鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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連日投稿です。
何故って?
昨日書いてたら、いつの間にか出来てたからです。

今回で、1期分は終了です。
9000字越え、長し。


#24 鉄華団

グリムゲルデはヴァルキュリア・ブレードを展開し、キマリストルーパーの正面に立つ。

 

「何が目的だ! 何故、俺の邪魔をする!?」

 

通信で、ガエリオはそう問い掛ける。

 

『--何故、か。簡単な事だよ、ガエリオ』

「な……に? そ、その声は--そんな、まさか…」

『彼らには、我々の追い求める理想を具現化する手助けをしてもらわねばならない』

 

淡々と、マクギリスは真実を伝える。

ガエリオは、未だにそれを信じられない。

 

「マクギリス…何故? い、意味が分からない。俺達が追い求める、理想? お前は何を…何を、言っている??」

『ギャラルホルンが提唱してきた、人体改造は悪であると言う思想。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…な、それを提案したのは…」

『アイン・ダルトンは組織の混乱した内情を示す、生きた証拠だ。市街地にMSを持ち込み暴れ回る彼の姿は、多くの目に忌むべき恐怖と映るだろう』

 

完全に正気を失って暴れるアインは、悪魔と思われているだろう。

 

『その唾棄すべき存在と戦うのは、革命の乙女を守り英雄として名を上げ始めた鉄華団。そして乗り込むのは、伝説のガンダム・フレーム。同時に行われる代表選で蒔苗が勝利すれば、政敵であるアンリ・フリュウと我が義父イズナリオ・ファリドの癒着が明るみになる。世界を外側から監視するという建て前も崩れ去り、ギャラルホルンの歪みと腐敗は白日の下に晒される』

「………!」

『劇的な舞台に似つかわしい、劇的な演出だろ?』

 

つまり、全てはマクギリスのシナリオ通り。

鉄華団もギャラルホルンも、マクギリスの掌の上で転がされているのだ。

 

「--マクギリス。お前はギャラルホルンを陥れる手段として、アインを…アインの誇りを! 何て事を…何て非道を! 例え親友でも、そんな行為は許されるハズが無い!」

 

ガエリオはキマリスサーベルを構え、グリムゲルデに突撃する。

 

『では、どうする?』

 

グリムゲルデは右のヴァルキュリア・ブレードを振り、キマリスの攻撃を受け流す。

 

「ぐ…うああああ!」

 

キマリスはサーベルを振り回すが、グリムゲルデはそれを正確無比に弾いてキマリスをめった打ちにする。

デストロイヤーランスを保持するサブアームも斬り落とされ、キマリスシールドも貫かれキマリスの左腕は損傷。

角の1本が叩き折られ、コクピットの上部にもヴァルキュリア・ブレードが突き込まれる。

 

グリムゲルデはキマリスを蹴り飛ばし、少し離れて着地する。

 

『君という跡取りを失ったボードウィン家は、いずれ娘婿である私が継ぐ事になる』

「!?」

『セブンスターズ第一席であるイシュー家の1人娘カルタも、下半身付随で職務全うが困難な為に地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官を下ろされた上、パイモンを傷モノとした』

 

グリムゲルデは落ちたデストロイヤーランスを拾い上げ、キマリスに向けて投げる。

キマリスは左腕を持ち上げて盾で防ごうとしたが、左腕もろとも盾は吹き飛ばされた。

 

『ギャラルホルン内部の力関係は、一気に乱れるだろう。そこからが私の出番だ。ファリド家の実権を手にし、イシュー家とボードウィン家の代理としてセブンスターズ内での権力を拡大。そして--バエルを我が物とする』

「--ウソだ…お前はカルタも、俺も…利用、しようと…? ウ、ウソだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

キマリスは飛び上がり、グリムゲルデの下に舞い降りる。

 

「マクギリスウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!」

 

そして力いっぱいにキマリスサーベルを振り下ろしたが、グリムゲルデはそれを右腕のヴァルキュリア・シールドで受け流して回転し、左のヴァルキュリア・ブレードをキマリスの背中に突き刺す。

 

「ぐあああああ!!」

 

キマリスはサーベルを振り、グリムゲルデは剣を交差させて受け止める。

そのままキマリスは無造作にサーベルを振り回し、グリムゲルデに立ち向かう。

 

「カルタは、お前に恋焦がれているんだぞ!! 大怪我を負って殺されかけた時、最後までお前を頼って…助けを求めていたんだ!!」

 

泣きながら、ガエリオはマクギリスに斬り掛かる。

ガエリオは、裏切られた事に対して怒っているのでは無い。

 

カルタの想いを、アインの誇りを裏切った事を糾弾しているのだ。

 

「妹だって、お前になら…お前になら、安心して任せられると…!!」

『アルミリアについては、安心しろ』

「!」

『彼女の幸せは--保証しよう』

 

それは、ガエリオが見た事も聞いた事も無い笑みと声音だった。

 

「ああ……あああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

ガエリオは、遂に絶叫した。

 

「マクギリス、お前はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

マクギリスは避ける事無く、ガエリオの怒りを受け止める。

 

『そうだ、ガエリオ。()への怒りを…哀しみをぶつけて来ると良い。友情、愛情、信頼。そんな生ぬるい感情は、俺には届かない』

 

キマリスの肩装甲が飛ばされ、膝が抉られ、右腕が外される。

キマリスが膝を付き、そこでグリムゲルデは剣先の狙いをキマリスのコクピットに定める。

そして。

 

『怒りの中で生きて来た、俺にはな』

 

 

グリムゲルデのヴァルキュリア・ブレードが、キマリスのコクピットを貫いた。

 

 

キマリスはそのまま崩れ落ち、グリムゲルデの足下に転がる。

66番目の悪魔キマリスは、信頼ごと1人の男の憤怒の前に敗れ去ったのだ。

 

『--ガエリオ。お前に語った言葉に、嘘は無い。私が目的を果たす為には、お前の死とアイン・ダルトンの阿頼耶識…そして、カルタの失脚が必要だった』

 

グリムゲルデは動かず、転がされたキマリスを見下ろす。

機体のアチコチから流れ落ちるオイルは、ガエリオが流した涙のようだった。

 

 

『お前は俺の生涯、ただ1人の--友人だったよ』

 

 

 

 

 

 

ヴィネが鎖鎌エインヘリヤルを両手で構え、テルギアに振り下ろす。

それを、テルギアは両手のナイトブレードで受け止める。

 

ナイトブレードの刃が零れ、刀身にヒビが入る。

 

「--1つ聞かせろ、バクラザン。何故、俺達に襲いかかって来る?」

 

接触回線を開き、アラズはディジェ・バクラザンに問い掛ける。

 

『--降って来たからだ』

「は?」

 

首を傾げるアラズに、ディジェはこう叫んだ。

 

 

『降って来たんだよ、グレイズ・リッターがあ!! オレ達が休息していた所になあ!! オマケにグングニールまで突き刺さってやがってよ!!! そのお陰でMSの何機かが吹き飛んで、結構な損害を被ったんだよ!!! だから償いやがれえ!!!』

 

「知らねェよ!! そんな所にガンダムまで持って部隊を展開してたテメェの運が悪いんだろうが!! 俺らは悪くねェ、文句なら大気圏突入中に襲って来たそのグレイズ・リッターのパイロットか地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官に言えよ!!!」

 

 

間髪入れず、アラズは叫び返す。

要するに、単なる逆恨みだ。

 

『言おうと思ったよ!! ウチのクソ親父(ジジイ)から地球外縁軌道統制統合艦隊司令官カルタ・イシューへの通信コードを聞き出していざ連絡してみれば、鉄華団なる組織にパイモンごとボコボコにされて下半身付随の意識不明だ何て言って来やがった!! そんな奴に、罵声を浴びせられる訳無えだろこの人でなしがあ!!!』

「お前、さては優しいな!? 一見チンピラみたいだけど、性根は完全に優しいお兄さんだろ!?」

 

アラズのその指摘は、ディジェの琴線に触れた。

 

『誰がお兄さんだあ!!? このディジェ・バクラザンが、そんな心優しい訳無えだろうがあ!! オレはな、道端に捨てられた子犬を段ボールごと拾って来て毎度毎度世話を仕切れず使用人に押し付けてたクソ野郎だよ!! 勘違いすんなあ!!』

「滅茶滅茶優しいなオイ!? 負い目を感じるのはそこかよ!!? と言うか、ツンデレすんなら去勢してから出直して来い!!」

『そうしたら、名前をガザ・バクラザンにしなきゃいけねえだろうがあ!!』

 

ずっとエゥーゴ系(カラバ含む)で攻めて来た名前が、突如アクシズになるとはこれ如何に。

なるなら、せめてメタス・バクラザンだろう。

 

割と下らない事を言い合いながら、ヴィネは鎌を手前に引き戻す。

その隙に、テルギアは距離を詰めて斬り掛かる。

 

『しまッ…!?』

「とりあえず、お前のは逆恨みだから帰れ!!」

 

テルギアが、ナイトブレードを振り下ろす--直前。

 

 

背部のブースターに、鎖の先に付いた鉄球が直撃した。

 

 

噴射中だったブースターは暴発し、ガスが周囲にばらまかれる。

 

「チィッ、これだからヴィネは…!」

『今度はこっちの番だなあ! 今こそ、傷付いたオレの部下達の怒りと嘆きを受け取れえ!!』

 

振り下ろされた鎌を、テルギアはナイトブレードで受け止める。

 

しかし、2本ともがへし折れた。

 

「武器の性能が…!」

『じゃあ、コイツでどうだあ!?』

 

ヴィネのバックパックから巨大なサブアームが伸び、テルギアに向けられる。

その掌に当たる部分から、内蔵されたユグドラシルが弾を撃ち出した。

 

それは残ったブースターの残骸に大穴を開け、テルギアを揺るがした。

 

「く!!」

 

テルギアはブースターをパージし、転がった破片にくっ付いたままだったナイトブレードを2本回収して距離を取る。

 

(残り2本…! クソ、ヴィネとは戦い辛いな!)

『しぶといな…だが、面白えぞテメェ!』

 

ヴィネは鎖鎌を回転させ、遠心力で鉄球を宙に浮かせる。

 

「--」

『死ねえ!!』

 

ヴィネは充分加速させた鉄球を、テルギアに向かってぶつけにかかる。

 

「一か、八か!」

 

テルギアは、左手のナイトブレードで鉄球を打ち落とす。

遠心力を得た鉄球は何とか落とせたが、その衝撃でナイトブレードが折れる。

 

「よし、次…ッ!」

 

鎖はテルギアの左腕に巻き付き、ヴィネはサブアームでその鎖を掴む。

 

「って、うおおお!?」

『うらああああああ!!』

 

そのままテルギアを持ち上げて、仰向けに地上へ叩き落とした。

煙が舞い、周囲を覆い隠す。

 

『ふう…やったか?』

 

あの衝撃では、叩き落とされた機体のパイロットは確実にシェイクされてミンチになる。

ヴィネはサブアームで器用に鎖を巻き戻し、鉄球を左手の掌に載せる。

 

『ふん…少しは楽しめるかと思ったんだが、所詮この程度か』

 

ヴィネが背中を向け撤退しようとした、その時。

 

 

「油断禁物」

 

 

アラズの声が、ディジェの耳に届いた。

 

『!?』

 

ヴィネが振り返った時、テルギアは既に目の前に迫っていた。

そのまま右手に有る最後のナイトブレードが突き出され、ヴィネはコクピットの近くを穿たれる。

 

『ぐうッ…がああ!!』

 

ヴィネも対抗し、テルギアの右腕に鉄球を持ったまま左手を振り下ろした。

テルギアの右腕は外れ、その手はナイトブレードを離す。

未だナイトブレードはヴィネの胸に刺さったままだが、ディジェはそれを気にせず追撃する。

 

『うおおおお!!!』

 

ヴィネは鎌を持ち上げ、柄の方をテルギアのコクピットに向けて振り下ろす。

テルギアは僅かに傾き、柄はコクピットのすぐ横を貫いて終わる。

 

『今更足掻いた所で、貴様には勝機など…!?』

「果たして、本当にそうかな?」

 

テルギアは、右足を上げてヴィネを蹴る態勢を取った。

 

『まさk』

「逝っとけ!!」

 

刺さったままのナイトブレードに向かって、テルギアは膝蹴りをぶちかました。

それは見事ナイトブレードの柄の先に命中し、ナイトブレードはより深く突き刺さって背中の方へ貫通した。

 

『おのれええ!!』

 

ヴィネは中破させられながらもテルギアを蹴り飛ばし、エインヘリヤルを引き抜く。

 

「ッ、抜かった…!」

『ぐう…!』

 

背中まで貫通したナイトブレードは、バックパックに付けられたサブアームの1本を使い物にならなくした。

追撃しようにも、サブアームには鎖が複雑に巻き付いている。

 

『ディジェ様! これ以上の介入はファリド家との関係に遺恨を残す原因となる、撤退せよとの指令が来ました!』

『誰からだ!?』

『当主、ネモ・バクラザン様からです!』

『あのクソ親父(ジジイ)め…! 帰還する、ヴィネ整備の準備を頼む!』

 

ディジェは舌打ちして通信を切り、動かなくなったテルギアを一瞥した。

 

(オレが性能差に助けられた、か…しかし、何故パイロットはミンチになっていなかったのだ?)

 

ディジェは少し考えたが、大した問題では無い。きっと打ち所が良かったんだろう、と判断した。

 

ヴィネは反転し、母艦へと撤退して行った。

それを見届け、アラズは阿頼耶識を外してコクピットの外へ出る。

 

「この損傷では、続けての使用は困難か…新しい機体を探さなければな。しかし危なかった…まさか、このバカげた身体に感謝する日が来ようとは…皮肉だな」

 

そう呟き、アラズは息を吐いた。

 

 

 

 

蒔苗の到着しない議事堂は、大いに混乱していた。

 

「もう待てないわ。蒔苗東護ノ介は欠席。選挙を始めなさい!」

 

立候補者の1人であるアンリ・フリュウは、そう言った。

それを受け、蒔苗派の議員は反対の声を上げて対抗する。

 

 

「随分騒がしいのう。ここは、いつから動物園になったのだ?」

 

 

喧騒の中に、よく響く渋い声が響き渡った。

 

「蒔苗、東護ノ介…? 何故、ここにいるの!? 正面にはギャラルホルンがいるハズよ!!」

「何故か、だと? 儂はここの代表だぞ。貴様が知らぬ抜け道の1つや2つ、儂が知らないとでも思うのか? しかし、興味深い事を言うなアンリ・フリュウ。ギャラルホルンがいるハズ、だと? 政治に介入しないハズのギャラルホルンが、何故儂を攻撃すると? ギャラルホルンとの関係でも有るのか?」

 

蒔内がアンリを睨み付ける。

そんな中、議長が蒔苗に話し掛けた。

 

「蒔内先生、所信表明をお願いします。後は先生だけです」

「おお、そうかそうか。だが待ってくれ。その時間を貰えるなら、彼女に話させてやってくれ」

 

そう言って、蒔内はクーデリアの背中を押す。

 

「ま、蒔苗さん!?」

「構わんよ。儂の所信表明なぞより、お前さんの演説の方が世界の為になろうて。溜め込んどるモンを、この場で吐き出して来い」

 

後押しを受け、クーデリアは壇上に立つ。

 

「誰? 議会に関係無い者の演説なd」

「私は、クーデリア・藍那・バーンスタイン。火星から、アーブラウ代表である蒔苗氏との交渉の為にやって来ました」

 

その第一声で、議会が大きくざわめく。

 

「ここに来るまでの間、私は幾度となくギャラルホルンからの妨害を受けました。そして今まさに、私の仲間達がその障害と戦っています!」

 

議事堂の外で、鉄華団はLCS用のドローンを有りっ丈上げる。

 

『ドローン、全部上げたよ! これで連絡出来るハズだ!』

「よし、ありがとなビスケット! オイお前ら、聞こえるか!?」

 

オルガは、通信機の前で叫ぶ。

 

『蒔苗とクーデリアは、無事議事堂へ送り届けた。俺達の仕事は成功したんだ! だから、()()()()()()()()()()!! もう、誰も死ぬんじゃねえぞ! こっから先に死んだ奴らは、団長命令違反で俺がもっぺん殺す!!』

「フッ…こんな命令を出せるたァ、やりやがったなオルガめ。少し…いや、かなり羨ましいな」

『だから良いか!!? 何としてでも這ってでも、それこそ死んでも生きやがれ!! 生きて、火星に帰るぞおおおおおおおおおおおお!!!』

 

戦場に、オルガの団長命令が響き渡る。

それと同じく、議事堂でもクーデリアの演説が空気を揺らす。

 

「火星と地球の歪んだ関係を少しでも正そうと始めたこの旅で、私は世界中に広がるより大きな歪みを知りました。そして歪みを正そうと訪れたこの地もまた、その歪みに飲まれようとしている。しかし、ここにいる貴方方は今まさにその歪みと対峙している。そして、それを正す力を持っています!! 選んで下さい、誇れる選択を!! 全人類の、希望となる未来を!!!」

 

 

 

 

バルバトスとグシオンは、それぞれがビルに叩き付けられていた。

 

『罪深き子供達。クランク二尉は、お前達と戦うつもりなど無かった』

「大丈夫、昭弘?」

「おう。ちょっとガタが来てるが、まだ動ける。お前のはどうだ?」

「大丈夫、まだコイツが有るよ」

 

アインの言葉を聞く事無く、三日月と昭弘は接触回線で作戦会議をする。

 

『やはり、貴様らは出来損ない! 清廉なる正しき人道を理解しようとしない、野蛮な獣! それどころか、救いに手を掛け冷たい墓標の下に引きずり込んだ!』

 

アラズが聞けば、即座に「お前には言われたくねェよ」と返した事だろう。

しかし、三日月と昭弘はアインの言葉を聞いていない。

 

「行くぞ、三日月!」

「ああ!」

 

グシオンがアインに襲い掛かりハルバードを構えると、アインは斧をハルバードの柄に振り下ろす。

 

『もう、貴様らは救えない! その身にこびりついた罪の穢れは、決して落とせない!』

「ああ、そうかよ!」

 

グシオンは隠し腕を展開し、アインの両腕を掴む。

 

「三日月!」

 

バルバトスは破壊されたレンチメイスを放棄し、背中から太刀を引き抜く。

 

『小癪なマネを!!』

 

アインは足首を回転させ、ドリルキックをグシオンに仕掛ける。

グシオンはハルバードを捨て、そのキックを両腕で何とか食い止めた。

 

「ぐうううう!! 急げ、三日月!!」

 

三日月はアインの背後に回り込んで太刀をアインの右腕に叩き付ける。

しかし、腕は斬れない。

 

(クソ…! 教官は、どうやって腕を--ッ!!)

 

三日月は今一度振りかぶり、アインの腕を斬りつけた。

 

『な、何!?』

 

アインの右腕が斬り飛ばされ、宙に舞う。

 

「こうか、教官!」

 

続けて左腕に斬り掛かり、同様に左腕が斬り飛ばされた。

 

「うらああ!」

 

グシオンは隠し腕で、アインを殴り倒す。

アインは即座に体勢を立て直すが、その前ではバルバトスが太刀を構えている。

 

『そんな…! クランク二尉、ボードウィン特務三佐!! 私は、私の正s』

 

 

台詞を言い切る前に、グレイズ・アインのコクピットは太刀によって貫かれる。

 

 

沈み行く夕日が、太刀の刃を紅く輝かせた。

 

 

 

 

アーブラウ代表選は、蒔苗東護ノ介が再選した。

それと共にアンリ・フリュウとイズナリオ・ファリドの癒着が明かされる事となり、ギャラルホルンの社会的信用はガタ落ち。

 

イズナリオ・ファリドは、亡命先へ追放される事となった。

 

「義父上、亡命先の用意が整いました」

「マクギリス、貴様…!」

 

イズナリオもバカでは無い。

此度の件が全てマクギリスのシナリオ通りだった事は、とっくに気付いている。

 

「ここで義父上が身をお引きにならねば、監査局も黙ってはいません。我々ファリド家と傘下の家への実刑は愚か、ファリド家の断絶さえ有り得ます」

「どの口が抜かすか! そう仕組んだのは貴様であろうが!! 孤児であった貴様を引き取ってやった恩を、よくも忘れt」

「今は忍耐の時です。ここで身を引かねば、再起も望めなくなります。後の始末は、私にお任せを。必ずや、ファリド家を守って見せましょう」

 

イズナリオは歯噛みし、マクギリスの側を通って亡命先へ向かう船に向かう。

 

「分かっているのだろうな、マクギリス。絶望から救い上げてやった恩義を忘れたお前の先にも、絶望しか待っていないぞ」

「--」

 

そう言い残し、イズナリオは部屋を出ていった。

 

「恩義、か。残念ながら、俺は貴様に憎悪を抱きこそすれ感謝を抱いた事は無い。--では、石動・カミーチェ三尉。例の件は、予定通り頼むぞ」

「はっ」

 

亡命した3日後、イズナリオ・ファリドは何者かに暗殺された。

かつてマクギリスが持っていた短剣で、背中から心臓を一突きにされていたとか。

 

しかし、それが世に伝わる事など無かった。

 

 

 

 

戦闘から、実に4日が経った頃。

 

「兄貴、色々迷惑をおかけしました」

 

地球に降りて来た名瀬に、オルガは頭を下げた。

 

「何言ってるんだ。お前らはきっちり仕事をしたんだ、胸を張れよ。お前がいつか俺に言った言葉は、偽りだったのか?」

 

かつて、オルガはこう言った。

 

訳の分からない命令で、仲間が無駄死させられるのは御免だ。

アイツらの死に場所は、鉄華団の団長として--

 

「--俺が、作る」

「アイツらは、お前の作った場所で散って逝った。張れよ、胸を。今生きてる奴らの為にも、死んじまった奴らの為にも。お前が口にした事は、お前が信じ抜かなきゃならねえだろ」

 

オルガの胸板を叩きながら、名瀬はそう言う。

 

「それが指揮官としての…団長としての、覚悟ってモンだろ」

「--はい」

 

名瀬の激励を受け、オルガは前を見据える。

 

「ようオルガ、こんな所にいたか」

「アラズさん…?」

 

そんなオルガの下に、アラズが現れる。

 

「あの、モンターク商会からの奴はどうでした?」

「うむ。あれは、良い物だ!!

 

アラズは、異常なまでに上機嫌である。

モンターク商会より、是非ともアラズにとMSが贈られて来たのだ。

 

V08-1228 グリムゲルデ。

希少なヴァルキュリア・フレームのMSだ。

現在改装中。

 

バックパックとしてシュヴァルベ・グレイズのフライトユニットが取り付けられる他、阿頼耶識を取り入れて白と青に塗り替えられる予定となっている。

 

「機体名とかは、決めたんですか?」

「おう、『V08-1228p グリム・パウリナ』。今度からはパウリナとでも呼んでやれ。それより、そろそろだ。団長として、ちょっと演説して来い」

 

アラズに言われ、オルガは団員達の前に立つ。

 

「みんな、よく頑張ってくれた。鉄華団としての初仕事、お前らのおかげでやり切る事が出来た。けどな、ここで終わりじゃねえぞ。俺達はもっと、もっともっとデカくなる!」

 

そこで、オルガは笑う。

 

「けどまあ、次の仕事までは間が有る。お前ら、成功祝いのボーナスは期待しとけよ!!」

「ッしゃあああああああああ!!」

 

大人げ無く、アラズがガッツポーズをする。

それにつられ、団員達も騒ぎ始めた。

 

「--終わったな」

「うん」

 

バルバトスの前で、オルガと三日月が並び立つ。

 

「なあ、ミカ。次は、何をすれば良い?」

「そんなの、決まってるでしょ」

 

オルガと三日月は互いに笑みを交わし、拳を打ち合わせた。

 

「帰ろう、火星へ」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

「さて、と。今回の失態、赦されると思うなよ--ギャラルホルン」

 

 

鉄華団団員達が騒ぎ立てる場の片隅で、赤髪の男はそう呟いた。




アグニカポイント新規取得
マクギリス・ファリド 510AP


第1期分、終了です。
疲れた…。
だがしかし、まだ ほ ん へ ですら無い…解せぬ。

せっかくなので、ここでボツ機体の設定を公開します。
アラズはテルギアの後これに載せる予定だったのですが、グリムゲルデの存在とテルギアと余り変わらないと言う理由で日の目を見る事無く…。

機体データは以下の通り。


EB-06sgn グレイズ・ノートリア
全高:18.7m
本体重量:39.1t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:グレイズ・フレーム
武装:ナイトブレード×2
地球外縁軌道統制統合艦隊のカルタ・イシュー親衛隊の「グレイズ・リッター」を強奪し、塗り替えて追加ブースターを載せ替えた機体。
ナイトブレードを2本装備し、それで戦う。
名前はアラズが考えたモノで、ソロモン王が執筆した魔術書「レメゲトン」第五部の題名「ノートリア」から取られている。


うん、使い所無いね。
新機体「グリム・パウリナ」は、次出て来た時にデータを載せます。

次回は本編では無く、アグニカポイント獲得状況の中間報告を行います。
本編は、しばしお待ち下さいm(__)m

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