三魔王異世界珍道中   作:ヤマネコクロト

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宿屋についた魔王一行だが、セレスティーヌと呼ばれる人物に呼び出されてしまう。敬意を払われる人物のようだが、一体何者なのだろうか


魔術師協会

◆◇◆

 

【side:リムル】

 

俺たちを呼び出したセレスティーヌという人物に会うため、安心亭の一階に下りる。受付のメイちゃんが俺たちに気づくと手を振ってこちらに呼び寄せた

 

「あ、お兄さんたち~☆奥の酒場でセレスティーヌ様がお待ちだよ~♪」

 

「ありがとうございます。ところで、セレスティーヌさんとはどういった方なんでしょうか?」

 

「おやおや、お兄さんたち知らないの?セレスティーヌ様はこのファルトラの魔術師協会の長で、街を守る結界を維持してくれているとっても偉いお方なんだぞ~☆」

 

おおっと、思った以上に偉い人だったようだ。しかし、これだけの規模の街を覆う結界となると、維持するための力も馬鹿にならないはずだ。おそらく、維持にほとんどの力を割いているだろうな

 

「一応護衛の人も一緒にいるから、失礼のないようにね?」

 

メイちゃんの親切な忠告に礼を言って、俺たちは酒場へと向かう。飯をおごってくれるというので、実のところ楽しみだったりしてる。自分の国で舌は肥えてはいるが、異世界の料理のレベルは食に関して妥協を許さない俺としては一番重要なのだ

 

『……そういえば俺って骸骨なんだよな・・・・・・食べたら絶対ただ漏れになるよなぁ』

 

む、そういえばモモンガくんは今骸骨の姿だったな。それはいかん。せっかく目の前に美味しそうな料理があるのに、食べれないなんて生殺しは流石に可哀そうだろう

 

シエル先生、何かいい能力とかないかい?

 

究極能力(アルティメットスキル)豊穣之王(シュプニグラス)≫の【能力創造】と【能力贈与】を用いれば可能です。ですが、その際にマスターの力を相手に示唆してしまう事になりますがよろしいのですか?≫

 

それに関しては、然程心配もしていない。確かに、モモンガくんやディアヴロくんとは会って数時間の赤の他人なのだろう。だが、接していく中でモモンガくんは恩を仇で返すような人物ではないと確信している。流石に殴られたら俺も黙ってる訳にはいかないが、その心配も杞憂だろう

 

『モモンガくん、食事に関してだが俺に任せてくれないか?』

 

『え?もしかして俺みたいなアンデットが飲食可能になるアイテムとか持ってたりするんですか?』

 

『いや、アイテムじゃなくて俺がいた世界のスキルになるんだが、まあ任せてくれたまえ。流石に今回は我慢してもらうことになるが、一人だけおいしい料理を食べられないなんて寂しいじゃないか』

 

『リムルさん・・・・・・ありがとうございます』

 

『何、同郷のよしみという奴だよ。わかっていると思うがこの件については黙っておいて欲しいんだ。少なくともこの世界の住人に知られるのは絶対に避けたい』

 

『ええ、絶対口外しませんよ。ディアヴロさんには折を見て話すんですか?』

 

『そうなるな。その時は俺の方から説明するよ』

 

このスキルがこの世界の住人に知られたら、絶対に利用しようとたくらむ奴が出てくる。俺はこの未知なる世界に”冒険”しに来ただけであって、世界征服だとか世を混乱させようとかそんな事をしに来たわけではないのだ。今、絶賛厄介事に巻き込まれてるけど

 

酒場へつくと、入り口から少し離れた席にディアヴロ達三人とテーブルを挟んで向かい合う形で座っている女性が見えた。どうやら人払いをしたようで、俺たち以外の客は見当たらない

 

柔らかそうな水色のローブで、肩からくるぶしの高さをすっぽり覆っている。タイトなデザインなのでその豊満な体のラインがくっきり見える。まことに眼福です。彼女がセレスティーヌなのだろう。後ろで彼女を挟むように立っている護衛らしき黒のローブを被っている男性が二人いる

 

「待たせて悪いね。そちらの女性がセレスティーヌさんで間違いない?」

 

「……はい。彼女が、魔術師協会の長である『セレスティーヌ・ボードレール』卿です」

 

「初めまして。ご紹介にあずかりましたセレスティーヌ・ボードレールです。あなた方が、そちらのディアヴロさんと同じくレムさん達に呼び出されたリムルさんとモモンガさんでしょうか?」

 

「ええ、それで合ってますよ。俺がリムル=テンペストです」

 

「私がモモンガです。初めまして、ボードレール卿」

 

流石、社会人のモモンガくん。挨拶が様になってるね。しかし、後ろの護衛の一人がディアヴロくんを睨みつけているのが気にかかる。俺たちがいない間に何かしたんじゃないだろうな・・・・・・

 

「ごめんなさいね。私も立場があるものだから、一人で身軽に、という訳にはいかなくて・・・・・・」

 

「いえいえ、貴方の立場からすれば護衛なしというのはさすがに不用心でしょう。むしろ、護衛を二人しかつけていない事に敬意すら感じますよ」

 

そう言って俺たち二人も席についた。なお、モモンガくんは横幅が結構広かったので別のテーブルから椅子を持ってきてテーブルのサイドに座ってもらっている

 

「ふん、俺は護衛程度、気にもしないのだがな」

 

「貴様・・・・・・ボードレール卿に対して、なんという口の利き方だ?敬意を欠くと、容赦せんぞ?」

 

ディアヴロの応対が気に入らなかったのか、護衛の一人が敵意を持った声で脅しにきた。体つきが細く、神経質な顔つきの男を、セレスティーヌが宥める

 

「ガラクさん、失礼ですよ・・・・・・わざわざ付き合ってくださっているのは、あちらの方々なのですから」

 

「ボードレール卿はお気になさらないのかもしれませんが、こんな見るからに怪しい魔術師や、どこの馬の骨とも知れない混魔族(ディーマン)に侮られては、魔術師協会の威信にかかわるのです!」

 

『全く、ただの護衛ごときが会長のセレスに、協会の威信のなんたるかを語るとはな』

 

『というか、さり気なく俺にも飛び火してるんですが・・・・・・やっぱりこういう大きな組織だとエリート意識が高い人がいるものですね』

 

『ほんとこういう面倒な奴ってどこにでもいるな・・・・・・』

 

こういう奴に限って裏であれこれやってトップの座を狙ってたりするんだよな。まあ実際のところどうなのか知らんけど、関わるとろくなことにならないだろう

 

「みなさん、お話の前に食事にしましょう。今日はわたしが出しますから、どんどん食べてくださいね」

 

「いいの!?ホントに!?」

 

「ええ、好きなだけどうぞ」

 

シェラが諸手を上げて喜ぶと、注文を取りに来たメイちゃんにあれやこれやと頼んでいく。ていうか一人で経営してたのかこの宿屋・・・・・・

 

そしてほどなく運ばれてきた料理に目をやる。大小さまざまなソーセージ、茹でただけのジャガイモ、具のほとんどないスープ、白いパンetc・・・・・・

 

見た目はシンプルでおいしそうだが果たして味の方はどうだ。俺はソーセージを一本フォークに突き刺し、かじりつく

 

こ、これは・・・・・・!?ほどよい噛みごたえに、じゅわっと広がる肉汁の、野趣あふれる力強い味わい・・・・・・うまい!

 

他の料理にも手を出そうとすると、シェラがバクバクとすごい勢いで食べていっている。あの細い体のどこに入ってるんだ・・・・・・・?

 

『……胸か』

 

『胸ですね』

 

『胸だろうな』

 

三人とも、満場一致で同じ結論に至ったようだ。男の悲しい性よ

 

そんなシェラを、レムが横目でジトッと睨みつけた。そりゃ目の前に偉い人がいて、遠慮もなしにバクバク食ってたら一言いいたくもなるよな。しかし、その予想とは裏腹に彼女の食いっぷりを言及することなく、セレスティーヌの方を向いた

 

「……それで、セレスさん・・・・・・もしかすると、また”あの”話ですか?」

 

・・・・・・あの話?俺は一旦食事を中断して二人の会話に耳を向ける

 

「レムさん、わたしはね、貴女の力になれればいいなぁ、って思っているのよ?いろいろと辛いこともあっただろうし、信用できないのかもしれないけれど、それだけは本心だって、わかってちょうだい?」

 

「……わたしは魔術師協会本部に行くのも、護衛を付けられるのも、嫌です」

 

「でも最近は物騒なのよ。他の街では、魔族が人をたぶらかして結界の中に入ってくるような事件も発生したとか・・・・・・魔術師協会の者だったら、魔族につけこまれて街や貴方に迷惑をかけるようなことはないと思うのだけれど」

 

……なるほど、彼女はレムの隠し事を知っているとみた。これは俺の予測が信憑性を増してきたな。それが魔王の所在でなくとも、魔族に付け狙われるほどの秘密だったなら、人族として守りたいと思うのは当然だろう。ただ、レムが頑なにセレスティーヌの提案を拒む理由がわからない。ただ単に迷惑をかけたくないというだけではなさそうだが・・・・・・

 

そんな事を思っていると、セレスティーヌがレムの首についている隷従の首輪に視線を向けた

 

「貴方の首輪をどうにかする手段も、魔術師協会なら調べられるかもしれないわ」

 

「っ!?・・・・・・これは」

 

「望んでつけているわけではないのでしょう?貴女ほどの人が、無理やりに奴隷にされるとも思えない、なんらかの、貴女ですら想像も及ばないような事故で隷従の首輪がついてしまったのでは?そして、その首輪の主は、そこにいる三人のどちらか――――間違っているかしら?」

 

「……いいえ」

 

すごい洞察力だな。こちらは首輪に関する事なんて一言も言ってないのに・・・・・・流石にレムの隠し事を見抜いただけはある。これは変にごまかすと後々面倒な事になりそうだな

 

「どうかお願いします。レムさんを解放してあげてくれないかしら?彼女はこの世界にとって大切な人なのです。相応のお礼は約束いたしますから」

 

『ふむ・・・・・・リムルよ、今すぐ解除の方はできそうなのか?』

 

『無理。少なくとも一朝一夕で解除できるようなかかり方じゃない。解析の方は進めてはいるが、それがいつになるかまでは保証できん』

 

『ここは正直に話した方がいいでしょうね。向こうも話の分かる人みたいですし、正規の解除法があるならそれを調べてもらうのも手かと』

 

確かにそんな方法があるならシエル先生の解析も楽になるだろうな。もっとも、シエル先生の性格からして突っぱねそうだけど

 

≪失礼な、そんな方法探してもらわずとも解除して見せますとも≫

 

ほらね、こういうお方なんだよ

 

「えーと、正直に申しますと、彼女達の首輪はそちらのディアヴロくんが隷従の儀式を反射して起こした事故でして」

 

「うむ、俺とて他者を従わせる趣味はないが・・・・・・方法がわからんものは、解除したくともできぬ」

 

「そうですか・・・・・・かなり熟練の魔術師のようですし、わたしにわからないことも何か知っているかと思ったのですが・・・・・・それに、反射ですか?」

 

「ええ。まあどういう理屈で反射したのかはともかく、かなり変則的なかかり方をした所為で普通の方法では解除できないかもしれません。その辺は解析してる最中なんでまだ何とも言えませんが」

 

「解析ですか?ということは貴女(・・)も魔術師なのかしら?」

 

「はい、解析の方法については企業秘密ってことで。あと、なんとなく勘違いしてるようなので言っておきますが、俺は男です」

 

予想外だったのかセレスティーヌが驚いた表情をした後、恥ずかしそうに謝ってきた。そんなに女性に見えるかね・・・・・・いやまあ、この体はとある女性の姿を模してるわけなんだが

 

「そうなると・・・・・・・方法を調べて、貴方方三人に手伝っていただく必要があるでしょうね」

 

「私も一応魔法詠唱者(マジック・キャスター)・・・・・・こちらでいう魔術師にあたりますが、どちらかと言えばリムルさんの方が解除に詳しいですね」

 

「ええ。何かわかれば俺の方にお願いします」

 

「全く、自分の魔術も解除できんとは無力な者どもめ・・・・・まあいい、今回の件は事故とは言え俺が原因でもある。必要なら俺も手を貸してやろう」

 

ダンッ!と床板を叩く音が響く

 

そちらを見ると、ガラクと呼ばれていた男が長杖で床板を叩いていたようだ

 

「貴様・・・貴様らは!何の権利があって、ボードレール卿の願いを断り!あまつさえ、このレム・ガレウ様を隷従させているのだ!?なんの権利があって!」

 

いや、知らんがな・・・今さっき、これは不幸な事故で、解除の方法は知らないけど解析の最中で、お互いに協力して調べよう。って話になったはずだろ

 

ディアヴロは辟易したような顔つきで、モモンガも仮面の上からでもわかるくらいあきれている。流石の俺も我慢する理由がない

 

「ガラクくんだっけ? 一応聞くけど君って護衛のはずだよね?」

 

「だからどうした!?」

 

「いや問題大ありだから。一応、護衛を任されるくらいの信頼はあるんだろうけど、”ただ”の護衛が、一番偉いはずの魔術師協会の長であるセレスティーヌさんとの会話を遮ったんだ。いくら彼女が優しいからといっても、流石に頭が高いんじゃない?」

 

「なっ・・・・・・!?」

 

「それに、ちゃんと話を聞いていなかったのですか?これは不幸な事故で、お互いに解除の方法がわからないから協力して調べましょうと。そして我々は協力的だった。”ただ”の護衛とはいえ、それさえ理解できていないのであれば、それこそ魔術師協会の威信とやらに関わってくると思うのですが?」

 

「ぬ・・・ぐっ・・・!?」

 

おー、モモンガくんも言うね。ガラクくんが顔真っ赤にして言いたくても言い返せない事に憤慨してるよ

 

「これ以上はご迷惑になりそうね・・・・・・ごめんなさい、みなさん、疲れているでしょうに」

 

見かねたセレスティーヌさんが席を立つ。主にそちらの護衛のせいでしたけど!こっちとしてはもう少し情報が欲しかったんだが、ヒステリックな護衛くんのせいでとんだとばっちりを受けたものだ

 

レムの方も、騒がれた原因の一つに自分が関わっている事に罪悪感を感じていたのか、うつむいている

 

「……セレスさん・・・・・・協会に行くのも、護衛の話も断っておいて、身勝手だと軽蔑されるかもしれません。ですが・・・・・・隷従の首輪の解除の方法・・・・・・調べていただけますか?」

 

レムも、セレスティーヌさんの事を全く信用していないという訳ではないのか。むしろ、頼りたくても頼れないのか?

 

「もちろん。私は貴女を守りたいだけよ」

 

「すみません」

 

「気にしないで。でも、考えが変わったらいつでも頼ってね?魔術師協会は世界の為に貴女を守る必要があるし・・・・・・私は貴女の事を妹みたいに思っているんだから」

 

セレスが踵を返して、護衛とともに酒場を出ていく。本当にレムの事を心配してるんだな。去り際にガラクくんが俺たちをにらみ付けてきたのが非常に気に入らないが。あれさえなければほっこりしていたものを・・・・・・あとシェラ、君はいつまで食っている気だね?お姫様がそんなにがっついてていいのか

 

『ふむ・・・・・・魔術師協会の長が気に掛けるほどにレムの抱えている秘密は相当なものということか』

 

『そういえば、二人の事情聴取はどうなったんだ?』

 

『うむ、それなのだが、いざ聞こうというタイミングでセレスが訪れてな。当たり障りのない程度にしか聞けてないのだ』

 

なんと、間の悪い・・・

 

『ゲームの展開でいえば、レムの隠している秘密は”ストーリーを重たくする”タイプの秘密だ。ゲームならばいざ知らず、現実(リアル)となった以上、いちいち面倒な事に発展させる理由もない』

 

『……少々外道くさいですが、≪支配(ドミネート)≫という精神支配の魔法が使えます。やってみますか?』

 

『ふん、そんな事をせずとも聞き出す方法はいくらでもあるぞ?それに、秘密というものは他人に聞かれたくないから秘密にするものだ』

 

む、それは確かにそうだ。第三者のいない二人きりの状況ならば、話してくれる可能性はあるかもしれない

 

『もう一度、俺が聞き出すとしよう。あまり気は進まんが、多少強引に脅せば白状してくれるかもしれん』

 

『うーん・・・・・・可哀そうだけど仕方ないか。頼んだぞ、ディアヴロくん』

 

ディアヴロくんにOKを出す。立ち上がった彼はレムの背後に回ると軽々と持ち上げて肩に担ぐ

 

「なっ!?な、な、なにをする気ですか!?」

 

「ふむ、思ったより軽いな。念の為聞くが、貴様が抱えている秘密、今ここで話す気はあるか?」

 

「それは・・・・・・でき、ません・・・・・・」

 

「だろうな」

 

それだけ聞くと、ディアヴロは酒場を出ていこうとする

 

「はんぐんぐ!ごくっ!二人とも、どこ行くの?まだ料理がたくさんあるけど?」

 

 

「拷問してくる」

 

 

……いや、事情聴くだけだよね?それ以上の事しないよねディアヴロくん?

 

 

 

◇◆◇

 

【とある三大魔王の思考会議その5】

 

『これは事案発生か』

 

『憲兵呼んだ方がいいんでしょうか?』

 

『待て!?貴様ら、一体何を勘違いしている!?』

 

 

 




ディアヴロ様は原作でスケベな事結構やってますがここでもやってしまうようです(蹴)

書いてて「こんな感じでいいのだろうか」と思う事が多々ありますが、何とか頑張って続けていきたいと思います(ただし心はガラスのハート(ry

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