鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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マクギリス、名誉挽回の時間。
今のままだとただのやべーやつですが、これからしばらくはカッコいいマクギリスが見れるかと。


#57 開かれし戦端

ヴィーンゴールヴのエリオン邸で焼き肉パーティーが行われた日の、翌日。

地球の衛星軌道上に、地球外縁軌道統制統合(グウィディオン)艦隊と月外縁軌道統制統合(アリアンロッド)艦隊が向かい合う形で展開された。

 

ギャラルホルンの中でも最大戦力を持つアリアンロッド艦隊と、その次に多い戦力を持つグウィディオン艦隊が一挙に展開した光景は、見る者を圧倒させるモノだ。

 

「――グウィディオンとアリアンロッドが、互いを攻撃する姿勢で展開しただと…?」

 

アーブラウでギャラルホルンの新体制への参画と協力を承認してもらい、会合を終えた使節団は内乱の報告を受けた。

その使節団を率いるギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルは、聞いた瞬間に己が耳を疑わざるを得なかった。

 

「オイオイ…これはまた、急展開だな。一体、何が有った?」

 

待合室に入って来て報告した士官に、使節団の一員であるディジェ・バクラザンが詳細の説明を求める。

それを受けて、士官は手元の端末を操作して詳細情報を呼び出す。

 

「はい。かいつまんで話しますと、昨日ヴィーンゴールヴのエリオン邸ではアリアンロッド総司令官ラスタル・エリオン主催の焼き肉パーティーが行われました」

「何、好き勝手に豪遊してんだアイツら」

「ラスタル・エリオン…伊達に『肉おじ』と呼ばれてないわね」

 

ラスタルの異名は、イシュー家当主まで伝わっていた。

本人が誇りと思うか屈辱と思うかは分からないが、前者の可能性が高い。

 

「その焼き肉パーティーに、アリアンロッドの幹部だけでなくマクギリス・ファリド准将が参加しました」

「なんでさ」

「ヒュー、火にガソリンぶちまけやがった」

 

口笛を吹いて、ディジェは両手を広げる。

つまり、\(^o^)/<オワタ と言う姿勢を取った。

 

「そこでマクギリス・ファリド准将とガエリオ・ボードウィン特務三佐が暴力沙汰を起こし、今に至ります」

子供(ガキ)かよ」

「全く…あの2人は何であんな事になったのかしら。昔は殴り合うような間柄でも無かったのに」

 

アグニカが呆れ果てたような声で愚痴り、カルタは頭を抱える。

どこまでも傍迷惑な奴らである。

 

「ハァ…とにかく、武力衝突が始まるまでに介入して止めさせねェとな。この後のSAU行きは延期だ、大至急で宇宙(そら)に上がる。SAUだけでなく、鉄華団にも打診してくれ」

「は」

 

士官は連絡を付けるべく、待合室を後にした。

その士官と入れ違うように、アーブラウ代表の蒔苗東護ノ介が部屋に入って来る。

 

「ギャラルホルンの統制は、いまいち取れておらぬようじゃの」

「こんな下らねェ理由で内乱が始まるとか、予想出来るハズないでしょう。焼き肉パーティーで何が有ったんだ…肉の取り合いから発展した、とかだったらバエルで殴ってやる」

「過激よのう。まあ、我らアーブラウは民主化された新生ギャラルホルンへの参画を約束した身だ。治安維持の為の暴力装置から、人類協調の為の仲裁組織への改革――上手く行う為にも、この内乱はすぐ鎮めてもらわねばな」

「これでスケジュールのズレは免れない…はあ。まあ、努力しますよ。それでは」

 

蒔苗に挨拶し、ギャラルホルンの使節団はアーブラウの待合室を後にした。

アーブラウ議会施設の廊下を早足で歩きながら、ディジェはアグニカにこんな事を言った。

 

「今、アーブラウとSAUとの国境線にはファルク家の次期当主がいる。お前が言えばついて来ると思うが…連絡しとくか?」

「――ほう。それは初耳だな」

「…あれは面倒よ、ディジェ二佐」

「面倒と言う程でもねぇと思うが…どうする?」

 

アグニカは少し考えたが、ディジェに連れてくるよう要請した。

 

 

 

 

アーブラウとSAUの国境線近くに止まったマンリー級強襲揚陸艦。

艦のブリッジで、その男はディジェ・バクラザン二佐からの要請を受け取った。

 

「いかが致しますか、トリク・ファルク様」

 

部下より決断を迫られた男、ファルク家次期当主たるトリク・ファルク二佐はこう返した。

 

「――あの男の要請に応えるのは少しばかり癪では有るが、かの英雄と話す機会を無碍にする訳にも行くまい」

「全艦へ通達! これより、トリク様は最高幕僚長率いる視察団と共に宇宙(そら)へ上がられる! グラズヘイムⅠに連絡し、ヨルムンガンドの準備をさせよ! ガンダム・アモンの移動も迅速に行え! ――これで、よろしいでしょうか?」

「…ああ。全く、私は植物の心のような平穏無垢なる生活を求め欲しているのだが――」

 

部下の迅速な判断を賞賛し、トリクはブリッジの窓越しに空を見上げた。

 

「なかなか、思い通りには行かぬらしい。毎夜安心して熟睡出来る法を整備してもらう為にも、ここで恩を売っておくべきかな」

 

 

 

 

P.D.0325年。

厄祭戦より300年で初めて、アーブラウとSAUと言う四大経済圏同士による紛争が行われた年。

厄祭戦より300年の時を越え、火星のハーフメタル採掘場にて大量殺戮破壊兵器「モビルアーマー」が猛威を振るった年。

厄祭戦より300年の時を経て、厄祭戦の英雄アグニカ・カイエルが蘇った年。

そのアグニカ・カイエルが、ギャラルホルンの最高幕僚長として大規模な組織再編を始めた年。

 

厄祭戦に関わる事件が立て続けに起こった為に「厄祭年」と呼ばれると共に、世界の変革期として歴史に伝えられる年だ。

 

だが、この年は更なる波乱の年で有った。

 

アグニカ・カイエルの復活から、僅か半月後。

ギャラルホルンは、アグニカ・カイエルを最高責任者として各経済圏に新体制移行に差し当たって使節団を派遣。

使節団は各経済圏を回り、新体制への協力を得るべく交渉を行った。

 

そのほぼ同時期。

地球近郊の宙域にて、マクギリス・ファリド率いる地球外縁軌道統制統合(グウィディオン)艦隊と、ラスタル・エリオン率いる月外縁軌道統制統合(アリアンロッド)艦隊が対決したのだ。

 

『やめろ、マクギリス・ファリド! 我らがギャラルホルンは、最高幕僚長アグニカ・カイエルの手で戦争を押し潰す暴力装置ではなく、協調を推し進める民主組織として改革されようとしている! その為にはまず組織全体で協調し、組織再編を迅速に行わねばならない! このように小競り合いを起こしている場合ではないのだ!』

 

アリアンロッドの旗艦でありエリオン家が所有するスキップジャック級戦艦「ファフニール」に乗るラスタルが、グウィディオンを率いるマクギリスの座乗するファリド家のハーフビーク級戦艦「フェンリル」に通信する。

しかし、マクギリスはラスタルの意見を取り合わない。

 

『フ、ハハハハ! 自らの身内だけの豪遊を是とする男が組織協調とは、笑わせてくれるなラスタル・エリオン! 貴様のような傲慢な者が「民主組織にするから止めろ」だと? その申し出は受け入れんコトも無いぞ――貴様とガエリオが、ギャラルホルンから退場するならばな!』

『――愚かな』

『それはどちらだ? グウィディオン艦隊、攻撃準備!』

 

グウィディオン艦隊が、主砲を正面のアリアンロッド艦隊へと向ける。

各艦のカタパルトも開かれ、MSが出撃準備を整える。

 

『ラスタル様…!』

「――全艦、迎撃準備。ダインスレイヴ隊も待機させろ」

 

イオク・クジャンがクジャン家の所有するハーフビーク級戦艦「フギン・ムニン」から通信して来る。

それも含めた艦隊全体に、ラスタルはこう宣言した――「グウィディオンと()り合う」と。

 

『ラスタル様、しかし――ダインスレイヴは禁止兵器です!』

「分かっている。だが、話を聞かぬ子供には手を出さねばな。それに、既に種は撒いた」

 

ラスタルに取ってのダインスレイヴとは便利な道具であり、勝利を確約する手段である。

 

とりあえず数を揃え、音速で放たれるレアアロイ製の特殊弾頭で敵を面制圧する――厄祭戦時代より残される敵への有効な対処方法であり、ギャラルホルンのマニュアルにも残されている必勝戦術。

先日のアグニカ・カイエルの話を聞く限り、防御力の高いMAや俊敏なMA相手で必殺とは行かなかったようだが――足止めやMA以外の制圧には持って来いであり、MSに取っては最大の脅威となる。

 

マクギリス・ファリドと言う、大人になれぬ子供に制裁を与えるにはちょうど良いだろう。

 

『全軍、攻撃開始!』

『全艦、迎撃せよ』

 

マクギリスとラスタルがそれぞれの艦隊に指示し――ギャラルホルン最大の内乱たる「角笛戦役」の幕が開かれた。

 

 

 

 

内乱の予兆有りとの報告を受けたアグニカ・カイエル率いるギャラルホルン使節団は、グラズヘイムⅠへと上がった。

それとほぼ同時に、グラズヘイムⅠでは戦火を確認した。

 

「――始まったみてぇだな」

「ああ、あのアホ共め…! 初代から劣化し過ぎじゃねェのか、遺伝子仕事しろ! 遺伝子が働いて進化してんの、イシュー家の眉だけじゃねェか…」

 

ぼやきながら、アグニカは頭を抱える。

 

「私の眉がイシュー家の努力の結晶、みたいに言わないで下さい! カロム様を進化前にするのも!」

「いーや、カロムの意志通りに進化してるぞイシュー家は。とりあえず、お前で眉の進化は終わったようだがな。後は頬が弛み、歯が黒くなれば完璧だ。そうなれば、イシュー家の進化は完了する。もう少し頑張れ、イシュー家の遺伝子」

 

イシュー家の進化先を指定しつつ、アグニカは全艦の出航準備が整うのを今か今かと待っている。

 

「そうネガティヴに考えんなよ。改良したバエルを試す良い機会だと思えよ」

「いや、そうかも知れねェが思わんぞ」

 

ギャラルホルンの技術部とテイワズの技術班が共同で整備していたガンダム・バエルは、一応の強化を終了した。

行われたのは細かなギミックの増加とスラスターの強化、増設くらいではあるが。

 

「教官、イサリビとホタルビの出航準備が終わったらしいよ。持って来た鉄華団のMSと、教官のも詰め込んだって」

「そうか。手伝えなくて悪いな」

「教官は今、ギャラルホルンの偉い人なんだから仕方ないでしょ」

 

ただ待つアグニカと既に自艦の出航準備が終了したカルタとディジェの下に、三日月が来た。

鉄華団は、両艦の出航準備が整ったらしい。

 

本来ならばカイエル家のハーフビーク級戦艦「ヴァイシュヴァーナラ」を使節団改め仲介団の旗艦とする所だが、ヴァイシュヴァーナラは300年前に「天使王」ルシフェルに撃沈させられている。

よって、今回は鉄華団のイサリビがアグニカの座乗艦となり…必然的に、使節団の旗艦となる。

 

「後は、トリクのヨルムンガンドだけか」

「そうね。でも、そろそろ終わる頃よ。私達もそれぞれ移動しましょう」

 

カルタに続き、ディジェも動き出す。

それに合わせて、アグニカも動く。

 

「賛成だ。行くぞ三日月」

「うん。戦場に行ったら、全部潰せば良いんだよね?」

「全部は勘弁してくれ、今後のギャラルホルン…つまり俺が困る。パイロットを殺さず無力化してくれれば良い。どっちみち軍縮はする気だし、MSは遠慮無く壊してくれ」

「殺さず…難しいな」

「バルバトスには尻尾が生えたし、あれでやれ」

 

アグニカと三日月はイサリビに。

カルタはイシュー家のハーフビーク級戦艦「ラタトスク」に。

ディジェはバクラザン家のハーフビーク級戦艦「グリムカンビ」に。

 

それぞれ移動すると、ファルク家のハーフビーク級戦艦「ヨルムンガンド」に乗るトリク・ファルク二佐から出航準備完了との連絡が来る。

 

「連絡、来ました」

「だ、そうだ。どうする、大将?」

 

オペレーター席のメリビットが、そう報告する。

それを受けて、オルガがアグニカに問うた。

 

「止めろ、違和感しか無いわ。――とりあえず、戦闘宙域に向かう。ホタルビだけでなくラタトスクとグリムカンビ、ヨルムンガンドにも通達頼む」

「分かりました」

 

その僅か1分後、5隻の戦艦がグラズヘイムⅠより出航した。

使節団の何倍もの戦力が集う、グウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊の戦闘宙域に向けて。

 

 

 

 

戦況は、アリアンロッド艦隊の優勢であった。

端から見れば、2つの艦隊は正面から合間見えたようであろうが――実際はそうではない。

 

グウィディオン艦隊が横一直線に全艦を展開させたのに対し、アリアンロッド艦隊はラスタル・エリオンが座乗する旗艦「ファフニール」を中心としてブーメラン状に突撃態勢を取った。

それだけではなく、アリアンロッド艦隊はその10%の戦力を別働隊として潜ませ、グウィディオン艦隊の真横からぶつけた。

 

「准将、右翼が壊滅寸前です! 正面からも、敵の全軍が突撃してきます!」

「右翼には石動の軍を回せ。正面は、全艦で囲い込んで殲滅しろ」

 

マクギリス・ファリドが座乗するグウィディオン艦隊の旗艦「フェンリル」より、石動・カミーチェの操る「ヘルムヴィーゲ・リンカー」が出撃する。

このヘルムヴィーゲ・リンカーはヴァルキュリア・フレームではなく、グレイズ・フレームを素体として再現されたモノであるが――戦力としては申し分無い。

 

「右翼の立て直し、全うしてもらうぞ」

『はっ』

 

ヘルムヴィーゲ・リンカーと随伴するグレイズ達は、陣形立て直しの為に右翼へと向かう。

 

「よろしいのですか、准将」

「向こうは石動に任せておけば良い。正面の軍に対しては、私が直接前線にて指揮を執ろう。アスモデウスの出撃準備は?」

「完了しています」

「うむ。これよりは、臨機応変に対応する」

 

そう言い残し、マクギリスはフェンリルのブリッジを去った。

 

 

 

 

その頃、石動のヘルムヴィーゲ・リンカーは右翼へ到着し――別働隊を率いる、ジュリエッタ・ジュリスと相対した。

 

『中尉!』

『あれの相手は私がする、お前達は他を叩け!』

 

随伴機のパイロットに指示を出し、ヘルムヴィーゲはジュリエッタに襲いかかった。

 

『マクギリス・ファリドの腹心…この手で、私が討ち取る! この、ガンダム・レラージュリアで!』

 

ガンダム・レラージュリア。

アリアンロッド艦隊がラグランジュポイントで拾った機体を整備し直した、ジュリエッタ・ジュリスの新しい機体。

 

その名から分かる通り、アリアンロッド艦隊が拾った機体とはアグニカ・カイエルの話にも有ったガンダム・レラージェである。

かつての厄祭戦でMAの次に人々のヘイトを集めた「煽動屋」の最大組織「フヴェズルング」の副長、アマーリア・ウィーデンが使ったMS。

「四大天使」ウリエル戦に於いてコクピットを破壊され、以後ずっと宇宙に放逐されていた。

 

武装は全てが失われていたが、ジュリエッタがこれを使いたいとラスタルへ直談判。

ヤマジン・トーカ整備長の機転で、レギンレイズの発展型として開発中であった「レギンレイズ・ジュリア」のパーツを装着された。

 

かくして、ガンダム・レラージェはジュリエッタ・ジュリスを新たなパイロットとし――ガンダム・レラージュリアと言う名で、300年の時を越えて戦場へと舞い戻ったのである。

 

『――例え、ガンダム・フレームが相手であろうとも!』

 

ヘルムヴィーゲ・リンカーが大剣を振るが、レラージュリアはツインリアクターシステムが実現した高機動性を発揮して難なくかわす。

 

『何…!?』

 

両腕に装備されたジュリアン・ソードを構え、ヘルムヴィーゲに斬り掛かる。

 

『遅い!』

 

ヘルムヴィーゲの背後に回り込んだレラージュリアは、ジュリアン・ソードでヘルムヴィーゲのスラスターを破壊しにかかる。

しかし、剣はヘルムヴィーゲの重装甲に弾かれて終わる。

 

『――く…! 私の技量が、剣と機体に追い付いていない…』

 

ジュリアン・ソードは刀身が幾つかのパーツに分けられており、それらは特殊超硬合金のワイヤーで接続されている。

これにより、切断能力に長けるソードモードと蛇腹状のウィップモードを使い分けられる。

 

だが、その為に構造が脆弱であり分解しやすい。

剣の重量もそれ程ではないので、力の掛け方を調節出来なければ敵機の装甲を斬り裂けず弾かれてしまうのだ。

この力の調節は、熟練のパイロットであろうと生半可な事では成功しない。

 

同じく剣の重量が軽めであったグリムゲルデを自在に操り、ガンダム・キマリストルーパーを追い詰めたモンタークことマクギリス・ファリド。

グリムゲルデにスラスターを増設した為にピーキーさが増したグリム・パウリナを使い、2本の剣でMAさえ斬り捨てたアラズ・アフトルことアグニカ・カイエル。

 

この両者しか、軽い特殊超硬合金を採用した剣を十全/十二分に扱った者はいないのだ。

 

『それでも!』

 

一時離れ、レラージュリアは剣を交差させてヘルムヴィーゲに突撃する。

対するヘルムヴィーゲは剣を振り上げ、突撃して来るレラージュリアに振り下ろした。

 

2本の長剣と1本の大剣が衝突し、火花を撒き散らす。

 

『ラスタル様の勝利のために!』

『准将の望む世界を!』

 

ラスタル・エリオンとマクギリス・ファリド。

それぞれに命を捧げた2人が、意志をぶつけ合った。

 

 

 

 

セブンスターズ第二席「ファリド家」。

フェンリス・ファリドを初代当主とする、ギャラルホルンの実権を握る「セブンスターズ」の一席――だが、その血脈は先代当主イズナリオ・ファリドを最後に潰えた。

 

イズナリオ・ファリドは異性に対し劣情を抱けぬ者――控えて言えば男色家、俗に言えばホモだった。

それもただのホモではなく、子供――控えて言えば幼い男子、俗に言えばショタしか食えないたちの悪いホモだった。

 

彼はその権限を笠に着て多くの男娼を用意させ、毎夜それを慰み物としていた。

その男娼の1人をイズナリオ・ファリドは気に入り、自らの養子とした。

 

この男娼こそが、マクギリス・ファリドだった。

マクギリスはイズナリオを陥れて隠遁させ、殺害する事でファリド家の実権を握った。

故に、マクギリスにはファリド家の血は流れていない。

 

そんなファリド家が所有するガンダム・フレーム――それこそが、ガンダム・アスモデウス。

そのガンダム・アスモデウスが、グウィディオン艦隊の旗艦「フェンリル」より出撃した。

 

『グウィディオン艦隊、アリアンロッド艦隊を迎撃せよ! 決して怯まず、相手を叩きのめすのだ!』

 

マクギリスはアスモデウスのコクピットからそう指示し、それを示すべくアスモデウスに槍を構えさせて眼前の敵機を貫く。

続いて別の機体を斬り捨てた所で、グウィディオン艦隊のMSは志気を高めながらアリアンロッド艦隊へと襲いかかった。

 

だが、戦況は既に志気だけで動かない。

別働隊は石動・カミーチェ中尉の率いる部隊が足止めしているが、グウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊ではアリアンロッド艦隊の方が数は多く――各兵の錬度も、アリアンロッド艦隊の方が高い。

 

しかし、打開策は有る。

アリアンロッド艦隊の旗艦たるスキップジャック級戦艦「ファフニール」さえ落とせたならば、戦局は一気にグウィディオン艦隊へと傾く。

マクギリス・ファリドの腕とガンダム・アスモデウスの性能が有れば、防衛網を突破してファフニール…それに座乗するラスタル・エリオンに痛打を与えられる。

 

アリアンロッド艦隊を指揮しているのはラスタルのみであり、ラスタルさえ倒せたならばアリアンロッド艦隊の指揮系統は混乱状態となる。

それに乗じてイオク・クジャンとガエリオ・ボードウィンを殺せば、アリアンロッド艦隊は崩壊する。

 

『この後に及んでなお抗うのか、マクギリス』

『チッ』

 

そう企むマクギリスの前に、ガンダム・キマリスヴィダールを操るガエリオ・ボードウィンが立ちふさがった。

 

『俺の道に立ちふさがるか、ガエリオ』

『ああ。俺はお前を倒す。アインの誇りを踏みにじったお前は、絶対に許さない』

『そうやって他人の為だと言って自らを正当化し、自身の行動を正義とするその偽善――いつまでも変わらんな。いい加減素直になったらどうだ…「よくもこの俺を殺そうとしたな」と』

『俺はもう、お前の戯れ言に耳を貸さない。話しても分かり合えない事は、先日確認した』

 

キマリスは右手に保持するドリルランスを持ち上げ、アスモデウスに突き付けた。

 

『俺は、お前を倒すだけだ。力を貸してくれ、アイン』

 

キマリスヴィダールに搭載された「阿頼耶織TYPE-E」が起動し、機体のリミッターが解除される。

 

『話は聞いているぞ、ガエリオ。「阿頼耶織TYPE-E」――アイン・ダルトンの脳をベースとした「疑似阿頼耶織」であり、システムを介する事で阿頼耶織最大の弱点である情報のフィードバックを乗り越えて機体の全霊を引き出せる』

 

人の脳を模したシステムに脳の負担を肩代わりさせ戦う、ヤマジン・トーカが開発した非人道的システム…それが「阿頼耶織TYPE-E」である。

 

このシステムの概要を厄祭戦時代の科学者が聞けば、その狂気に戦慄するだろう。

「阿頼耶織」を作った彼らだが、それを使うか否かは施術させられる本人の意志を尊重した。

だが、これは意志に関わりなく強制的にシステムにしてしまうモノだ。

 

『だが、アイン・ダルトンはお前が受けるハズだった脳の負担を肩代わりする。その時、アイン・ダルトンを犠牲としてお前は生き延びる。惨いコトだな』

『お前がやった事よりはマシだ、マクギリス』

 

アスモデウスは、右手で槍を構えてキマリスに突き付ける。

 

『よく言う――同罪だろう、ガエリオ』

 

交わされた言葉は、それで終わりだ。

アスモデウスとキマリスは、瞳を輝かせ――相手をねじ伏せるべく、武器を交錯させた。




アグニカポイント新規取得
ジュリエッタ・ジュリス 560AP
マクギリス・ファリド 390AP
ガエリオ・ボードウィン 60AP
石動・カミーチェ 10AP
地球外縁軌道統制統合艦隊(グウィディオン艦隊)のMS部隊の皆様 10AP
月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド艦隊)のMS部隊の皆様 10AP


オリジナル設定解説のコーナー。

トリク・ファルク
「ガンダム・アモン」のパイロットで、ファルク家の次期当主。
「植物の心のような生活」が座右の銘で、どこぞの殺人鬼みたいだが、別に殺人鬼ではないのでご安心あれ。
と言うか、穏やかなのでマクギリスよりマトモ。

ラタトスク、フェンリル、フギン・ムニン、グリムカンビ、ヨルムンガンド
ボードウィン家のスレイプニルと同じく、セブンスターズが個人所有するハーフビーク級宇宙戦艦。
初めからイシュー家、ファリド家、クジャン家、バクラザン家、ファルク家。
バエルカラーに塗り直されたフェンリルを除き、全てが各家のガンダムと同じ色で塗られている。
また、フェンリルは現在グウィディオン艦隊の旗艦とされている。

ファフニール
エリオン家が個人所有するスキップジャック級大型戦艦であり、アリアンロッド艦隊の旗艦。
セブンスターズの内エリオン家だけがスキップジャック級大型戦艦を持っているが、これは初代当主の時代に造られたスキップジャック級大型戦艦を他の当主が使いたがらなかったかららしい。

ASW-G-14j ガンダム・レラージュリア
全高:30.3m
本体重量:45.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:レギンレイズ・ソード×1
   レギンレイズ・シールド×2
   ジュリアン・ソード×2
   バルカン×2
   機関砲×2
   脚部クロー×2
   脚部ブレード×2
概要
アリアンロッド艦隊が宇宙で拾ったガンダム・レラージェを、建造中だったレギンレイズ・ジュリアのパーツを使って強化した機体。
ジュリエッタ・ジュリスの専用機とされ、アリアンロッド艦隊でこの機体を十全に扱えるパイロットはガエリオとジュリエッタくらいである。
武装はレギンレイズ・ジュリアと同一だが、ガンダム・フレームとなったことで出力は段違いとなる。
全高が30mもあり、20mが平均のMSとしては大型となった。


ド派手にやらかすグウィディオン&アリアンロッド。
アグニカのお叱りは免れませんね…。

次回「明けの明星(予定)」。
案の定、特殊読みするタイトルですが…ルビは非公開です。

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