三魔王異世界珍道中   作:ヤマネコクロト

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冒険者登録をしようと書類を書いてもらう魔王一行だが血判という難関が立ちはだかる。果たして彼らはどう切り抜けるのか・・・・・・!?


一難さってまた一難

◆◇◆

 

【side:リムル】

 

受付の青い子の注意に俺とアインズは戦慄してしまう。何がやばいって登録に血判が必要だということだ。そう、『血』が必要なのだ。俺はまだいい。スキルで血液もどきなんて簡単にできる。だが、アインズは別なのだ

 

アインズの見た目はまんまスケルトンなので、当然血液なんてある訳もない。加えて、彼に贈与した≪人体構成(アコガレルスガタ)≫は魔素を変換して、人体のあらゆる器官を構成するスキルだ。無論、構成した器官が作り出す体液、例えば胃液などを生産することも可能だ。しかし、これには唯一欠点がある。魔素で構成した物質が本体から離れると、魔素に戻って空気中に霧散してしまうのだ。もちろん、布なんかに染みついた”血液”も何もついてないかのように綺麗さっぱり消えてしまう

 

その事はアインズはもちろん、ディアヴロにもしっかり説明してある

 

『リ、リムルさん。確か俺にくれたスキルって血液は生成できても、身体から離れたら消えるんですよね・・・・・・?』

 

『ああ。血液に関しては、俺が”もどき”を作れるからそれで何とか誤魔化せる。問題なのは・・・・・・』

 

俺はちらっと、登録用紙に書き込んでいるシェラについている受付の青い子に視線を移す

 

『第三者に秘密がばれる事なんだよな・・・・・・』

 

ただでさえ魔族の領域が近いのに、アインズの正体がアンデットなんてバレた日にはもうお察しの展開が待ち構えている。そんな展開は俺とアインズはもちろん、ディアヴロもまっぴらごめんである

 

『リムルよ。血液の紛い物は作れるのだな?』

 

『ああ。だが、俺よりも問題はアインズくんの方だ。スキルで血液は生成できても身体から離れたら魔素に戻って霧散してしまう』

 

『そうなると、誰にも見られずに尚且つ迅速にリムルの”もどき”をアインズの血判に使わねばならぬのか・・・・・・他の受付の目もある以上、時間を止めでもしない限り難しいぞ』

 

『時間を止め・・・・・・あ!そうだ、その手があった!』

 

お、アインズくんが何か秘策を思いついたようだ。俺達はそのまま、≪思念伝達≫で打ち合わせを行い目の前の苦難に挑んでいく

 

 

◇◆◇

 

【side:アインズ】

 

俺達は思考会議を終え、リムルさんに”とある”装備を渡した後は来るべき時を待つ。シェラさんが必要事項を記入し、青い子に確認してもらう

 

「はーい。えっと・・・・・・シェラ・L・グリーンウッド・・・・・・出身は、グリーンウッド王国・・・・・・」

 

青い子が妙な顔をする。そりゃあ王族の姓を見れば誰だってそうなるよなぁ

確認が終わると、今度は職業適性の希望を聞かれる。≪戦士≫、≪射手≫、≪魔術師≫の三つの中から選ぶらしい。無論、全部受けても構わないそうだ。シェラさんは当然、召喚士が分類されている≪魔術師≫を選択する。契約書の説明事項も渡され、確認が終わると署名のサインと血判を押した

 

「後は適性検査だけだねー。レム!絶対あんたより上のレベルになって見せるからね!」

 

「……無理に決まってます」

 

「あ、親指の傷を治して頂戴!なんか治癒系の召喚獣とかいるでしょ?」

 

「……唾でもつけておきなさい」

 

「ひどいよ!?」

 

「それくらいの傷なら、私が治癒のポーションを出しますよ。私自身、あまり使ってませんでしたし」

 

丁度、下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)が余っていたので(アンデットだから逆にダメージを受ける故)、赤い色のポーションを取り出す。星降りの塔での二人の反応から、青い子に見せるのはまずいと判断し、虚空からアイテムが出ているところを見られないように、袖の下から取り出す演技もいれる。

 

しかし

 

「ほんと!?ありがとう、アインズ・・・・・・って、そのポーション赤いね。確か治癒のポーションって緑色だった気がするんだけど」

 

「えっ!?あ、これは私の国で作られているポーションなんで、多分材料の違いか何かなんでしょう」

 

『迂闊だぞ、アインズくん!?』

 

『す、すみません!?』

 

う、迂闊だった・・・・・・そりゃゲームが違えばアイテムの外見も違う可能性くらいあるよ。なんで気づかなかった俺!?

ま、まあポーションを少量傷につけたら瞬く間に傷がふさがったから良しとしよう

 

「それじゃあ、三人の分も書いてくね!誰から書くの?」

 

「俺から先に書いてもらおう」

 

「うん!えっと・・・・・・名前は、ディアヴロ・・・・・・で、苗字は?」

 

「そんなものはない。俺は・・・・・・唯一絶対の存在だ。それとも、苗字がなければならんのか?」

 

「い、いえ!その・・・・・・混魔族(ディーマン)の方は、お辛いことも多いですしね・・・・・・あ、あの!出身国も、空欄で構いませんので!」

 

ディアヴロさんの質問に何か勘違いをしたようだ。青い子の視線が憐れんでいるような気がする

 

『出身国・・・・・・俺の場合は≪ユグドラシル≫にした方がいいんでしょうか?』

 

『いや、下手に答えて探られても面倒だろ。ディアヴロくんみたいに空欄で行こう』

 

そして、ディアヴロさんの適正検査は当然≪魔術師≫を選択する。記入し終わると、シェラさんがどいてディアヴロさんに羽ペンを渡す

 

「はい、後はサインと血判ね!」

 

「うむ」

 

ディアヴロさんはサインを書こうとしたが、先に契約の説明事項を青い子に読み上げさせた。俺も利用規約とか真剣に読むタイプではないが、ちゃんと確認しないと後で痛い目を見そうだ。しっかり聞いておかないと

 

聞いていくと、死亡や怪我に一切の責任を負わないとか、冒険者協会の規則よりも国の法律や街の条例が優先だとか、理不尽な内容はなかったので一応は大丈夫だろう。近いうちにこの国の法律も調べておかないとな

 

ディアヴロさんも納得したようで、サラサラと筆記体で自分のサインを書いていく

 

『・・・・・・結構すんなりかけるんですね。練習してたり?』

 

『アインズくん、きっと黒歴史だ。それ以上聞いてはいけない』

 

『お前も一言多いぞ』

 

サインが書き終わると、ディアヴロは血判用のナイフに手をかける。そして目を瞑った後、勢いよくナイフで親指を切った。深く切ったようで、血がドバドバと流れ出ている。ていうか切りすぎ!?

 

『結構痛い!?切りすぎたか!?』

 

『ちょ!?大丈夫ですか!?』

 

レムさん達も目を白黒させている。しかし、こんな事態など些細だと言わんばかりにディアヴロさんはすました顔でサインの横に親指を押し当てる。血判というより血染めだな・・・・・・

 

「大丈夫ですか?」

 

「うむ、問題はない。傷の方もすでに塞がっている」

 

心配して再びポーションを取り出すが、ディアヴロさんの傷は確かに塞がっていた。恐らく、装備のいずれかに自動回復系のスキルがついていたのだろう。あの程度の傷ならあっという間に治癒できるようだ

 

「これでいいのか?」

 

「……は、はい・・・・・・問題ありません・・・・・・たぶん」

 

青い子が顔を青くしながら登録用紙を確認する。用紙のほとんどが血で染まっているが、本当に大丈夫なんだろうか・・・・・・

 

「えっと・・・・・次は誰がする?」

 

「次は俺のを頼むよ」

 

リムルさんが手を上げる。俺からでもよかったのだが、リムルさんの血液もどきを青い子が見破れるか試そうということになったのでこの順番となった。万が一、血液もどきに違和感を覚えて魔法薬か何かで調べられたらそれこそ言い訳できない事態に陥る可能性が高い(なお、リムルさんは血液もどきの精度にものすごい自信があるみたいだが)

 

シェラさんが書類を書いていく。ちなみに、リムルさんも≪魔術師≫の適性検査を受けるようだ。その方が時間を取られずに済むとかなんとか。リムルさんも何だかんだでクエスト受けたかったみたいだ

 

そして、最後のサインも書き終わり血判用のナイフで親指を軽く切って、そこから玉のように出た血液もどきをサインの隣に押し当てた。リムルさんのサインは向こうの言語なのか見たことのない文字だった

 

「……はい、リムルさんの書類も問題ありませんね」

 

青い子が特に違和感を覚える様子もなく、書類に不備がないことを確認する。どうやらリムルさんの血液もどきは完璧だったようだ。これで何の憂いもなく”あの”作戦を決行できる

 

とうとう、問題の俺の番となった。恐らく、このギルドの中では対策なんてしてないだろうけど失敗は許されない

再び、シェラさんに代筆を頼んで書き込んでいってもらう

 

「うん・・・・・・アインズ・ウール・ゴウン、と。出身は?」

 

「私もそこは空欄でいいでしょうか?何分流浪の身で、できる事なら故郷について触れてほしくはないのですが」

 

「は、はい、わかりました。貴方も苦労されているんですね・・・・・・」

 

「ハハハ・・・・・・そんなところです。適正検査は私も≪魔術師≫でお願いします」

 

「……と、書き終わったよ。はい、あとは血判とサインね」

 

シェラさんから羽ペンを受け取り、サインしていく。ディアヴロさんのように筆記体はかけないことはないが、同じというのも味気ないな・・・・・・仕方ない、封印していた”アレ”を解くか

 

『ほー、アインズくんも書けるもんだな・・・・・・んん?これ、英語じゃないな・・・・・・・もしかしてドイツ語?』

 

『……アインズ、貴様も同志だったか』

 

『やめて!?それ以上言わないで!?』

 

だってかっこいいじゃんドイツ軍の軍服とか!覚悟してたとはいえ、これはきつい・・・・・・そういえばナザリックの宝物庫にも黒歴史置いてきたんだよなぁ。今更ではあるが、なんであんな設定にしたんだろうな、俺

 

サインを書き終わり、ついに血判の時が来た

 

『リムルさん、”あれ”はちゃんとつけてますね?』

 

『大丈夫だ、いつでも来い』

 

≪思念伝達≫で確認し、手甲を外して≪人体構成(アコガレルスガタ)≫で構成した腕をさらす。ナイフで指を傷つけ、血が玉のようになったのを確認してからサインの隣に指を当てる。それと同時に魔法を発動させる

 

「≪時間停止(タイム・ストップ)≫」

 

ぼそりと魔法を詠唱した瞬間、俺ともう一人、リムルさん以外の時間が止まる。第10位階に属するこの魔法は自分以外の時間を停止させ、その中を自由に動けるというなんともチート染みた効果で、停止中相手はこちらを認識する事は出来ないが、こちらも相手に攻撃を加えたりはできない。≪ユグドラシル≫ではレベル70でこの対策が必須と言える程に重要な魔法だ。

 

そして、リムルさんにあらかじめ渡しておいたのがその対策を施している指輪だ。ディアヴロさんも停止した時間を体験したかったようだが、あいにく時間停止対策をしている装備はそれだけなのだから仕方がない

 

「まさか『ザ・ワー〇ド』を使える者がいるとはな・・・・・・」

 

「≪ユグドラシル≫だと対策必須なんですけどね。それより効果時間は長いですがあまり悠長にもしてられません。リムルさん、お願いします」

 

リムルさんが頷くと、親指の腹の上に赤い液体がにじみ出てくる。そして、それを俺のサインの隣に押し当ててもらった。よし、これで血判の偽装は完了した。DNA鑑定なんて時代風景的になさそうだし大丈夫だろう。何、バレなきゃ犯罪じゃない!

 

時間が動き出した時に違和感を持たれないよう、サインの隣に指を押し付けた状態に戻る。魔法の効果が切れ、時間が動き出したのを確認して指を離す。青い子も不信に思うことなく、不備がないことを確認する。

 

……一先ず危機は脱したか

 

「へー・・・三人とも使ってる文字が全然違うんだね」

 

「まあ、それぞれ別世界から呼ばれたみたいだし、そういうこともあるさ(出身自体は同じなんだけどな)」

 

「それでは、魔術師だけのようですので、こちらで適正検査とレベル判定を行いますね」

 

青い子の確認も終わり、続いて魔術師の適性検査に移る。青い子の案内で、カウンターの横にある大きな鏡の前に連れてこられた。黄金で縁取りされた宝飾品のような姿見だが、表面が磨かれていないのか曇っており、顔はおろか姿すら映っていない

 

「この鏡で判定するのか?」

 

「は、はい。こちらの鏡に指先でいいので触れて、魔力を強く淀みなく流す事で曇っている鏡面が晴れて、姿が映るようになります」

 

「……実際に見た方が早いです。私が手本を見せます」

 

レムさんが鏡の前に立ち、手を伸ばして指先で触れる。ぼう、と表面が光ると鏡面の曇りが晴れて、レムさんの姿が上半身だけ映る

 

「流石です、レムさん。間違いなく、レベル40以上!前よりも魔力が強くなってますね!」

 

「へー、そうやって測るのか」

 

『何か計測器を使うのかと思いましたが・・・・・・あの範囲まで映ってレベル40以上か』

 

『全身しっかり映ってレベル100、と言ったところか?しかし、それ以上のレベルはどうなるのだ?』

 

ディアヴロさんの疑問も尤もだが、エミールがレベル50で一番強い冒険者なのだから、レベル100以上なんて想像の埒外の存在だろうな。それを測る基準はおそらくないと思う

 

レムさんのやり方を見て、シェラさんが適正検査を行う。鏡に魔力を流すと、胸元まで姿が映った。睫毛も数えられるほど綺麗に映っており、青い子からレベル30の判定をもらう

 

「30!?そんなぁ・・・・・・」

 

「いやいや、初めて検査受けてレベル30なら中々だと思うぞ?」

 

「ええ。それに、レムさんだって初めからレベル40という訳でもなかったはずです。そこに至るまでに積み重ねてきた努力があってこその、あのレベルなのですからシェラさんも頑張ればきっとたどり着けますよ」

 

「だよね!レム、いつか追い抜いて見せるからね!」

 

「……ありえません、私を越えようなどと・・・・・・あなたは一生、わたしを見上げ続けるのです」

 

シェラさんの挑戦に、レムさんが薄い胸を張って応える。流石に、成り立ての新人に負けるわけにはいかないよな。だが、顔には出さずそっと安堵の吐息をついてるあたり、内心ひやひやしてたようだ

 

「それでは、次は誰からにしますか?」

 

「サインの順番でいいんじゃないか?」

 

「ならば、俺か。特に異論もないから構わんぞ」

 

「私も構いませんよ」

 

青い子に促され、ディアヴロさんから検査を始める。レベル150だとどうなるか・・・・・・

 

ディアヴロさんが鏡に触れる。しかし、レムさん達のように姿が映るのではなく、どろりと黒い何かが鏡面を染め上げる。さながら、奈落の底へと続くかのように真っ暗で何も映らず、おまけに黒いオーラが漏れ空気中へその版図を広げている

 

レムさんも予想外の事態に驚き、シェラさんや青い子はおろか、カウンターにいた他の受付の子もこの事態に悲鳴をあげる。流石にまずいと思ったか、ディアヴロさんが鏡から手を離すと、途端に黒いオーラは消えて鏡が元通りになった

 

『……被告人、言い訳があるなら聞こうか?』

 

『ま、待て!?ただ触れただけで、何もしとらんぞ!?』

 

『触れただけであの反応ですか……この鏡ってそこまで判定できる範囲が広くないのかな?今度は俺がやってみますね』

 

今度は俺が鏡に触れる。案の定、ディアヴロさんと同じ現象が起きて、流石に二回目ともなると悲鳴は上がらなかったが、受付の子達が怯えている。確認は取れたので、すぐに手を引っ込める

 

「えっと、この場合どういった判定になるんでしょうか?」

 

「……え、えっと、えっと・・・・・・・こんなの、初めてで・・・うぅ~?」

 

「今の波動、何!?」

 

青い子が予想外の事態におろおろしていると、カウンター奥の扉から少女が飛び出してきた。ウサギのような耳としっぽを生やした、ディアヴロさんの話では確か『グラスウォーカー』という種族だったか。やたら布の少ない恰好をしており、胸に布を巻いているだけで肩やへそが露出している。腰にはスカートとすら呼べない薄布を前後に垂らしているだけで、肉付きの薄い脚の大部分が露わになっているという、≪ユグドラシル≫でそんな恰好をしたら間違いなく運営からレッドカードをもらいそうな恰好だ。子供の外見らしい、いたいけな大きな赤い瞳がこちらを捉える

 

「ギ、ギルマス!え、えっと、この方達のレベルを判定していたら、鏡が・・・・・・」

 

まさかのギルドマスターだった。グラスウォーカーという種族は何年経っても外見が変わらないらしいから、この子も見た目通りの年齢じゃないということなのか

 

ギルマスと呼ばれた少女が、鏡とこちらを交互に見やる

 

「こんにちわ。さっきのは貴方達が?」

 

「ええ、まあ。そのようですね」

 

「受付の子も予想外だったみたいだけど、この場合どうなるんだ?」

 

「その件も含めて、ちょっと奥でお話したいんだけど、いいかな?」

 

どうやら俺達の苦難はまだまだ続くようだ。冒険者登録するだけなのに前途多難すぎないか・・・・・・?

 

 

◆◇◆

 

【とある三大魔王の思考会議その9】

 

『それにしても、≪クロスレヴェリ≫のキャラクターはけしからんな。衣装とか身体のラインとか特に』

 

『リムルさん、もうそろそろファール取られますよ?』

 

『イリーガルユースオブハンズか』

 

『ちょっと待てぇ!?まだ触ってすらないだろ!?』

 

 

 

 




大分期間が空いてしまいましたが何とかかけた・・・・・・

書いている途中でなんかだめだなぁと思ったりして大分時間がかかってしまい申し訳ありませんでした。何とか週一で書けるよう頑張らせていただきます

追記:リムル様のスキルの読み込みが足りず、本人が時空間支配できることを失念しておりました(吐血)。一部加筆修正します。大変申し訳ありませんでした

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