鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》   作:アグニ会幹部

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カルタ様、強く生きろよ!


#21 地球外縁軌道統制統合艦隊

その日の夜。

モンタークは、トドにこう伝えた。

 

「お嬢様は、地球での足を所望だ。早急に手配を頼む」

「へいへい、っと…しっかし、旦那も物好きですよねえ」

「私をアゴで使うとは、なかなかに肝が座って来たモノだ。思った以上に楽しませてくれる。--さて、私もグリムゲルデと共に地球へ降りる。こちらは任せたぞ」

「あいよ。あーあ、俺も地球に降りてえな~」

 

今行けば鉄華団と鉢合わせだぞ、とだけ返し、モンタークは地球行きのシャトルに乗り込んだ。

 

 

 

 

翌日。

蒔苗が隠遁する島は、ギャラルホルンに包囲されていた。

 

「ステンジャ艦長。投降勧告の刻限を過ぎました」

 

水上戦艦の艦長コーリス・ステンジャは、部下からそう報告を受ける。

 

「そうでなくてはな。これで火星に散った我が弟、オーリス・ステンジャの敵が取れると言うモノだ」

 

オーリス・ステンジャとは、三日月が一番始めに潰したグレイズのパイロットである。

はっきり言って、鉄華団の誰も覚えていないだろうが。

 

「全艦に通達、掃討作戦を開始する! 射撃開始と共に、MS部隊発進! カルタ様の戦場に花を添えよ!」

 

コーリスの指示で、各艦が飽和射撃を開始した。

 

「ふむ…訓練通り、マニュアル通りの飽和攻撃か。全く、マニュアル通りにやってますと言うのは、アホのやる事だ!!

『教官、何そのパワーセンテンスは』

「お、おう…難しめな言葉を使ってきやがったな」

『クーデリアに教わったんだ。それより教官、どうするのこれ?』

 

三日月に問われ、アラズは今一度戦場を俯瞰する。

 

島を取り囲むように、ギャラルホルンの水上戦艦が正面に3隻、裏側に2隻。

正面はMS隊の陽動で、本命は裏側部隊でのクーデリアと蒔苗の確保と言った所。

そして、本隊は上から。

 

ギャラルホルンに残った厄祭戦時代のマニュアル通りの、盤石な戦術だ。

 

「シノ、裏側に回って工作部隊を一掃。昭弘、そこから敵戦艦の狙撃。ラフタさんとアジーさんは、海岸からの上陸部隊を頼む。後、俺と三日月は上から来る敵の本隊を叩く」

『おうよ!』

『やってみる』

『オッケー』

『良いよ』

『分かった』

 

全員が、所定のポイントに移動して行く。

昭弘は早速、滑空砲での狙撃を開始した。

 

「右舷格納ブロックに被弾、被弾部より浸水を確認!」

「チッ、戦いのセオリーすら弁えぬネズミ共め…! そろそろカルタ様が舞い降りて来られる、MSを出し終えたら撤退せよ!」

 

戦艦が、それぞれ後退して行く。

 

「そろそろ来るぞ。昭弘、射撃用意だ」

『人使いが荒いな』

 

と、その時。

 

上空から、MS部隊が舞い降りて来た。

その総数、実に8機。

 

「よし、攻撃準備だな」

 

アラズはテルギアを飛行場に出し、ナイトブレードを2本構える。

 

『クソ、何だあの盾は!? 射撃が効いてねえ!』

「恐らく、大気圏突入用のグライダーだろうな。大気圏の熱を耐え抜くような奴だ、射撃が効くとも考え難い」

『じゃあ、何でやらせたの?』

「攻撃は無意味、ってのが分かっただけでも収穫だ」

 

グレイズ・リッターはそれぞれグライダーを放棄し、飛行場の1箇所へ集まる。

放棄され降って来るグライダーを三日月とアラズがかわす間にグレイズ・リッター部隊はカルタ機を中心に陣形を整え、全機が完璧に揃ったタイミングでナイトブレードを地面に突き刺す。

 

宇宙(そら)での雪辱は、必ず果たして見せるわ! 我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

『面壁九年、堅牢堅固!!』

 

ジャキイイン!!と効果音が聞こえて来る気がする程、地球外縁軌道統制統合艦隊はカッコ良くキメた。

 

 

『ぐはァッ!?』

 

「!?」

 

 

昭弘の狙撃により右から2番目のリッターが狙撃されなければ、もっとカッコ良くキマったのだが。

 

「--撃って、良いん…だよな?」

『当たり前じゃん』

『動きが止まったな、今の内だ。撃ちまくれ』

 

そして、相手に戦隊モノのポーズ決めを待つ怪人くらいの優しさが有れば更に良かったであろうが。

 

残念ながら、ここはニチアサではない。

あまりにも殺伐とした、日曜夕方5時である。

 

『何と、不作法なああああああ!!』

「んん? 戦場に作法もクソも有るかよ。これだから、式典にばっか参加してる奴らは。良いか? 要するに、どんな下法を使おうが勝てば良いんだよ勝てば。と言う事で死にさらせ」

『……』

 

バルバトスとテルギアが、それぞれ得物を構えて突撃を開始した!

 

『く…! 圏外圏より来た無法者どもには、我等地球外縁軌道統制統合艦隊が鉄の裁きを下す!!』

『手加減無用、鉄剣制裁!!』

 

カルタ機はナイトブレードで向かい来る2機を指し示し、他の機体は剣を両手で掲げる。

 

『鋒矢の陣、そのまま吶喊!!』

『全機突撃、一点突破!!』

 

全機がナイトブレードを突く構えを取り、そのままバルバトスとテルギアに吶喊する。

 

しかし、あまりにも相手が悪すぎた。

 

「ふっ!」

「よっ!」

 

三日月はレンチメイスで左から2番目の機体に金的をぶちかまし、アラズは二刀流で右から1番目と2番目の機体のコクピットを正面から貫いた。

 

『カ、カルタ様! 鍛え上げられし我等、地球外縁軌道統制統合艦隊の陣形が!』

『おのれ!!』

「たかが3機が消えた程度でそれか? じゃあ、こっちから行ってやらァ!」

 

テルギアは2機のリッターからナイトブレードを引き抜き、カルタ機に突撃する。

 

『お下がり下さいカルタ様、コイツhだああ!?』

 

カルタ機の前に出た機体の1機が、バルバトスの一撃で地に叩きつけられる。

 

『カルタ様に手出しはさせん!』

 

残った1機のリッターが振り下ろしたナイトブレードを、テルギアは左手のナイトブレードで受け流す。

 

『な…!?』

 

その隙に右手のナイトブレードが突き出され、リッターのコクピットはそれに貫かれた。

 

『ええい、何をしているの!? 海上部隊は!?』

『現在、謎のMS2機の足止めを食らっているとの事です!』

 

海岸線では、タービンズのラフタとアジーがMSを潰して回っている。

 

『じゃあ、裏側のMW部隊は!?』

『それが、敵MSの襲撃を受け戦艦もろとも…!』

『何て事…!!? おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!』

 

部隊を根刮ぎ叩き潰され、作戦を滅茶苦茶にされたカルタは遂に絶叫した。

 

『何故だ、何故この搦め手が通用しない…! 奴らは、こちらの作戦を初めから読み切っていたとでも言うの…!? このような無様は、イシュー家の戦歴に必要無いと言うのに…!!』

 

頭を抱えながら、カルタはふとマクギリスの言葉を思い出す。

 

マクギリスは、イシュー家のガンダム・フレームである「ガンダム・パイモン」を出す事も考えておけと言っていた。

カルタは完全に、鉄華団の戦力と狡猾さを見誤っていたのだ。

 

要は、何の練習も無いまま試合に挑んだのと変わらない。

鉄華団を嘗めていた時点で、カルタの敗北は初めから決まっていた。

 

「さあて、地球外縁軌道統制統合艦隊司令官のカルタ・イシューよ。見ての通り大体は殲滅した訳だが、どうする?」

『カルタ様、このままでは…!』

『ここは退き、態勢を立て直すべきかと…!』

 

カルタが考え込んでいる間に、8機いたMSは既に3機にまで減っていた。

 

倒れ込むリッターの残骸の中に、バルバトスとテルギアは悠然と立っている。

今彼らに挑みかかったとしても、哀れな残骸が3つ増えるだけだろう。

 

『--撤退よ。全軍、撤退なさい……!!』

 

3機のグレイズ・リッターは反転し、海上艦隊に向かって行った。

こうして、島での攻防は鉄華団側に対した被害も出る事無く終了した。

 

 

 

 

「そうか、彼らは無事船に着いたか。ご苦労。彼らの要望には、出来る限り応えてやれ。何か変化があれば、すぐ報告を入れろ」

『は』

 

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」に戻ったマクギリスは、そう返してモンターク商会の部下からの連絡を切る。

 

「流石は偉大なるアグニカ・カイエル! 期待以上の事をしてくれるモノだ!! ハハハハハハハ!! --それにしても生き残ったとは、カルタもしぶといな。ここらで死んでおけば、これ以上生き恥をさらさずに済んだモノを。義父上の苦り切った顔が、目に浮かぶようだ。フフ、フフフ…」

 

声を殺して、マクギリスはほくそ笑んだ。

 

 

 

 

エドモントンにある、アンリ・フリュウが泊まるホテル。

そのスイートルームで、イズナリオ・ファリドはアンリの抗議を聞き流していた。

 

「イズナリオ様、話が違うではありませんか。蒔苗東護ノ介は亡命先の島から一歩も出る事無く、選挙は私の勝利で終わる。私は無事アーブラウの代表となり、全ての実権は我々の手に…そんなシナリオだったのでは?」

「チッ、カルタ・イシューめ。全く、余計な真似をしてくれたな。セブンスターズにおけるイシュー家の地位を守らせる為にわざわざ後見人となり、ここまで引き立ててやったと言うのに…!」

 

舌打ちした後、イズナリオは立ち上がり部屋を後にした。

 

(全て、この時の為に慎重に事を進めて来たのだ。マクギリスとボードウィン家の娘を縁組みさせイシュー家の娘の後見人となり、セブンスターズ内での地位を固めて来た。アンリ・フリュウを通してアーブラウの実権さえ握れば、私の立場は盤石となる。ここでつまずいてなるモノか…!)

 

 

 

 

ヴィーンゴールヴの医務室の一角で、マクギリスとガエリオは対面していた。

 

「--マクギリス、俺はどうしても踏み切れない。このままではアインを救えないのは分かっている、奴の悲願だった上官の敵も討たせてやりたい。しかし、その為に体に機械を…人間である事を捨てろなどと、俺には口に出来ない…!」

 

ガエリオは歯噛みし、拳を握り締める。

 

「--人間である事を捨てる、か。抵抗が有るのは当然だが、人間を捨てなければ人間を超えたモノには対抗出来ない。300年前の厄祭戦こそが、まさに人間を超えたモノへの挑戦。そして、それに対抗すべく初代セブンスターズとアグニカ・カイエルは()()()()()()()()()()

 

人間を超越した高位の存在「天使」の名を関した存在、モビルアーマー。

厄祭戦は5年にも満たない世界戦争だったが、MAはその間で実に人類の4分の3を抹殺した。

 

アグニカ・カイエルとその同士達が立ち上がらなければ、人類は300年前に滅びていただろう。

 

MAに対抗すべく造られたMSこそが、ガンダム・フレーム。

そのガンダム・フレームのオーバースペックに付いて行き性能を最大限に引き出すシステムこそが、阿頼耶識。

 

天使の対極に位置する「悪魔」の力を借りなければ勝てず、その為に人間を捨てた者達の決断の上に今の世界は成り立っている。

 

「アグニカ・カイエル達が立ち上げた組織『ヘイムダル』…後の『ギャラルホルン』が1年で宇宙を回りMAを蹂躙していなければ、私もお前も今ここに存在出来ていない。だが、そんな彼らは人体改造を禁忌とした」

「そのおかげで人類を救う一因となった阿頼耶識は今、戦争の遺物として嫌悪の対象になっているという事か。皮肉だな」

「ああ、全くだ。300年の間にギャラルホルンは腐敗し弱体化し、権力闘争の温床と成り果てた」

 

マクギリスとガエリオは兵器開発部に移動しつつ、そのような事を話す。

 

「カルタの部隊が、鉄華団の撃退に失敗した。クーデリアと鉄華団は、元アーブラウ代表の蒔苗東護ノ介を連れ逃走。太平洋上で消息を絶った」

「衛星監視網はどうした? 地球は俺たちの庭だろう?」

「分からんが、考えられるのは2つだ。鉄華団が衛星監視網の監視可能範囲を完全に把握して行動をしているか、はたまたギャラルホルンに内通者がいるのか。もし後者が正解だとすれば、腐敗ここに極まれりだな」

 

その内通者が目の前にいると言う事を、ガエリオは知る由も無いが。

 

「クソ、下劣な! アインの忠誠心を、少しは見習うが良い!」

「…そうだな。だがアインのような男こそ、かつてのギャラルホルンの本質に最も近い人間なのかもしれんな。--着いたか」

 

マクギリスは扉の前で立ち止まり、壁のコンソールにカードキーを当てる。

扉が開かれ、2人は部屋の中に入る。

 

「…マクギリス、ここは?」

「表向きに禁止しておきながら、ギャラルホルンは近年にも阿頼耶識の研究を行っていた。ここは、その研究施設だ」

 

部屋のライトが点り、その部屋に置かれたモノを照らす。

 

「…!? コイツは…!?」

「分かるだろう、ガエリオ。これはアインの為でもあり、我々の為でもある。今こそ示すべきなのだ、その身を捧げて人類を救った英雄の姿を。有るべきギャラルホルンの姿をな。ガンダム・キマリスを操るお前と阿頼耶識を纏ったアインで、あの宇宙ネズミどもを駆逐しろ! 我々こそが組織を正しく導ける唯一無二の存在なのだと、腐敗した凡骨どもに分からせてやるのだ!!」

 

ガエリオは真っ直ぐに「それ」を見据えつつ、マクギリスの言葉を聞いていた。

 

「……そう、か……」

 

そんなガエリオを見ながら、マクギリスは邪悪な笑みを浮かべた。




アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 540AP
三日月・オーガス 90AP
昭弘・アルトランド 90AP
ノルバ・シノ 40AP
ラフタ・フランクランド 10AP
アジー・グルミン 10AP
カルタ・イシュー 10AP
地球外縁軌道統制統合艦隊の皆様 10AP

アグニカポイント特別報酬
マクギリス・ファリド 200AP
※アグニカ盲信中。


ここで、久々のオリジナル設定解説。
ギャラルホルン、旧名を「ヘイムダル」。
名前の由来は、北欧神話に於いて角笛「ギャラルホルン」の持ち主である光の神です。
そして彼の角笛は、北欧神話での神々の最終戦争「神々の黄昏(ラグナロク)」の始まりを告げるとされます。
ヘイムダルは「世界の光」とも言われる為、アグニカは自らの組織が世界に光…希望をもたらせるように、と言う願いを込めて名付けました。

そして戦争が終わり、アグニカはヘイムダルを巨大化して世界の警察組織へと作り替えます。
名前が「ギャラルホルン」となったのも、その時。
いざと言う時は戦争の始まりを世界に知らせ、それを収められるような組織になれ、との願いを込めたようです。

以上、ギャラルホルンの成り立ちについてのオリジナル設定でした。
後、厄祭戦の期間もオリジナル設定です。


次回こそ、オリジナル機体「ガンダム・パイモン」登場の予定。
しばらくお待ち下さいm(__)m

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