「へえ...面白い、もうキラーを倒す算段ができたの?」
「あぁ、演者のコミカルで息のあった掛け合いを楽しめよ」
やるべきことは決まっている。落ち着け、伏せは1枚のみ。これで決める
「手札からまたまた速攻魔法、サイクロンを発動!」
「今更、アーカイブを割っても意味はないわ」
「おいおい、誰がアーカイブを対象にって言った?」
俺のハナから狙いは俺のカード。セットされたペンデュラムモンスターだ。
「対象はファンキーコメディアン、ペンデュラムモンスターは永続魔法扱いのためサイクロンで破壊可能だ。よって破壊する。」
これでファンキーコメディアンはエクストラデッキに送られる。
「そして手札から魔界劇団 ダンディーバイプレーヤーをペンデュラムゾーンにセッティング!さらにここでペンデュラムゾーンの魔界劇団 ワイルドホープのペンデュラム効果発動!ダンディーバイプレーヤーのペンデュラムスケールを9にする」
「ペンデュラム召喚!再演の時間だ、デビルヒール!そして手札から舞台を駆け回る生意気な新人、魔界劇団 サッシールーキー!」
デビルヒールとともに現れたのは跳ねた頭が特徴的な新人、サッシールーキー。
「2体のモンスターの攻撃力はそれぞれ500ずつダウンするわ。」
知っているさ、でもそんなこと意味はない。なぜならその上、もっと上を越えていくからだ。
「ここで俺はペンデュラムゾーンの魔界劇団 ダンディーバイプレーヤーのペンデュラム効果発動!ペンデュラム召喚成功時にエクストラデッキのレベル1か8の魔界劇団モンスター1枚を手札に加える!」
「俺が選ぶのは魔界劇団 ファンキーコメディアン」
「...なるほどね、ファンキーコメディアンを手札に加えるのが目的だったようね」
へ、気づいたってもうどうにもならない!既に勝利という舞台のフィナーレは目前なのだから。
「俺は魔界劇団 ファンキーコメディアンを通常召喚」
さぁ役者は揃った!ここからが舞台の見どころだ。
「ファンキーコメディアンの召喚時効果発動、フィールドの魔界劇団モンスター1枚につきこのカードの攻撃力を300アップさせる。フィールドにはファンキーコメディアンを含めて3枚、よって900アップの攻撃力1200!」
「そんなもの、高々900アップで!」
俺もそういったさ、あの時。だけどわざわざこんな手間かけてしたかったことがこれだけなわけがない。教えてやる。
「ファンキーコメディアンにはもう一つモンスター効果がある」
「もう一つの、効果?」
「ファンキーコメディアンの攻撃を放棄する代わりに、フィールドの魔界劇団モンスター1体に自身の今の攻撃力を加算する効果だ、元々の攻撃力じゃないぜ」
巫女は瞬間何か考え事していたが、直ぐに理解できたような表情になる。
「ということは、1200をそのまま加算...!」
「ご名答、勿論対象はデビルヒール。これにより攻撃力は4200、500ダウンの分も含めても3700、対するキラーの攻撃力は3000」
「う...うそ!」
「渋い脇役のいぶし銀な演出、独創的なコメディアンの陽気な芸での舞台の盛り上げ、そして今から見せるのが力強い怪力演技!」
「バトル!さぁまた魅せてやれ、デビルヒール!
先ほどよりも力のこもった蹴りで一気に巨大要塞へと接近する。要塞に重なり見えなくなった時には、要塞から煙と火が昇り崩れ始めた。ソリッドビジョンとはいえ迫力がある。地面が震えていないのが不思議なくらいだ。
「私の...キラーが!?」
悲しんでいる時に申し訳ないが、まだバトルフェイズは終了していない。
「要塞は攻略したがまだ舞台は終わりじゃない。...これで、フィナーレだぁ!魔界劇団 サッシールーキーでダイレクトアタック!目立ちたがり屋の初主演!」
サッシールーキーは巫女の元へと走り出すし、全身を使っての体当たりを行った。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「というのはなし」
「はぁ?....ってうそー!」
なぜか無情にも体当たりしようとしたサッシールーキーは水に押し流された。しかもサッシールーキーだけでなくデビルヒールやファンキーコメディアンまで。
「なんだよ、これ!」
「罠カード、波紋のバリア ウェーブ・フォース。このカードは相手のダイレクトアタック時に発動可能、相手の攻撃表示モンスターを全てデッキに戻す」
「なんだって!?」
まさか最後の最後にこんなものを用意していたとは...クソ!勝てると思ったのに...。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
俺のフィールドはガラ空き、しかも巫女がツールを握っているのは明白、なので次は必ずペンデュラム召喚してくる。だったらそこを潰せばいい。一気に、除外してやる。
「私のターンドロー!ペンデュラムゾーンにクリフォート・ツールをセッティング!ペンデュラム召喚!ディスク!エイリアス!ツール!」
きた、ここだ。
「召喚時罠発動!奈落の落とし穴。ペンデュラム召喚は1度の召喚扱い、よってペンデュラム召喚されたモンスター3枚一気に除外だぁ!」
ディスクが地面から現れた謎の緑の手に穴へと引っ張られていく。エイリアスもまた同じく引っ張られていく。しかし
「あれ?」
ツールだけ引っ張られずにいた。なんでだ、数秒考えたのち気づく。
「あ」
そうか、ツールの攻撃力は元々から1000。奈落の落とし穴は攻撃力1500以上のモンスターの召喚、特殊召喚時にしか適用されない。つまりディスク、エイリアスは発動のための条件を満たしていたので効果を受けたが、ツールの召喚、特殊召喚時には本来発動すらできない。ペンデュラムは1度の召喚扱いなのでツールが特殊召喚されていても他二枚には適用されるため発動自体は可能だったが、ツールには効果は適用されない、ということになる。
「って冷静に考えてる場合じゃねー!」
「バトルフェイズ、ツールでダイレクトアタック」
「すぐアクションカーってうあぁぁぁぁぁぁぁ!」
沢渡→LP 0
ツールから放たれたビームが俺を直撃。少しよろめいた後、腰が抜けた。はぁ、痛みはないが極太ビームに襲われるなんてもう嫌だ...。
勝負がついたと同時に歓声が強くなった。
負けたらやっぱり悔しいけど歓声に包まれるなら悪い気分にはならねぇな。起き上がって手を振って応える。けど、
「勝負あったわね」
「え、あぁ...」
近寄ってそう声をかけられたが、返事は適当にした。今は負けた、ならこれからどうするのか。それで頭がいっぱいだったからだ。しかしふと巫女が言う。
「約束通り返したあげるわよ」
「なんでだよ!俺が勝ったらが約束だろ?」
「私はペンデュラムの性能をペンデュラムにぶつけてみたかっただけよ。別に約束なんていいの」
なんだよそれ、ひでぇやつだな
「んだよそれ、すっきりしねぇな」
すっきりしない。これは巫女の発言のせいか、違う。
心の中である気持ちが大きくなる。悔しさだ。そしてそれと同時に楽しかったとも思えた。
勝てた勝負だったかもしれない、けど久しぶりに熱くなれた。
そういえばこんなに悔しいって思ったの、いつぶりだろうか?そうだ、遊矢に初めて負けたあの日以来だ。それ以降は負けても仕方ない、とどこかで諦めがあった。俺だって自分なりに努力してやっている。なにより次元を跨いだ大きな争いの中でのデュエル、忙しかったし大変だった。
そんな日々から解放されての今、デュエルが楽しいと思った時があっただろうか?エンタメを極めるためにがむしゃらにデュエルする日々、それは楽しかったのだろうか?
なんとなくわかった。俺の求めるエンタメに近かったフレンドシップのシンクロ使いとのあの戦い。あの時俺は楽しんでいた。
そうか、エンタメに必要なのこと、それは.....。
「どうだ、幻想郷のデュエリスト!これが俺、沢渡シンゴのエンタメデュエルだぁ!」
観客に向かって大きな声で叫ぶ。
デュエルを楽しむ。まず俺がたのしまなくちゃな。白熱のデュエルの余韻が観客をまだ包んでいた。これだ、沸き立つ観客の声が四方八方から飛び交う様、これがエンタメデュエルのあるべき姿!
「何やってるの、帰るんじゃないの?」
後ろから冷たい視線ともに言ってきた。 ...もし、今帰るとこいつに負けたままになる。きっとこの先ここに来ることなんてないのかもしれない。そうなると一生負けたままだ。そう思うと悔しさで眠れなくなる。だったら...決めた。へ、お前のせいでこうなったんだからな。
「決めたぜ、俺」
決意を胸に
「俺は幻想郷にいる。ここで武者修行する!」