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時は少し遡り・・・・・・
【side:モモンガ】
俺とディアヴロさんは己の実力がどれ程のものか把握するため、レムさん達をリムルさんに任せて星降りの塔降りる。石造りの階段を下りて外へ出ると、西側にはうっそうと生い茂る森が、東側にはどこまでも続く草原が広がっていた。
俺がいた
その自然が、今目の前に広がっている。誰の手も加わってない、ありのままの自然がそこにある。かつてのギルドメンバーの一人はこのありのままの自然に思いをはせて、拠点内の内装にこだわったものだ
「(ブループラネットさんが見たら、きっと大喜びするだろうな)」
塔の上からも感じていた日差しの暖かさ、肌をなでるようにこそばゆい風の心地よさ、そしてその風に乗って香る木々のにおい、どれも仮想世界では再現できないような質感に、この目の前の光景が”ゲーム”なんかじゃなく”現実”である事を改めて実感させられる
「ふむ、風景は俺の記憶通りのようだな・・・・・・モンスターも周囲にいないようだし、さっそく試すとしよう」
「……っと、そうですね。そういえば、ディアヴロさんのレベルって≪クロスレヴェリ≫ではいくつだったんですか?」
「うむ、≪クロスレヴェリ≫では最大レベル150まで上がり、俺のレベルもその域まで達している」
なんと、≪ユグドラシル≫よりも高いな・・・・・・これは思ってたよりも強さに差がありそうだな
「≪ユグドラシル≫では最大レベル100だったんですが、この様子だと俺の強さもそこまで高くなさそうですね・・・・・・」
「それは少し早計かもしれんぞ?そもそも仕様が違うのだ。≪クロスレヴェリ≫の最大レベルが高いからと言って、≪ユグドラシル≫がそれより弱いとも限らん」
なるほど、それは一理あるかもしれない。レベルとプレイヤースキルがかみ合ってないなんてよく見る光景だ。もしかしたら≪ユグドラシル≫のレベル100=≪クロスレヴェリ≫のレベル150なんてこともあり得るのか
「ふむ・・・・・・これは慎重に検証しなければなりませんね」
「ああ、まずは適当な的で試すとしよう」
ディアヴロさんがそう言って、適当な大きさの岩の前に立って短杖を構えた。静かに岩を見据えて少し間を置いてから、魔法を唱える
「≪エクスプロージョン≫!!」
その言葉とともに目標となっていた岩が爆発を起こし、砕け散る。その際、砕けた破片がいくつかディアヴロに向かって散弾のように飛び散る。かなりの速度で飛んでいたため、当たればただでは済まないはずなのだが、そこはレベル150の上位プレイヤー。装備の防御力もあるのだろうが、当たっても微動だにせず何事もないかのように無傷だ
「ふむ、こんなものか」
「流石ですね。≪ユグドラシル≫にも同じような名前の魔法がありますが、これはどのくらいの強さの魔法なんですか?」
「うむ、大体レベル50程で覚えるものだ。≪ユグドラシル≫での魔法の強さはどうなっている?」
「≪ユグドラシル≫では位階と呼ばれるランク分けがされていて1から10まであります。更にその上に『超位魔法』と呼ばれる、魔法というよりスキルのような仕様のものがありますがこれは戦略級の威力がありますので今回は使いません」
≪ユグドラシル≫の魔法は超位魔法も含めて6000を超える数があり、通常のレベル100プレイヤーが使える魔法の数が300までとなっているため、しっかり方針を決めて取らないといわゆる”クソビルド”となって、弱いキャラとなってしまう。だが、俺は課金により使える魔法を増やしており、その数718。
先ほど、ディアヴロさんに魔法を使った時やシェラさんが受けた特殊能力≪
「あれと同じ名前の魔法が第8位階にありますので、一度やってみますね」
そう告げて、ディアヴロさんが的にした岩と大体同じ大きさのものを選び、召喚された時に一緒に持ってきてしまったギルド武器≪スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン≫を構えて魔法を唱える
「≪
唱えた瞬間、ディアヴロさんの《エクスプロージョン》と同じように岩が爆発し、砕け散る。見た目は同じように見えるが、何となく威力はディアヴロさんの方が大きかったような気がする。ギルド武器で多少ステータスにブーストがかかっているといっても、そこは彼とのステータスによる差なのだろう
「ほう、なかなかの威力だな。それにその杖もなかなかレア度が高そうな一品ではないか」
「フフフ、分かりますか?そう、これが我がギルド≪アインズ・ウール・ゴウン≫の象徴ともいえる至高の武器。七つの蛇が咥える宝石はいずれも
しまった。ギルメンの努力と熱意の結晶であるこのスタッフを褒められてつい語ってしまった。ディアヴロさんが少し苦笑いしてる
「う、うむ。≪ユグドラシル≫では自作で武器を作れるほどに自由度が高いようだな。この俺の装備もかなり希少なアイテムだが、その杖と比べると霞んで見えるな」
「ハハハ・・・・・・ありがとうございます。と、そうだ。ちょっと軽く模擬戦でもやってみませんか?」
俺は杖を掲げてある魔法を唱える
「≪
ギルド武器≪スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン≫にはめ込まれている宝石の一つ、神器級アーティファクト『月の宝玉』に込められた召喚魔法を発動する。空中からにじみ出るように三体のシベリアオオカミに酷似しているモンスターが現れた
「ほう、その杖には召喚獣が封印されているのか」
「ええ、他にもありますがまずは肩慣らしにどうですか?≪ユグドラシル≫のレベルで20ほどなので軽い運動には丁度いいと思います」
「うむ、この体でどれくらい動けるかも見ておきたかったからな。これならば丁度良い」
こうして模擬戦が始まったのであった。結果としては、流石上位プレイヤーと言ったところで、動きに無駄がなく、三体に襲い掛かられていたにも関わらず的確に避けてはカウンターで魔法を当てていた。レベル20じゃぁ相手にもならないな
「フッ、これくらいどうという事はない。もう少し骨のある相手はいないか?」
「ふむ・・・・・・この様子だと半端なのじゃ相手にもなりそうにないですね・・・・・・これなんてどうです?」
そして、スタッフに込められている魔法の一つを発動する
「≪
発動と同時に突きつけたスタッフの先から巨大な光球が生じ、それを中心に桁外れな炎の渦が巻き起こる。巻き起こった渦は加速度的に膨れ上がり、直径四メートル、高さ六メートルにまで大きくなる。やがて周囲の空気を食らい大きくなった炎の竜巻が融解した鉄のような輝きを放ちながら人の形をとる
「ほう?≪
「ええ、≪ユグドラシル≫基準でレベル80といったところです。やってみますか?」
「愚問だな。魔王に”逃走”の二文字はない!」
「いいでしょう、≪根源の火精霊≫よ!ディアヴロを攻撃せよ!!」
その命令を合図に模擬戦二戦目が開始された
――――――――――――――――――――で、今どうしているかと言うと
「で、何か言うことは?」
「「調子にのってやりすぎて申し訳ありませんでした」」
ハリセンを肩に担いだリムルさんの前にディアヴロと一緒に正座させられています
ていうかそのハリセンめちゃくちゃ痛いんですけど!?≪上位物理無効≫の
「全く、人の気配は今のところないからよかったものの、モモンガくんのその姿見られたらモンスターと間違われて襲われてた可能性もあったんだからな」
あ、そうか。今の俺は
「ねぇねぇ!?あの召喚獣ってモモンガが出したんだよね!?モモンガって召喚士だったの!?それにディアヴロの魔法もすごかった!」
「・・・・・・確かにディアヴロの使っていた元素魔術も気になります。私の知る限りでは元素魔術にあれほどの威力はなかったはずです」
「フッ、何を今更驚いている。我は魔王『ディアヴロ』だ「はいはい、そこ。まだ説教中だぞ」う、うむ」
二人から賞賛を受けてテンションが高くなったディアヴロさんだったがリムルさんに一喝されて黙る
二人の反応を見るに、この世界の
『それで、検証の結果はどうなったんだ?』
リムルさんが≪思念伝達≫を使って検証の結果を聞いてきた
『それなんですが、どうやら≪クロスレヴェリ≫の方が≪ユグドラシル≫よりも上限レベルが高いみたいです。向こうが上限レベル150に対してこちらが上限レベル100と数値による差が大きいですね』
『だが、お互いに似たような魔法を使った結果、威力にそこまで差はなかったように思える。数字で強さを測るのは早計かもしれんぞ』
『あー、それはあり得るかもな。やってたゲームがそもそも違うわけだし、そのあたりはまた検証しないとだめだな』
リムルさんも俺たちの意見に同意してくれている。この件に関してはもう少しデータを集めなければならない。いつか、俺たちよりも強いモンスターや人間、もしかしたら俺たちの他にもいるかもしれない≪クロスレヴェリ≫や≪ユグドラシル≫のプレイヤーに遭遇する可能性もあり得る。俺たちと同じように召喚されたプレイヤーがいるのかもしれないのだから
「そういえば、二人の首輪の方はどうなったんですか?」
「あーそれなんだけど、どうも普通じゃないかかり方をしたのが原因なのか解除するのが難しそうなんだ」
どうやら、そちらの方もかなり難儀な事になっているようだ。俺たちよりも魔法に詳しいであろうリムルさんがこうなのだからお手上げである
残りの検証はこれから進めていくとして、これからどうしたものか。一応、レムさんに『魔王≪クレブスクルム≫を打倒して欲しい』と頼まれた訳だが、はっきり言ってこちらにメリットと呼べるものが全くない。アバターの姿と能力を持ったまま召喚されたからといって、最強と言われる魔王と何の報酬もなしに挑めなど、虫がいいにもほどがある。
それに寝泊りするところもまだ見つけていない。このままでは野宿する事になるだろう。特殊技能によって睡眠や飲食の必要がない俺と違って、リムルさんやディアヴロさんはそうもいかない
そんな風に今後の事に頭を悩ませていると、シェラさんがこちらのローブの袖を引っ張っていた
「ねっねっ!早く街へ行って冒険者登録しようよ!二人がいればあたしもようやく憧れの召喚士として登録できるんだから!」
……未だに俺たちの事を召喚獣か何かだと思ってるのか、この子は・・・・・・ってちょっと待った
「シェラさん、街と言いましたがもしかして近い場所に街があるのですか?」
「うん、あるよ。ここから三時間くらい歩いたところに『ウルグ
ふむ、思ったよりも近くに街があったようでよかった。でも城砦かぁ・・・絶対この体見られたらひと悶着あるよなぁ。うーん、手持ちのアイテムに何かなかったかな・・・・・・
恐らく≪ユグドラシル≫のアイテムボックスも、魔法と同じように意識すれば使えると思い手を伸ばすと何もないはずの空間に伸ばした手がずぶずぶと沈んでいく。リムルさんやディアヴロさんが興味深く眺め、シェラさんとレムさんが驚愕に顔を染めている。そしてしばらく探っているとちょうどいいアイテムを探り当てた。
一つは≪イルアン・グライベル≫、ギルメンが遊びで作った装備で筋力が上昇するくらいしか効果のない無骨な小手だ。
そしてもう一つは・・・・・・頭をすっぽり覆う仮面で、まるで怒っているような、もしくは泣いているようにも見える形容しがたい表情をした、とある日にログインしたプレイヤーに問答無用で手に入ってしまうある意味呪いのマスク、≪嫉妬するものたちのマスク≫。通称≪嫉妬マスク≫を取り出した
「……そのマスクと小手は一体・・・・・・それに何もない空間に沈んだ手も気になります」
「これはアイテムボックスといって、まあ私にしか使えない倉庫のようなものと思ってください。この装備は私の顔と腕を隠すためのものです。見た目、モンスターですから不要な争いは避けませんと」
そういって取り出したアイテムを装備して、開いた胸元から見えている肋骨を隠す
「・・・・・・おっかないリッチから怪しい魔法使いにジョブチェンジしたな」
「リムルさん、そこは突っ込まないでください」
俺も思ったことですが言わないでください
「そういえばリムルちゃんも二人みたいにすごい魔法とか使えるの?」
「だからちゃんはやめろって!?まあできないこともないよ、うん」
そう言って、リムルさんは近くにあった適当な岩に向かって氷の槍を放った。放った槍は岩に深く突き刺さる。って、リムルさん詠唱してませんでしたけどまさか・・・・・・
「……うーん、二人に比べて地味かなぁ」
「……ちょっと待ってください。リムルさん、詠唱したようには見えませんでしけど今使ったのは魔法ではないのですか?」
「ああ、よく見てるな。今放ったのは御覧の通り魔法で、俺はそれを無詠唱で撃ったんだ」
「無詠唱・・・・・・!?そんなものがあるのですか」
やはり無詠唱化してたのか。≪ユグドラシル≫にも
「まあ聞きたい事は山ほどあるだろうけど、街が近くにあるなら日が暮れる前に宿取ろうぜ」
「うむ、俺も野宿はできることなら避けたい。そうと決まれば行くぞ」
ディアヴロさんが先頭に立って歩き出す。≪ユグドラシル≫とは違う異世界の街か・・・・・・一体どんなところなんだろうな
◆◇◆
【とある三大魔王の思念会議その1】
『実はこのマスク・・・・・・クリスマスイヴに≪ユグドラシル≫にログインしたプレイヤーに強制的に配布されるアイテムでして・・・・・・』
『『クリスマス・・・・・・あっ』』
『『『・・・・・・・・・・・・(´;ω;`)ブワッ』』』
この時、三人の絆が少し深まったそうな
うん、筆が進みすぎて怖い(gkbr
やっと星降りの塔からファルトラまでの流れまでいけた・・・おそらく読んでる方が期待しているであろうあの場面までもう少しです
最後のミニコーナーは毎回やっていこうかなって思ってます
2017/05/03 追記
転スラの原作や書籍を読み返して、いろいろと考えた結果≪思念伝達≫と≪思考加速≫を別物扱いにする事にしました。読んでくださった方には申し訳ありませんが、ご容赦願います