◆◇◆
【side:モモンガ】
レムさんとシェラさんが絶句している。そりゃあんな怖い顔した男の人に担がれて「拷問してくる」なんて言われたらな・・・・・・冷静そうなレムがあんな顔するのはなんだか意外ではある
「あ、あたしは、ごはんを食べてるね!」
あ、シェラさんが逃げた。レムさんが泣きそうな声を上げる
「あ、あなた・・・・・・あなたは・・・・・・少しは一緒に旅をした仲間ではないですか!?わたしを助けようとか、そういうことは考えないのですか・・・・・・!?」
「さんざん、バカエルフとか言われてた気がするんだけど!?っていうか、さっきなんて、壁のカビとか言ったよね!?」
うわぁ・・・・・・これはレムさんが悪い。ファルトラに来るまでの道中でもさんざん貶してたからなぁ。あ、今度は最後の希望らしい俺達に視線を向けてきた。今にも泣きだしそうなその顔を見ると罪悪感がやばいが、ここは心を鬼にしなければ。そう思って、リムルさんも俺に合わせるかのように顔をそむける。絶望したその顔がさらに罪悪感を募らせる
『むぅ・・・・・・少し脅しすぎたか・・・・・・多少ニュアンスを変えて安心させるとしよう』
ディアブロさんもその様子を見て、罰が悪そうにしている。ぜひ、そうしてください。小さな女の子をいじめる趣味は俺にはありません。
しかし、ディアヴロさんが笑みを浮かべた事で俺の中の第六感が警鐘を鳴らす。あ、なんだか嫌な予感が・・・・・・
「クックック・・・・・・怯える事はない。殺すような事はせぬ・・・・・・貴様が早めに秘密を吐けばな」
『『逆効果だよ!?』』
『ヌォッ!?す、すまん。落ち着かせようとしたつもりだったのだが』
どうしてそうなった。それ、思いっきり死刑宣告なんですが・・・・・・それを聞いたレムさんはというと
「……十四年という人生は長いのでしょうか、短いのでしょうか・・・・・・お父様、お母さま、どうやら今夜、わたしもそちらに行くことになりそうです」
それ見ろ言わんこっちゃない。ていうか重い、重いよレムさん!?
レムさんは観念したかのように目を瞑った。ディアヴロさんもそれを見て、これ以上何を言っても悪化すると思ったのか酒場を出ていく
「……ね、ねぇ。あんなこと言っちゃったけど、大丈夫だよね?レム、ひどいことされないよね?」
「まあ、うん。たぶん大丈夫だろ。それよりも、だ」
リムルさんが改まった顔をしてシェラさんを見やる。こちらも丁度いいので、彼女の事情を聴くとしよう
「シェラ、まどろっこしいのは好きじゃないからはっきり言うぞ。君、俺達に何か隠してる事あるだろ?」
「え、えっと・・・・・・そ、そんな事、ないよ?」
シェラさん、そんな目を泳がせて否定しても説得力ないですよ
「シェラさん、私たちは別に怒っている訳ではないのですよ。ですが、街の人達のあの反応を見れば、貴方がただのエルフでないのは明確です。貴女自身にその気がなくとも、我々からすれば無条件で厄介事に付き合ってくれと言われているようなものです。自分が召喚主という自覚があるのなら、必要最低限開示すべき情報があってしかるべきです」
こちらの反論が堪えたのか、シェラさんがうつむいてしまった。しばらく俺とリムルさんを交互に見やり、ついに観念したのかポツリポツリと語り始める
「えっとね・・・・・・あたしの名前は聞いたと思うんだけど、『グリーンウッド』ってね、王族の姓なの。つまり、あたしはお姫様なんだ」
『『うん、実はディアヴロさん(くん)が教えてくれました』』
しかし、そこは空気の読める俺達。口には出しませんとも
「それでね、お城にいても好きなこともできないし、好きでもない人と結婚もさせられちゃうから、それが嫌になってお城から飛び出して行ったの。自分の力だけで生きていける事を証明したくて」
「なるほどね・・・・・・まあ、俺も堅苦しいのは好きじゃないし、その気持ちはわからんでもないかな。でも、流石に家出はやりすぎだ。親御さんとか絶対に心配してるだろうに」
「兄さんたちが心配してるのは、世継ぎの事だけだもん。あたしに子供を産ませたいだけなんだよ。それに・・・・・・兄さんなんて、子作りのことばかり言うし・・・・・・」
確かに、王族にとって世継ぎは絶対に必要だよなぁ。でも、なんだろう。ニュアンスが何かおかしいような・・・・・・
「あの、シェラさん。なんだかその言い方だと、結婚相手が貴女のお兄さんに聞こえるんですが」
「そうだよ?兄さんってば、あたしに”シェラは子供を育ててくれればいい”とか、”子供は三人欲しい”とかそんな事ばっかり言ってくるんだよ!?」
『『き、近親相姦・・・・・・だと・・・・・・!?』』
エルフの国の内情が真っ黒すぎる・・・・・・リムルさんもこれは予想外だったのかすごく驚いている
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・・・・・・何か上の方から矯声が聞こえてきたような気がするがきっと気のせいだ
「い、異世界だから文化の違いとか当然あるのは理解してるが・・・・・・兄妹で結婚っていうのは・・・・・・」
「ねっ!?ひどいよね!?あたしにだって、誰かを好きになる権利くらいあるんだから!」
「ま、まあシェラさんの言い分はわかりました。しかし、自分の力だけで生きていく事を証明するのに召喚獣の力を借りるというのも、どうかと思うのですが」
「しょ、しょうがないでしょ!?あたしだって一人は寂しいんだし・・・・・・」
ああ、一人だと心細い。だけど、家出したのだから護衛なんてつけられない。だから、召喚士という職業を選んだのか。シェラさんが俺達を呼び出した理由がやっとわかった
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……うん、これはもう気のせいじゃないな。というか
『『さっきから何やってんだ(の)、あいつはぁ(あの人ぉ)!?』』
上から聞こえてくる嬌声のような叫び声に反応して、リムルさんが目にも止まらぬ早さで酒場を出ていく。去り際に、料理をシェラさんに全部食べられないようにしてくれと頼まれてしまったが、まあ仕方ないだろう。向こうは任せるとして・・・・・・
「リ、リムルちゃん、一体どうしちゃったの?」
「あー・・・・・・おそらく上が気になったのでしょう。しばらくしたら帰ってきますよ」
「そ、そっか・・・・・・リムルちゃんもレムについていくのかな?」
「え?」
シェラさんの表情が曇る。その声は震えていて、どこか怯えているようだった
「だって、ディアヴロはレムの秘密が気になって拷問しに行ったんでしょ?それって、ディアヴロがクレブスクルムを倒すこと考えてるってことだよね!?」
なるほど、シェラさんはそう捉えたのか。彼がどうするかまでは聞いてないが、言動はともかく内心は優しい人なのだろう。レムさんの事情次第では協力するのかもしれない
「それは、私にはわかりかねますね。それこそ、レムさんに協力するかは彼の自由ですよ」
「そ、それでも!あたしには必要なの!ねぇ、モモンガはあたしについてきてくれるよね!?」
シェラさんが席を立って、すがるように俺の胸元にしがみついてくる
「……申し訳ありませんが、今の私には貴女についていく”理由”がありません。私もそうですが、リムルさんもディアヴロさんも貴女達に無理やり呼び出された”被害者”なのですから。それについては、レムさんにも言える事ですが」
「無理やりだなんて、そんな・・・・・・」
「貴方たち召喚士にとっては見慣れた光景なのでしょう。ですが、”いきなり見知らぬ世界に呼び出されて”、”こちらの意志に関係なく隷属させられて”、”訳も分からないまま従わされる”。貴女がもし、こちらの立場だったら納得できるのですか?」
「あ、う・・・・・・」
シェラさんは言葉に詰まり、今にも泣き出しそうな眼で見つめてくる。彼女達についていく理由がない以上、ここで拒絶すべきなのだろう・・・・・・だが
「……ですが、同時に感謝もしてはいるんですよ」
「……え?」
「本当ならば、貴女達に召喚されなければ、俺のこの身体は消えるはずだったんです。仲間とともに築き上げた拠点と、あのスタッフとともに」
「……モモンガが持ってたあの黄金の長杖の事?」
「はい。あれは私の仲間たちが数多の熱意と莫大な時間をかけて作り上げた、何物にも代えがたいギルドの
たっち・みー、ウルベルト・アレイン・オードル、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、やまいこ、餡ころもっちもち、るし☆ふぁー、ヘロヘロ、ブルー・プラネット・・・・・・・
仲間達との思い出が蘇ってくる。蘇るたびに、もう会えないと思うと悲しくなってきた。アンデットのこの身体となった今、流せる涙もなく
―――――悲しみも消えていった
……なんだ、これは?あの時と同じだ。レムさん達につけられた隷従の首輪の意味を知っててんぱった時、荒ぶっていた感情の波が無理やり押さえつけられるかのように、スゥーッと消えていくこの感覚
……ふざけるな。これでは、感傷に浸ることもできないじゃないか。どこに向けていいのかわからない怒りが、煮えたぎっていく。この怒りも、また消えていくのか・・・・・・・
――――このまま、俺は”心”まで屍になってしまうのか
「……ねぇ、モモンガは・・・・・・これからどうするの?」
不意に、シェラさんの声が聞こえてきた。顔を向けると、俯いてはいるが声音は落ち着いているようだった
「……リムルさんにも聞かれましたが、まだ決まっていません。しばらくはこの街を見て回ろうかと思っていますが」
「じゃ、じゃあさ!あたしもついていっていい!?」
突然、シェラさんが顔を上げ、俺が言い終わる前に声を荒げる。言っている意味を理解するのに、少しだけ間が空いてしまった
「えっと・・・・・・訳を聞いても?」
「だって、モモンガはあたしについていくのが嫌なんでしょ?だったらあたしが、モモンガについていけばいいんだよ!」
え、えぇ・・・・・・何だ、その一休さんのとんちみたいな回答は・・・・・・
「元々あたしも行く当て決めてなかったし、それにモモンガってお金持ってないでしょ?だったらさ、一緒に冒険者ギルドに登録して、お金稼いで冒険に出よう!」
まだ承諾もしてないのに・・・・・・確かにこの世界の通貨は持ってないけどさぁ
だが、そんな彼女の提案を悪くないと思ってしまう。冒険をする、それはありかもしれない。『未知の探求』、それは≪ユグドラシル≫でも大きな目的の一つとなっている。こうしてこの
「……そういうのも、ありかもしれませんね」
「ほんと!?」
「あくまで、選択肢の一つとしてですよ。まだ結論を出すには早すぎます」
「そ、そう・・・・・・それでも考えてはくれてるんだよね!?」
「ええ。ですので、しばらく考える時間をいただければ」
先ほどとは打って変わって、希望がある分活気が戻ってきたようだ。
この様子なら少しの間、席を外しても問題ないだろう。
「ど、どこに行くの!?」
「ただ夜風にあたりに行くだけですよ。少ししたら帰ってきます・・・・・・あ、料理は少し残しておいてくださいね。リムルさんも楽しみにしてたようなので」
それだけ伝えて、俺も酒場を後にした
◆◇◆
【side:ディアヴロ】
時間は少し遡ることになる。俺はレムから詳しい事情を話してもらうため、拷問と称して借りた部屋で二人きりの状態で向かい合っていた。途中、レムが逃げ出そうとしたがそこはレベル150のステータスでベッドにねじ伏せ、拷問を開始する
……そして、今どうなっているかというと
「で、何か言うことは?」
「調子に乗ってやりすぎて申し訳ありませんでした」
ハリセンを肩に担いだリムルに正座させられて説教されている。この光景にデジャヴを感じるのはきっと気のせいじゃないな
ちなみにレムは涙ぐみながらベッドに腰かけている。言っておくが、決してエッチなことはしてないからな!?
「……あ、あのリムルさん。わたしは大丈夫ですから、その辺で・・・・・・」
「……レムがそういうのならこれくらいにしとくが」
『ちなみにどんな事してたんだ、ディアヴロくん』
『レムの豹耳を指で弄んでいた。反省はしている』
思いっきりハリセンで顔面を殴られた。まだセーフだろ!
「全く、喘ぎ声が聞こえてきたから何事かと思ったぞ・・・・・・入ってみればレムがディアヴロに組み伏せられて泣いてるし」
「あ、あれは・・・・・・ディアヴロに(耳を)いじられてたからというのもありますが・・・・・・何より、その・・・・・・どんな事情があろうと、吞み込んでくれると・・・・・・言ってくれたので」
ああ、確かにそんなこと言いましたね。というか、あれだけ泣いたら喉乾いてるよな・・・・・・そうだ、ちょっと試してみるか
俺は手の平を広げて、小さな氷像をイメージする。最低レベルの魔術で、いつも使っているコップを、そしてその中に空気中の水分を集める
「≪アイス≫、ならびに≪ウォーター≫」
俺の手元が光り、氷でできたコップと純正の水が現れた。思い出した設定説明からこれくらいはできると踏んでみたが、試してみるものである
「おお、器用なものだな」
「ふん、さっきの詫びだ。氷なので滑るから気を付けるがいい」
「……あ、その・・・・・・ありがとう、ございます・・・・・・っ、冷たい、です」
「一気に飲みすぎるな、ゆっくりとな」
レムは氷のコップを両手に持つと、驚きながらも喉を潤していく。他の魔法も、使い方次第で日常生活に役立ちそうだな、時間があるときに試すとしよう。
そして、レムが水を飲み終えて一息つく
「はふぅ・・・・・・」
「もういいのか?」
レムが頷く。そして、リムルに視線を向けた
「……あの、リムルさんは・・・・・・」
「俺も気にしたりしないよ。その為に呼んだんだろ?」
リムルの反応に、レムは一瞬目を丸くして俺とリムルに交互に視線を向ける。その視線は怯えと、わずかな期待が込められているようだった
そして、レムの唇が開かれる
「……わたしの中には・・・・・・魔王≪クレブスクルム≫の魂が封じられているんです」
「ッ!?なるほどな」
「あー・・・・・・なるほど、合点がいった」
「……え?それだけですか?おぞましくありませんか?恐ろしくはありませんか?わ、わたしを・・・・・・嫌いに・・・ならないのですか・・・・・・?」
レムが震えながら問いただしてくる。俺達の反応がそれほどまでに予想外だったのだろう
「いや、全然。そもそも俺も魔王だし、何よりクレブスクルムにもあった事ないのに恐いもなにもなぁ」
「フン、俺とて同じだ。魔王≪クレブスクルム≫の魂が、おぞましい?恐ろしい?何を言っておるのだ、俺は魔王ディアヴロだぞ?」
「……それ、じゃあ」
「セレスティーヌさんの話から察するに、クレブスクルムの魂が解放されるのはレムが死んだときか、魔族に連れ去られた時だろうな」
「そう考えるのが妥当だろう。しかも、今は取り出す方法がわからない。そんな手段があれば、世界中の戦力で囲んでおいて、取り出して倒すだろう」
「この事を知ってるのもセレスティーヌさんくらいだろうなぁ。街の人はもちろん、護衛のガラクくん達の反応から察するに下の連中は知らないだろう」
「だろうな。あのヒステリックな針金男が、魔王クレブスクルムの魂を持つ者を”様”付けするとは思えん。連中はレムの事を優秀な召喚士にしか思ってないのだろう。どうだ?俺達に、間違いはあったか?」
レムは目を丸くして、頷く
「……あ、合ってます・・・・・・魂の解放は、私の死ぬ時、です」
「一応、質問しておこう。お前の母親も、その魔王クレブスクルムの魂を抱えていたのか?」
「・・・・・・・・」
レムは無言でうなずいた。なるほど、魔王クレブスクルムの魂は世襲か
『なるほどね・・・・・・確かにこれは隠しておきたい秘密だな。ディアヴロくんの言う通り真っ先に折るべきフラグだったわけだ』
『ふん、≪クロスレヴェリ≫でこれがシナリオになっていたらブーイング間違いなしだったぞ』
一人の少女に、世界の命運を背負わせるなんて、残酷じゃないか
「ふんっ・・・・・・”神”とやらも存外たいしたことはない。こんな少女に何もかも押し付けて消えるとはな・・・・・・いいだろう、魔王クレブスクルムの魂などこの俺が粉砕してくれる。まあ、取り出す方法については研究する必要があるだろうがな」
『かっこいい事言うじゃないか。さっきまでセクハラ大魔王だったのに』
『もう勘弁してくださいお願いします』
せっかく格好良く決まったのに茶化さないでください。しかし、秘密を探ったのは大当たりだった
下らないお涙頂戴シナリオなど、誰が順番通りにやってやるものかよ
ふと、レムの方を見やると、彼女は先ほどよりも勢いよく涙をこぼし始めた
「ん?どうした、レム?」
「……ッ!!・・・・・・わたし・・・・・・・はじめ、て・・・・・・離れ・・・・・・ない・・・・・・ッ・・・あああぁぁ・・・・・・・ッ!!」
レムが堪えきれなくなってわあわあと声を上げて泣き出した。それを見たリムルは、何も言わずに部屋を出ていこうとする
『どこに行くつもりだ、リムルよ』
『野暮な事はしない主義なんだよ、俺は。いいから、泣いてる女の子に胸の一つくらい貸してやったらどうだ、魔王様?』
『・・・・・・ふん、言ってくれるではないか』
≪思念伝達≫で言いたいことを言い終わったのか、リムルは振り向かずに部屋を出ていった。リムルを見送った俺は、レムの隣に座ってその小さな肩に手を乗せて、自分の胸に抱きよせる。
やがて、レムは泣き疲れた子供のように眠ってしまう。丁度ベッドの上だったので、そのままブランケットをかけて俺も部屋を後にする
・・・・・・リムルさん、ボッチの俺になんつうハードルの高い無茶ぶりをしてくれたんですかね
◇◆◇
【とある三大魔王の思考会議その6】
『このロリコンめ!』
『待て!?リムル、誤解なのだ!?』
『あ、リムルさん。外いくついでに憲兵呼んできますね』
『モ、モモンガよ!早まるな!?』
ペロッ、これはモモ×シェラの(あ、ちょアルベドさんなにす(ry
冗談は置いておいて、ナザリックのように依存できるものがほとんどないモモンガさんは大体こんな感じかなというのが私なりの見解なのでご容赦願います
ていうかお気に入りがいつの間にか300件越え・・・!?
2017/05/03 追記
転スラの原作や書籍を読み返して、いろいろと考えた結果≪思念伝達≫と≪思考加速≫を別物扱いにする事にしました。読んでくださった方には申し訳ありませんが、ご容赦願います