久々の戦闘は疲れますねえ…。
『デモ隊とギャラルホルンの衝突は一時激しい銃撃戦となりましたが、守備隊側の素早い対応によって現在メインストリート付近は鎮圧されました。なおデモ隊のリーダーと見られていたナボナ・ミンゴ氏の、死亡が確認されました』
報道官は、粛々とギャラルホルンの正義を伝える。
その報道はコロニー全土に放送されており、あちこちで労働者達が武装蜂起を開始した。
ある者は銃を取って逆に銃殺され、ある者はMSを奪い外に出てコロニー周辺に展開する
その状況は、デモ隊のリーダーであったナボナが最も恐れたモノだった。
ギャラルホルンによる反乱分子の一掃は、滞りも無く順調に進行していた。
「ラスタル様。武装勢力が確認されました」
アリアンロッドの旗艦であるスキップジャック級のブリッジで、アリアンロッド艦隊司令官ラスタル・エリオンは部下からそう報告を受ける。
「MS隊に攻撃命令。こちらのシナリオ通りだ、反乱分子を一掃せよ」
「はっ」
ラスタルの指令を受けて、MS隊が攻撃を開始する。
その光景を何の感慨も無く見据えながら、ラスタルは側にいるクジャン家の1人息子に話しかける。
「良く見ておけ、イオク。これが世界秩序の維持、ギャラルホルンの本懐と言うモノだ」
「…ラスタル様。このようなマッチポンプに、どのような理由が有るのですか? 私には、ただの虐殺に見えるのですが…」
「ギャラルホルンを良く思わない勢力は多い。それを軒並み黙らせるには、これが最適だと言う事だ。ある意味では、見せしめと言えるだろうがな」
◇
「武装勢力の制圧が始まったようですな」
「制圧? 虐殺の間違いだろう。挑発して牙を剥かせ、ギャラルホルンの使命である平和維持の名の下に粛清する。わざわざ、使い物にならない武器まで与えてな。全く、統制局らしいやり方だ」
コロニーに置かれたMSは、全てギャラルホルンによって細工されたモノだ。
全ての重火器は発射不可能だし、スラスターも吹かす事すら出来ない。
つまり、これは動けない人形を嬲っているだけに過ぎないのだ。
「特務三佐。この状況なら、MSを出しても問題にはならないかと」
「バカを言え! これこそがマクギリスの言う、今の腐ったギャラルホルンの実態だ。こんな卑劣な作戦に参加出来るか!」
◇
宇宙港は封鎖され、鉄華団は足止めを食っていた。
現状、イサリビと連絡を付ける事も出来ない。
宇宙港に設置された巨大モニターに移るニュースを眺めながら、鉄華団は次の動きを考えていた。
「さっきと何も変わらない制圧戦だな。つくづく腐っていやがる」
「だから、何かしようぜ! おっさん達言ってたじゃねえか! 俺達を希望の星だとk」
「はい、ストップだシノ。頭に乗るな。調子に乗っても、良い事なんて何一つ無いからな」
シノの口を、アラズは左手で素早く押さえる。
鉄華団の仕事は、クーデリアを護衛して地球に送り届ける事だ。
ここで面倒事に巻き込まれてギャラルホルンに本格的に目を付けられれば、それを遂行するに当たって大きな障害となる。
「私は…私はこのまま、地球へは行けません」
と、クーデリアがそんな事を言った。
「お嬢様?」
「私が地球を目指すのは、火星の人々が幸せに暮らせる世界を作る為です。でも、圧制に苦しんでいたのは火星だけじゃなかった。ここの人達も同じように虐げられ、踏みつけられ、挙げ句の果てには命さえも奪われ…そんな人々を守れないなら。立ち上がれないなら、そんな私の言葉など誰も聞くハズが有りません。私は戦います。例え、最後に1人になったとしても--逃げません、決して。見ているだけなんて、私はもう御免です!」
クーデリアは、そう宣言した。
彼女は火星だけでは無く、虐げられる人々全ての希望になると誓ったのだ。
「だ、そうだが…どうする、団長? 依頼主はな、このコロニーの人々を救いたいんだと」
「しゃあねえ、やるか!!」
『おう!』
一致団結した鉄華団は、とりあえずイサリビと連絡を付けられるようにするべく動きだした。
「あ、アンタ達!」
良い所に現れた報道スタッフ。
カメラから離れるよう、アラズは身を引く。
「(…アラズさん? 何を?)」
「(俺、マスコミってのが苦手なんだよ)」
報道スタッフにマスコミ専用回線を借り、鉄華団はイサリビに連絡した。
「とりあえず、イサリビに行かなきゃならないな。MSは全部置いて来てるし」
「うん」
アラズと三日月は、先行して生身で宇宙に飛び出す。
「あ、あの…彼らは、大丈夫なんですか?」
「ええ。流石に、斥候の1人2人は必要ですから」
イサリビからは、バルバトスを積んだクタン参型が発進してこちらに向かって来た。
タービンズはテイワズとして名が売れている為出られないが、ハンマーヘッドからは昭弘が発進したそうだ。
『さてと、じゃあな三日月。俺が来るまでの間、ギャラルホルンの奴らに一方的に殺される痛さと怖さを教えてやれ』
お肌の触れ合い回線で、アラズは三日月にそう告げる。
意訳としては、「ぶっ潰せ」と言う事だ。
クタン参型に乗り込んだアラズは、バルバトスとその武器を置いてイサリビに戻る。
バルバトスに乗って武器を得た三日月は、ギャラルホルン部隊の一掃にかかる。
ある時は滑空砲で狙撃し、ある時はメイスで潰す。
そんなこんなで、バルバトスが10機程を鉄塊にした時。
「こんな作戦に参加するなど、不本意だが…行くぞアイン!」
「はっ!」
スレイプニルから発進して来たガエリオとアインが、バルバトスに接触する。
「ッ!? 速い!!」
ガエリオの機体の突撃を受け、バルバトスは遠くに吹き飛ばされる。
「この出力にこの機動力、予想を遥かに越えて来たな…だが、そうでなくてはわざわざ父上に許可を頂いて『バエル宮殿』から引っ張り出した意味が無い!」
「あの機体…ボードウィンか。キマリスを出して来るとは、かなり本気のようだな」
ASW-G-66 ガンダム・キマリス。
厄祭戦末期に建造された72機の「ガンダム・フレーム」搭載型MSの1機で、300年前には初代当主クリウス・ボードウィンをパイロットとした。
ただ、人体改造を禁忌としたギャラルホルンの思想も有って阿頼耶識システムは取り外されている。
キマリスは脚部のバーニアを展開し、高機動形態となってバルバトスへの攻撃を開始した。
「相変わらず、デタラメな速さだな。敵にしたくないガンダムの筆頭だが、狙いが甘い。阿頼耶織無しではそんなモノか、キマリス…まあ良い、クリウスレベルだったら打つ手が無いしな。アラズ・アフトル、テルギア出すぞ。良いな?」
『は、はい。ご武運を』
イサリビから、アラズのテルギア・グレイズが出撃する。
戦場に、白青の機体が放たれた。
「あのランチは…やる!」
オルガ達の乗るランチに、アインのシュヴァルベ・グレイズは照準を合わせる。
そして引き金を引こうとした、その時。
「おっと」
「な、ぐはァッ!?」
テルギアの蹴りを受けて、アインのシュヴァルベが吹き飛ばされる。
「この周波数、コーラル司令の…! おのれ、よくも!!」
ライフルを撃ちつつ、シュヴァルベはバトルアックスを抜いてテルギアに突撃する。
全身のバーニアを吹かして弾を最小限の動きでかわしながら、テルギアは2本のバトルアックスを構える。
「良い覚悟だ。だが、気合いが足りん! 俺を倒したくば、キマリス並みの突撃をしろ!」
振り下ろされたバトルアックスを難なくかわし、テルギアはシュヴァルベの背中にバトルアックスを叩き込む。
「な、スラスターが!?」
一瞬で片方のスラスターを潰されたシュヴァルベは、バランスを崩して一回転する。
『シノ、後は任せたぞ!』
アラズは、イサリビにグレイズ改弐に通信してそう叫ぶ。
「おうよ!! ノルバ・シノ、流星号! 行くぜオラアアアアアア!!!」
「………流星号?」
イサリビから、ピンク色に染め上げられたグレイズ改弐…「流星号」(シノ命名)が発進してシュヴァルベに攻撃を仕掛ける。
対するシュヴァルベは、流星号の攻撃を左手のシールドで受け止める。
「厳格なクランク二尉のグレイズを、よくもこんな下品な色に…許せん!!」
「下品たァ聞き捨てならねえなあ!! このシノ様の流星号は、最高にカッケェだろうがあ!!!」
「おのれえええええええ!!!」
その2人の叫びを、流星号への通信を通して聞いていたアラズは。
「--まあいいや」
一瞥した後、バルバトスを援護すべく移動を開始した。
その道中で出会ったギャラルホルンのMSを、余す事無く粉砕しながら。
◇
コロニーから離れた宙域で、その船は静かに戦闘を見守っていた。
「--素晴らしい」
船のブリッジで戦闘を見ていた仮面の男は、そう呟いた。
「? どうしたんですかい、旦那?」
側に立つちょび髭の男が、そう尋ねると。
仮面の男は、息を荒げていきなり叫びだした。
「素晴らしいッ!! やはり、私の予想に間違いは無かった!! あの機体カラー、あの戦い方、あの戦闘能力!! その全てが、あの方と同じだ!! あの方は、アグニカ・カイエルは蘇った!! 300年もの時を易々と超越し、アグニカ・カイエルは再びこの世界に変革をもたらすべく復活したのだ!! これが、これが僥倖でなくて何なのだ!! これが運命でなくて、何だと言うのだ!!? ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
のけぞって、仮面の男は陶酔したかのように笑う。
いや、陶酔しまくって酔いつぶれている。
「偉大なる大英雄、偉大なる創始者アグニカ・カイエルよ!! 世界は歪み、角笛は腐敗した! この世界に再び、光と秩序を与え賜えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
「いや、んな訳無いじゃないですか。アグニカ・カイエルっつったら、あれですよね? 300年前にギャラルホルンを作った奴ですよね? そんな奴が、何で生きてるんですかい? 人間は、最高でも140年しか生きられないんすよ? 落ち着いて下さいよ旦那、きっとアグニカ決めてるだけですよ」
「フフフハハハハハ、愚問! そんなモノ、アグニカ・カイエルだからに決まっているだろう!!? アグニカ・カイエルに不可能は無い、アグニカ・カイエルは全てを超越した存在なのだからな!! アグニカ・カイエルを我々の常識なぞに当てはめては、アグニカ・カイエルに失礼だ! そうだろう、アグニカ・カイエル! ああアグニカ・カイエル、我が師アグニカ・カイエルよ!! 今すぐガンダム・バエルを献上出来ない、我が非力を許し賜えアグニカ・カイエル! ですがしかし、必ずや私はアグニカ・カイエルの力となって見せます! 貴方に栄光を、アグニカ・カイエルゥゥゥゥゥ!!」
アグニカ・カイエルと連呼しまくる仮面の男。
それを端からゴミを見るような目で見ていたちょび髭の男が「コイツもうダメだな」と思っていた事を、仮面の男は知らない。
◇
キマリスの攻撃に、バルバトスは苦しめられていた。
「どうした、阿頼耶織とやらでも追い切れないのか? --しかし、妙だ。以前の時と比べて、スピードが落ちるような…?」
訝りつつも、キマリスはバルバトスに突撃を仕掛ける。
狙うは、細く装甲の無い腰の部分だ。
「ッ…!」
『三日月、とりあえず捕まえろ。接近されたキマリスは、大した戦闘力を持ち合わせていない』
「捕まえろ…? 教官、あんなのをどう--一か八か…!」
キマリスの突撃を、バルバトスは腰を僅かにひねってかわす。
「何!?」
避けられると思っていなかったキマリスの動きが、一瞬鈍る。
その隙を付いて、バルバトスはキマリスのグングニールを右手で掴んで引き寄せる。
「捕まえ、た!」
「まだ!」
キマリスの肩の装甲が上に上がり、隙間からフラッシュディスクが射出される。
それはバルバトスの顔をかすめ、バルバトスが怯んだ隙にキマリスは右手でグングニールを放してコンバットナイフを抜く。
「はああ!」
「こんな、武器まで…!」
キマリスが振るったコンバットナイフはバルバトスの左手に当たり、メイスが宇宙へ飛んで行く。
「しまっ…!」
「終わりだ!!」
キマリスが振り下ろしたコンバットナイフが、バルバトスに直撃--する直前。
どこからかの狙撃が、キマリスの右手に直撃した。
キマリスの右手からコンバットナイフが取りこぼされた瞬間、バルバトスは左手でそれを奪ってキマリスに叩きつける。
「く…!」
咄嗟の判断でグングニールを回収し、キマリスは大きく距離を取る。
「おのれ、誰が…!」
『昭弘? それ、間に合ったんだ』
『おう。これが俺の、ガンダム・グシオンリベイクだ!』
グシオンは続けて、狙撃でキマリスを追撃する。
「新手のガンダムか…! 奴ら、いつの間にこんな戦力を…何!?」
キマリスのセンサーが、ガエリオに危険を告げた数秒後。
白と青のグレイズが、キマリスに2本のバトルアックスを振り下ろした。
不意打ちであったものの、ガエリオはそれを何とか迎撃。
一瞬の膠着の後に、そのグレイズは背中のスラスターを全開にする。
グレイズにあるまじき異常な出力で不安定な体制のキマリスを押し込み、後ろのデブリに叩き付けた。
「ぐはあああ!! コイツ、まさか…!?」
『よう、ボードウィン卿。
白青のテルギア・グレイズから、接触回線が開かれる。
キマリスの特殊回線から通信をして来た所から、敵が並みの人間ではない事が伺える。
「ガエリオ・ボードウィンだ!! その不名誉な名前は訂正しろ!!」
『…ん? 何だって、三日月? --ブッ、フハハハハハハハハハハハハ!! お前、良いセンスだなハハハハハハハハハハハハハハハ!!』
「何がおかしい!?」
『ああスマン、余りに面白かったから笑ってしまった。無視して悪かったよ、ガリガリ君。すまなかったなガリガリ』
「ガエリオ・ボードウィンだ、って言ってるだろうが!! 貴様らわざとか!?」
キマリスは脚部バーニアを全開にし、テルギアの押し出しを始める。
「チ! 分かってたが、スラスター出力じゃキマリスが遥かに上か…! 昭弘ォ!」
「うらァ!」
グシオンは狙撃モードから近接モードに移行し、顔の装甲が開かれてガンダムフェイスを露わにする。
接近戦用のハルバードを引き抜き、キマリスに攻撃を開始した。
『ボードウィン特務三佐!!』
「おっと、足が滑った」
『がはッ!?』
キマリスの救出に向かって来たシュヴァルベを、テルギアは通りすがりに蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたシュヴァルベは、グシオンに押されて下がったキマリスに激突した。
『申し訳有りません、余計な事を…!』
「アインお前、スラスターをやられた機体で何て無茶を…!」
『特務三佐! ガエリオ特務三佐!』
ガエリオの下に、スレイプニルから通信が入る。
「どうした、艦長!」
『エリオン公率いるアリアンロッドの本隊が、そちらに向かっています。これ以上の作戦への介入は、いくらセブンスターズでも問題になります!』
「…ッ、ここまでか…!」
シュヴァルベを持って、キマリスは撤退して言った。
「--さーて、困った事になりそうだ。アリアンロッドの本隊が向かって来てるぞ」
イサリビと合流し終え、アラズはそう頭を抱える。
『教官、何とかならないの?』
「いや、流石に無理だぞ。さっき推進材を結構使ったし、やれて30機って所だ」
『30はやれんのかよ…』
『逃げてえ…』
「逃がしてくれる訳無いだろ? よりにもよって、エリオンが指揮する艦隊だぞ?」
『ですよねー…』
途方に暮れていた鉄華団MSのパイロット達。
しかし、そこで。
『私は、クーデリア・藍那・バーンスタイン。今、TVを通して皆様に呼び掛けています。私は今日、皆さんにお伝えしたいと思います。宇宙の片隅、ドルトコロニーで起きている事を。そこに生きる人々の真実を』
「--クーデリアだと? 報道は、統制局が管理していたのではなかったか?」
ラスタルは顎に手を当てて、部下にそう尋ねる。
その横ではイオクが、解せない様子で首を傾げているが。
「そのハズです。何者かが、裏で手を回したとしか思えません。ギャラルホルンの管轄をかいくぐって」
「一体、誰が…?」
ラスタル達には知る由も無かったが、裏で手を回したのはノブリス・ゴルドンである。
クーデリアからの頼みで、利用されてやったのだ。
『私はドルトコロニーで、自分達の現状に立ち向かおうとする人々に出会いました。彼らはデモという手段を取り、交渉を行おうと考えていました。しかし、彼らが行動を起こした際。まるで示し合わせたかのように、付近で謎の爆発が起こったのです。勿論、彼らは一切攻撃をしていません』
「ラスタル様、これを止めなければ!」
「--」
ラスタルは動じず、クーデリアの演説が流れるモニターを見据えている。
『全て、ギャラルホルンが仕掛けた事です。その爆発を口実として、ギャラルホルンは労働者達に攻撃を開始しました。そしてその戦闘…いえ、虐殺は今も続いているのです!』
「発信源、特定! 目の前にある、強襲揚陸艦からです!」
「攻撃します!」
「待て」
はやる部下を、ラスタルは短く制止する。
「しかし、このままでは…!」
「誰が、この内容を真実だと証明出来る? いいや、誰にも出来ない。だが今攻撃すれば、奴の言葉を我々が自ら証明する事になる。ギャラルホルンが社会的信用を失えば、世界の治安は更に悪化する」
それに、と言ってから、ラスタルはこう続けた。
「あの演説を、最後まで聞きたくなった。クーデリア・藍那・バーンスタイン、か……」
『今、私の船はギャラルホルンの艦隊に包囲されています。ギャラルホルン…秩序を維持する組織に、私は問いたい。貴方方は正義を守る存在ではないのですか? これが貴方方の…アグニカ・カイエルの提唱した、「正義」なのですか?』
戦場は、先程までの様子が嘘のように静まり返っている。
静寂の中で、クーデリアの演説は響く。
『ならば私は、そんな正義は認められない。私の発言が間違っているというのならば…構いません。今すぐ、私の船を撃ち落としなさい!!』
「望み通りに落としてやる! 攻撃、開始しまs」
「待て、と言ったハズだ!!」
ラスタルは珍しく声を荒げ、言われるまま攻撃しようとした部下を鎮める。
速攻で突っかかろうとした辺り、この部下もクーデリアの演説に呑まれていたのだろう。
「統制局から緊急指令です! 戦闘を放棄し、敵艦の通過を許可せよ、との事です!」
「うむ。全軍に、ラスタル・エリオンが命じる! 敵艦が通過し去るまで、全ての武器の使用を禁ずる!!」
ラスタルの命を受けて、アリアンロッドは全ての行動を中止した。
停止した艦隊の中を、イサリビは堂々とくぐり抜ける。
『…凄いな、アイツ。俺達が1機ずつ潰していった奴を、言葉だけで…』
「それが、言葉の力だ。この世界に於いての力は、武力だけではない」
『アンタ、まさかこれを見越して…?』
「演説をするかなー、とは思ったが、これは予想外だ。盛大に啖呵を切った時は正直焦ったが、何とかなったな。クーデリア・藍那・バーンスタイン。俺…いや、世界が思っていたよりデカい卵だったようだ」
ラスタルが乗るスキップジャック級の隣を、イサリビは悠々と通過して戦闘宙域より離脱して行った。
◇
「ケッ、悪運の強い野郎共だ。しっかし、何で攻撃しなかったんですかね?」
と、ちょび髭の男…トド・ミルコネンが言う。
あの後仮面の男に雇われ、仮面の男の右腕として活躍している。
お前が言うな。
「恐らく、アフリカンユニオンから圧力がかかったのだろう。かつては秩序を維持する者として頼られていたギャラルホルンも、今となってはその使命を飛び越えて裏から世界を動かす嫌われ者だからな。今のギャラルホルンを良く思わない者は、決して少なくない」
トドの手で何とか正気を取り乱したアグニ会会長…仮面の男は、打って変わって冷静にそう評した。
「ただ、あそこで部下を黙らせたのはアリアンロッドの司令官ラスタル・エリオンだろうな。--昔から、真意の読めん男だよ」
「? 旦那、あのラスタルとか言う奴と知り合いで?」
「ああ、昔に少し話をしたくらいだがな。あの時の私はまだ幼かったから、記憶も不鮮明だが。--しかし、流石は『革命の乙女』だな」
未だモニターに映るクーデリアを見据えながら、仮面の男は口角を上げる。
「彼女なら、鉄華団なら。そして、アグニカ・カイエルならば!!! この世界を変えてくれるかも知れんな」
アグニカ・カイエルの部分を超強調しながら、仮面の男はそう呟く。
呟く、と言うよりは叫んだが。
「--ですから旦那。300年前にいたアグニカ・カイエルが生きてる訳無いでしょう。現実を見ましょうよ。アグニカ決めてるだけですって」
「見ているッ! なればこそ、私はあの白青の機体のパイロットはアグニカ・カイエルだと断言するのだ!!」
「でえすから、人間は140年しか生きられないですって言ってますでsy」
「アグニカは人間を超越した! それ即ち、神!! アグニカは神なのだよ!!」
「ああハイハイ、そうすね凄いっすねアグニカさんは。ほらほら旦那、バカな事言ってないで仕事して下さいよ」
トドは、「身の振り方間違えたかねえ?」と本気で自分の人生を振り返り始めるのだった。
アグニカポイント新規取得
三日月・オーガス 90AP
明弘・アルトランド 90AP
ガエリオ・ボードウィン 60AP
アラズ・アフトル 10AP
ノルバ・シノ 10AP
アイン・ダルトン 10AP
アリアンロッド艦隊MSパイロットの皆様 10AP
MSを強奪したコロニー労働者の皆様 10AP
アグニカポイント特別取得
アラズ・アフトル 150AP
※アグニカ決めてる。
マクギリs…仮面の男 100AP
※アグニカ関連の狂化。盲信と狂信の混同は不可。
クーデリア・藍那・バーンスタイン 50AP
※演説でアグニカ・カイエルの名前を出した。
トド・ミルコネン -10AP
※アグニカの生存説を否定。許さん(by 仮面)。
マッキー仮面の男、壊れる。
彼がアグニ会会長からアグニカ教教皇となる日も、そう遠くはないでしょう。
勝手に祀られたアグニカ・カイエル氏には、「ご愁傷様」との言葉を贈らせて頂きます。
それと、初代ボードウィン当主の名前はオリジナル設定です。
初代当主、クリウス・ボードウィン。
とりあえずキマリスに乗って突撃し、敵MAに風穴を開けまくった人間ダインスレイヴさん。
こんな感じでお願いしまーす!(爆)
いや、マジで。
次回、「心配停止! 仮面の男、死す!」。
デュエルスタンヴァイッ!!
--ウソです。
次回、仮面の男が鉄華団と接触します。
仮面の男、一体何ギリス・ファリドなんだ…?