鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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サブタイトルは、あの悪魔の事を指しています。
オリジナル機体であるガンダム・フレーム、その雄姿をご確認下さい。


#22 地獄の女王

ヴィーンゴールヴに戻ったカルタは、イズナリオの部屋に呼び出されていた。

 

「申し訳ありません、イズナリオ様。セブンスターズの一員で有りながら、失態を…」

「詫びるならば私にではなく、偉大なる父上に対して詫びるのだな。カルタ、君はセブンスターズの一角イシュー家…引いてはギャラルホルンの名に泥を塗ったのだ。どうなるか、分かっていような?」

 

イズナリオに頭を垂れながら、カルタは歯噛みする。

己の情けなさに、カルタはどうしようも無く怒っていた。

 

「しかし、一度君の後見人となったからには黙って見ているわけにもいかないのでな。今一度、名誉挽回のチャンスを与えよう。頭を上げると良い」

「--有り難き幸せ…!」

 

カルタは感謝し、頭を上げイズナリオを見据える。

 

「蒔苗は鉄華団と名乗る輩と共に、エドモントンへ向かっているとの情報が入っている。世界の秩序を維持するギャラルホルンとしては、何としても阻止せねばならぬ事態だ。敗戦したばかりのお前には荷が重いと感じているが、マクギリスがぜひお前にと言うのでな」

 

それを聞いて、カルタは拳を握り締める。

 

「恩赦の程、感謝致します。--奴らに撃滅するに当たり、1つ許可を頂きたく」

「ほう。良い、申してみよ」

「はい。現在『バエル宮殿』の一角で動態保存されているイシュー家のガンダム・フレーム…『ガンダム・パイモン』。あれを使いたく存じます」

「うむ。それについても、マクギリスから話は聞いている。貴様の父上にも、既に話は通してある。持って行け」

「は!」

 

カルタは深く礼をし、イズナリオの部屋を後にした。

その部屋の前には、マクギリスが控えていた。

 

「やあ。久しいな、カルタ」

「二度も失態を晒した惨めな私に、手を差し伸べてくれる何てね。感謝するわ、マクギリス」

「謙遜するな、カルタ。惨めだなどと、微塵も思ってはいないさ。私とて、ガエリオと2人掛かりで事に当たりながら返り討ちに遭った身だ。むしろ、そんな鉄華団に何度も挑み掛かる君の雄姿には尊敬を感じ得ない」

 

いつも通りの不敵な笑みを浮かべながら、マクギリスはそう返す。

 

「昔からそうだ。君は私に取って、手の届かない憧れの存在だった。養子として引き取られた私に、君は哀れみも情けも向けなかった。ただただ、私を平等に扱ってくれた。それが、私に取っては意外で有り喜びでもあった。そんな君に、屈辱などは似合わない。その雪辱を晴らす為にも、私に出来る事は最大限やるつもりだ。私は共に行く事が出来ないが、君が雪辱を晴らして戻って来るのを願うよ」

 

 

 

 

鉄華団とタービンズ、蒔内の乗る船は今カナダのエドモントンに向かって進んでいる。

だが、船で直行するとどうしてもギャラルホルンの衛星監視網に引っかかるとアラズは言った。

 

何故そんなにギャラルホルンの内情に詳しいのかと鉄華団のメンバーは問いただしたが、上手くはぐらかされたらしい。

 

そんな訳で、船は衛星監視網に引っかからないように進路を変更。

ひとまずはアラスカの都市アンカレッジに行き、そこで陸路に乗り換える。

 

アンカレッジからはテイワズの下部組織の1つが保有する鉄道に乗り、エドモントンへ行くと言う手筈だ。

この鉄道は週に一度往復する定期貨物便であり、アンカレッジからフェアバンクスを経由してエドモントンまで走っているとか。

 

定期便だからこそギャラルホルンには怪しまれず、都市部を外れた路線なのでリアクターによる電子障害も発生しない。

だからこそ、堂々とMSを運搬可能だ。

 

テイワズの方との交渉は既にオルガが済ませており、モンターク商会にもルート変更は伝えられている。

 

念には念を入れ、アンカレッジにいる蒔苗派の有力議員であるラスカー・アレジにも協力を得て鉄道への乗り換えを速やかかつ目立たずに行えるよう手配してもらっている。

更にもう1つ、エドモントンのアーブラウ議会でのロビー活動を蒔苗派の議員達に依頼した。

 

鉄道への乗り換えは全て滞りなく2時間足らずで終了し、鉄華団達は順調に事を運んでいる。

 

(--このまま何も無く、エドモントンに到着出来れば良いのだがな)

 

外の雪景色を眺めながら優雅に珈琲を飲みつつ、アラズはそう願う。

 

「アラズさん、カッコ付けてる?」

「ハハハ、何だろうスゴい面白い」

「オイ、聞こえてるぞテメェら」

 

 

 

 

アインの意識が戻ったと聞きつけたガエリオは、例の研究所に足を運んでいた。

 

「こっちだと? まだ何も--」

『ボードウィン特務三佐!』

 

目の前の大型機から、アインの声が響いて来た。

 

「アイン、お前なのか!?」

『は!』

「--そうか、成功…したんだな。良かった…ああ良かった、本当に…!」

 

上辺ではそう返すが、ガエリオは今すぐ「良い訳が有るか!」と叫びたい気分だった。

 

技師が近寄り、端末の画面を見せて来る。

 

「特務三佐、こちらをご覧ください。ダルトン三尉の、現在の状況です。阿頼耶識との同調は、全て滞りなく進んでおります。ギャラルホルンのデータバンクに残された阿頼耶識本来の同調率にはまだ及びませんが、これならば…!」

『本当にありがとうございます、特務三佐。これでクランク二尉の無念を晴らす事も、特務三佐のお役に立つ事も出来る! 心から尊敬出来る方に、人生の中で2人も出会えた…これ以上の幸せは有りません。この御恩、とても返し切れるような量では有りませんが--この命を持って、必ずや返し切って見せます!』

 

アインの言葉を嬉しく思いながらも、ガエリオはこんな方法しか取れなかった自分を恨んでいた。

 

「--そうか。……そう、か…」

 

ガエリオは、それだけの言葉しか返せなかった。

技師の見せて来た端末の画面にはアインのコネクト状況が移っており、機体はこう題されていた。

 

 

グレイズ・アイン、と。

 

 

ガエリオは足早に研究所を後にし、マクギリスと合流した。

 

「そう自分を責めるな、ガエリオ。これは、彼が自ら望んだ事だ。お前は上官として、彼の望む最高の選択を与える事が出来たのだよ。後はクランク・ゼントの仇を取らせる為の舞台へ、彼を誘うだけだ」

 

マクギリスはそう慰めて来るが、ガエリオの気持ちが元に戻る事は無い。

 

「--ガエリオ。腐敗し堕落したギャラルホルンに於いて、君の心の清らかさはいかに守られて来たのだろうな。お前だけではなく、アイン・ダルトンもそうだ。ギャラルホルンに変革をもたらすのは、君達の良心だと私は思う。今回の作戦が成功すれば、彼がギャラルホルンに残す功績は計り知れない。たとえどのような姿になっても、この戦いで彼は…アグニカ・カイエルに次ぐ、新たな英雄となるのだ」

「--ありがとう、マクギリス」

 

ガエリオは、改めて自らの友人に感謝した。

 

 

 

 

マクギリスからの情報に従い、カルタ達はテイワズの鉄道の線路沿いで鉄華団を待ち構えていた。

地球外縁軌道統制統合艦隊司令官カルタ・イシューの親衛隊は、カルタを含め既に3人にまで減ってしまっている。

 

しかし、恐れは無い。

 

「分かっているわね? もはや私達に、退路は無いと思いなさい。けれど、この窮地が私を強くする。私はどんな時でも、決して誇りを忘れない。そうよね…マクギリス」

『は。必ずや、勝利を我らの手に!』

『この胸の誇りに懸けて、真価を示しましょう!』

 

残された部下達の掛け声を心から頼もしく思い、カルタは号令を掛ける。

 

「我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!」

『『面壁九年、堅牢堅固!』』

 

その時カルタ達の前方から鉄道が走って来て、目の前で止まった。

鉄道の荷台からバルバトスとテルギアが降り、カルタ達のMSを正面から見据える。

 

『教官、あの機体は…?』

 

三日月は、モニター越しにカルタの機体を指差してアラズに問う。

 

カルタの機体には決闘の印である赤い布をくくりつけられているが、以前との違いはそれだけでは無い。

 

その機体は純白と真紅で塗られ、角は黄金の輝きを放っている。

緑に光るツインアイ、背中に付けられた大型のフライトユニットが印象的だが、何よりも特筆すべきはその得物だ。

 

 

華美に飾られる事無く、落ち着いた柄を持ち鞘に納められた専用の日本刀。

それだけしか、その機体は武器を持っていない。

 

 

三日月に問われたアラズは、エイハブ・ウェーブを確認してからこう返した。

 

「--ASW-G-09『ガンダム・パイモン』。セブンスターズの一角イシュー家が所有する、かつてカロム・イシューが搭乗したガンダム・フレームだ」

 

パイモンは刀を右手で掴み鞘走らせ、その刀身を空気に晒す。

素朴な柄や鞘とは打って変わって、刀身は黄金に光り独特かつ絶妙な角度で反っている。

 

グリムゲルデのヴァルキュリア・ブレードと同じ、特殊超合金で錬成されたが故の黄金だ。

 

通信を開き、パイモンに乗るカルタはこう持ち掛けた。

 

『私はギャラルホルン地球本部所属地球外縁軌道統制統合艦隊司令官、カルタ・イシュー! 鉄華団に対し、MS3機による決闘を申し込む! 我々が勝利した場合、クーデリア・藍那・バーンスタインと蒔苗東護ノ介の身柄を引き渡して投降してもらう。我々が敗北したならば、好きに通るg』

「よし行くぞ三日月ザコは任せた」

『うん』

 

カルタの宣言が終わるより早く、バルバトスとテルギアは突撃した。

 

『な!? 貴様ら、カルタ様のお話をs』

 

バルバトスのレンチメイスが、親衛隊の1機を吹き飛ばす。

吹き飛ばされたリッターは、遠くの雪原に叩き付けられた。

 

『おのれ、高潔なカルタ様の計らいをy』

 

バルバトスが吹き飛んだリッターを追撃する間に、テルギアは残った1機が振り下ろしたナイトブレードを白刃取りして根元から叩き折る。

そして腰からナイトブレードを抜き、そのリッターのコクピットを刺し貫く。

 

動かなくなったリッターを線路の遠くまで投げ、テルギアはパイモンに襲いかかった。

 

『何と卑劣な! 誇り高き私の親衛隊が…!?』

「生憎、こちとら誇りなぞ持って無くてな!」

 

テルギアは右のナイトブレードを振り下ろし、パイモンはそれを刀で受け止める。

 

『こんな、こんな戦い…私は認めない!』

「ふん、随分平和ボケしたモノだな。イシューの娘よ、1つ教えてやろう。戦争と言うのはな、如何なる手段を用いてでも勝てば官軍だ。戦争では邪魔にしかならぬ誇りなど、今の内に捨て置け。でなければ--」

 

テルギアは左手のナイトブレードを突き出し、パイモンのコクピットを狙う。

パイモンは何とか刀でそれを弾くが、その時には既に右手のナイトブレードが背中のフライトユニットに振り下ろされていた。

 

 

「死ぬぞ」

 

 

フライトユニットにナイトブレードが直撃し、そのスラスターが潰された。

 

『な…!?』

 

カルタが狼狽した隙にテルギアは左でナイトブレードを振り、パイモンのツインアイの片方を潰す。

 

『ぐうううう…!! 私は戦いたかった、正々堂々と戦いたかった! そうでなければ私らしくない! 私は、カルタ・イシューだ!』

「--」

 

パイモンは刀を振り下ろすが、テルギアは剣を交差させてそれを受け止める。

剣の質が違いすぎる以上、生半可な守り方では叩き折られるのがオチだ。

 

『私は、勝利するしかないのよ! 立場を失い、イシュー家の名に傷を付け、パイモンまで持ち出してこんな…! こんな惨めな私は、アイツの憧れていた私じゃないのよ!!』

「---」

 

テルギアはパイモンの刀を押し返し、パイモンのコクピットの左側にある装甲の隙間に右手のナイトブレードを刺し込んだ。

 

『がああ!! ここで、負けるわけにはいかない…アイツの思いを裏切って、こんな所で終わる訳には行かないのよ!!』

「----」

 

パイモンは蹴り飛ばされ、雪原に叩き付けられる。

テルギアは即座に追撃し、左のナイトブレードでパイモンの右肩を貫く。

 

右手のナイトブレードを逆手で持ち、テルギアはパイモンのコクピットにそれを突き付ける。

後1秒も経たず、パイモンのコクピットは貫かれるだろう。

 

剣を構えるテルギアの姿を、カルタは人間を狩る悪魔だと思った。

 

 

『--助けて、マクギリス…』

 

「-----…!」

 

 

涙声で、カルタは愛する男に助けを請う。

その果たされぬ助けを求める声は、通信を通してアラズの耳にも伝わった。

 

ナイトブレードを突き刺そうとしたテルギアの動きが一瞬止まった、その時。

 

 

テルギアに向かって、何者かが射撃を仕掛けて来た。

 

 

「!?」

 

テルギアはパイモンから距離を取り、その射撃が行われた方向を見据える。

そちらからは、4本脚のMSが近付いて来る。

 

「--ガンダム・キマリス…トルーパー!」

 

2本のナイトブレードでキマリストルーパーの突き出して来た馬上槍を防ぎつつ、テルギアは線路沿いにまで大きく後退する。

 

キマリストルーパーはパイモンの近くで2本脚になって止まり、ボロボロに壊されたパイモンを回収した。

 

「行かせるか!」

 

リッターを片付けたバルバトスが、キマリストルーパーに向かってレンチメイスを構え突撃する。

キマリストルーパーはホバーで雪原を走行しつつ、バルバトスに牽制攻撃を仕掛ける。

 

バルバトスの動きが一瞬鈍った隙にキマリストルーパーは4本脚のトルーパー形態へと変形し、そのまま走り去って行った。

 

「逃がす訳無いだろ…!」

『待て三日月、ここまでだ』

 

追撃しようとする三日月を、アラズは制止する。

 

『如何にパイモンを持っているとは言え、生半可な機体ではキマリストルーパーの速度には追い付けない。ガスを無駄にするだけだ。それより、さっさとエドモントンへ進行した方が良い』

「--了解。でも、教官。何で、あの時」

『ああ、あれか。…何で、だろうな。きっと--あの声が少しだけ、アイツの声に似てたからだ』

 

異常なまでに優しい声音で、アラズはそう返した。

 

三日月は首を傾げるしか無かったが、すぐにオルガからの帰還命令が出たのでその疑問は晴れないままになるのだった。

 

 

 

 

この戦いでカルタ・イシューは一命こそ取り留めたものの、内臓と足に大きな怪我を負った。

持ち出されたガンダム・パイモンは、ある程度修理され再びヴィーンゴールヴの「バエル宮殿」に戻された。

 

そして、鉄華団はエドモントンへ到着した。




アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 540AP
三日月・オーガス 90AP
カルタ・イシュー 60AP
ガエリオ・ボードウィン 60AP
カルタ親衛隊のお二方 10AP


カルタ様、一命は取り留めながらも大怪我で戦線離脱。
下半身不随で、一生治らないご様子です。

それはともかく、オリジナル機体を出させて頂きました。
活躍? ハハハハハ
ニチアサだったらバンダイにどやされますね、これ。

機体データは、以下の通りです。


ASW-G-09 ガンダム・パイモン
全高:19.1m
本体重量:31.7t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:クサナギノツルギ×1
概要
カロム・イシューの専用機。
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されていた、イシュー家に伝わるガンダム・フレーム。
紅白に染め上げられた機体色は、日本かぶれなカロムの意向によるモノ。
カロム曰く、「源平合わされば最強」。
300年の時を越え、カルタ・イシューにより再び戦線に投入された。
専用武器として「クサナギノツルギ」を持つが、それ以外の武装は一切装備していない潔さを誇る。
クサナギノツルギは名前の通り日本刀であり、バエル・ソードと同じ特殊超合金で錬成されている黄金の太刀。
故に決して折れる事は無く、あらゆる物を斬り裂くとされる。
普段は鞘に納められ、左側の腰に接続されている。
大型の飛行用ユニットを装備しており、地上では高い敏捷性を、宇宙では高い機動性を獲得している。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第九位の悪魔「パイモン」から。
パイモンは空の軍勢に属し、200もの軍を率いる地獄の王だとされる。


それと、初代イシューはオリジナルキャラです。
名前しか出てませんけれども。

初代イシュー家当主、カロム・イシュー。
日本大好きな、日本かぶれのお方です。
常日頃日本刀を帯刀する、銀髪の美女さんでした。


次回、いよいよエドモントンでの戦いへ。
トクムサンサー

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