鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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原作16話:フミタン・アドモス(フミタン死亡)
原作49話:マクギリス・ファリド(マクギリス死亡)


嫌な予感がするタイトル。
もはや、何も語るまい(ガトー並感)


#59 アグニカ・カイエル

損傷したMSの整備が終わったとの報告を、アグニカは両艦隊より受けた。

アグニカのガンダム・バエルも、既に整備は済んでいる。

 

「持って来た武器は、全部取り付けたぞ」

 

アグニカがMSデッキに移動すると、そこには整備を終えたらしい雪之丞がいた。

椅子を用意し、何やら湯まで沸かしている。

 

「ナイスだおやっさん」

 

もしもの時の為に、アグニカはヴィーンゴールヴからバエル用のパーツを色々持って来ていた。

その一番のモノが、バエルの両足の膝に1つずつ装備されたホルスターである。

 

「なあ。あの武器は…」

「ああ、あれか。『アガレス・ライフル』と『アガレス・ナイフ』――察しの通り、ガンダム・アガレスが装備していたモノだ。ミカエル戦の後、アイツらが拾ってたんだよ」

 

右膝のホルスターにナイフ、左膝にはライフルが格納されている。

これは、腰の両側面に取り付けられているヴァルキュリア・ブレードと腰の後ろに装備されたバエル・ソードが破壊された時の為の武装となる。

 

「――アラズ。テメェの過去話、聞かせてもらったぜ」

 

雪之丞の側に置かれていたもう1つの椅子に座ったアラズに、雪之丞はそう声を掛ける。

 

「うげっ。案の定聞かれてたか…」

「全世界にLIVE配信されてたよ。ギャラルホルン伝説の英雄が、叙事詩にすら書かれてねえ過去話するってな。…あの女の子に関しちゃ、残念だったな」

 

湯が沸いたのを確認し、雪之丞はコップを2つ用意する。

そこにインスタントコーヒーを入れ、湯を注ぐ。

そして、片方をアラズに渡した。

 

「どーも…っと、このコーヒーはただのインスタントコーヒーじゃねェな?」

「おうよ。メリビットが用意したモンでな」

 

雪之丞とメリビットの関係については、アラズも他の鉄華団メンバーから大体の話は聞いている。

チャドは酷く困惑していたが、アラズからすれば「まあ、そんな事も有るだろ」と言った感じだ。

 

「――スヴァハに関して言うなら、あれはアイツの選択を尊重した結果だ。スヴァハの意志と俺のわがまま、ヘイムダルの理念の達成を目指し、見事に失敗しただけだ。勿論、反省もしたし後悔もした。だが…悲嘆に暮れて泣き叫んで、アイツの意志を無駄にする訳には行かなかった」

 

ミルクも砂糖も入っていないコーヒーを飲みつつ、アラズは思い出すかのように言う。

その上で、あくまで「300年前から生きてる先人」として雪之丞にこう告げる。

 

「おやっさん。アンタがメリビットさんを好きって言うなら、絶対に手を離すなよ。俺とスヴァハとは違って、アンタらは前線に出て戦う必要も無ければ世界を変える必要も無い。この時代も、厄祭戦程狂ってる訳じゃない――ちゃんと、未来が有る。その未来を作るのは、鉄華団みたいに今を生きる人間達だ」

「――アラズ、おめえ」

「俺はもう、真っ当な人間じゃねェしな。だから、時代(さき)はアンタらに託すさ。――そろそろ、頃合だな」

 

アグニカはコーヒーを飲みきって立ち上がり、バエルへと向かう。

 

「…死ぬ気か?」

「――なあに、簡単には死なねェよ。精々、最期まで足掻いてやるさ」

 

振り向きながら不敵な笑みを浮かべ、アグニカはバエルのコクピットに消えて行く。

ハッチが閉じると、バエルの双眼に光が点った。

 

かくして、アグニカ・カイエルは戦場に飛ぶ。

厄祭の遺物を迎え撃つ、最後の戦場へと。

 

 

 

 

―interlude―

 

 

ミラージュコロイドで隠されていたカイラスギリーの出現から、ルシフェルがそれに張り付いてビームを発射するまでの僅か数分。

その様子を観測していたモノが、世界にたった1つのみ在った。

 

『――本当に動くとはな。あの男の予想は当たったか。出来る限り当たって欲しくはなかったが、致し方無いと言うべきか』

 

全ての機体が持ち出されたヴィーンゴールヴ、「バエル宮殿」の真下。

隠匿されし「四大天使」ラファエルが、遂に動き出した。

 

まず垂直に上昇し、天井を突き破ってバエル宮殿へと出る。

そこで、そのMAは――あろうことか、装甲をパージし始めた。

 

全ての装甲が剥がれた時、そこには1機のMSが滞空していた。

バックパックの無い、シンプルながらも印象に残るフォルムをした――「ガンダム」が。

 

機体名が分からなかった為、これを拾ったスリーヤ・カイエルは「ガンダム・ソロモン」と名付けた。

それは、単に彼が開発したガンダム・フレームの名に合わせただけではなく――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『――さて、では私も盟約を果たすとしよう』

 

パージされた外装からライフルとシールドを拾い上げ、ソロモンはバエル宮殿から()()()

 

 

―interlude out―

 

 

 

 

最高幕僚長アグニカ・カイエルの下、グウィディオン艦隊の全戦力とアリアンロッド艦隊の全戦力は「天使王」ルシフェルを迎え撃つ形で展開した。

それに加え、ギャラルホルン使節団とそれの護衛を任された鉄華団。

 

戦場に在るガンダムは12機。

アグニカ・カイエルの、ガンダム・バエル。

三日月・オーガスの、ガンダム・バルバトスルプスレクス。

昭弘・アルトランドの、ガンダム・グシオンリベイクフルシティ。

ノルバ・シノの、ガンダム・フラウロス。

カルタ・イシューの、ガンダム・パイモン。

マクギリス・ファリドの、ガンダム・アスモデウス。

ガエリオ・ボードウィンの、ガンダム・キマリスヴィダール。

ラスタル・エリオンの、ガンダム・ベリアル。

ジュリエッタ・ジュリスの、ガンダム・レラージュリア。

イオク・クジャンの、ガンダム・プルソン。

ディジェ・バクラザンの、ガンダム・ヴィネ。

トリク・ファルクの、ガンダム・アモン。

 

ギャラルホルン公式記録では残存するガンダムは26機とされている為、実にその半分近くが揃った事になる。

最も、記録されていないガンダムも多いため公式記録はあまり当てにならないが。

 

これに加え、数多のMSと戦艦、ダインスレイヴまでが戦場に投入されている。

厄祭戦最大最後の戦いであった「四大天使」ガブリエル討伐作戦「大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」の時とは比較にならないが、厄祭戦での逆転劇開始の戦いと言える「四大天使」ウリエル討伐作戦「智天使殺し(オペレーション・ヤコブ)」と並ぶ程度だ。

 

しかし、楽観など出来うるハズが無い。

かつて「天使王」ルシフェルは、ガブリエル討伐作戦に参加した戦力の大半を一瞬で削ったのだ。

下手をすれば、開幕のビームで仲良く全滅となるだろう。

 

『アグニカ・カイエル。これは、本当に大丈夫なのか?』

 

ラスタルが、徒手空拳で滞空するバエルに通信する。

その質問を受け、アグニカはこう返した。

 

「大丈夫か、だと? ()()()()()()()()。ぶっちゃけ、この5倍有っても不安だよ」

『――この場で全滅するつもりか?』

「まさか。何の為に策を講じたと思ってる? 我らの力のみでは、ルシフェルを倒し得ない。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに、鉄華団経由で援軍も要請して有る。少し遅れるらしいが、直に到着するだろう」

 

そこまで言って、アグニカは全軍へ通信を繋いだ。

 

『鉄華団元地球支部支部長アラズ・アフトル…もといギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルより、この場に集ったギャラルホルンの全軍へ通達する。既に承知しているだろうが、これより我らは300年前のヘイムダルが討ち漏らした「天使王」ルシフェルの討伐作戦――「天使王殺し(オペレーション・ヴィシュヌ)」を開始する』

 

バエルの右手が動き、腰側面に懸架されたヴァルキュリア・ブレードの柄を握る。

 

『奴はかつてのガブリエル討伐作戦の折、艦隊の半数以上を再起不能とした。そのビームは、ハーフビーク級戦艦を一撃で轟沈せしめた。火星の一枚岩を分断して峡谷を作り、全身を分離させ全方位攻撃を可能とし、つい先ほども全軍の30%を蒸発させた。言うまでもなく、正真正銘のバケモノである。あれの性能は、まず間違い無く「四大天使」ミカエルを凌駕している。これほどの窮地に立たされた事は、厄祭戦にも無い』

 

ルシフェルの所業を並べた後、アグニカはルシフェルの向かってくる宇宙を見据える。

その陰は見えぬものの、圧倒的なプレッシャーが伝わって来る。

 

『ここで、俺はウリエル戦でもミカエル戦でもガブリエル戦でも言った事を繰り返すしか無い。――「()()()()()()()()()()()」と』

 

バエルは右手で握っていたヴァルキュリア・ブレードを引き抜き、その黄金の剣で地球を指し示す。

続いてドルトコロニー群を指し、最後に火星を示した。

 

『約80億人。それが、現在の人類の総人口だ。厄祭戦直後の約30億人から、ここまで回復した。厄祭戦直後は困難であった生活圏の維持も、何とか可能となって来た所である。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

火星を指していた剣を持ち上げ、バエルは剣を正面へと振り下ろす。

剣をそのまま停止させ、ルシフェルを指した。

 

『話は至極単純だ。我々が勝てば人類は存続し、我々が負ければ人類は滅亡する。ただそれだけのシンプルな結末(エンド)を、変えるのが我々だ! 故に、我々に敗北は赦されない! 我々の敗北は、人類の滅亡(デッドエンド)に直結するのだ!』

 

ダインスレイヴ隊が配置につき、ラスタルが号令の準備をする。

各艦も砲座を用意し、全軍が一層引き締まる。

 

『ゆめ忘れるな、人類の守り手(ギャラルホルン)よ! この戦いは、人類全ての運命を動かす――天使と人類、最期の殺し合いである! 何としても、天使王を倒すぞ!!』

 

剣を斬り払いながら――アグニカはこう締めた。

 

 

『「天使王」ルシフェル討伐作戦――「天使王殺し(オペレーション・ヴィシュヌ)」、状況を開始せよ!!!』

 

 

その声と共に、ラスタルが号令を発する。

 

『ダインスレイヴ隊、放て!』

『ギャラクシーキャノン、発射ああああ!!』

『やれやれ…やるしかないか』

 

ダインスレイヴ隊、フラウロス、アモンが長距離射撃を開始した。

それに合わせて、MS部隊が一斉展開する。

 

ダインスレイヴの弾頭が飛び、ルシフェルに直撃する。

 

『――ほう、先制とは。良かろう』

 

ダインスレイヴが直撃したとて、ルシフェルのナノラミネートコートを破る事は出来ない。

ルシフェルは身体を分離させ、四方へと飛散した。

 

「ダインスレイヴとビーム来るぞ! 全軍、シミュレーション通り行動せよ!」

 

アグニカの指示が飛んだ一瞬後、ルシフェルのビームとダインスレイヴが放たれる。

それに対し、バエルはダインスレイヴを全て叩き落とした。

しかし、ビームは幾つかの艦に直撃し――艦隊のあちこちで、爆発の光が輝く。

 

『フン、小癪な事だな』

「何とでも、言いやがれ!」

 

アグニカが言い返すと、ギャラルホルン艦隊の遥か背後から桃色のビームが飛来した。

 

『!』

 

それはルシフェルのパーツの1つに直撃するが、謎の力場に弾かれてしまう。

 

「あれは、『Iフィールド』か!」

『――それは、何なのかしら?』

「宇宙世紀時代に造られた、ビームを弾く力場だ」

 

より正確に表すならば、ミノフスキー粒子に電磁場を流すことで生じる磁力系力場のコトである。

ビームを偏向する特性を持ち、これを発生させてビーム弾体を逸らす事によって、ビーム兵器に対する絶大な防御を発揮する代物だ。 

 

『――まさか、このビームは』

 

ビームを受け流したルシフェルだったが、その声音は先程に比べて低い。

いささか動揺したらしく、動きが一瞬鈍る。

 

そして、それを逃すアグニカ達ではない。

 

「よっ!」

 

ナノラミネートコートを斬り裂き、バエルはパーツに穴を作る。

そこに電磁砲で追撃をかけて、続くダインスレイヴの攻撃とガンダムの集中攻撃を仕掛ける。

 

しかし、そう簡単には行かない。

ルシフェルの翼から何十本ものワイヤーブレードが飛び出し、接近した機体を吹き飛ばして行く。

 

ただし、バエルを除いて。

 

『速いな』

 

傷を付けられたルシフェルのパーツに、再び彼方からのビームが直撃する。

今度は2発が連続して放たれたらしく、1発は弾かれたもののもう1発はパーツに届き爆発を起こす。

 

『や、やったのか…!?』

「まだだ! 気を抜くなよ、後7つ程壊すんだからな!」

 

バエルは、早速次のパーツへ飛翔する。

しかし、ルシフェルとて黙って自らの翼を潰されるハズも無く。

 

頭部を除く全てのパーツからワイヤーブレードを触手のように伸ばし、固まって艦隊へと突撃した。

回転しながら突撃して来る為、艦隊の攻撃はルシフェルに届かない。

ガンダム達も斬り掛かるが、ルシフェルは止まらない。

 

ルシフェルの攻撃が、艦隊に突き刺さる直前。

 

『――!』

 

パーツが分離し、急遽反転して戻り始めた。

何故か。

 

『貴さmッ!』

「よっ!」

 

ルシフェルの頭部を、バエルの剣が叩いたからだ。

剣はナノラミネートコートを斬り裂き、ルシフェル頭部のビーム砲を破壊した。

 

バエルは続けて左で剣を突き出し、ルシフェルの頭部を貫こうとする。

しかし、その途中で何かにぶつかったように突きが止まる。

 

「!」

 

刺さった剣を斬り上げた後、バエルは再び剣を振り下ろす。

だが、また何かに弾かれ――左手に握られたヴァルキュリア・ブレードが、半ばからへし折れた。

 

「、な…!?」

『甘いな!』

 

ルシフェルの翼パーツが逆行して来て、バエルにダインスレイヴを放つ。

その攻撃を、バエルは僅かに上昇して身体を捻る事で回避。

続いてルシフェルの胴体が放ったビームも間一髪でかわしたものの、右手のヴァルキュリア・ブレードはそのビームに呑み込まれ――あっさりと溶け消えた。

 

「チィ…!」

 

無数のワイヤーブレードで追撃を掛けて来たが、折れた剣を振り回し――左の剣を投げつけつつ、バエルはルシフェルのワイヤーブレードの射程から脱出する。

ルシフェルは各パーツからのビーム攻撃で追撃しようとしたが、艦隊からのダインスレイヴを含めた一斉攻撃と遠方からのビーム攻撃に晒されて防御態勢を取った。

 

超強力なIフィールドが展開され、実弾攻撃を全て無効化する。

しかし、ビーム攻撃までは完全に弾けずルシフェルの態勢が揺らぐ。

 

『むう…!』

「全軍、追撃行くぞ!」

 

バエルは柄だけとなった右手の剣を放棄し、両手で背部に懸架されたバエル・ソードを抜き放つ。

それぞれの剣は振られながら黄金の弧を描き、太陽光を反射して光り輝く。

 

バエルは双眼を赤くし、ルシフェルに吶喊する。

バエルに続き、他のガンダムも一斉攻撃を仕掛けに行く。

ルシフェルはワイヤーブレードを振り回し、ガンダム達をあっさりと弾き返す。

 

しかし、その中でバルバトスは攻撃をかいくぐり――ルシフェルの翼の1つに、巨大メイスを思い切り叩き付けた。

 

叩かれたナノラミネートコートが、衝撃を逃し切れず大きく凹む。

そこにバルバトスはテイルブレードを刺し、フラウロスが続いてダインスレイヴをぶち込み、グシオンとバルバトスがそれぞれ鈍器を叩き付けた。

ルシフェルのナノラミネートコートが完膚なきまでに破壊され、翼が爆発する。

 

『よっしゃあ!』

『こうすりゃ、何とか通るか』

『次行くよ昭弘、シノ。片っ端から破壊する』

 

他のガンダム達も負けてはいない。

 

キマリスがドリルランスを突き刺して回転させ、ルシフェルの翼と火花を散らす。

追撃としてキマリスはドリルニーをぶつけ、出来た穴をパイモンが刀で押し広げ、アスモデウスの槍がそこに突き刺さった。

翼は内部をズタズタにされ、爆発する。

 

ベリアルが全方位から翼に大剣を叩き付け、そこをすかさずレラージュリアが剣で斬り裂く。

やがてナノラミネートコートはひび割れ、ルシフェルの翼は粉々に砕け散る。

 

ヴィネが鉄球と鎌で立て続けに同じ場所へ攻撃し、そこに出来たわずかなヒビにアモンが狙撃した。

それを繰り返す内、ルシフェルの翼が爆発する。

 

バエルは翼から伸びるワイヤーブレードを全て斬り捨てた後、それによって生まれた死角に剣を突き刺し――粉微塵に斬り裂いた。

 

『――ほう。だが、これならばどうだ?』

「、しまっ――」

 

ルシフェルは胴体のビーム砲を充填し、撃ち放つ。

その先には――カルタの乗る、ガンダム・パイモンが在る。

 

『なn…きゃっ!?』

『カルt…何!?』

 

ビームに呑み込まれる直前のパイモンを、マクギリスのアスモデウスが勢い良く突き飛ばした。

退避は間に合わず、アスモデウスの半身がビームに呑み込まれる。

 

『マクギリス!?』

『ッ、ぐ…!』

 

バエルがルシフェルの胴体パーツをブッ叩いた事により、ビームの掃射が中止される。

しかし、ビームはアスモデウスの下半身を蒸発させており――背部に伝わった熱が、バックパックを爆発させた。

 

『そんな、マクギリス…!?』

『マクギリス…!』

 

大破したアスモデウスに、パイモンとキマリスが取り付く。

そこに、ルシフェルの翼パーツが近寄ってワイヤーブレードを展開させた。

 

『うおおおおあああ!!』

 

3機に向けて伸ばされたワイヤーブレードを、ガンダム・プルソンの拳が叩き落とした。

続いて伸ばされるワイヤーブレードの攻撃を、プルソンは腕を交差させて防御する。

 

『イオク様、お下がり下さい!』

『今援護を致します、イオクsがっ!?』

 

イオク親衛隊がイオクを援護すべく動くが、ルシフェルのワイヤーブレードに叩き落とされて行く。

 

『下がる訳には行かん! 私とてクジャン家の男、セブンスターズの一席を預かる者だ!』

『――イオク・クジャン、貴方…』

『退避を! 長くは持ちませぬ!』

 

ガエリオはイオクの言葉に従い、アスモデウスを連れて退避した。

それを見届け、イオクはルシフェルの翼に向き直る。

 

『まさか、この私を圧倒するとは…だが、盾の役割くらいは果たさせてもらう! 人類の勝利の為!』

『いえ、なぶり殺されても無駄死なので生きてて下さい』

『全くだ。イオクよ、戦場では死を覚悟するな。生きる覚悟をして、戦いに臨め』

 

ジュリエッタのレラージュリアと、ラスタルのベリアルがプルソンを襲うワイヤーブレードを斬り捨てた。

 

 

 

 

戦闘の光を後目に、幼なじみ組の3機はMS部隊に守られながら後方へと下がる。

ガエリオはキマリスでアスモデウスのコクピットをこじ開け、キマリスのコクピットから出てアスモデウスに乗り移る。

カルタは乗り移らず、アスモデウスと接触回線を開く。

 

「――マクギリス」

 

コクピットにも、損傷が及んでいた。

マクギリスの身体には、破片が幾つか突き刺さっている。

 

「マクギリス、何故カルタを庇った? カルタを謀殺しようとし、結果的に昏睡へと追い込んでグウィディオン艦隊の実権を奪ったのはお前だろう」

「……フ、何故かな。俺にも分からない――俺は何故、そのような事をした? 俺はカルタを貶め、権力もその脚も奪ったのにな」

 

弱々しい声で、マクギリスは疑問を抱いた。

 

ガエリオは、思わずマクギリスから目を背ける。

すると、マクギリスの背中からパイプが伸びており――アスモデウスに繋がっているコトに気付いた。

 

(阿頼耶織…! バエルに乗るためのモノか…)

『――マクギリス。貴方は…一体、何を目指していたの?』

 

カルタが、通信越しにマクギリスに質問を投げる。

唐突な問い掛けだが、それは…マクギリスの死を間近に感じたからか。

 

「――俺は、アグニカ・カイエルを目標として生きて来た。アグニカの思想、アグニカの力、アグニカの存在。全てに憧憬を抱き、俺はいつからかアグニカ・カイエルになりたいと願うようになった」

 

マクギリスが、その目的を話し出す。

 

彼もまた、孤児達(オルフェンズ)の1人だ。

恵まれぬ孤児として生まれ、男娼としてイズナリオ・ファリドに引き取られ、養子としてファリドの名を得た。

それからも何ら変わらなかった境遇にあった時、マクギリス・ファリドは「アグニカ叙事詩」と出会ったのだ。

 

「その最終目標として、バエルの入手を掲げた。そして、俺はボードウィン家とイシュー家の跡取りに接触し――それを利用して、ここまで辿り着いた。だが、俺の野望は他ならぬアグニカ・カイエルによって阻まれた。づッ…! ――その光景は、俺の目指すべきモノだった。…俺はその時、自分が正しかったと確信した…俺は、人生の目標を見失った。俺の人生の目的は、達せらr」

 

バコオン、と。

ガエリオはマクギリスの胸倉を掴み、あろうことか頭突きを食らわせた。

 

『ガエリオ!?』

「まだだ、まだ死ぬなマクギリス。まだ、()()()()()()()()()()()()。まだ助かる。生き延びて、決着を付けるぞ。今度はアインの手を借りず、正真正銘の真剣勝負だ」

「――フッ。ここに至って、なお…お前は、そうなのか…ガエ、リオ…」

 

微笑を浮かべたまま、マクギリスは意識を失った。

ガエリオの言った通り、マクギリスは助かる。

撃たれても復活するのだから、この程度はどうとでも治療出来る。

 

『…マクギリスの部下、石動・カミーチェ』

「マクギリスは任せた」

『――御意に』

 

石動のヘルムヴィーゲ・リンカーがアスモデウスをキマリスから受け取り、速やかにグウィディオン艦隊の旗艦「フェンリル」へと帰投した。

 

 

 

 

ルシフェルの翼が縦横無尽に飛び回り、ワイヤーブレードやビーム、ダインスレイヴによって戦線が崩れて行く。

アスモデウスを石動に預けたガエリオとカルタも前線へと戻ったが、戦局は芳しくない。

アグニカのバエルも飛び回って攻撃しまくっているが、戦局の打開には至らない。

 

『ダインスレイヴ隊、三時の方角へ放て! 敵のビーム砲は決して撃たせてはならん!』

『動きを止めるな! その隊は向こうに回れ! ここはオレが引き受ける!』

『損傷したモノは随時帰投し、装備を立て直せ。マトモに動けぬのに戦場に残られては、狙撃の邪魔になる』

 

その圧倒的不利な戦局を支えていたのが、ラスタル・エリオンとディジェ・バクラザン、トリク・ファルクである。

自らも動いて時折出撃されるプルーマを撃ち落としつつ、小隊単位で指揮を出して前線の崩壊を阻止させる。

 

鉄華団は遊撃隊として、アグニカと共にジワジワとルシフェルの戦力を削って行く。

ナメプしているのか、ルシフェルは自己再生機能を使っていないようだ。

 

そして、決め手はガンダム・ソロモンによる長距離狙撃ビームである。

ルシフェルパーツの大半はこれに狙われ、撃墜されている。

 

やがて、ルシフェルの戦力は減って行き――いつしか、胴体と頭部のみになっていた。

 

『――ならば、ここからは私も本気で行こう。貴様らを全て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

残されたルシフェルの頭部が分解し――いや、()()()()()()()M()S()()()()()()()()()()

 

それに呼応するかのように、他のパーツの残骸からも無傷のMSパーツが現れる。

胸部に「X」と刻まれたパーツを中心とし、それらのパーツが次々と合体して行く。

 

「――『四大天使』ラファエル…いや、ガンダム・ソロモンのデータに間違いは無かったか」

『…教官…―()()()()?』

 

僅かながら震えた声で、三日月はアグニカに問う。

アグニカは張り詰めた声を出し、こう答えた。

 

 

 

「『Concept-X 6-1-2』、ターンX。外宇宙から飛来したとさえ伝えられる、最強のMS――」

 

 

 

ルシフェルを構成していた、1機のMS――ターンXは、その双眼でバエルを睨み付けた。

 

『さあ、最終局面だ。人類、そして∀よ。このターンXと言う最大最悪の脅威を目前とし、如何に選択する?』

 

ターンXは両手を広げ、右足を曲げて左足を延ばした命のポーズを取り、人類に選択を迫る。

その最悪の選択肢を突き付けられたアグニカは。

 

「全軍、速やかに後退せよ。撤退するのだ」

『――アグニカ!?』

()退()()()()()()()、と言ったのだ。殿(しんがり)は俺がやる」

 

バエル・ソードを構え直し、アグニカはターンXを見据える。

 

『…教官、死ぬつもり?』

「――行け」

 

短く言って、バエルはバルバトスを蹴り飛ばす。

バエルはその反動を利用し、スラスターを全開にしてターンXへと挑んだ。

 

『――ッ! 全軍、撤退せよ!!』

 

ラスタルが指示を出すと、アリアンロッドだけでなく反射的にグウィディオンも撤退行動へと移る。

 

『退くぞミカ! 昭弘とシノも戻って来い!』

 

鉄華団も、オルガの指示で撤退を開始した。

前線に出ているガンダムに、オルガは撤退命令を出した。

 

『ダメだよオルガ、教官がまだ戦ってる。見捨てるつもり?』

『――アラズさんの捨て身を無駄には出来ねえ。それに、オレ達の死に場所はここじゃねえだろ。オレ達は進み続けるんだ。ここで止まれるかよ』

『……』

 

バルバトスはスラスターを吹かし、イサリビのいる方角へと撤退した。

続いて、グシオンと流星号(フラウロス)も引き上げる。

 

かくして、ギャラルホルン艦隊と鉄華団は戦場から速やかに撤退した。

 

 

 

 

『フン――』

 

「天使王」ルシフェル…ターンXは、撤退して行くギャラルホルン艦隊を一瞥し、すぐに突撃して来るバエルへと向き直った。

 

「これが最期だ。行くぞ、バエル!!」

 

アグニカが叫ぶと、バエルが呼応してその双眼が赤く光り輝いた。

そのエネルギー源となるエイハブ・リアクターが急速回転を開始し、生み出された余剰エネルギーがバエルの全身から漏れ出る。

 

(何? あれの中枢は頭部だと言うか、バエル。――分かった)

 

バエルの情報に従い、アグニカの駆るバエルはターンXの頭部に左手で剣を振り下ろす。

ターンXは右腕の溶断破砕マニピュレータを展開して巨大なビームサーベルを形成し、その攻撃に対抗する。

ターンXのビームサーベルと打ち合ったバエル・ソードは為す術なく、あっさり溶断された。

 

「ッ、らァ!」

 

バエルは溶け折れた剣を突き出し、ターンXの右腕に有るビーム発生器に刺す。

ビームが一瞬消え、その僅かな隙にバエルはターンXの懐に飛び込む。

バエルは右手のバエル・ソードを、ターンXのメインカメラに突き刺した。

 

『ッ!』

 

メインカメラを潰されたターンXの動きが、ほんの一瞬鈍る。

その間にバエルはターンXから一旦距離を取り、スラスターを再び全開にして通りすがりざまに頭部に剣を叩きつける。

逆噴射を掛ける事なく反転し、再び剣を振るう。

それを幾度となく繰り返すバエルに、ターンXは翻弄される。

 

『――フ』

 

だが、そもそもの性能に於いてバエルとターンXでは天と地ほどの差が有る。

 

ターンXに当たり続けていたバエルの剣はやがてひび割れて半ばから折れ、ターンXの左手が通りすがりにバエルの頭を掴んで捉える。

ターンXの両肩からビームが放たれ、バエルの翼が破壊された。

 

「、うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

折れた剣を廃棄し、バエルは全身に残されたバーニアを吹かしてターンXの頭部に張り付く。

空いた右手でターンXの角の片方を掴み、姿勢制御を掛ける事なく頭突きをぶち込む。

 

『――!』

 

バエルは左膝に取り付けたアガレス・ライフルを、左手でホルスターから引き抜き――ターンXの頭部に銃口を叩き付け、ゼロ距離射撃を敢行した。

弾を何発とぶち込まれたターンXが、頭部から煙を漏らす。

 

『おのれ、人間などにこのターンXが…!』

 

ターンXの左手が、恐るべき力でバエルの頭部を握り潰す。

そのままターンXは足を振り上げ、バエルの腰を蹴って角を掴んでいた右手ごと自身から引き剥がす。

 

間髪入れずに背部のプラットフォームからビーム・ライフルを左手で引き抜き、バエルを撃つ。

バエルの左足と左手が、ターンXのビーム・ライフルによって破壊された。

 

 

だが、バエルは止まらない。

 

 

「おおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

バエルの右手が動き、右膝のホルスターからアガレス・ナイフを引き抜く。

同時に、ターンXの全身が分離した。

だが、アグニカはそれに構わず――アガレス・ライフルによって出来たターンXの頭部の傷に、アガレス・ナイフを渾身の力を込めて突き立てた。

 

『ご、が――!!』

 

ターンXの分離した身体パーツがバエルを囲み、ビームを放つ。

全身のナノラミネートアーマーが容易く溶かされ、フレームやコクピットにもその熱が及ぶ。

ターンXの胴体パーツが、バエルに背部スラスターベーンを向け――

 

 

そこから、全てを崩壊させるナノマシンが散布された。

 

 

 

 

 

 

「……………あ」

 

ガンダム・バエルが、分子レベルで分解される。

アグニカ・カイエルが、分子レベルで分解される。

腕、足、胴体、頭部、脳髄――その全てが、瞬く間に崩壊して行く。

圧倒的な破壊。

一個体、一種族、一文明が抗えるハズも無い光。

 

 

「月光蝶」と呼ばれる、全ての人類史――その文明を埋葬する、破壊の奔流。

 

 

それに晒され、全てが人の手で造られたまま動いたアグニカ・カイエルは崩壊して行く。

側に在ったコクピットブロック、そこにいた大悪魔バエルの存在を認識出来ない。

否――認識する為の機能など、とうの昔に破壊されて久しかった。

 

アグニカ・カイエルは、もはや原型を留めず――髪の毛の1本さえ残さず、この光によって消え去るだろう。

 

(――ここまで、か)

 

アグニカは、そこで自身が死ぬコトを理解し受け入れた。

あまりにあっさりと、自身の死に納得した。

まるで、死ぬ事が分かり切っていたかのように。

 

クソのような時代に生まれ育ち、しかし奇跡の出逢いと宿業の別離(わか)れを経て、それから肉体を失ってなお動い(いき)て来たたった孤独(ひとり)の人間――血塗られし運命に弄ばれた、男の人生。

そんな彼の人生、その終着点こそがこの光の中だった。

 

破壊の光に視界が覆われ、白く塗りつぶされる。

その中に、彼は――喪ってなお愛し続けた者の姿を見た。

 

「………………やっと、お前に逢えるのか」

 

彼は、最愛の彼女に手を伸ばす。

しかし、その手は届かない――もう、崩されて消えていたから。

 

 

「スヴァ、ハ…今度は、お前と――」

 

 

懐から写真が舞い上がり、彼の視界に入り込む。

それを最後に、彼はその意識を光に呑み込まれ――やがて、途絶えさせられた。

 

 

アグニカ・カイエル/アラズ・アフトル。

伝説の英雄と呼ばれたその人間は、最期の最後に。

誰よりも愛しながら、最後まで守るコトの出来なかった人を想って逝った――




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アリアンロッド艦隊のMS部隊の皆様 10AP


オリジナル設定解説のコーナー。

ラファエル
全長:183.0m
本体重量:不明
動力源:■■■■■(■■■)×2
武装:無し
特殊機能:万物修復
搭載機:ASW-G-00 ガンダム・ソロモン
概要
「四大天使」の一角とされるMA。
攻撃武装を一切持たず、ナノマシンによる「万物修復」の機能を持つ機体。
この特殊機能の応用により原子レベルで放射能が分解出来たので、汚れた海は美しく浄化された。
ガブリエルに造られたモノではなく、このMAのみガンダム・フレームの開発者であるスリーヤ・カイエルが建造した。
現在は海に沈んでおり、ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」の真下に隠されている。
バエルが安置されていた場所の近くにあるコンソールを用いるで、意思疎通を可能とする。
内部には、スリーヤ・カイエルが発見した1機のMS「ASW-G-00 ガンダム・ソロモン」が隠されている。
名前の由来は、旧約聖書「トビト記」の「エノク書」に記される大天使「ラファエル」から。
この名には「神は癒される」「癒やす者」と言った意味が有り、名の通り癒やしを司るとされる。

∀ガンダムについて。
ゲスト出演。
みんな大好き、おヒゲのガンダム。
スリーヤ・カイエルが拾い、名を「ガンダム・ソロモン」としてラファエルの素体とする事で隠匿されていました。
今回の戦いでは、ビームライフルを長距離射撃モードにしてルシフェルを狙撃しています。
まさしく、「天使王」ルシフェル(ターンX)への切り札。

ターンXについて。
ゲスト出演。
みんな大好き、∀のお兄さん。
「天使王」ルシフェルの中身です。
勝てない(確信)ですが、∀がいれば落ち着きます。
ちょーっとだけ、文明が滅びたりしますけど。


内容に関しては――うん、これは評価が酷くなりそうな予感。
主にターンタイプ関連で酷評を食らいそうですな。
まあ、後1話と蛇足だけだし別にいいや。


次回「変革す(かわ)る世界(予定)」
最終話となります。

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