鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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明け(バエ)ましておめで(アグニ)とうございます。
本年は新作の投稿予定ですので、そちらもどうぞよろしくお願い致します。
新年早々に公式Twitterが新機体出して来やがった…

こちらはアグスヴァ年賀状。

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ついでに、前回さり気なく見せたデザイン例の答えを。
…分かるかこんなモン!

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さて。
これは本作のオリキャラであるディジェ・バクラザン、トリク・ファルク両名について掘り下げるコトを目的とした、番外編です。
何故こんなモノを書くのか、って?
オリキャラ、しかもセブンスターズの次期当主の二人なのに、本編で過去の掘り下げが一切無かったからです――何やってんだ(ミカ)ァァァ!!

なお、アグニカも鉄華団も出ない予定。
マジかよ…(絶望)

時間軸は本編一話(P.D.0313)と二話(P.D.0323)の間である為、1.5話と表記しています。
ローマ数字の所が、細かな話数を表します(次回は「#1.5-Ⅱ」)
本来なら一話で終わらせようと思ったんですけど、想定以上に長くなりそうだったので分割しました。


#1.5-Ⅰ ギャラルホルン

 P.D.0316年。厄祭戦の終結より、三百年以上が経過した時代。

 ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」内に設置された、セブンスターズ会議場には、厄祭戦時の七人の英雄――その末裔達が、顔を揃えていた。

 

「して――イシュー公。議題は何ですかな?」

 

 セブンスターズ第七席「ファルク家」の当主エレク・ファルクが、己が右側の席に座る細身の男に、そう問い掛けた。

 問われた者――今回のセブンスターズ会議を招集した、セブンスターズ第一席「イシュー家」の当主オルセー・イシューは、提示すべき議題を告げる。

 

「かねてより治安が悪化している、圏外圏への対応について――一度、セブンスターズの全てを以て協議すべき、と私が考えた故。突如の招集に応じて貰い、感謝致します」

「何、構わんよイシュー公。キミがこうしてセブンスターズを招集するなど、極めて稀じゃからな。

 それを無碍にするほどに非情な者は、少なくともこの場におるまいて」

 

 オルセーにそう返したのは、セブンスターズ第六席「バクラザン家」当主、ネモ・バクラザン。セブンスターズ当主の中でも、最高齢の人物だ。

 その言葉の次に、セブンスターズ第二席「ファリド家」当主兼ヴィーンゴールヴの最高司令官であるイズナリオ・ファリドが、オルセーの提示した議題について話し出す。

 

「イシュー公が懸念しておられる圏外圏の統括は、月外縁軌道統制統合艦隊『アリアンロッド』に一任されている。――クジャン公は、イシュー公の問題提起に対し、どのような意見をお持ちか?」

 

 イズナリオに話を振られたセブンスターズ第五席「クジャン家」の当主であり、現在の月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の最高司令官でもあるアビド・クジャンは、重々しく口を開いた。

 

「圏外圏全体の治安が悪化しているコトは、否定出来ない事実です。我ら月外縁軌道統制統合艦隊の管轄する領域は、月から火星までと、極めて広大。

 最重要たるアリアドネの管理は、名家であるザルムフォート家とも協力し、問題無く行われておりますが――ギャラルホルンに反感を抱く勢力の完全なる淘汰は、現状難しいと言わざるを得ません」

「加えて、ギャラルホルンの管轄下に無い航路の開拓が行われている、との報告も有る。それらはデブリ帯の中に存在しており、把握は愚か発見すら出来ていない」

 

 アビドの言葉に付け足したのは、セブンスターズ第四席「エリオン家」の当主にして、アリアンロッドの次期最高司令官だと目されるラスタル・エリオンである。当主になってからそれほど時間は経っていないが、既にその頭角を文武両面に於いて現しつつある。

 

「近年勢力を伸ばしつつ有る圏外圏の企業、テイワズの影響も有るのでしょうな。あの組織は、独自でモビルスーツの開発も行っている。闇航路の一つや二つ、保有していてもおかしくはない」

 

 そう推測するのは、セブンスターズ第三席「ボードウィン家」当主、ガルス・ボードウィン。その推測に、その場の全員が頷いた。

 だが、まだ明らかとなっていないコトが有る。

 

「しかし、イシュー公は何故、『圏外圏の治安が悪化している』と判断なされたのですか? この問題は現状、我がアリアンロッドの者にしか把握されていないハズです。私は次回の定期セブンスターズ会議で話そう、と思っていたのですが」

 

 これだ。アビド・クジャンの抱いた疑問は、場に集う全員がふと抱いたモノでもあった。

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊「グウィディオン」の最高司令官であり、地球衛星軌道上を周回する三基の衛星基地「グラズヘイム」の管轄を担当しているオルセー・イシューが、何故アリアンロッド内部でしか共有(リーク)されていない情報を手に入れているのか。

 グウィディオンによるアリアンロッドへの介入行為などが有れば、イシュー家の信頼は地に落ち、セブンスターズ内の権力が揺れ動く可能性が有る。

 

「貴方がたの思うような介入行為は、一切行っておりません。もっと単純な話です。

 先日、私はナディラ家の麾下に有る独立統制部隊『オレルス』の隊長である、ジジル・ジジンに会いました。彼はアリアンロッドへの出向から帰還した直後であり――そこで、圏外圏の治安が悪化しているのでは、との話を聞いたに過ぎません」

 

 ガンダム・グレモリーを保有するギャラルホルンの名家「ナディラ家」は、独自に統制部隊を編成、構築している。その練度はアリアンロッドに比肩するほど高く、その独立統制部隊「オレルス」の隊長がジジル・ジジン――代々ナディラ家に仕える「ジジン家」の当主にして、わずか二機しか現存しないヴァルキュリア・フレームの内の一機、オルトリンデを操るエースパイロットだ。

 

「ふむ――確かに先日、ナディラ家に属する独立統制部隊の出撃を要請したのは事実。ジジル・ジジン隊長が、その折に兵から噂を聞いていたとしてもおかしくはない、か」

 

 ラスタルの言葉に、オルセーが頷く。そして、続けて己が心境を吐露する。

 

「その通りです、エリオン公。ジジル・ジジン隊長の寡黙な性格は、彼と一度話せばお分かりになられるハズ。そんな彼が私にわざわざそのように話すので、圏外圏の治安悪化は深刻なのではないか、と心配になりまして」

「ほほほ、相変わらずの心配性じゃな」

 

 ネモ・バクラザンが、優しげに笑う。自らのバクラザン家が今回の議題に全く関わっていないとあって、随分と余裕たっぷりだ。

 

「とは言え、イシュー公のその性格こそが、現在の地球圏の平穏を守っているのも事実」

 

 バクラザン家と同じく文官である為に、今回の議題に関わりの無いエレク・ファルクは、口元に笑みすら浮かべている。

 

「ファルク公の仰る通りです。私はイシュー公の忠告を、重く受け止めようと思っております。

 厄祭戦以後の三百年で、確かに圏外圏の治安は悪化しました。デブリ帯に闇航路が作られたコトで、宇宙海賊の勢力も拡大しています。我がアリアンロッドが、ナディラ家の独立統制部隊『オレルス』の力を必要としたのも、その証左と言えましょう。

 ――今後もエリオン公との協力体制を一層強固なモノとし、断固とした決意を以て、圏外圏の統治に当たって行くと約束致します。ご安心下さい」

 

 アビド・クジャンはひとまずそこで話題を切り、ついでと言わんばかりに次の議題を持ち出した。

 

「それはそうと――バクラザン公、ファルク公。貴公らのご子息が、士官学校を卒業する頃合いではありませんか?」

 

 この言葉に、ネモ・バクラザンとエレク・ファルクは頷き、口を開く。

 

「如何にも。今期の主席もしくは次席として、卒業して来るかと」

「うむ――優秀な子じゃよ。まさしく、セブンスターズの一席を預かるに相応しい。少々粗暴じゃが」

「ご自慢の息子達であるコトは分かりますが――主席と次席で士官学校を卒業したセブンスターズの士官達は、まず監査局に配属され、火星支部への監査に行かされるコトが多いです。

 自らの失態を晒すようで心苦しいのですが――イシュー公が議題とされる程度には、現在の圏外圏の治安は悪い。道中では、間違い無く宇宙海賊の襲撃を受けます。そこにセブンスターズの新任士官を行かせるのは、あまり得策とは言えないのでは?」

 

 アビドの意見には、確かに一理有る。

 ただの士官ならともかく、セブンスターズなのが問題だ。ギャラルホルンを支配し事実上の独裁を行っているセブンスターズに、反感を抱く者は決して少なくない。

 治安が悪化している圏外圏では、特にそれが顕著に現れるだろう。

 

「セブンスターズの権威を以てすれば、総務局の人事に介入するコトは難しくない――それがセブンスターズ会議による決定からなるモノであれば、尚更のコト」

「バクラザン公、ファルク公はこのコトについて、どうお考えですかな?」

 

 ネモとエレクは、わずかに思案したが――如何にセブンスターズと言えど、子供可愛さで権力を公使し、総務局の人事に介入するのはマズい。権力、組織的に許されているとは言え、そんなコトをすればギャラルホルン士官達から反感を招きかねない。

 ただでさえ四大経済圏、圏外圏でギャラルホルンへの反感が高まっている時勢に、内部にまで敵を作りかねないコトをするのは避けるべきだ。

 

「どうもこうも、総務局の人事に従う他に無かろうて。人事は今のところ、あそこに一任されておるからな」

「危険など、ギャラルホルンの士官になると決めた時から、彼ら自身も承知しています。それに、圏外圏の様子を見ておくコトは、彼らのこれからにとってもプラスとなるでしょう」

 

 セブンスターズの次期当主になる者が、地球圏にのみ留まるコトで、凝り固まった偏見を抱くのは望ましいコトではない。実際に圏外圏の様子を見てこそ、将来的に適切な組織運営をしてくれるようになるだろう。

 そのように、二人は考えている。

 

「――せめて、ガンダム・フレームを持って行くのはどうですかな? 訓練はされているでしょう?」

「ええ、してはいましたが…些か焦燥では有りませんか、ボードウィン公」

 

 バクラザン家とファルク家に伝わる、ガンダム・フレーム――ヴィーンゴールヴ中央の「バエルの祭壇」に安置されたそれが、式典の為では無く戦闘の為に持ち出されるコトは、極めて異例だ。

 

「いや――それほどまでの備えが必要だと言うならば、認可する必要も出て来るじゃろうな。クジャン公、どうじゃ?」

「――有るに越したコトは無いでしょう。念の為に、アリアドネを管理するザルムフォート家にも、連絡をしておきます。ザルムフォート家もまた、ガンダム・ダンタリオンを保有する名家ですから」

「…分かりました。では、そのように」

 

 以上を以て、オルセー・イシューが招集した臨時セブンスターズ会議は閉幕した。

 

 

   ◇

 

 

 ギャラルホルンの士官学校を主席で卒業したファルク家の一人息子トリク・ファルクと、次席で卒業したバクラザン家の一人息子ディジェ・バクラザンは、卒業式の翌日にギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」に呼び戻されていた。

 

「ッたく――親父(ジジイ)どもは、一体何の用なんだ? なあトリク」

「それを私が知るとでも? 問答無用で呼び戻されたのは完全にお前と同じだ、ディジェ」

「卒業旅行を断っただけの価値が有るんだろうな? 無かったらブン殴ってやる」

「老体は労れ。お前が殴ったら、あの仙人は間違い無く死ぬぞ」

 

 士官学校を卒業したての二人は、そんな軽口を叩きながらヴィーンゴールヴの廊下を悠々と進む。

 総務局から人事が下されるまで、後一週間。本来なら卒業旅行にでも旅立つ所だが、こうして親に呼ばれたコトで、チャラになってしまった。

 ディジェが「ブン殴ってやる」とまで言うのは、そう言う理由だ。自分が行けないのはともかく、それによって友人達に土産を買って来て貰うと言う仕事を増やしてしまったのが、本当に気に食わない。

 

「で、だ――本当に親父(ジジイ)どもは、こんな場所の前に来いって言ったのか?」

「ディジェ…お前、親の言葉を真面目に聞いてなかったのか? 少なくとも私は、ここに来いと言われている」

 

 二人が足を止めた場所――そこは、ヴィーンゴールヴは愚かギャラルホルンに取っての最重要施設、その入口の目の前だ。

 

 バエルの祭壇。

 

 厄祭戦の英雄にしてギャラルホルンの創設者、アグニカ・カイエルが駆ったと伝えられる伝説のモビルスーツ、ガンダム・バエルが安置される場所。

 そして、アグニカ・カイエルと共に戦ったセブンスターズの始祖たる七人の英雄――彼らが駆ったガンダム・フレームも、ここに保存されている。

 

「初めて来たぜ、こんな所…」

「当然、用が無いからな。此処は、入るのにも一苦労するのだ」

 

 バエルの祭壇への入口である鋼鉄製の扉を開くには、「アグニカポイント」なるモノが必要になる。アグニカ・カイエルのファンクラブである「アグニ会」が定義したモノである為、ディジェもトリクもよく分かっていないが、とりあえず扉を開くには五百アグニカポイントを消費するらしい。

 このアグニカポイント、概念的なモノらしいが――詳しいコトは、アグニ会の頭ぶっ飛んだ奴らにしか分からない。

 

「うむ、来たかディジェ、トリク君」

「卒業直後に呼び出して、すまなかったな」

 

 ギャラルホルンのマークが刻まれた扉の前で佇んでいたディジェとトリクの下に、両者の父親であるネモ・バクラザンとエレク・ファルクが現れた。

 ネモは杖をついている為、エレクは単純に太ましい身体が重い為に、のんびりゆったりと歩いて近づいて来る。

 

「オイコラ親父ども、士官学校の卒業式くらい出席しろよ」

「生憎と、士官学校の卒業式に出向く役は持ち回り制なのだ。今年はファリド家、ボードウィン家の担当だったからな」

「そんなモノが決まっていたのか…」

「ほほ、当主になれば分かるコトじゃよ。それより――早速、本題に入ろうかの」

 

 少し声のトーンを低くして、ネモはそう言った。その一言だけで、ディジェとトリクは背筋を伸ばされる感覚を味わった。

 流石はセブンスターズ最高齢、現在では最も初代セブンスターズに近い男、と言うべきか。その威厳は年老いてなお、些かも衰えるコトは無い。

 

「お前達を此処に呼んだのは他でも無い――此処に有るガンダム・フレームを、お前達に託す為じゃ」

「はァ?」

「…お待ち下さい。私達は、一昨日士官学校を出たばかりですよ? 何故、このタイミングで…?」

 

 トリクの質問を受けながら、ネモは杖をつきながらゆっくりと扉の横に有るタッチパネルに近づいて行く。その間、エレクがトリクの質問に答える。

 

「お前達は来年度に監査局に特務三佐として配属され、火星支部まで監査に出向かされるコトになる。だが、現在の圏外圏はオルセー・イシュー公が危惧し、アビド・クジャン公が認める程度に治安が悪化している。特に、デブリ帯の航路付近に潜む、宇宙海賊の動きが活発化しているとのコトだ。

 道中、間違い無く一回は宇宙海賊の艦に襲撃を受けるだろうと、クジャン公は予想を立て――そこにアグニカ・カイエルの魂を賭けた」

「オイ、それで良いのかクジャン公」

「軽く魂を賭けられる、アグニカ・カイエル…」

 

 アグニ会もそうだが、ギャラルホルンの士官は一体アグニカ・カイエルを何だと思っているのだろうか? と、二人は思わざるを得ない。

 

「無論、アグニカの魂云々は今考えた冗談だが――間違い無く宇宙海賊の襲撃に会う、とクジャン公が言われたのは事実だ。MS戦になる可能性が有る。

 それに備えて、予めガンダム・フレームを用意させておくべきだ――と言うのが、セブンスターズ会議での結論となる」

「オレ達専用のシュヴァルベ・グレイズは、どうなる?」

「それも持って行きたまえ。専用にカスタムされたシュヴァルベ・グレイズと、家のガンダム・フレームを持って、火星への監査に向かうのだ」

 

 シュヴァルベ・グレイズとガンダム・フレーム。

 一人につき二機持って行く、と言うコトは――

 

「使うのはビスコー級ではない、と?」

 

 ビスコー級とは、ビスコー級クルーザーのコトである。宇宙で運用される小型クルーザーで、二機のMSを積載出来る他、様々な民間組織でも使用されている。

 

「ハーフビーク級を一隻、アリアンロッドが出してくれるそうだ。一個中隊も一緒にな」

「それはまた、業腹なこって」

「監査一つに、かなりの戦力を割いているな」

 

 かのアリアンロッド最高司令官のアビド・クジャンが「それだけ必要だ」と判断したからには、本当にそれくらい必要なのだろう。

 

「開けるぞ」

 

 ネモが、細い枯れ木のような手をタッチパネルに触れさせる。

 その瞬間、パネルには「NEMO BAKLAZAN」と表示されると共に、その下には「-500 AGNIKA POINT」と記され――分厚い扉が中央から二つに分かれ、それぞれが両端に向けてスライドし始めた。扉が開かれるに連れて、祭壇の様子が明らかとなって来る。

 ガコォン…、と重々しい音が響いて扉が全開にされると、四人とその部下達は畏れを抱きながら、ギャラルホルン最重要施設「バエルの祭壇」に脚を踏み入れた。

 

「――アレが、ガンダム・バエル…」

「アグニカ・カイエルが駆った、伝説の機体――」

 

 話にこそ聞くが、ディジェとトリクに取ってはこれが初見になる。あまりにも美しい純白の機体を、畏敬と共に二人は見上げた。

 

 ASW-G-01 ガンダム・バエル。

 

 天使のような美しさとスタイリッシュさを誇る原初のガンダム・フレームにして、ギャラルホルンの権威の象徴である。

 

「バエルを操る者とは、ギャラルホルンの最高幕僚長のコトじゃ。バエルを起動出来ると言うコトは、アグニカ・カイエルに認められるコトと同義。

 今まで、多くの者達が五百アグニカポイントを消費してこの『バエルの祭壇』に踏み入り、バエルの起動を試みたが――成し遂げた者は、誰一人として存在しておらん」

 

 現在セブンスターズ当主の最高齢であるネモですら、バエルを実際に見た回数は両手で数えられる程度だ。組織内ではアグニカ・カイエルの魂、ギャラルホルンの象徴――などと、アグニ会を中心に崇め奉られてこそいるが、実際にバエルを見た人間は少ないと言われている。

 起動すらままならないのだから、式典に出すコトも出来ない。となれば必然的に、お目にかかる回数は減る。

 

「――なぁ、乗ってみても良いのか?」

「構わぬよ。ただ、動かすコトは出来ぬじゃろうから、コクピットに座るくらいが限界じゃが」

「マジかよ、座って良いのか」

 

 ディジェはダメ元で聞いたのだが、ネモは割とアッサリ許した。この三百年、百名を超える人間がバエルの起動を試み、悉くが失敗している。

 理由として、コクピットがアグニカと共に戦っていた厄祭戦当時の物が残されているので、現在のギャラルホルンの機体とは規格が異なるコトが上げられる。バエルをかつて誰一人として起動出来ていないのは、アグニカの魂に認められるられないより前に、まずこれが原因だろう。

 

「――もし動かせたら、どうなるんです?」

「起動し動かした者は、その瞬間にギャラルホルンと言う組織の頂点に立つ。バエルを動かせたなら、ディジェはギャラルホルンの最高幕僚長となるじゃろう」

 

 備え付けられているクレーンに乗ってバエルのコクピットに向かうディジェを見上げながら、ネモはトリクにそう答えた。

 ギャラルホルン全体を統括する最高階級である最高幕僚長の座は、本来ならばカイエル家に与えられるハズだった地位だが、残念ながらカイエル家は当のアグニカの代で断絶してしまっている。現在、最高幕僚長の座は空席――アグニカ・カイエルが復活でもしない限り、この座はバエルを起動出来た者に託されるだろう。

 ガンダム・バエルとは、ギャラルホルンに取ってそれほどまでに重要な物なのだ。

 

「で、どうだディジェ?」

 

 そんなコトを話している内に、ディジェはバエルのコクピットに乗り込んでいた。少し声を張り上げて、トリクはコクピット内のディジェにそう問う。

 これに対し、一瞬の間を空けて。

 

「ウンともスンとも言いやがらねぇぞ!!」

 

 との答えが、コクピットから帰って来た。粗暴な口調で叫んでいるが、その言葉は苛立ちではなく困惑から来るモノだと、トリクは理解した。

 続いてトリクは、違う質問を投げ掛ける。

 

「バエルのコクピットは、厄祭戦当時の物なのだろう? 違いは有るか?」

「スティックが直角で、内部は全体的に白い! 後は、シートに変な機械がくっついていやがる!」

「成る程――」

 

 トリクは何故ディジェが起動出来ないのかの予測を立て終わり、一度頷いた。それからディジェはしばらく頑張ったが、有効な解決策は何一つ見つからず、再びクレーンに乗って三人の下へ戻って来た。

 

「やはり、不可能だったか」

「そう簡単に起動出来るのなら、ギャラルホルンはアグニ会に支配されておるわい」

「ったく、何だったんだよあの機械は――背中に伸びて来やがった…」

 

 未だにそれが何なのかにアタリを付けていないディジェに、トリクが予測を述べる。

 

「恐らく『阿頼耶識』だろうな。厄祭戦時からコクピットを変えていないとすれば、制御系に阿頼耶識システムを採用していてもおかしくはない」

「阿頼耶識か――成る程、そりゃ誰にも起動出来ねぇ訳だ。機械化がタブーになってるギャラルホルンに、阿頼耶識手術を受けてる奴がいる訳ねぇ」

 

 ギャラルホルンは初代セブンスターズの時代に、機械の自動化と阿頼耶識の施術を禁止した。これは初代セブンスターズが、自分達のように手術を受けて戦闘マシーンになる者がいなくなるように、と願ってのモノだった。

 この時点で、バエルの起動条件を満たしている者はギャラルホルンは愚か世界に誰一人いなくなった、と言う訳である。

 

 ガンダム・バエルに厄祭戦時のコクピットが残されているのは、過去に縋らず自らを機体の一部とせず、自らの力のみで未来を創るべきだ――と言う、死したアグニカ・カイエルと初代セブンスターズが残した、無言のメッセージなのかも知れない。

 

「まあ、極論を言えばバエルを起動出来るか起動出来ぬかなど、詮無きコトだ。問題は、その者がアグニカ・カイエルの――ギャラルホルンの理念を体現しているかどうかだろうな」

「ああ、その通りだ」

「――寄り道は此処までにしようかの。今回の本題は、ガンダム・バエルを通してアグニカ・カイエルと初代セブンスターズの理念を再確認するコトでは無い」

 

 ネモ、エレクに続いて、ディジェとトリクはバエルの祭壇に満たされる水の上に浮かべられたボートに乗り込み、バエルを囲むように並んでいる七つのシャッターの内の一つに向かって進み出した。

 

「バクラザン家の所有するガンダム・ヴィネと、ファルク家の所有するガンダム・アモン。この二機を持ち出す為に来たのだ」




一話目、終了。
話ばっかですけど、まあ起承転結の「起」なんで許して下さい。
さて――オリキャラの掘り下げをする番外編に、更なるオリキャラを登場させると言う、史上類を見ぬ暴挙を侵してしまいました。
そんな訳でオリキャラ解説。


オルセー・イシュー
男性
セブンスターズ第一席「イシュー家」の先代当主であり、カルタ・イシューの父親。
地球外縁軌道統制統合艦隊「グウィディオン」の最高司令官、並びに地球衛星軌道上に存在する三基の衛星基地「グラズヘイム」の総司令官を務める。
まだ三十を過ぎたばかりだが、病弱である為に頻繁に寝込んでしまう。
また、その為に痩身で、肌も不健康なほどに白い。
心配性だが、その分気配りが出来る。
名前はNHKの「ガンダム総選挙」の際、鉄血のキャラ名一覧に有った「オルセー・イシュー」を流用。
あの時の鉄血キャラの一覧、ちょこちょこ知らない名前が混じってたんですよね…設定だけ作っといたけど何処にも出さず終わった、みたいな奴らだったんですかね?(續に関わる可能性も有るかも?)

アビド・クジャン
男性
セブンスターズ第五席「クジャン家」の先代当主であり、イオク・クジャンの父親。
先代エリオン公の死後、役職を引き継ぐ形で月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の最高司令官を務めている。
非常に優秀な人物で、艦隊指揮からモビルスーツ操縦までそつなくこなす完璧超人。
それに加えて人望が有り、部下からの信頼が厚い。
名前はハーメルン内に有る鉄血二次創作作品「アグニカ・カイエル バエルゼロズ」に登場するオリジナルキャラクター、初代クジャン家当主「アビド・クジャン」から流用。
許して下さい何でもしますから(土下座)
あの作品での先代クジャン公は「イジュール・クジャン」って名前らしいんですけど、個人的に「イジュール・クジャン」より「アビド・クジャン」の方が字数的にシックリ来た上に、イジュールとイシューが似てると思ったので避けました。


続いて月鋼で出ただけのキャラ、設定の解説。
ぶっちゃけ知ってる人少なそうなので、一応付けときます。

ナディラ家
ギャラルホルンの名家の一つであり、ガンダム・グレモリーを保有している。
本作ではオリキャラとして初代当主のイシュメル・ナディラが登場しており、原作の時間軸での当主はデイラ・ナディラ。

ジジル・ジジン
男性
代々ナディラ家に仕えるジジン家の当主。
ナディラ家麾下の独立統制部隊「オレルス」の隊長を務め、自らはヴァルキュリア・フレーム三番機のオルトリンデを操る。

ザルムフォート家
ギャラルホルンの名家の一つであり、ガンダム・ダンタリオンを保有している。
また、月と火星の往還航路を管理する役割を担う。
本作ではオリキャラとして初代当主のシプリアノ・ザルムフォートが登場しており、現当主はジルト・ザルムフォート、次期当主はザディエル・ザルムフォート。


ここぞとばかりに、月鋼のネタをぶち込んでみました。
本編書いてた時、厄祭戦編にこっそり初代当主を入れとく以外に月鋼ネタを使わなかったので…。




次回「夜明けの地平線団」

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