鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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Q.数週間空けたと思ったら、数日で投稿したりする傍迷惑な作者は?
A.私です。燃え尽きました。今度は数週間空きますよ多分。

そんな感じで一日空けての投稿になります。
かなりSAN値と執筆意欲を削られたので、次の投稿は遅れる事間違い無しです。


タイトルは「別離(わかれ)」と読んで下さい。

後、アグニカとスヴァハが話している間に他のガンダム達はMAを壊しまくっています。
今回はアグニカとスヴァハの描写を優先した為、カットしました。
ガブリエル戦では細かく戦闘シーンをやる予定なので、お許しを。


#50 別離

ガンダム・アガレスの胸部に、ミカエルが放った3基のブレード・ファンネルが突き刺さる。

それはレアアロイを当たり前のように貫通し、アガレスの胸部に致命傷を与えた。

アガレスの胸部で小さな爆発が起き、機体は胸部パーツが破壊された為に左右に分解した。

 

「スヴァハ!!!」

 

バエルが飛び寄り、コクピットが残ったアガレスの右半分を掴まえる。

掴まれなかった左半分は、左側のエイハブ・リアクターと共に地面に落ちた。

 

『全員、バエルを守れ!』

『クソが!!』

『テメェ…このオレにつまらねェ場面を見せるンじゃねェよ、バケモンがァ!』

 

アガレスの残骸を傷付けないよう、バエルがゆっくりと降下する。

それに迫るファンネルとプルーマを、ガンダム達が残らず叩き落として行く。

 

だが、そんな光景はアグニカには上手く見えていない。

彼の視線はただ、3基のブレード・ファンネルに貫かれたアガレスにのみ注がれていた。

 

 

 

 

地上に着き、バエルでアガレスを抱き上げる。

歪んでグシャグシャになった胸部装甲を力づくで引き剥がし、俺はコクピットから出て乗り移る。

そして、アガレスのコクピットを覗き込んだ。

 

「―――ッ!!」

 

俺は拳を強く握り締め、拳から血が滲み出す。

しかし、俺にそれを知覚する余裕はなかった。

 

「――ア、アグニカ…?」

 

アガレスのコクピットを覗き込んだ俺の視界には、受け入れ難く認められない現実が有った。

 

特殊超硬合金のブレードが、身体の左肩から右足までを貫いていた。

歪んで外れた機体のパーツが左足の太股に突き刺さっており、もう1基のブレード・ファンネルが左肩から右足を貫いた物と交差する形で右の肺を潰している。

身体中から血が吹き出してシートを汚し、重傷で痛みさえ無いと思われる。

 

即死していないのが、まさしく奇跡だろう。

だが―――その程度を奇跡と呼べるのか、俺には分からなかった。

 

「そこに、いるよね…? ゴメンね、赤くて分からないよ――」

 

両目に血が流れ込んでいるらしく、俺の姿は良く見えていないらしい。

俺は震えた声で「ああ、いるよ」と答えつつ、自分の無力さに歯噛みする。

 

――何が、「お前は俺が守る」だ!?

何にも出来なかったじゃねェか!!

 

何にも、何にも!!!

 

そんなザマで、よくあんな事をほざけたなオイ!!

たかが遠隔操作、たかがブレードさえ叩き落とせねェくせによ!!

スヴァハを止められず、死地に飛び込ませて、結局は守り切れずに―――こんな結末にしか、お前は出来なかったって言うのか!!?

 

「――泣かないで、アグニカ…」

 

唯一動くらしい右手を頼りなく伸ばして、スヴァハは俺の左頬に触れる。

いつの間にか、俺は涙を流していたようだ。

義眼になっている右目からは流れず、ただ左目から涙が溢れる。

 

「…笑って、アグニカ。私は、泣き顔より――笑顔が好きだから。いつも、私の側で…私を安心させてくれる、笑顔を見せて…」

 

スヴァハの言葉とは裏腹に、俺は歯を食いしばる。

死に際でもこんな事を言ってくれるスヴァハを――俺は、俺は…!!

 

「あんまり、自分を責めちゃダメ…だよ。アグニカは、私を何度も助けてくれたし…とても優しい、私の大好きな人だから―――ゴメン、ね…一緒に生き残ろう、って…約束…守れなかった…」

「―――そんな事無い。有る訳無いだろ! まだ何とかなる、まだ…まだ、まだ死ぬな! 俺はまだ、お前と…お前と生きていたい――!!」

 

その言葉で、スヴァハは少しだけ表情を和らげて。

 

「――ありがとう…でも、分かってるよ…」

 

俺に話し掛ける声が、だんだん掠れて小さくなって行く。

口元には血が滲んで、息も絶え絶えになって。

それでも――最期の力を振り絞って、スヴァハは俺の頭を抱き寄せて。

 

 

俺の唇と自分の唇を、そっと触れ合わせた。

 

 

その口付けに、いつものような甘さと温もりは無く―――苦い鉄の味と、冷たさだけが有った。

 

「――私、本当に…幸せだよ。ありがとう、アグニカ…」

「ッ―――ああ、俺もだよ…」

 

更に、涙が溢れ出す。

俺はそれでも、必死に口角と眉を上げる。

どれだけ酷くても――最期は、スヴァハの好きな笑顔で別れたかったから。

 

それが嬉しかったのか、スヴァハは満面の笑みを浮かべると共に一粒の涙を零し――

 

 

「…大好き、だよ―――」

 

 

頬に添えられていた腕が、突如として重力に引かれ――彼女の()を吸ったブレード・ファンネルの刃に触れて、前腕から千切れ落ちた。

 

「―――ッ、――!!!」

 

声すら、出す事が出来なかった。

斬れた腕から吹き出して掛かる血も気にならず、外で行われている戦いも気にならず――ただ1つ認識出来たのは、圧倒的な哀しみのみ。

 

俺はただ、声も出せずにただ泣いた。

もう動かなくなった、スヴァハだったモノの前で。

 

 

 

 

『これで!』

 

パイモンが飛び、太刀でブレード・ファンネルを両断する。

ベリアルに乗るドワームはそれを見て、側でミカエルのプルーマを潰していた仲間に声を掛ける。

 

『他のMAは、アイツらが抑えてくれている! 今の内に、ミカエルを殺す! 全機、リミッターを解除して奴に立ち迎え! スヴァハの仇討ちだ、容赦はするな!!』

 

ドワームはそれだけ命令し、ベリアルのリミッターを解除した。

レアアロイ製の大剣「グラム」を片手で持ち、全速でミカエルに肉薄する。

他の機体も、同じようにミカエルを攻撃するが。

 

『    』

 

ミカエルは重力さえ無視したかのような巨体にあるまじき俊敏な動きで、空中から迫る機体をワイヤーブレードと右のアームで一蹴。

左のアームで地面に張り付いたまま、翼のダインスレイヴと拡散ビーム砲、更に頭部のビーム砲も発射する。

 

『クソ!』

『速い…あの身体でよく動くな?』

『チ、絶対にブン殴る!』

 

あえなく弾き飛ばされたガンダム達だったが、すぐに反転して再攻撃を仕掛ける。

その中で、漆黒の機体がミカエルに取り付いた。

 

「死ね…!」

『   』

 

取り付いたグラシャラボラスが、テイルブレードをミカエルのナノラミネートコートの隙間に突き刺した後に装甲を剥がしに掛かる。

それに一瞬怯んだミカエルの隙を逃さず、多くのガンダムがミカエルに張り付いて攻撃する。

 

『      』

 

だが、ミカエルのナノラミネートコートは特殊超硬合金の武器しか通さない。

特殊超硬合金は貴重なので、攻撃を通せる機体がどうしても限られる。

 

『カロム、頼む!』

『はああああ!!』

 

特殊超硬合金の太刀を武装とするパイモンが、自身に向かって振られたミカエルの右腕を両断する。

その間にミカエルの下に入り込んだフォカロルが弾幕を張り、プルーマの製造機構を破壊した。

 

『            』

 

そこまでされた所で、ミカエルの背部が発光した。

 

『何の光!?』

 

狼狽するラカンガンダムパイロット達だったが、攻撃は休めない。

ただ、ミカエルに取っては蚊に刺される程度の傷なのか――その攻撃など意にも介さず、ミカエルは背部からミサイルポッドを生やした。

 

『          』

 

発射管が開かれ、中から白いミサイルが飛び出す。

いや――「ミサイルのような物」が飛び出した。

それは空中で下側から開き、プロペラを展開して滞空する。

 

『あれは…?』

『何だ、あの兵器は――まさか』

 

リックが感づくと同時に、ミカエルが拡散ビーム砲を放った。

それが滞空するミサイルのような物に当たると、()()()()()()()()

 

屈折したビーム達は四方に飛び散り、翼に直撃を受けた1隻のレキシントン級が撃沈する。

 

『リック、あれは何だ!?』

『「リフレクター・ビット」だ! 落とすぞ!』

 

リフレクター・ビット。

宇宙世紀時代、一部の大型MSや大型MAに搭載されたビームを屈折させる効果を持つ補助兵器だ。

拡散ビーム砲を放ち、このリフレクター・ビットで反射させる事で様々な方向へのバラバラな同時攻撃を可能とする。

宇宙世紀には「MRX-010 サイコ・ガンダムMk-Ⅱ」「AMA-X7 シャンブロ」が搭載していた、と言われているが定かでは無い。

 

『…これが、「四大天使」ミカエルの特殊機能――「自己進化」か』

『クソ、厄介過ぎる…!』

 

ミカエルは拡散ビーム砲を乱射し、周囲のプルーマとザドキエルごと周囲を焼き払って行く。

その攻撃は空にも及び、残った2隻のレキシントン級も撃沈される。

 

『クソ、制空権を取られる!』

『敵の飛行可能MA、行動を開始!』

『落とせ、もしくは足止めしろ! こんな所で、全滅なんて――』

『殺す、殺す殺す…!!』

 

ガンダム達が飛び回るが、ミカエルはそれを翻弄し優位に立ち続ける。

そんな中、ガンダム・デカラビアとガンダム・グラシャラボラスがミカエルに肉薄する。

 

『食らええ!!』

 

デカラビアが、背部の拡散型ダインスレイヴこと「レーヴァテイン」を放つ。

プルーマとリフレクター・ビットの包囲に隙が出来た所に、四つん這いで走るグラシャラボラスがミカエルが飛び付く。

 

『ああ、アアアアアアアアア!!!』

 

グラシャラボラスがミカエルのナノラミネートコートに牙を突き立て、それを払おうとするミカエルのワイヤーブレードをテイルブレードで弾く。

 

『aaaa、aaaaaaa―――!!』

『…なあ、あれ大丈夫なのか…?』

『分からんが、チャンスだ。全軍で畳み掛けるぞ、この期を逸すれば奴を倒す機会は無いと思え! 全員、その身を対価とし敵を撃滅せよ!!』

 

ほぼ全てのガンダムが瞳を赤く輝かせ、音さえ置き去りにする速度でミカエルに飛びかかる。

ミカエルは徐々にナノラミネートコートによる鉄壁の護りを綻ばせるが、攻撃の手は決して緩まない。

 

『うらァ! ――よし、ビーム砲を…がっ!』

『イシュメル! クソ…!』

 

デカラビアが吹き飛ばされ、その穴を埋めるようにダンタリオンが殴りかかる。

 

『          』

 

ミカエルの全武装が発射され、同時にミカエルは横へ回転。

放たれた攻撃はリフレクター・ビットに弾かれたりプルーマや他のMAを破壊したりしながら、周囲を蹂躙する。

それに巻き込まれ、ガンダム達も殆どが引き剥がされた。

 

『クソ――!』

『情けない…一矢も報いられないの―!?』

 

ワイヤーブレードを揺らしながら、ミカエルは2枚の翼を大きく広げる。

そして、その裏のスラスターを全て点火させた。

 

『aaaaaa!!』

 

しぶとく張り付いていたグラシャラボラスを引き剥がし、ミカエルの身体が浮いて行く。

その遥か上空には、輸送用MA「サハクィエル」が来ていた。

 

『逃がすk…クソ、言う事聞け! ここで逃がしたら…!!』

『動け…ここまでだと言うのか…!?』

 

叩き落とされた機体の幾つかが、関節をガタガタにされた為に機能を停止する。

僅かに動く機体がミカエルへと吶喊するが、正確無比なダインスレイヴの射撃によって一蹴される。

そうして、ミカエルが高度100mにまで到達したその時。

 

 

ミカエルが、地面に叩き付けられた。

 

 

『―――え?』

『       』

 

全員が、目を丸くする。

唖然としたのは、落とされたミカエルも同じだ。

 

当然かも知れない――ガンダムが40機も群がって歯が立たないような化け物(ミカエル)が、たった1機のガンダムによって地に墜とされたのだから。

 

『――アグニカ…?』

 

空に在ったのは、ミカエルを叩き落とした1機の悪魔――ガンダム・バエルだった。

そして――()()姿()()()()()

 

『  』

 

ミカエルは、背部のワイヤーブレードを全て斬り落とされていた。

そこには、先程まで空にいたバエルがいる。

 

勿論、バエルにワープやテレポートなどの特殊能力は無い。

バエルはただ、機体のスペックさえ上回る速度で機動しミカエルの背後を取ったに過ぎない。

 

『            』

 

ミカエルが、今までで一番強く吼えた。

その身体に宿る7基のエイハブ・リアクターがフル稼働し、たった1機の悪魔を狩るべく全力が引き出される。

 

しかし、それは必然だ。

何を隠そう――ミカエルも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

ミカエルはその高精度AIで超高速演算し、バエルを自身の全武装全総力全戦略を以て排除すべき対象であると判断した。

 

ビーム砲が、ダインスレイヴが、プルーマが、アームが、バエルを排除する為だけに最大稼働する。

ガンダム・フレーム40機をあしらった四大天使に対する大悪魔は、何の焦りも見せず――ただ、その両眼を血の色で染めた。

 

 

―――それから決着が付くまでは、数分と掛からなかった。

 

 

バエルは右半身と右側のエイハブ・リアクターを失い、残された左手で保持した剣を突き立ててミカエルを殺した。

倒されたミカエルは、2枚の翼を斬り落とされて尻尾も引きちぎられ、腕も破壊されてコンピューター部を粉砕された。

たった、それだけの事。

 

一度目に剣を突き刺した後、バエルは二度目三度目と剣を突き刺す。

それを受けて、ミカエルは完全に沈黙した。

自爆さえ許されず、四大天使の一角たるMAミカエルは討伐されたのだ。

 

『終わった、のか…?』

『――aaa、aaaaaaa!!』

 

…いや、まだ終わっていない。

ミカエルとザドキエルを殺す為に全力を開放させた最凶のガンダム・フレームが、この戦闘で暴走を起こした。

 

『aaaaaaa、aaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

グラシャラボラスが、半壊したバエルに飛びかかった。

 

この悪魔「グラシャラボラス」と契約していた人間に、もう意識などは無い。

全てを取り込まれ、本能のまま殺戮のみを欲する存在となっている。

 

「―――」

 

襲われたバエルは、ミカエルの死骸から剣を引き抜き。

 

『aaaaaaaaaaaaa――』

 

向かって来たグラシャラボラスのコクピットを、黄金の剣で貫く。

グラシャラボラスはその機能を停止し、バエルの前で倒れ果てた。

 

――家族の復讐の為、殺戮の悪魔と契約せし者は。

最期には暴走を起こし、自らを拾った者の手でその命を断たれた。

 

「―――あー、参った…何も、変わらないな」

 

アグニカはそれだけを口にし、意識を失う。

ボロボロとなったバエルは、それと同時にミカエルの死骸の上へと倒れ込んだ。

 

 

 

 

ミカエル討伐作戦「熾天使殺し(オペレーション・シヴァ)」は、終了を迎えた。

ミカエルが随伴していたMAはその全てを撃破し、「天使長」ザドキエルと「四大天使」ミカエルも破壊に至った。

 

が、その代償はウリエル戦より酷いモノとなった。

 

作戦に参加した戦艦はバージニア級戦艦「サロモニス」とマンリー級強襲揚陸艦の3隻を残して、レキシントン級大型輸送機3機とマンリー級強襲揚陸艦2隻が轟沈。

MSは「ガンダム・アガレス」「ガンダム・グラシャラボラス」とそのパイロット、「ガンダム・グレモリー」のパイロットと「ガンダム・デカラビア」を損失した。

他にも「ガンダム・バエル」が大破し、それ以外の機体も中破してしまった。

 

損傷を負っていない機体は無く、残った戦艦も多かれ少なかれ傷付いた。

 

『使えそうな部品は全て回収しろ! 特にバエルとアガレスの物は念入りにな! 後、行動不能になったガンダム各機の収容も急げ!』

 

ヘイムダルは、戦闘後の後始末に忙殺されていた。

大物であるミカエルの残骸も回収され、サロモニスに懸架される事となっている。

これも、本来はレキシントン級大型輸送機で運べるかと思っていたのだが。

 

『作業が終わり次第、北太平洋に在る「ヴィーンゴールヴ」へ向かう。海に入った部品は除染が面倒になる、諦めろ』

『ドワーム、グレモリーはどうする? フレームは殆ど残ってるが』

『すまん、回収頼む。私の機体が無くなったから、グレモリーを…』

『――らしい。回収してやれ』

 

コクピットは焼かれ、全身のナノラミネートアーマーは高度からの落下でひしゃげたが、グレモリーのフレームはまだ残っている。

大いに戦力を損耗したヘイムダルとしては、回収しない選択肢は無い。

 

ドワームは全体への通信を切り上げ、ブリッジクルーに話し掛ける。

 

「アグニカは?」

「先程、アガレスと共にバエルを収容しました。ただ――意識が戻らないそうです」

「そうか…私も、左足を持って行かれたからな。それで、何も出来なかったのだ。ミカエルを殆ど単独撃破したアグニカは、何を持って行かれたか――」

 

クルーから報告を受け、ドワームは歯噛みする。

 

作戦前の演説で、アグニカは「あらゆる手段、戦術、技術、能力を用い、最強たる『四大天使』ミカエルを討伐する」と言った。

敢えて口にはしなかったのだろうが、そこには「仲間を踏み台にしてでも、大切な人を危険に晒してでも、自分が壊れるとしても」と言う意味合いも有ったのだろう。

 

事実、ヘイムダルはミカエルの討伐に成功したが――まだ、「四大天使」たるMAは残っている。

 

あらゆるMAを生み出したマザーMA、「四大天使」ガブリエルが目下の最優先攻撃対象だ。

だが、ガブリエルは月面に防衛要塞「百合の花園(ヘブンズフィア)」を建造しその最奥に引きこもって出てこない。

必然、こちらから攻め込まねばならないのだが――今、その防衛要塞には多くのMAが集結して防衛網を築き上げている。

これが完成してしまえば、ガブリエルの撃破は困難を極めるだろう。

 

急ぎ月へと向かい、ガブリエルを撃破するのが最善手である。

しかし、そんな作戦を行う戦力はヘイムダルには無く、ミカエル戦での戦力消耗と疲弊は多かった。

 

現在のヘイムダルがすべき事は、何よりも戦力の立て直しだ。

その為には、地球上で唯一それが可能であるヴィーンゴールヴ基地で戦力を整える事が必要だ。

ついでに、ヴィーンゴールヴで建造されている新たなMSも受領する。

 

ガブリエル討伐作戦の名前はアグニカに考えてもらうとして、その際には四大経済圏にも協力を仰いで人類が持ちうる全ての戦力を注ぎ込まなければならない。

人類の存亡が賭けられる戦いに於いては、全戦力を注ぎ込む必要が有ると判断する。

 

「――雨が降り出したか。作業、急げよ!」

『了解!』

 

 

 

 

目を開けると、そこには見知った天井が映った。

 

「―――知らない天井だ」

「テンプレを言う余裕くらいは有るようだな、アグニカ」

 

横を見ると、俺が寝そべるベッドの横の椅子に人が座っている。

白衣を着込み、俺と同じ赤髪を持つ男が。

 

「…目覚めて初めて、見て聞く奴がアンタとはな――クソ親父」

「酷い言い草だな。流石の俺も傷付くんだが」

「やかましい。近頃は目覚めてから初めて見る人間がスヴァハだった俺に取って、目覚めてからオッサンが映るとか嫌なんだよ」

 

スリーヤ・カイエル。

ツインリアクターシステムを創り、ガンダム・フレームを造った天才科学者だ。

 

「とりあえず、状況の説明を求める」

「寝起きにしては頭が回るな? まず、ここが何処かは分かるだろう」

「…ヴィーンゴールヴの、俺の部屋だろう? 俺が寝ている間に到着したって事か」

「如何にも」

 

それから、聞いた事は以下の通りだ。

俺は10日程意識不明で、ヘイムダルの残留戦力の全てがヴィーンゴールヴに集まっている。

サロモニスには新型MS「ヴァルキュリア・フレーム」を9機配備し、パイロットも確保済み。

 

大破したバエルは、アガレスの余剰パーツも合わせて整備中。

外れたエイハブ・リアクターは制御不能となっていた為に回収は諦め、代わりにアガレスのエイハブ・リアクターで同調を図っている。

 

「ツインリアクターシステムをやるには、波長の近いエイハブ・リアクターが2基いるんじゃなかったのか」

「ああ。だが忘れたか? 試験機のバエルと実証機のアガレスでは、互換性が取れるようになっている事をな。全ガンダム・フレームで互換性を取る事は無理だったが、バエルとアガレスに関してだけは抜かり無い」

 

装甲の形状も同じなので、手間は塗り替えるくらいだ。

これらはクソ親父ではなく、マッドサイエンティストの提案によるモノだった。

 

「問題は、お前の身体だが――結論から言おう。お前は、()()()()()()()()()()()。脳髄の一片に至るまで、悪魔に絞り取られた事になる。命令を出す脳までダメになった以上、お前はバエルが無ければただの木偶人形だ」

 

…衝撃は少なかった。

元々、予想出来ていた事だ――大駕のように、暴走しなかっただけ良いだろう。

 

「…じゃあ、俺は何で――」

「『阿頼耶織』を付けずに動けてるのか、か? 無線で、バエルと接続しているからだ。阿頼耶織は本来有線式のシステムだが、無線で繋げない訳では無い。その状態でバエルを動かす事は無理だろうが、身体は動かせる。まあそれも、魂を取られなければだがな」

 

つくづく恐ろしいな、この科学者共。

本当にくたばっとかないと、人類ヤバいんじゃ…。

 

「――今までの事は、お前の仲間から聞いた。ヴィヴァトの無駄に格好良い最期や、スヴァハちゃんの最期…お前の暴れようもな。その上で、だ」

 

クソ親父は立ち上がり、俺に頭を下げて来た。

 

「――俺を殴れ。殺そうが、文句は言わん。スヴァハちゃんが戦場へ出る事になったのは、俺がパイロットになってくれないかと頼んだからだ。その為にお前を、お前が何よりも守りたかった人を死に追いやった」

 

―――恨んでいない、などとは言わない。

コイツは正真正銘のクズ野郎で、スヴァハに話を持ち掛けたのもコイツだ。

だが。

 

「…要らん。そんな事をして、スヴァハが帰って来る訳じゃない」

 

ミカエルを(こわ)した時、その事に気付いた。

仇は討ったが、そこでは何も得られなかった――いや、むしろ喪っただけかも知れない。

 

在ったのは、変わらない喪失感と空虚感だけ。

 

俺は仇を討つ為に悪魔に身体を捧げて力を得て、自分を捨てた。

そんな事を、他ならぬスヴァハは望むハズも無いのに。

 

「――すまない。俺は、お前に何も与えられなかった。不出来な親だよ」

「不出来って言うか、ただのバカだろ」

「違い無い――俺の決断でこんな結末を招いておいてなんだが、俺はまたやらかした」

「オイちょっと待ていい加減にしろクソ親父、そこは自重しろよ」

 

さり気なく、俺やらかしました宣言するクソ親父。

今度は何した、ヴァルキュリア・フレームに何を仕込んだんだ。

いや、整備中の俺のバエルか仕込まれたの。

 

「付いて来て欲しい。そして見ろ、俺の過ちを」

「もう既に過ちとか言ってる時点で、完全にやらかしやがってるなテメェ」

 

このクソ親父が最初から過ちだと断ずるとか、相当だぞ。

阿頼耶織の時は「人類の生存の為」とか大義名分を振りかざして自分の理論を正当化していたのに、今回はそんな大義名分を鑑みてなお過ちなのだろう。

 

マズいな。

 

そんな事を思いながらベッドから出て、クソ親父に付いて行く。

クソ親父は、ヴィーンゴールヴの後部へと歩いている。

後部には、使われていないブロックが有ったハズだが――

 

「…どこへ向かってるんだ?」

「お前が知らないのも無理は無いだろう。何せここは、ヴィヴァトさえ知らなかった場所だ」

 

クソ親父は隠し階段を下り、隠し通路を進み、隠し扉を開いた。

隠されすぎだろ、と言うツッコミは――案内された場所に在ったモノを見て、消えた。

 

「……コイツは」

「――人類、最大最期の切り札だ。コイツの力は絶大でな、全戦力が引き払ったヴィーンゴールヴはコイツに守られた。今、コイツの恩恵は海にも広がっている。コイツの特殊能力(ナノマシン)を持ってすれば、海に溶けた放射線物質を全て分解出来るからな」

 

そして、クソ親父は俺にタブレットを渡して来る。

それを見て、俺は完全に言葉を失った。

 

「まさに『最強』たる存在だ――これを手に入れた事、それが俺の最大の過ちだよ。いや、人類の過ちかも知れんが」




挿絵を用意してみたのですが、流血が多かったので本文中には貼りませんでした。
せっかく描いたので、此処に貼っては置きますが…クオリティの低さはお察しあれ。

【挿絵表示】



オリジナル設定解説コーナー。

ミカエル
全長:172.7m
本体重量:不明
動力源:エイハブ・リアクター×7
武装:頭部ビーム砲×1
   腹部圧縮ビーム砲×1
   翼部拡散ビーム砲×2
   腕部クロー×2
   超硬ワイヤーブレード×10
   リフレクター・ビット×30
   ファンネル×100
   ブレード・ファンネル×100
   ダインスレイヴ×6
   プルーマ×∞
特殊機能:自己進化
概要
「四大天使」の一角にして、その中で最強のMA。
全長170mを超える長大な翼を2枚と巨大な腕2本を持ち、それを7機搭載されたエイハブ・リアクターの超出力によって運用している。
体には4門ものビーム砲を持つ他、ワイヤーブレードを10本も装備する。
また、「ファンネル」を使用可能。
ファンネルはビーム砲を積んだ漏斗型ファンネルとブレード・ファンネルの2種に分けられ、100機ずつ搭載している。
翼にはダインスレイヴを3基ずつ搭載しており、特殊機能として「自己進化」を持つ。
デビルガンダムで言うグランドマスターガンダム。
名前の由来は、旧約聖書など多くの文献で語られている「四大天使」の一柱であり、「慈悲」や「正義」を司るとされる大天使「ミカエル」から。
熾天使ミカエルは魔王サタンを滅ぼした最強の天使であり、この名は「神の如き者」「神に似たもの」と言った意味を持つ。
「オルレアンの乙女」などと讃えられる聖女ジャンヌ・ダルクに啓示を与えたのは、他ならぬミカエルであるとか。
地球上で活動し、ヘイムダルの日本基地とベルファスト基地を襲撃したりして多くの犠牲を出した。
最後は覚醒したバエルとの一騎打ちになり、破壊された。

阿頼耶織の無線化。
無線通信により、パイロットのピアスと機体のコネクトを接続させる。
機体を動かす事は出来ないが、パイロットの身体障がいを無くす事が出来る。
エイハブ・リアクターによる電波障害を無視出来る特殊電波が用いられるが、厄祭戦後にはこの電波がロストテクノロジーとなっている。

バエルとアガレスの互換性などの関係については、前回にさり気なくほのめかしてあるので見逃して下さい。


かなり飛ばし飛ばしでしたが、ミカエル戦はこれにて終了です。
次回からは、いよいよガブリエル戦へ向けて動き出します。
あまり活躍していない機体は、ここが見せ場だったり…ちょっと、ガブリエル戦はじっくりコースを歩みたいですね。

まだ現代には戻れませんが、過去編も後半突入ですのでもう少しお付き合い下さい。


次回「百合の花園(ヘブンズフィア)(仮)」。

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