

付呪されているのは、刺さった瞬間に全身が麻痺する魔術。

 

加えて、繋げられた糸によって操ることもできる。

 

それが、総計30本以上。

 

そのうち一本でも当たれば、指先を動かすことすらできなくなる。

 

しかし、ルイスにとってはそんなもの、ピンチでもなんでもない。

 

投影開始(トレースオン)

 

冷静に、極めて冷静にルイスがつぶやくと、彼の周りに青い煙が大量に現れる。

 

それは、次々と形を表し、無数の剣となった。

 

「はあ!?」

 

思わず叫ぶフィレスト。

 

大量の剣はそのままひとりでに動き出し、ナイフを次々と叩き落とす。

 

「せいぜい呪え。俺とお前の相性の悪さをな」

 

大量の剣を自らの魔力で練り上げ、投影する。

 

自分の記憶の中の剣を、現実に呼び出す魔術。

 

固有魔術【無限の剣製】。

 

ルイスの唯一の対抗手段にして、究極の複製魔術。

 

投影された武器は、天才鍛冶屋であるルイスの父親が、人生にほんの何度か作り上げたか程度の業物。

 

それに、【ウェポン・エンチャント】を付与した一級品。

 

付呪されてようがなんだろうが、魔術師が投げた程度のナイフが、敵う代物ではない。

 

おまけに、出そうと思えばいくらでも出てくるのだ。

 

どこに勝てる要素があろうか。

 

ナイフを叩き落としきり、剣はフィレストを狙いに定める。

 

「ガホォ、グ、ガァァァ!」

 

体に剣が突き刺さる度、唸り声を上げる。

 

最終的に身体中に剣が刺さった状態で、フィレストは倒れる。

 

「じゃあな」

 

薄れゆく意識の中でフィレストは、氷のように冷たいルイスの瞳とその一言を最後に聞いた。




本当はシスティを助けに行きたかったんですけど、やっぱりそこはグレンに助けて欲しいのでこうなりました

というか、絶対フラグ立ちましたよね、これ

次回、引き続きバトルです!

では、また来週!

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