鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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更新遅れてすいません。
全然進みません、すいません。

タイトルはギャラルホルンの事です。


鉄血編
#05 腐敗


CGS参番組…いや、鉄華団に敗北したクランク・ゼントは、その基地の食堂に連行されていた。

その腕は、後ろで縛られている。

 

そして彼の前には、鉄華団のアラズ・アフトル、三日月・オーガス、オルガ・イツカ、ビスケット・グリフォン、ユージン・セブンスタークなどがいる。

 

「そんじゃあオルガ団長、こちらの条件を提示してくれ」

 

鉄華団が勝利した場合の条件は、先程オルガ、ビスケット、アラズが話し合って決めた。

 

「ああ。こちらの条件は…」

 

1つ、クランクのグレイズは鉄華団が回収する。

2つ、クランクはギャラルホルン火星支部第三地上基地に戻る。

3つ、クランクは監査局に火星支部の腐敗状況を、火星支部司令官に知られないよう通達する。

4つ、鉄華団基地には二度と強襲しない。

 

「以上だ。質問は?」

「…どうやって、基地に戻れと?」

「あ、バギーを貸します。砂漠も強行突破出来る四輪駆動の奴を」

 

基地までの距離は鉄華団に分からないが、モビルワーカーで来れると言う事はそこまで離れていないだろう。

 

「何故、私を殺さないのだ?」

「アンタは、本気でコイツらと戦いたくないんだろう?」

 

アラズは、そう即答した。

クランクは一瞬目を見開いたが、すぐに口角を緩める。

 

「…ありがとう」

 

 

 

 

その夜。

バギーに乗り込むと、クランクはアラズを見る。

 

「ん?」

「…君は、何者だ?」

 

その質問に、アラズは少し考えて答えた。

 

「コイツらと同じさ。昔『阿頼耶織』の手術を受けて、MSに乗って戦った。コイツらくらいの時には、戦う事しか知らなかった。今もそう変わらない。違う所と言えば、政治や駆け引きを知っているか否か」

 

それらを知っていれば、クーデリア・藍那・バーンスタインの影響力やギャラルホルンの現状も理解出来る。

だからこそ、アラズは彼女を止めたのだ。

 

「アンタみたいな大人がCGSに1人でもいれば、コイツらはこうならずに済んでいたかも知れん。アンタの思いは、これからの時代に必要だ。--だが、アンタが大変なのはこれからだぞ」

「分かっている。まずは、監査局への密告…やり遂げて見せよう」

 

クランクの返事を聞いて、アラズはクランクに背を向ける。

 

「ああ、クランク二尉…だったか? 1つ、良い事を教えてやる。今、監査局の人間が火星支部の監査に来ている。密告は、そいつらにすると良いぞ」

「…本当か!?」

「本当だ。代表はマクギリス・ファリド特務三佐とガエリオ・ボードウィン特務三佐だったか。彼らならば、アンタの意見を受けて即動きだせるだろう」

 

それを聞いて、クランクは腑に落ちた。

コーラルが何故、クーデリア・藍那・バーンスタインの抹殺を焦っていたか。

それの理由を「監査局が来るから」と考えれば、合点が行く。

 

だが。

 

 

「何故、それを知っている?」

 

 

下っ端とは言えギャラルホルンの一員であるクランクが知らない事を、彼は知っていた。

それは一体、どう言う事なのか。

 

「生憎、そこまで教える義理は無い。だが急げよ、司令官が何をして来るか分からんからな」

「…ああ」

 

そして、クランクはバギーで走り出す。

バギーが去った後、その場にはアラズのみが残された。

 

 

「組織内の情報共有すらままならないとは……そこまで堕ちたか、ギャラルホルン」

 

 

アラズは誰にも聞こえない程の小声でそう呟き、屋内に戻って行った。

 

 

 

 

翌日。

クーデリア・藍那・バーンスタインとその従者フミタン・アドモスを団長室に迎え、オルガとビスケットにユージン、そしてアラズとトドが揃って地球に行くルートの説明を行っていた。

 

方法はそう難しくない。

まず火星の低軌道ステーションまで上がり、案内役の船を待つ。

その後、静止軌道上で鉄華団の船に乗り換えて地球に向かう。

 

これだけだ。

だが、これが鉄華団に取っては難しい。

 

通常の地球への航路は、全てギャラルホルンの管理下に置かれている。

今回のメンバーの1人は、そのギャラルホルンに狙われているクーデリア。

故に、通常の合法的な方法で地球に行く事は不可能なのだ。

 

それら全てに引っ掛からない為には、所謂裏ルートを行く必要がある。

しかしその航路は複雑で、かつ鉄華団は地球への旅は初めてだ。

地球への旅に限るならアラズとトド、雪之丞が経験しているのだが、それも通常ルートでしか行った事が無い。

 

更に、この裏ルートには民間業者間の縄張りが存在している。

 

「案内役なら、安心と実績のオルクス商会をお勧めするぜ。会長のオルクスさんとは昔馴染みでな、俺はいつでも連絡取れるぜ」

 

と、トドは(のたま)う。

 

「なあオルガ、こんな奴本当に信用すんのか?」

「あっ、酷いな君! 仲間だろ、な・か・ま!」

 

ユージンのもっともな疑惑に、白々しく返すトド。

その時、アラズはこう思っていた。

 

(裏切るだろうな、コイツ。まあ、ここはあえて静観しよう。トドのコネは恐ろしいが、結果オーライになるなら良い)

「な~に、下手打ちゃどうなるか…嫌ってほど分かってるだろうさ。なあ、トド」

「うっ…お、おっしゃるとおりですよ団長さん」

 

ゴマすりのポーズを取り、冷や汗を流しながら白々しく返すトドだった。

 

「船は、在るのですね?」

 

と、フミタンの質問。

それに、ビスケットが返す。

 

「はい、方舟にCGSの船『ウィル・オー・ザ・ウィスプ』が在ります」

 

方舟とは、民間共同宇宙港の愛称のようなモノだ。

 

ただ、この船を使う為には、正式に鉄華団所属のモノにしなければならない。

 

「よし、ここからが本番だな」

「鉄華団の初仕事だもんね、気合入れて行こう」

 

方針はまとまった。

その陰であくどい笑みを浮かべるトドがいて、それを冷たい目で睨むアラズがいなければ、もっと気合が入っただろうが。

 

 

 

 

火星の静止軌道基地「アーレス」にある、ギャラルホルン火星支部の本部基地。

そこでは、監査局から派遣されたマクギリス・ファリド特務三佐とガエリオ・ボードウィン特務三佐が午前のティータイムを迎えていた。

 

彼らは雑談しながら、優雅に紅茶を飲んでいる。

 

「部下達が皆、死にそうな顔をしていたぞ。お前のペースで働かされては、体がもたないだろう。優秀過ぎる上官を持つと、苦労するからな」

「そうか、気をつけよう」

 

そうは言うが、本当に改善する気が有るかは不明である。

 

「時間稼ぎのつもりだったんだろうが…コーラルの奴、驚くだろうな」

「ああ」

「朝からご苦労だな。ファリド特務三佐、ボードウィン特務三佐」

 

噂をすれば何とやら。

火星支部司令官、コーラル・コンラッドが現れた。

 

彼は白々しく、監査について聞くが。

 

「作業の方はどうかね? いや~すまんね、こちらの不手際でデータの整理がまるで間に合わず。あれでは、目を通すのも一苦労だろう?」

「いえ。お預かりしていた資料の精査は、ほぼ終了しました」

 

マクギリスは、そう即答する。

 

監査局、有能。

腐敗仕切った現在のギャラルホルンで唯一、上層部が腐っていないのが監査局なのである。

 

まあ、実際に監査をする者達は賄賂を受け取っていたりするのだが。

 

「監査の結果も、もうじきご報告できるでしょう。ところで、一個中隊が出動したまま帰投していないようなのですが」

 

出動したまま戻らない一個中隊。

言わずもがな、CGSを襲撃した部隊である。

 

「ああ~それは、暴動の鎮圧に出ていてな」

「暴動? 火星で活発化している独立運動の事ですか?」

「所詮は、市民のガス抜きにすぎんがね。この所、多くて難儀しているよ」

 

一滴の冷や汗を流しながらも、悟られぬべくそれらしく報告するコーラル。

 

独立運動による暴動は確かに活発化しているが、その全てはMWによって鎮圧されている。

所詮は武器を持たない一般人なのだから、MSを出す必要性は薄い。

加えて、一個中隊が帰投出来ない程独立運動が活発な訳では無い。

 

言い訳としては、少々厳しいだろう。

 

「地球でも噂は聞いていましたが、鎮圧に中隊規模の戦力が必要とは…ご苦労、お察し致します」

 

見透かしたかのような白々しさで、マクギリスはコーラルを労う。

実際、見透かしているが。

 

「あ…ああ。では、執務があるのでこれで失礼させて貰う。ところで、何か不便はないかな? 滞在中入り用なものがあれば、まあ些少だが何かの足しにでも…」

「それを出されれば、貴方を拘束しなければならなくなります。ご自重を」

 

賄賂の要請は、あっさりとはねのけられた。

失意のまま、コーラルは部屋を後にする。

 

「…どうやら、腐敗は本当のようだ。第三地上基地からの密告は正しかったな」

「ああ。今度の火星支部再編時の幹部には、クランク・ゼントを推薦してみようか。階級に関しては、二階級特進も有り得てしまうが」

 

彼の階級は、現在三尉。

最低でも一尉くらいまで押し上げねばならないが、そうするとかなりの大問題になる。

 

戦死でも無いのに二階級特進するのは、今までに無い例だからだ。

 

「何、功績は大きいから問題は無いだろう。監査局としては、監査の結果を裏付けする克明な証言となる。これで心置き無く、コーラルを追放出来る。それに、この前例によってギャラルホルンの腐敗が改善されるかも知れない」

「そうだな。さすれば、アグニカ・カイエルがいた頃の正しきギャラルホルンに戻るかも知れん」

 

子供のように目を輝かせて、マクギリスはそう宣言する。

 

「……お前、本当にアグニカ・カイエルが好きだよな。あの『アグニカ叙事詩』、何回読んだんだ?」

「フッ。3桁を越えた辺りで、数えるのを止めてしまったよ」

「うわッ」

 

そして、2人は紅茶の香りを楽しみながら仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

「オルクスに連絡入れたぜ。地球までの案内、請け負ってくれるとよ」

 

トドが、オルガ団長にそう報告する。

 

「手数料は?」

「報酬の45%」

「クソだな」

 

一瞬で判断するアラズ。

だが、実際クソなので仕方が無い。

 

いくら裏ルートとは言え、45%は高すぎるだろう。

 

「気に入らねえってんなら、テメェでナシつけな」

「ああ、気に入らないね。だがまあ……背に腹は変えられない時も有るからな」

 

そして、オルガ達は地球行きのメンバー選定を始める。

それと同時に、アラズは立ち上がる。

 

「? 旦那、どちらへ?」

「いや、ここからは俺がいなくても大丈夫かなと。ちょっと農場を手伝って来る」

 

アラズは掛けてあったコートを羽織り、団長室を後にした。

 

 

 

 

火星に降りたマクギリスとガエリオは、とある所で車を止める。

車を降りると、マクギリスは双眼鏡を取り出した。

 

「まさに不毛の大地だな。しかし、何故こんな所に?」

「クーデリア・藍那・バーンスタインが、行方をくらましている」

 

ガエリオの問いに、マクギリスはそう返答した。

 

「クーデリア? 資料に有った、『ノアキスの七月会議』のか?」

「ああ。実は地球を出る際、彼女がアーブラウ政府と独自に交渉しているとの情報を耳にした」

「何だと? まさかそんな、圏外圏の人間が地球経済圏の1つと直接交渉を持つ事などあるはずが…」

 

ガエリオは、そう言って頭を振る。

 

厄祭戦終結後、ギャラルホルンの提案の下で地球の国家群は統合された。

そうして出来た4つの経済圏に、現在の地球は分割統治されている。

 

ロシアやカナダ、アラスカ地域を中心とする「アーブラウ」。

アメリカとラテンアメリカ地域を中心とする「STRATEGIC ALLIANCE UNION」…通称「SAU」。

ヨーロッパとアフリカ、中東や中央アジア地域を中心とする「アフリカンユニオン」。

日本や中国、インド、東南アジア、オセアニア地域を中心とする「オセアニア連邦」。

 

この4つの経済圏は、300年の間紛争を繰り返している。

 

「ここで数日前戦闘が行われた、と言う情報が有ってな。そしてその前日、クーデリアの父ノーマン・バーンスタインはコーラルの下を訪れている」

「コーラルが彼女を狙った、って事か。そうか、あの行方不明の一個中隊はここで…」

 

ガエリオの考察に、マクギリスは無言で頷く。

 

「彼女の身柄が拘束出来れば、統制局の覚えもめでたいだろうからな。我々の監査など、どうと言う事も無い程にな」

 

マクギリスは双眼鏡をしまい、2人はまた車に乗り込む。

車を出し、火星の大地を走る。

 

「調査なんか止めて、さっさとコーラルを尋問してみれば良いんじゃないか?」

「どうせ、シラを切られるだけさ。密告だけで無く、もう1つくらい確かな証拠を掴まないとな」

 

正式な通達ではない以上、裏付けとするには後1つ足りない。

その抜け道が有る以上、コーラルがしらばっくれるのも目に見えている。

 

「ところで、今夜妹に連絡をするんだが一緒にどうだ?」

「アルミリアに?」

「お前に会えないと、うるさくて仕方なくてな」

 

アルミリア・ボードウィン。

ガエリオ・ボードウィンの妹である。

 

「しかし、親同士が決めたとは言え許嫁が9つとはな…全く、お前にも苦労をかけるな」

「構わないさ、旧友の妹だ」

 

マクギリスとアルミリアは、婚姻関係にある。

俗に言う、政略結婚と言う奴だが。

 

「ありがとう。だが、無理はするなよ」

「無理なんてしてないさ。お気遣い感謝するよ、お義兄様」

「頼むから止めてくれ、落ち着かない」




アラズさん関係の新情報↓
・ギャラルホルンの情勢に詳しい
・ギャラルホルンの腐敗を嘆いている

…そろそろバレそう(汗)

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