鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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今回は、一番最初にアラズの一人称視点が有ります。
何故って?
実験さ。

それと、少し短めです。
ご了承下さいm(__)m


#26 暴かれた陰謀

地球支部に戻ると、俺はラディーチェに呼び出された。

そのままラディーチェに付いて部屋に行くと、そこにはヒゲの男が座っていた。

 

「こちら、ガラン・モッサ殿になります。今回の事態を受け雇わせて頂きました、傭兵部隊の代表をされています」

 

ガラン・モッサなる男は、こちらを見るなり微笑を浮かべる。

 

「…頼んだ覚えは無いが?」

「彼らは優秀な傭兵です。火星本部からの獅電が到着していない現状では、練度の高い兵士は貴重ではないかと」

 

ラディーチェの言う事は、正論に思える。

だが、俺は元からラディーチェを信用していない。

 

必然的に、ラディーチェが連れて来たこの男も信用に値しない。

 

「--鉄華団は今回前線に出ず、アーブラウの都市警備をするよう蒔苗代表から依頼された。ただし、傭兵部隊には前線で働いてもらうぞ。練度の高い優秀な傭兵部隊ならば、実戦経験の低いSAU防衛軍の足止めくらいはやって貰わねばな」

「ほほう、これはまた随分な無茶振りだな。鉄華団地球支部は、攻撃を放棄すると言うのか?」

「その通りだ。蒔苗代表も、今はSAUの方へ話し合いで解決するよう持ち掛けている」

 

少なくとも、開戦する可能性は低いと見て問題無いレベルだ。

これで開戦し万が一長引いた場合、何者かが裏で糸を引いていると考えて良いだろう。

 

「では、前線は頼みますよガラン・モッサ殿。我々が払う訳ではないとは言え、雇われた以上は報酬に見合う働きをしてもらおうか」

「貴様、なかなかに面白い男だな。気に入ったぞ」

 

嬉しくない。

さて、後は--

 

「ラディーチェ、ちょっと話が有る。付き合え」

 

ラディーチェを殺すのみだ。

鉄華団に於いて、裏切り者は問答無用で粛清する対象となる。

 

何を持って裏切り者とするかって?

軍事顧問である鉄華団地球支部支部長の俺を通さずに勝手に傭兵部隊を雇った時点で、何かしらの策を巡らせているモノだ。

 

あのガランとか言う傭兵はよく知らないのでともかく、ラディーチェは時々訓練中の団員達をゴミを見る目で見下してたしな。

そもそも、俺の無茶振りに対応出来ないようじゃアグニカポイント低いし。

 

ラディーチェを連れ部屋を出て、支部長室へ入る。

 

「して、何の話ですか? 私は忙しいので、手短にお願いします」

「良かろう。では、2文字で纏めよう」

 

腰からサイレント拳銃を抜き、ラディーチェの額に当てる。

 

「--は?」

 

 

()()

 

 

引き金を引き、ラディーチェの頭に弾丸をブチ込む。

 

ラディーチェは何が起きたのか分からないようで、間抜けな顔をしたまま死んで逝った。

 

さて、後は火星本部に連絡するのみだ。

 

 

 

 

蒔苗暗殺未遂事件より2日。

アーブラウとSAUが睨み合いを始めて数時間後に威力偵察に出たSAUの偵察機が、アーブラウ側が配備していたMSのエイハブ・ウェーブの影響を受け墜落。

アーブラウがMSを配置しているとは予測していなかったSAUは咄嗟に軍備を整え、アーブラウに攻め込んだ。

 

これがアーブラウとSAUによる、地域紛争の幕開けである。

 

SAU側の戦力は、防衛軍(実戦経験無し)とギャラルホルンのSAU駐屯部隊。

それに、地球外縁軌道統制統合艦隊からの派遣部隊による混成軍だ。

 

対するアーブラウ側は、同じく実戦経験無しの防衛軍と作戦参謀として雇われたガラン・モッサ率いる傭兵部隊。

アラズが指揮を取る鉄華団地球支部は、現在前線に出ていない。

 

国境地帯バルフォー平原での散発的な消耗戦が繰り広げられ、早半月。

戦況は完全に膠着状態で、終戦の兆しは見えない。

 

「どう言う事だ、蒔苗代表殿!」

 

後方で都市の最終防衛線を預かる鉄華団地球支部の支部長アラズは、半月が経った時点でアーブラウ議会に乗り込んだ。

 

「何だ貴様は! スーツも着ずに殴り込むな! 退廷せよ!」

「待て、議長。彼は鉄華団の地球支部支部長、アラズ・アフトル君だ。軍事顧問の意見ならば、時間を割く価値は有ろうて」

 

議長を制止し、蒔苗はアラズを見据える。

 

「では、早速問いましょう。SAU代表との交渉は、一体どうなったのですか? 私は精々、睨み合うのは数日だと思っていましたが。開戦しここまで長引くなど、私の予想から大きく外れます」

「ふむ…鉄華団支部長。君も、共に考えて欲しい。()()()()()()()()()()()()()()()、と言う事実を」

「--な、に? そんなハズは無いでしょう。外交チャンネルは、アリアドネが管理している。各経済圏が意図的に閉ざさない限り、外交チャンネルの断絶などはまず有り得ませんが」

 

SAUがアーブラウと全面戦争をするつもりなら、外交チャンネルが閉ざされるのも頷ける。

しかし、SAUの偵察機が墜落したのは事故であると考えるのが無難だ。

 

つまり、外交チャンネルを閉ざしたのは--

 

 

「十中八九、ギャラルホルンの仕業じゃろう。各経済圏以外で外交チャンネルを閉ざせるのは、アリアドネを管理するギャラルホルンのみだからの」

 

 

「--やはり、か…全く、この300年でどこまで腐りやがったのやら。だが、そうなるとギャラルホルンの狙いは…!! いや、違う…!」

「んん? 違う、とは?」

「ギャラルホルン全体の策略ではない、アリアンロッドの策略か! 地球外縁軌道統制統合艦隊がSAU側についているにも関わらず、戦争が一向に終結しなかったら? ギャラルホルンの本質である『秩序の維持』を、地球外縁軌道統制統合艦隊は成し遂げられていない事になる。そうすれば、現在地球外縁軌道統制統合艦隊と権力争いをしている月外縁軌道統制統合艦隊…アリアンロッドは介入する理由を得られる!」

 

そして、アリアンロッドが介入した事で戦争が終結したのなら。

地球外縁軌道統制統合艦隊の無能振りとアリアンロッドの有能振りが世界に証明され、アリアンロッドは世論の支持を得る事になる。

 

そのままアリアンロッドが地球圏にまで手を伸ばせるようになれば、やっとの思いでマクギリス・ファリドが再編した地球外縁軌道統制統合艦隊はただのお飾りに戻る。

アリアンロッドが獅子奮迅の活躍を見せ続けて世界中の紛争を鎮めれば、やがて地球外縁軌道統制統合艦隊は解体される事になる。

 

結果、マクギリス・ファリドはギャラルホルンの覇権争いに敗北する。

アリアンロッドは今以上に強大化し、いずれはギャラルホルンの主導権を握る事すら可能となるのだ。

 

「ガラン・モッサは、アリアンロッドが差し向けた人物。アリアンロッドがこの戦争へ介入する理由を作る為に、戦況を膠着状態にさせる事こそが奴の目的か」

「そんな--つまり、我々はギャラルホルンの内輪もめに巻き込まれただけだと!?」

「残念ながら、そうなるな」

 

議長の言葉に、アラズは頷きを返す。

すると、議員達はざわめき始めた。

 

「これはまた、下らぬ事に巻き込まれたモノだ。して、お前さんらはどうするのだ?」

「そうですね…とりあえず、地球外縁軌道統制統合艦隊と接触する必要が出て来ました。アテは有りますから、連絡自体は容易いでしょう。それから、蒔苗代表には外交チャンネルを開き直してSAU上層部との交渉を」

 

アラズは懐から紙飛行機を取り出し、蒔苗へ向かって投げる。

 

「ひょ!?」

 

それは蒔苗の額に突き進み、ぶつかって止まった。

蒔苗がそれを開くと、その紙には。

 

「これは?」

「アリアドネへの干渉コードです。意図的に閉ざされた外交チャンネルにそのコードを打ち込めば、人為的なロックを解除出来るかと」

 

アラズはそう伝え、議会場の出口へ向かう。

 

「どこへ行く気じゃ?」

「一度地球支部施設に戻って、マクギリス・ファリドにこれを伝えます。その後、私はMSで出ますので…よろしく!」

 

そして、アラズは議会を後にした。

 

 

 

 

地球に下りて策を練っていたマクギリスは、吉報を受け取った。

 

「准将、鉄華団の地球支部から通信です」

「お繋ぎしろ!!」

「は」

 

アグニ会会員ではない部下が、通信を繋げる。

すると、赤髪の男が画面に映った。

 

「ひゃっほう!!」

『--今、地球に向かって来てるユージン達に伝えてもらった方が良かったか。よしそうだなそうしよう。時間を取らせて悪かっt』

「お待ちを!!」

 

通信を切ろうとしたアラズを、マクギリスは必死の形相で制止する。

 

『落ち着け、冗談だ。そんな回りくどい真似をしていたら、感づかれてしまうからな。では、早速本題に入ろう。今回の、戦争についてをな』

 

そして、アラズは今回の戦争の裏事情についてをマクギリスに話した。

彼と話せると言う事で心臓が飛び出したマクギリスだったが、話が進むに連れシリアスキャラに戻って行く。

 

「--その、確証は?」

『無い。貴様に取っては、遺憾だろうがな。だが、今頃アーブラウはSAUとの回線を開いて交渉を始めているだろう。それに伴い、ズラかられる前にガラン・モッサを仕留める。戦場に白青の機体が現れても攻撃しないよう、そちら側の全軍に徹底してもらいたい』

「有り難き幸せ! なればこのアグニ会会長マクギリス・ファリド、全身全霊で貴方様の援護をs」

『要らん。下手に部隊を動かして、ガラン・モッサを警戒させてどうする? それにな、俺の戦闘には付いて来れんだろ』

 

そして、通信は終了した。

 

「--准将、いかが致しますか?」

「全軍へ通信! 白青の機体には、絶対に攻撃するな! 決して邪魔をせず、その雄姿を目に焼き付けろとな! ああもう、こうしてはいられん! 私の機体を用意しろ、私は間近でその戦い振りを見なければ!!」

 

ハイテンションのまま、マッキーは自分のグレイズ・リッターに向かって行く。

部隊を動かしていなくとも、自分が出れば敵は警戒すると言う事をマッキーはすっかり忘れていたが。

 

 

 

 

支部長室を出たアラズは、こうチャドに言った。

 

「ちょっと暴れて来る、こっちは頼むぞ」

「暴…れる? 何を、する気なんです?」

「この戦争を、終わらせて来るわ」

 

アラズはMS格納庫に向かい、そこに置かれた機体に乗り込む。

 

その機体は、モンターク商会から鉄華団に贈られたMS「V08-1228 グリムゲルデ」を改造した物だ。

 

背中のスラスターは取り外されてグレイズ系のアタッチメントを付けられ、そこにシュヴァルベ・グレイズのバックパックが取り付けられた。

ヴァルキュリア・シールドは外され、そこに装備されていたヴァルキュリア・ブレードはシールド側のアタッチメントごと腰に移動させられている。

コクピットブロックは換装され、阿頼耶織システムを介した機体の操縦が可能となった。

 

最後に機体は白と青に塗り分けられ、兵器とは程遠い美しさが感じられる。

 

『気を付けて下さいね、アラズさん』

「おう。アラズ・アフトル、グリム・パウリナ…出る!」

 

形式番号、V08-1228p。

機体名、グリム・パウリナ。

テルギア・グレイズを失ったアラズが新たに乗り込む、高機動MSだ。

 

パウリナは未だ深淵の闇に包まれた森の先、平原に向かって飛び上がった。

 

それは、戦場を駆ける可憐な戦乙女であり。

同時に、敵対者に死を与える無慈悲な悪魔であるようにも思えた。

 

 

 

 

「ガランさん! マクギリス・ファリドが動きました! 単騎で、こちらに向かっているそうです!」

「何? それは、確定情報か?」

「間違い有りません!」

 

ガランは、そんな報告を部下に受けた。

 

「何故、このタイミング…しかも、単騎だと? 錯乱でもしたのか? --まあ良い。せっかくの好機だ! ここで仕留めるぞ!」

『おう!』

 

部下に声を掛けてからガランは立ち上がり、自分のゲイレールに向かう。

 

自分の陰謀が全て暴かれ、悪魔が自分を抹殺すべく向かって来ているとは知る由も無かったが。




アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 40AP
マクギリス・ファリド 10AP


またまた巻きながらでした、申し訳有りません。
ラディーチェ退場、是非も無いね。

グリム・パウリナの機体データは以下の通り。


V08-1228p グリム・パウリナ
全高:18.5m
本体重量:29.2t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・ブレード×2
   ヴァルキュリア・ライフル×1
概要
エドモントンの戦いの後、モンターク商会から鉄華団が譲り受けた「グリムゲルデ」を改造した機体。
白と青のパーソナルカラーに塗り替えられ、シールドは取り外されている。
代わりに、シールドに付けられていたヴァルキュリア・ブレード懸架用ジョイントは腰に移植された。
予め回収していたシュヴァルベ・グレイズのバックパックが取り付けられており、大気圏内でも飛行出来る程に機動性が高い。
その他、シュヴァルベの各部に有る姿勢制御用バーニアも移植されている。
また、コクピットブロックは阿頼耶織に対応した物に変えられている。
ただし、ヴァルキュリア・ブレードの軽さからの扱い辛さと機体の行き過ぎた機動性から操作は非常に難しい。
名前はアラズが考えたモノで、ソロモン王が執筆した魔術書「レメゲトン」第三部の題名「パウリナ」から取られている。


次回で、地球支部編は終了予定です。
グリム・パウリナの無双とマッキーのリアクションにご期待有れ。

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