鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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今回から、オリジナル展開に突入します。
何度も言いますが、慈悲深く温かく優しい仏のような目でご覧下さい後生ですm(__)m


過去編(厄祭戦編)
#33 天使を造りし人間達


アグニカ・カイエルの演説、その翌日。

セブンスターズ会議場には、セブンスターズの血を継ぐ者全員と鉄華団のメンバー。

 

そして、ギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルの姿が有る。

彼はギャラルホルンの軍服に身を包み、その首元には最高幕僚長の階級証が輝いている。

 

また、イシュー家の椅子が置かれた机の対岸には椅子が2つ増えていた。

 

片方はカイエル家のモノ。

もう片方が誰のモノなのか、アグニカは語ろうとしない。

 

「――世界は今、大混乱だ。テメェがホンモノか、ニセモノか。ホンモノだとしたら、何故こんな時代にいるのか。ニセモノなら、何が目的なのか…ってな」

 

バクラザン家の椅子の近くに立つディジェ・バクラザンは、睨み付けながらアグニカにそう問う。

 

「ホンモノだ、と言っても納得してくれねェからタチが悪い。どうすれば、納得してくれる? バエルを起動出来た=ホンモノって証明とかは?」

「――確かにテメェは、俺にも起動出来なかったガンダム・バエルを起動した。だが、あれは単に()()()()()()()()()()()。阿頼耶織さえ有れば、簡単に起動出来る。そうだろう?」

「正解だ。って言うか、試したのかよ」

 

ディジェ・バクラザンの推測を、アグニカは肯定した。

 

「ギャラルホルンを創った英雄の機体だ、乗りたくなるだろう。しかし、証明方法を自分で潰してどうするつもりだ?」

「ふむ…ギャラルホルンの機密情報をぶちまけまくると言う手も有るが、鉄華団もいる現状では無理だしな」

 

アグニカは、割と本気で頭を傾げた。

その時、昨夜は歓喜し興奮しまくったせいで寝付けなかったにも関わらず輝くマクギリスが手を挙げる。

 

「アグニカ・カイエルよ。ここは、自らの過去を包み隠さず話せば良いのではないですか? 現在、厄祭戦時代の事を知る手段は『アグニカ叙事詩』しか無い。そのアグニカ叙事詩にすら書かれていない事なども含めて語って行けば、納得させられるのでは?」

「オイ待てアグニ会会長、貴様はただ聞きたいだけだろうが」

 

アグニカがツッコミを入れるが、何故かみんな頷き始めた。

解せない。

 

「え? 何、貴様ら本気か? クソ長いぞ? 救いは無いぞ? 事実はありありと語るには、恥ずかし過ぎるんだけど? 俺個人の惚気話とか入るぞ? これくらいなら言っても良いかなって言う、恥ずかしいか恥ずかしくないかのギリギリを攻めた一般向けのが『アグニカ叙事詩』なんだけど」

「アグニカの惚気話!?」

「是非! 是非とも!!」

「オイオイ、楽しみになって来たなあオイ!」

 

鉄華団含め、何人かが食い付きやがった。

 

「ああもう、分かったよ話せば良いんだろ話せば! じゃあとりあえず――エイハブ・リアクターが創られる所から始めようか」

 

 

 

 

厄祭戦の始まる7年前。

厄祭(Disaster)(Before)10年と、ギャラルホルンは呼んでいる時代。

 

 

B.D.0010。

天才科学者エイハブ・バーラエナが、新動力システム「エイハブ・リアクター」を開発した。

 

エイハブ・リアクターは相転移炉の1種で、極めて高いテクノロジーが使われていた為に建造方法はエイハブ博士とごくごく一部の科学者にしか理解出来なかった。

破壊されればビッグバンが起こりかねない危険なエネルギーだが、半永久的であり構成する物質が頑強な事から物理的に破壊するのは不可能。

 

ただし、エイハブ・ウェーブは通信機を使えなくするなどのデメリットも存在する。

 

それを鑑みても、メリットの方が明らかに大きかった。

エイハブ博士の他に建造方法を理解した科学者達は軋轢を生まないよう各経済圏に行き、それぞれの経済圏で同じ数だけ同時期にエイハブ・リアクターを建造した。

 

もう1人の天才科学者プラージャ・カイエルと、エイハブ・バーラエナが出会ったのもその頃になる。

 

 

B.D.0009。

プラージャ博士は、エイハブ・リアクターを搭載した機械「モビルスーツ」を開発した。

「ヘキサ・フレーム」、「イオ・フレーム」、「ロディ・フレーム」の3種類のフレームが開発され、エイハブ・リアクターの活用法の1つとして全世界に広まった。

 

 

B.D.0008。

アフリカンユニオンが、エイハブ博士と他の科学者達に自国のみでエイハブ・リアクターを建造するよう依頼。

それを受け、他の経済圏もエイハブ・リアクターの技術を独占すべく名乗りを上げた。

 

その軋轢が戦争へと発展するのに、さほど時間は掛からなかった。

 

作業用機械として建造されたMSは戦争用に転用され、各経済圏は四つ巴の戦いを繰り広げ始めた。

 

 

B.D.0007。

世界戦争は泥沼化し、長大化する兆しを見せていた。

戦渦の中で、エイハブ博士とプラージャ博士は人類に失望した。

 

「1年…この老体なんぞの技術を求めて、人類は戦い続けている。もう少し、賢い生物だと思っておったのだが」

「――そうだな。所詮、人類は戦う事でしか我を通す事が出来ん。相手を虐殺しない分、そこらの虫の戦いの方が余程知性的だろう。この愚かな生物は約120億にまで個体を増やし、戦っている。原始時代から、何1つ変わっていない」

 

そして、彼らの出した結論は。

 

「世界を滅ぼせる程の、絶対的な破壊者。それを前にすれば、流石の人類も結託するだろう」

「――大量殺戮破壊兵器の建造など、人道的では無いぞ」

「何千万もの生物が暮らす都市に何の節度も無く核を落とし、自然ごと敵性体を殺戮するよりはマシだと思うがね?」

 

人を殺す為だけの、大量殺戮破壊兵器の建造による危機感の統一。

協力する事によりこれを殲滅すれば、少しは態度が変わるかも知れない。

 

彼らはそんな祈りから、大量殺戮破壊兵器の開発に着手した――

 

 

 

 

時は流れ、B.D.0003。

既に5年、四つ巴の戦いは続いている。

 

地球の海は乱発された核爆弾の放射能の影響をモロに受け、触れただけで被爆する死の海と化した。

 

そんな死海に漂う移動式研究所を持つ科学者スリーヤ・カイエルの下に、プラージャ・カイエルは訪れていた。

 

「海はこんなに蒼いのに、触れる事すら出来ないとは――全く、いつまで戦い続けるつもりだ?」

「親父。わざわざ来た理由は、愚痴を零す為か? どうせまた、下らない物を造ったんだろう?」

 

スリーヤは、プラージャに問い詰める。

 

「下らない物、か――ああ、本当に下らないな。なあ、スリーヤ。俺達は、何の為に生きて何の為に人類の道具を発展させて来たんだろうな?」

「オイオイ、アンタはいつから哲学者にジョブチェンジしたんだ?」

「哲学者になったつもりなど、微塵も無いのだが…お前は、ガキの頃から変わらないな」

 

プラージャは笑顔を見せた後、自分達の研究をスリーヤに教えた。

 

「――人間を、抹殺する兵器…!?」

「ああ。我々は、これを『モビルアーマー』と呼んでいる。慈悲無く人間を殺戮し続ける『天使』。既に、本体は完成した。後はこれを起動すれば、世界は危機を知るだろう」

「共通の危機を前にすれば、人類の全てが戦争を止めて団結するとでも? 随分な理想論を語るモノだな、プラージャ・カイエル博士。人類を滅ぼすつもりか?」

 

突き放した言い方で、スリーヤはプラージャを糾弾する。

 

「戦争を止めさせたかったなら、エイハブ・リアクターの開発技術を持つ科学者が全員死んどけば良かった。ただそれだけの話だ。話を聞かされてさえいれば、俺は迷い無く自分(テメェ)の頭を銃で撃ち抜いた。景品の無くなったゲームに興じる程、人類は酔狂では無い。戦争など、誰が望むモノではないからな」

「――スリーヤ・カイエル博士。お前は本当に、そう思っているのか? もしそうなら、理想論を語っているのは他ならぬお前だ。我らは所詮科学者、ここでこのような事を議論する事には何の価値も無い。だが、意味は有ると信じて俺は語ろう」

 

モビルアーマーの設計図をたたみつつ、プラージャは語る。

 

「戦争を望む者は、確かにこの世界にいる。武器商人達は、戦争が起きなければお役御免だからな。だが、戦争が無くならない最大の理由は()()()()()()()()()()だと俺は考えている。闘争とは即ち、人間の本能だ。理性で商人達を押さえつけても、本能から来る闘争欲求には抗えない。その結果が、今の世界だ。エイハブ・リアクターの開発技術を持つ科学者の殆どが消息を絶っても、戦争は続いている。他者を蹴落として頂点を掴もうとする人間の支配欲は、底が知れんよ。なら――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

その為のMAだ。

プラージャとエイハブに取って、人類が結託してMAを討伐するのでも人類が結託せずMAに滅ぼされるのでも()()()()()()()

 

「――アンタら、間違い無く狂ってるよ」

「熟知している。それでも、我々は止めんよ。1ヶ月後に、マザーMA『ガブリエル』を起動する。最初に天使に虐殺されるべきは、俺とエイハブだ。大量殺戮破壊兵器を造って世界に放って、その結末を見届けずさっさと楽になる。全く、救いようの無いクズだろ?」

 

そう言って、プラージャはスリーヤにその天使の設計図を渡す。

 

マザーMA、ガブリエル。

後に「四大天使」の一角に数えられる、ほぼ全てのMAを生み出す存在だ。

四大天使以上のMAが持つ、固有特殊能力。

ガブリエルは、「個体増殖」の特殊能力を持っていた。

 

ガブリエルは、数多のMAを生み出す母たる存在。

勝手にMAを造って行く、厄介な性質を持つ。

 

「後は任せたぞ、バカ息子。お前がどんな行動を起こすかは知らんが、人類の未来を頼む」

「…アグニカには、会って行かないのか?」

「――こんなクズ野郎に、会う資格など無いさ。クズはクズらしく、ゴミのようにブチ殺されて死ぬのがお似合いだよ」

 

孫に会う事も無く、プラージャは研究所を去って行った。

 

「――バカはアンタらだよ、親父。アンタら、本当は人類が好きなんだろう? 人類を愛する者が、人類史上最悪の殺戮者に成り下がる…本当に、救いようの無い」

 

スリーヤは設計図を握りしめ、自身の研究に戻る。

 

ツインリアクターシステム。

それが、スリーヤ・カイエル取って置きの研究だ。

 

(親父。俺は、最後まで人類側につかせてもらう。アンタが人類を殺すってんなら、俺は人類を生かす存在を用意する。天使を狩る、悪魔をな…)

 

 

 

 

俺とアイツが出会ったのは、俺が7歳の頃だった。

親父の研究組織に入って来た、親父の友人の子供がアイツだ。

 

初めて見た時、俺はアイツから目を離せなかった。

 

アホみたいに呆然と自分を見る俺に、アイツは。

 

「ねえねえ! キミ、名前は?」

 

と聞き、笑顔を浮かべた。

俺は慌てて、自分の名前を言った。

 

「アグニカ――アグニカ・カイエル」

「アグニカ…アグニカね! 私はスヴァハ・クニギン、よろしく!」

 

すると、アイツ…スヴァハは、手を差し出して来た。

俺も手を差し出して、その手を握――

 

 

「ゴホーン! 仲が良くなーりそうなーのは素ー晴らしいが、まだ早ーい!! お父ーさんは赦ーしませーんよ!!」

 

 

る直前、スヴァハのお父さんに阻まれた。

 

「オイ、お前なあ。せっかくニヤニヤしてたのに、釘を刺すんじゃねェよヴィヴァト」

「そーは問屋が卸しまーせん! そーもそもだなスリーヤ、キミの子ー供が私の子ー供に手を出ーそうとしたかーら途中でカットしーたんだよ!?」

 

何だろう、いつ聞いてもコイツの喋り方ムカつく。

まさにマッドサイエンティストの鏡だよな、スヴァハのお父さん。

このマッドサイエンティストの遺伝子からスヴァハが産まれたとか、どう考えてもおかしい。

 

とりあえず、手を出そうとしたとか言う不名誉は挽回しなければならない。

子供ながらにそう結論した俺は、名誉挽回の為供述を始めた。

 

「いや、そんな事してませんけど!?」

「そーれはウソだ」

「聞けよ」

 

親父がヴィヴァトさんをブッ叩く。

ヴィヴァトさんは頭を押さえつつ、目を怪しく輝かせて俺を見た。

 

「私はヴィヴァト・クニギン。よーろしくな、アグニカ君?」

 

自己紹介の後、マッドサイエンティストは手を差し出して来た。

 

「は、はいッて、痛い! 痛いよ!?」

「 よ ろ  く な 」

「字が! 字が1文字おかしいって!」

「オイ」

 

再び、親父がマッドサイエンティストをブッ叩いた。

 

「邪魔すーるなスリーヤ! 娘ーに集る悪ーい虫を抹殺しーていた所だったのーに!」

「お前の言う悪ーい虫、俺の子供だって事分かって言ってるのか? だとしたら戦争だぞ。とりあえず、本題に入らせろ。ああ、アグニカ。スヴァハちゃんに、この施設を案内してやれ」

「あ、うん…」

 

俺はスヴァハを手招きして、施設の案内に繰り出した。

 

「待ーちたまえ!!」

「頼む、俺の話を聞けヴィヴァト。俺が今造ろうとしてるのはな、こんな奴だ。協力しろ、ほらこれが構想図」

「ほほーう?」

 

去り際に、そんな悪巧みをするような声が聞こえてたが。

 

 

 

 

そして、その11年後。

ツインリアクターシステムはようやく形になって来て、俺とスヴァハも普通に手伝わされていた。

 

進展?

何度か手を繋ぐ機会が有ったり手料理食ったりする機会は有ったけど、それだけです。

 

 

あのマッドサイエンティスト、いつかシバく。

 

 

「アグニカー、こっちの理論調整どうなった?」

「ああ、そっちのシステムね。これはこう…」

「ふむふむ、成る程成る程」

 

そんな我々は今、2人でツインリアクターシステムの試作機を製造中だ。

この試作機が完成したら、追加で沢山造って世界にバラまこうぜ大作戦である。

 

大雑把極まりない。

 

「と言うか、本当に出来るのかこれ?」

「さあ…?」

「出ー来るかどーかは問題じゃなーい! 造ーるのだよ、なーんとしてーも!!」

 

んで以てこのスヴァハのお父さん…マッドサイエンティスト、口調に変化なし。

ムカつく。

 

お父さん(悪の科学者)、その理論は論理的じゃないと思うよ」

「ザクッ!? 何やーらルビがおーかしい、お父さんは哀ーしい!! 娘の反抗ー期って、こーんなに辛いんだーな!?」

「18で反抗期なら、遅い方でしょ…アグニカ、そっちの資料取って」

「へいへい、仰せのままに」

 

資料の入ったタブレットを取って、スヴァハに手渡す。

 

いや、マッドサイエンティストことヴィヴァト・クニギン博士よ。

会話してくれるだけ、スヴァハは女神だと思うよ。

 

そんな感じでのんびり作業してた俺達の下に、親父がやって来た。

 

「――作業状況は?」

「ん? 明ー日にはリアクター同ー調実験が出ー来ると思ーうが――何か、有ーったのか? プラージャ氏とーの会ー談は?」

「プラージャ? 爺さんが来てたのか?」

 

そんな話、聞いてない。

そして、親父ことスリーヤ・カイエル博士の持つあの紙の設計図らしきモノは一体…?

 

設計図を古臭い紙に書くのが、ウチの爺さんの変わった所だったりもするのだが…?

 

「――アグニカ、スヴァハちゃん。話が有る」

 

親父はいつになく鬼気迫った顔で、俺達にそう告げた。




オリジナル展開、滑り出しは…こんなモン、ですかねえ?
ダメな気しかしない、すまない…。


オリジナルキャラクター、スヴァハ・クニギンちゃんとマッドサイエンティストことヴィヴァト・クニギンさん初登場。
それから、名前だけは出てたオリジナルキャラクターであるスリーヤ・カイエルとプラージャ・カイエル、ついでに公式設定でエイハブ・リアクターを造ったエイハブ・バーラエナも少し喋りましたね。

ヴィヴァトさんとアグニカ父スリーヤ・カイエルは、学徒時代からの古い友人です。
ヴィヴァトのCVは飛田展男さん(灼眼のシャナの教授に近い感じ)で、私は脳内再生しています。

スヴァハちゃんの方は、かなり本編――と言うかアグニカに関わって来ます。
よろしくお願いします。

アグニカ祖父とアグニカ父の会話でさり気なく登場した、マザーMAにして四大天使の一角「ガブリエル」はオリジナル機体となります。
要するに、「鉄血版デビルガンダム」ですね。
機体解説等は、これからして行きます。
後、MAの誕生理由はオリジナル設定となります。

また、原作でマッキーが「MSはMAを倒す為に造られた」と言っていましたが、今作ではその設定が無くなりました。
MAを倒す為に造られたのは全てのMSでは無く、ガンダム・フレームと言う事でお願いします。

ついでに言っておきますけど、作者はプラージャさんみたいな危険思想の持ち主ではないので悪しからず。


次回「厄祭戦、開幕」。
奴の起動と共に、スリーヤ達も動き始めます。

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