三魔王異世界珍道中   作:ヤマネコクロト

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ディアヴロ達の態度が気に入らず、召喚獣のサラマンダーをけしかけるガラク。サラマンダーの炎がディアヴロに迫ると、モモンガがその身で庇う。炎が晴れると、無傷で佇むモモンガだが・・・・・・


”アインズ・ウール・ゴウン”

◇◆◇

 

【side:ディアヴロ】

 

ガラクの召喚したサラマンダーから炎が放たれる。ただの一般人ならば、この炎に焼かれ消し炭になっていることだろう。だが、レベル150のこの俺と、レベル30のサラマンダーとでは強さに戦車と子供くらいの差がある。少なくとも、それを実証するには丁度いい機会だった

 

そう思っていたのだが、突如モモンガが俺の前に立ったのだ。俺の盾になるつもりか!?

モモンガはアンデット種。アンデットの弱点には火属性があったはずだ。モモンガならば弱点の対策くらいとっているとは思うが、無茶をする

 

あまりも突然の出来事だったため、反応が遅れてモモンガが炎に呑まれる様を眺めるはめになってしまった

……大丈夫、だよな?

 

そんな俺の心配も杞憂に終わる

 

炎が晴れると、何事もなかったかのように佇むモモンガがいた

 

「……その程度か?」

 

モモンガが低い声でガラクに問いかける。その背中から黒いオーラが出るとともに、空気がざわつく。ガラクたちに視線を向けると、ひどく怯えているようだ。そんなにサラマンダーの攻撃が効かなかった事がショックだったのか?

 

「ど、どういうことだ・・・・・・?さ、サラマンダーの炎が・・・き、効いてない・・・!?」

 

「どうした、制裁を下すんじゃなかったのか?もしもこれがお前のいう”制裁”だというのなら、ずいぶんと優しい男なのだな」

 

「く、くそっ!もう一発だ!」

 

再び、モモンガに≪ヒートブレス≫が放たれた。結果は変わらず、モモンガには効いてないようで微動だにしない。

≪ユグドラシル≫のスキルが働いているのかは定かではないが、この世界でもモモンガは相当の強さを持っているのは間違いないだろう。攻撃が効いてない事に焦ったのか、ガラクが周りの連中を怒鳴りつける

 

「お、おい!お前らも、召喚獣を出せ!!」

 

「うぅ・・・・・・!?し、しかし、街中でそんな事をしたら、処罰されるんじゃ―――!?」

 

「いいから!?責任は、僕がとる!早くッ、早く!早くしろよ!?」

 

ガラクが半狂乱している。だが、その様子は何かに怯えているように見える。周りの連中も同じ様子だ。

まるで、”目の前に迫る死”から一刻も早く逃れたそうに。

ガラクの仲間達は次々とクリスタルから召喚獣を出していく。確か≪火の精≫、≪風の精≫、≪水の精≫、≪土の精≫・・・・・・どれもゲームでは最初に召喚できるものばかりだった。サラマンダーであれだったのだから、モモンガならば相手にもならないだろうが・・・・・・

 

「モモンガよ、俺を庇ったのかどうかはこの際どうでもいいが、余計な「ディアヴロさん」」

 

いつもの口調で、それでいてしっかりとした意志のこもった声で、モモンガが遮る

 

「すみません、この世界に詳しい貴方なら問題なかったのでしょう。ですが、ここは俺にやらせてください」

 

「・・・・・・あの召喚獣はサラマンダーより上かもしれんぞ?」

 

「そうなのかも知れませんね。貴方であれば情報を知っている分、対処もできるため何の問題もないでしょう・・・・・・それでも、俺はこの”未知”に真正面から挑みたい」

 

言い切ったモモンガが振り向く。骸骨な上に仮面をかぶっているので表情などわからないのだが、どこか嬉しそうだ。そんな雰囲気が見て取れた

 

「これが、俺がこの世界で踏み出す”最初の一歩”なんです。すみませんが、俺一人でやらせてください」

 

「……フッ、よかろう。貴様の”始まり”、このディアヴロが見届けてくれる!」

 

モモンガがそれを聞くと頷き、再び小物達に向き直る。俺もガラク達に顔を向け、戦力を確認する。

ガラクが召喚したサラマンダーに、各種属性の精が14体。今のモモンガでは負けるはずのない相手であった

 

「り、理由はわからんが、どうやらサラマンダーの吐息は効かないようだな!しかし、これだけ多くの召喚獣に囲まれた事はあるまい?まあ、これだけの包囲網を布くなんて、人食いの森から魔獣が現れた時くらいか。もはや、”大災害”と呼んでもいい事態が起きた場合くらいだ!魔術師協会に楯突いたことを後悔するがいい!」

 

え、ええ・・・・・・いつの間に『魔術師協会』を相手にしている事になってるんだ。そのうち「俺が魔術師協会だ」とか言わないだろうな?

それに、用意した戦力も弱すぎる。レベル60前後のモンスターがでる『人食いの森』では壁にもならない召喚獣たちだ。このあたりも調査しないと

 

「……念のため聞いておきますが、”本気”なのですか?」

 

モモンガが本当にやりあうのかと、ガラクに問う。それもそうだろう。魔術師協会というのは、もう少し理性的で中立な組織と思っていたのだ。それが、こんな自分勝手な者が権力を乱用している。信じがたいというのが当然だ

 

「フ、フ、フフフフ・・・・・・臆したか?だがなぁ!この事態は、貴様らが招いたものなんだぞ!?最初から身の程を弁えていれば、死なずに済んだのになぁ!!」

 

どうやら相手は本気らしい。その反応に、やれやれと言った感じに頭を左右に振る

 

「……そうですか。ところで、それで全力なんですか?」

 

「な、なに・・・・・・?」

 

「だから、それがお前たちの”本気”なのかと聞いている」

 

モモンガの威圧感が、さらに増した気がした。ガラクの顔が恐怖によりさらに歪んでいく。周りにいた連中の何人かは股間を濡らしているほどだ

 

「や、やれえええええ!!」

 

発狂にも近いガラクの叫びを合図に、召喚獣たちがモモンガに攻撃を仕掛ける。属性攻撃の猛攻がモモンガを襲い掛かるが、この程度ならば避けるまでもないだろう。≪クロスレヴェリ≫には各属性の相性により攻撃の相反が発生する。火の攻撃に対し、水の攻撃で打ち消すといった具合に。連中の発狂具合からして、そんな事を気にする余裕もないのか連携もくそもない波状攻撃だった

 

「……どうやらこれ以上のものは出ないようだな。次はこちらの番だ」

 

波状攻撃が一旦落ち着いたところで、今度はモモンガが攻勢に出るようだ。≪ユグドラシル≫の魔法は星降りの塔で見た≪爆裂(エクスプロージョン)≫くらいしか見てないからな、あまり派手な魔法は流石に控えるだろうが少し楽しみだったりしている

 

モモンガが、サラマンダーに向けて掌をかざした

 

「≪心臓掌握(クラブスハート)≫」

 

魔法を唱えると同時にかざした掌を閉じると、対象にしていたサラマンダーの身体が一瞬震えた後、その巨体が力なく倒れた。巨体ゆえにその振動も大きい

 

「……は?え・・・・・・お、おい、どうしたんだよ・・・・・・な、なんで倒れ」

 

ガラクは何が起こったのかわからず、サラマンダーに近づく。すると、サラマンダーが消滅し黒く濁ったクリスタルがその場に転がっていた。召喚獣が倒されるとクリスタル化してしばらく使えなくなる。どうやら、あの魔法で倒されたようだ。何か放たれた様子もなかったし、即死系の魔法といったところか。えっぐいなぁ

 

「ふむ、倒された召喚獣はクリスタルに戻されるのか。そしてその様子からして、再度使えるようになるにはしばらく時間が必要、と」

 

どうやら召喚獣の仕様について検証していたようだ。それには、自身の魔法が通用するのかも入っていると思われる。襲われているにも関わらず、なんという豪胆さだろうか

 

「は、ひ、ひるむな!ま、まだ一体やられただけだ!な、なにをしているみんな!?今がチャンスだ!こいつを、こいつを倒せ!殺せ!」

 

向こうも余裕がなくなったようで、なりふり構わずに攻撃を続ける

 

「……やれやれ、いい加減彼我の戦力差を理解してもいいと思うのだが、仕方ない」

 

どうやらモモンガの方も決着をつけるつもりらしい。さて、強くないとはいえ、あの数をどう処理するのか見ものだな

 

「≪爆裂(エクスプロージョン)≫」

 

向こうの布陣の、丁度中心にいた精を起点に爆発が起こる。俺の≪エクスプロージョン≫と同じ名称の、星降りの塔で検証に使った魔法だった。的になった精の周りにいた他の召喚獣たちもすべて巻き込まれ、クリスタルとなって無力化されてしまう。その上爆発の余波で地面が抉れて石畳が砕け、周囲に飛び散ってしまう。幸い、爆発による死者はいなかったが、余波で飛び散った瓦礫が、ガラクや他のローブの者たちに当たったり、通りに面した建物の外壁を傷つけてしまった

 

少々やりすぎな気もするが、相手の戦意を挫くには丁度いいか。腰を抜かしてガラクに八つ当たりする者もいれば、泣きわめく者、発狂する者もいる。逃げ出した者も何人かいるようだ

 

ゲームだったら一週間ほどで通過するレベルが、彼らにとって誇るべき強大な戦力という事実が未だに疑問だが、これくらい蹴散らせれば向こうも絡んでこようとは思わないだろう

 

しかし、こんな状況の中で意外にもガラクがこちらに声を投げかけてきた

 

「なんなんだ・・・・・・お前は一体何なんだ!?」

 

怒りと恐怖が混ざった顔で叫ぶ。モモンガの方に視線を移すと、少し間をおいてその問いに答えた

 

「……『アインズ・ウール・ゴウン』だよ。かの地では知らぬ者がいないほどに、その名を轟かせていたのだがね」

 

「……う・・・・・・あ・・・・・・」

 

もはや、恐怖で言葉を発せられないほどにガラク達は怯えていた。むしろ意識を保ち続けているその根性を褒めるべきなのだろう

 

「さて・・・・・・これで互いの実力の差ははっきりしたな?以後、我々に手を出さないというのであれば見逃そう。だが、再び我々に牙を向こうものなら・・・・・・」

 

モモンガの警告とともに、放たれていた威圧感と黒いオーラの量が更に増した。ここまでくると、この威圧感はモモンガのスキルか何かなのだろう。段階を分けられるスキルとか、なにそれ魔王らしい

 

流石のガラク達も耐え切れずに涙や鼻水を垂れ流しながら逃げていく。中には気絶するものまでいたほどに、このスキルは恐ろしかったようだ

 

「フッ、貴様の踏み出した”最初の一歩”、見事だったぞ。モモンガよ」

 

「ありがとうございます、ディアヴロさん。私のわがままに付き合ってもらって」

 

「気にすることはない。むしろ、多少のわがままを聞くくらいの許容の心はあると自負しているぞ」

 

まあ、なかったと思うが苦戦してるようなら参戦するつもりだったし

 

「ハハハ、そうですか。なら、もう一つ聞いてもらってもいいでしょうか?」

 

「ほう?内容にもよるが言ってみるがいい」

 

「これを気に、名を変えようと思ってるんですよ。かつて、41人の仲間達とともに築き上げた栄光、『アインズ・ウール・ゴウン』へと。無論、呼びにくいなら『モモンガ』と呼んでもらって結構です。どちらも、私である事に変わりないのですから」

 

「確かギルドの名だったな。まだ未練は残っているか?」

 

「ええ、ないと言えばウソになります。ですが、我々がこの世界に招かれたように、かつての仲間達も招かれる可能性がないとも言い切れません。そんな彼らが迷わないように、私がこの名を名乗ることで目印になればと・・・・・・」

 

ああ、仲間思いなんだな、この人。確かに、他の人が呼ばれる可能性もないこともないだろう、たとえその可能性が那由他の彼方であっても。未練がましいと言われれば、そうなのかもしれない。それでも、彼がもつ”自身の住んでいた日本”と≪ユグドラシル≫との数少ないつながりであることに変わりはないのだから

 

「フッ、よかろう。これからは『アインズ』と呼ばせてもらう。異論はあるまい?」

 

「ええ、これからもよろしくお願いします、ディアヴロさん。そろそろ宿屋に戻りましょうか、流石にリムルさんも探している頃でしょう」

 

「それもそうだな」

 

ホント、あいつらが絡んでこなければもっと早く宿屋に戻れたんだよな・・・・・・まあ言っても仕方ない。

そう思って、宿屋に向かおうとした時だった

 

 

 

「ああ、全くその通りだよ。君たち」

 

 

 

リムルの声が聞こえてきた。それも静かな声音で、しかしその声には怒気が込められている

俺達二人はその声のする方へ首をギギギッと動かしながら振り向いた

 

「帰りが遅いなーと思ってたら魔力反応あって何事かと急いで来てみれば・・・・・・」

 

ハリセンを肩に担いだリムルが、青筋を立てて仁王立ちしていた。その威圧感はさながら魔王の風格を醸し出しているように見えたほどだ

 

「リ、リムルさん、確かに魔法は使いましたけど、これには事情が・・・・・・!?」

 

「そ、そうだぞリムルよ!もとはと言えば、酒場にいた小物達が難癖をつけてきて・・・・・・」

 

俺達は事の詳細をリムルに伝えようとした。だが・・・・・・

 

「やるにしても、もうちょっと使う魔法くらい考えんか馬鹿どもがぁ!!」

 

深夜の街にハリセンで叩かれた甲高い音が二つ響くのであった

 

 

 

 

 




今回モモンガ様が使ったスキルは≪絶望のオーラⅠ~Ⅲ≫≪漆黒の後光≫≪上位魔法無効化Ⅲ≫です。
≪上位魔法無効化Ⅲ≫は言わずもがな、出された召喚獣達は軒並みレベルが低かったため無効化されました。≪絶望のオーラ≫はⅠでハムスケがビビッて降参するほどの威力がありましたがそこは腐っても30レベルのサラマンダーを使役しているガラク、自尊心と無駄に高いプライドで耐えていました(他も大体同じ)
≪漆黒の後光≫に関しては完全に演出目的(非公式魔王だから仕方ないね!)

内訳はこんなところです。そしてオチはリムル様にしめていただきました(蹴

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