三魔王異世界珍道中   作:ヤマネコクロト

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星降りの塔を離れ、街を目指す魔王一行。この世界に来て初めて訪れる街には一体何が待ち受けているのか・・・・・・?


城塞都市ファルトラ

◇◆◇

 

【side:リムル】

 

岩の転がる丘陵地帯をしばらく進むと、南北を流れる大きな川と石でできた丈夫そうな橋が見えてくる。その先に見える城門のような砦、あれが『ウルグ橋砦』のようだ。もうすぐ空が夕焼けになりそうだったので、間に合ってよかった

 

ちなみに、ここまでの道中でモンスターたちに襲われた。ディアヴロくんがいうにはこのあたりのモンスターのレベルは60程でそこまで強くないらしい。もののついでに検証の続きということで戦闘を二人に任せてみた

 

その結果だが

 

「≪エクスプロージョン≫!!」

 

襲い来るモンスター達を尽くディアヴロくんが魔法一発で蹴散らしていき

 

「行け!≪死の騎士(デス・ナイト)≫よ!!」

 

モモンガくんは召喚した禍々しい骸骨騎士で蹂躙していった(なおこいつの剣で倒されたモンスターはアンデット化するそうなので二次被害を防ぐために俺が全部焼却処分していった)

 

流石、廃課金プレイヤーと言ったところでこの近辺のモンスター達では相手にもならなかった

 

ちなみにモモンガくんが死の騎士を召喚した時、シェラが怯えて抱き着いてきたのはここだけの話。うちの第一秘書並みで大変柔らかかった

 

「やっと一息つけるな。あ、モモンガくん。召喚したやつはちゃんと消しておけよ」

 

「既に帰還させてありますよ。リムルさんの忠告も合わせて抜かりありません」

 

流石モモンガくん、慎重派なだけあって準備がよろしい。

 

そう、モモンガくんの仮面と小手の変装はどう見ても怪しいの一言で、当然砦に駐屯している兵士達が咎めないはずがないのだ。いざ見せろなんて言われたら間違いなく面倒な事になる。そこで、モモンガくんに一つ策を与えたのだ。もし見破られても俺がフォローする事になっている

 

よし、いざ行かん。異世界最初の街!

 

 

◆◇◆

 

【side:モモンガ】

 

重厚な石の橋を渡り、砦の前までたどり着く。もうすぐ日が暮れるせいか、俺たちと目の前にいる兵士達以外の人通りはない。絡まれる心配がなくてよかったと思うべきか。そう思いながら砦を通ろうとすると

 

「そこのお前たち!止まれ!」

 

『予想通り、止められましたね』

 

『よしよし、まずは第一関門』

 

リムルさんの≪思念伝達≫で打ち合わせをしながら、予想される事態に身構える

 

だが

 

「なんだ、貴様は?このディアヴロを呼び止めるとは、相応の覚悟があるのだろうな?」

 

ディアヴロさんが呼び止めた兵士を威圧しながら口を開いた

 

『『うぉい!?なにやってんのアンタ!?』』

 

『ぬおっ!?呼び止められたから受け答えしたつもりだったのだがまずかったか?』

 

思いっきり威圧してるじゃないですか!?ああほら砦から兵士達が何事かとちらほら出てきてるじゃないか!

 

「い、いや、我々はファルトラに向かう者の行き来をチェックしているのだが・・・・・・君たちの姿は見たことがなくてな。失礼だが身分や目的を教えてくれないか?」

 

よ、よかった。明らかにディアヴロさんに気圧されてはいるが、対応は冷静にしてくれている。一時はどうなることかと思ったが、どうにか穏便に済みそうだ

 

「えっと、私たちは「彼らは・・・・・・わたしの召喚獣のようなものです・・・・・・事情は複雑ですが」」

 

「違うってば!あたしが召喚したの!」

 

兵士の人に事情を説明しようとしたらレムさんとシェラさんが横から声を上げた。不意にレムさんの方を見ると、ディアヴロさんのマントに首から下を隠すように頭だけを出して兵士の方を見ていた。反対側にシェラさんも同じような体制で頭を出している。いや何してるの君たち・・・・・・

 

「レムさんと・・・・・・エルフのシェラさんでしたか。しかし、人型の召喚獣なんて見たことも聞いたこともありません。しかも、しゃべってますよ?」

 

おや、どうやらこの兵士と二人は知り合いのようだ。というかいい加減俺たちの事を召喚獣っていうのやめてほしいんだけど・・・・・・俺だって人型の召喚獣なんて見たこともないよ。まあ、俺は骸骨でリムルさんに至ってはスライムだから一概に人型とはいいがたいけども

 

「……わたしの力であれば、これまでにあり得なかった召喚獣であろうが呼び出せます。まさか、わたしの力を疑っているのですか?」

 

レムさん。威圧してるようですけど、そのネコミミをピコピコさせながら頭だけ出している今の姿は怯えている子猫のようで威厳なんてこれっぽっちもないです。むしろ可愛いです

 

「い、いえ、レムさんの力を疑っているわけではないのですが!しかし、その・・・・・・召喚獣に必要な首輪もついてないようですし・・・・・・」

 

レムさんの威圧(?)に戸惑っている兵士が俺たちの首を見やる。そういえば隷従の儀式はディアヴロさんが反射して今は二人の首についたままだったな

 

「首輪か?首輪ならここにあるだろう」

 

ディアヴロさんがマントに隠れている二人の首根っこを掴んだようで、そのまま持ち上げて兵士に首輪の所在を見せる

 

「……なっ!?」

 

「ちょっ、やめてやめて!?」

 

「え、ええ!?」

 

どうやら兵士の方も予想外のようで戸惑った声を上げる

 

「あ、あれ!?普通は召喚された召喚獣が首輪を・・・・・・ええ!?人族に・・・・・・ええ!?」

 

「ふん、俺をそこらの召喚獣などと一緒にするな。不愉快だ。これ以上、俺の機嫌を損ねるようであれば―――」

 

「……通してください」

 

「まだなんかあるの!?」

 

「す、すみませんでした!お気をつけて!」

 

ディアヴロさんは威圧を、レムさんとシェラさんは抗議でもって、ほとんど強引に近い形で砦を通っていた。兵士の人は困惑しながら三人の後ろ姿を見送っている

 

「あのー・・・・・・俺たちも通っていい?」

 

「あ、は、はい!え、えっと・・・・・・お二人もレムさんが召喚した召喚獣・・・・・・なのでしょうか?」

 

「あー・・・・・・まあそういうことにしといて」

 

リムルさんが気まずそうに答える。そりゃ自分から召喚獣ですなんていいたくもないよな

 

「そ、そうですか。あ、そこの仮面の人。すみませんがその仮面を取って、顔を見せてくれませんか。念の為、指名手配されている犯罪者なのか確認させてください」

 

きた。今度こそリムルさんとの打ち合わせ通りに・・・・・・

 

「えっと、見せないといけませんか?」

 

「はい」

 

兵士の返答に、逡巡するようなしぐさでもって俺はそのマスクを外した。マスクの下には黒髪の、いかにも日本人といえる風貌の中年の顔があった

 

「……はい、いいですよ。その仮面は道中もつけられてたのですか?」

 

兵士が確認したのを見て、再びマスクをつけなおす

 

「ええ、この仮面には魔力を増やす特殊効果が付与されていて、道中襲ってくるモンスターを対処するためずっとつけてたんですよ」

 

「なるほど。ですが、街中ではその仮面を外す事をお勧めしますよ。見るからに怪しいですし」

 

「あー、すまん。こいつちょっと恥ずかしがり屋でね。仮面なしだとうまく話せないんだ。もめごとは極力避けるよう努めるから」

 

そう、リムルさんがくれた策とはこの素顔に幻術を被せて人間っぽくみせようといったものだった。先ほどの受け答えも予想していたもので、マスクを常時つける理由も別段おかしくないような内容にとどめ、周囲の者たちに納得してもらう算段だ。幻術が看破される恐れもあったが、その辺はリムルさんが何かしらの探知をしていたらしい。そして、そういった輩はいないとのことで、この作戦を実行したのだ

 

もっとも、ディアヴロさんがいきなり威圧してくれたから危うく狂いそうになったけども!

 

「それは・・・・・・大変だったでしょうね。わかりました、どうぞお通りください」

 

兵士の許可も得て、やっとの事砦を通る事ができた。しかし、途中ですれ違った兵士や通行人達が皆、先にいった三人の方を驚愕の表情で見ているのが気にかかる

 

 

◇◆◇

 

【side:リムル】

 

砦でひと悶着あったものの、なんとか砦を超えた俺とモモンガは先に進んだ三人と合流しつつ、ファルトラの街にかかる跳ね橋へと歩いていく。ディアヴロから聞いた話では、街を囲う外壁は八角形をしており、その角には魔族に関わる存在やその攻撃を遮断する結界を形成する塔が建っているらしい。それを聞いて、俺とモモンガは入れないかもと思ったが、すんなりと入れた。割とガバガバなんじゃ、この結界。まあ俺たちが異世界から来たということでこちらの魔族にカウントされてないのかもしれないが

 

門の前につく頃には夕刻になっており、歩いてきた草原が夕陽に照らされ、まるで燃えているかのように彩られる。美しい景色だった。モモンガくんも感動しているのかその光景をまじまじと見つめている

 

跳ね橋を渡り、街の門の前に兵士が六人立っているのが見えた。レムとシェラは先ほどのように、今度は服の首元を引っ張り上げたり、手で覆ったりして首輪を隠しながら通っていく。そのかいがあったのか、兵士に呼び止められる事はなかった。しかし、召喚獣用の首輪が自身についた程度でどうしてそこまで隠したがるのか。まあレムはベテラン召喚士みたいだから失敗を恥ずかしがっているのだろうけど、何か引っかかる

 

そして街へ入ると、大勢の人でごった返していた。道行きからして、歩くのも困難だなこりゃ。

道行く人を見てみると、ヒトやエルフ、獣人と様々な人たちが簡素な服や鎧を着こみ、武器や革袋をもって思い思いに歩いたり話し合ったりしている

 

うんうん、まさに異世界だな。俺の国である『テンペスト』でも様々な種族が行き交っていたが、流石にホブゴブリンやオークなんて魔物はいないだろうな

 

『建物は石造りですか・・・・・・文明レベルは中世くらいといったところですね』

 

『ザ・異世界って雰囲気出てていいだろ?』

 

『うむ、風情があっていいではないか。しかし、人混みはどうも好かん。早めに宿を探すとしよう』

 

確かにもう夕刻、この雰囲気に見とれて宿が取れませんでしたじゃ話にならない。と、そんな事を考えていると横に並んでいたレムが首元を気にしながら、恥ずかしそうに頬を染めて話しかける

 

「・・・・・・あ、あの」

 

「ん?どうしたんだ、レム」

 

「・・・・・・宿屋に行きたいのですが」

 

「ああ。俺もそう思ってたところだ。早く行こう」

 

レムに促され、宿屋を探そうと歩き出した。その時だ、こちらを見ていたであろう通行人のある会話を耳にする

 

「なあ、あれってレムさんと、あの(・・)エルフの子だよな?なんで首輪つけてるんだ?」

 

また首輪の話か・・・・・・隷従の儀式が跳ね返されたという前例のない事態だったとは言え、そこまで気にする事なのか・・・・・・って、まてよ?

俺はふと、とある可能性に思い至る。『首輪』、『隷従』・・・・・・まさか

 

『モモンガくん、ディアヴロくん。ちょっといいか?』

 

『え?どうしたんですか一体』

 

『どうにもいやーな予感がしてきてな・・・・・・ディアヴロくん、一つ確認したい事がある』

 

『む?なんだ?』

 

≪思念伝達≫を通じて俺はディアヴロに二人につけられた首輪に立てたある『予想』を述べる

 

『隷従の儀式ってさ、もしかして召喚獣だけじゃなくって人間(・・)にも使われてたりするのかな?』

 

『なに?そんな設定に覚えは・・・・・・はっ!?』

 

『・・・・・・すみません、俺もなんだかこの先が読めた気がします』

 

俺たち三人は再び周囲の会話を意識して聞き取る

 

「あの二人って召喚士じゃなかったっけ?」

「でも、あの隷従の首輪をつけてないか?あれって召喚獣の方がつけるっていう・・・・・・」

「いや、召喚獣だけじゃなく奴隷(・・)もつけてるけど」

「ってことは、あの三人の奴隷になったのか!?あの二人が!?」

 

『『『ア、アウトーーーーーーー!?』』』

 

そうだよ!?隷従(・・)の時点で気づくべきだったんだよ!?これどう見ても奴隷にするための儀式じゃねぇか!?

 

『や、やばいですよこれ!?砦の方でも名前で呼ばれるくらいにレムさんって有名な召喚士のはずですよね!?そんな人を奴隷にしたなんて・・・・・・あ、あれ?なんかスゥーッて落ち着いてきた』

 

『落ち着いとる場合かぁ!?い、いやここは冷静になるべきか。くそっ、早急に気づくべきだったんだよ!?そしたらここに来るまでにマフラーとか用意してたものを!?』

 

ま、まだだ。まだ傷は浅い、早急に首輪を外せばまだ間に合う!

そう思った矢先、こんな会話が聞こえてくる

 

「あのレム様を奴隷にするなんて・・・・・・なんかやばい奴じゃねぇか?一応、魔術師協会に報せた方がいいかもな」

「俺、聞いたんだけどよ、あっちのエルフの子もすごい家の出身らしいぜ?」

「たしかに・・・・・・普通のエルフじゃないよな。そんな二人を奴隷にするとか、やっぱり、何かあるよな・・・・・・?」

 

え、ちょっと待って。レムだけじゃなくシェラの方にもなんかあるの?

 

『はっ!?思い出した!!』

 

『な、何かわかったんですか!?』

 

ディアヴロくんが何か思い出したようだ。絶対にろくなことじゃないだろこれは・・・・・・

 

『グリーンウッド、どこかで聞いたと思ったらエルフの国家がある森の名称だ!そして、この世界においてグリーンウッドはエルフの王族の姓でもある!』

 

ちょっとまてぇ!?せいぜいどこかのやんごとなき家柄のお嬢様とかその辺だろうと思ったらとんでもない爆弾が出てきやがった!?

 

『ちょ!?ということはシェラさんってお姫様って事ですか!?』

 

『国際問題ってレベルじゃねぇぞ!?と、とりあえず人目から外れるぞ!』

 

ふと、レムとシェラを見ると周囲の会話が聞こえてたのだろう。頬を真っ赤に染めて恥ずかしそうにしている。

うん、気づくの遅れてすまんかった

 

「おい、貴様ら。いつまで立ち止まっている。宿に行きたいのであろう?」

 

ディアヴロがそう促すと、二人はそれについていく。周囲の通行人もディアヴロ(ていうか俺たち三人)を恐れて道を開けていく

 

ホント、ディアヴロくんの胆力がうらやましく思えるな

 

 

 

◆◇◆

 

【とある三大魔王の思考会議その2】

 

『ディアヴロくん、重要なところで受け答えする時は一声かけるように』

 

『(´・ω・`)』

 

 

 

 




うん、はっちゃけすぎてしまった。反省はしている。

リムル様は時折抜けてる時があるので今回もその癖が出てしまったようです


2017/05/03 追記
転スラの原作や書籍を読み返して、いろいろと考えた結果≪思念伝達≫と≪思考加速≫を別物扱いにする事にしました。読んでくださった方には申し訳ありませんが、ご容赦願います

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