太陽のような君へ   作:こやひで

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正しい答え

「何なのよ一体」

 

 博人君が出て行った扉を見つめて呟く。

 

『でも、この二人が喧嘩してるところなんて初めて見たなあ』

 

 そんなことを考えていると後ろから苦しそうな声が聞こえる。

 

「ゴホッゴホッ!!」

「胡桃ちゃん!!落ち着いて、ゆっくり呼吸するのよ!!」

「ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 胡桃ちゃんは苦しそうになんとか抑えようとする。

 そして十分ほどたってやっと呼吸が落ち着いてくる。

 

「大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です。昔からだからもう慣れました」

 

 少し疲れたような顔で微笑する。

 

「もう、あんなに興奮して話すから。二人の声外まで聞こえてたよ。博人君の様子も変だったし」

「……ひーくんなんてもう知りません」

 

 博人君の様子もおかしかったけど、胡桃ちゃんも少しいつもと違う感じがする。

 

「……博人君と何かあったの胡桃ちゃん?」

 

 胡桃ちゃんはゆっくり話始める。

 そして話を聞き終わって博人君の態度に少し納得がいく。

 

「……そう、そういうことね」

 

 小さく息を吐く。

 

『どっちの言うことも分かるなあ……。また同じことが起こるのを恐れる博人君と維織ちゃんの所に行って早く元の三人に戻りたい胡桃ちゃんか』

 

 博人君も、悩んでいるのだ。

 必死で正解を探している。

 

「分かってるんです」

「?」

「ひーくんの言ってることの方が正しいって。今無理したら駄目だって。でも……でも嫌なんです。ひーくんだって早くいーちゃんに会いたいはずなのに……私のせいで」

 

 胡桃ちゃんは涙を流し始める。

 しかし、涙を拭いて何かを決心したように顔を上げる。

 

「お願いです、祐子さん!!私達をいーちゃんの所に行かせてください!!」

 

 胡桃ちゃんのまっすぐな瞳が私を見つめる。

 もちろん私だって行かせてあげたい。

 それが胡桃ちゃんの願いであり、博人君の今日までの心の支えだったと知っているから。

 ……でも。

 

「……それは出来ない。私はこの病院の看護師として、そして胡桃ちゃんの担当看護師としてあなたの体を守る義務があるわ。まずは体が元に戻ることを優先すべきよ。博人君の言う通り今無理をしたら取り返しのつかないことになるかもしれないんだよ?」

「大丈夫です。だから……」

「大丈夫じゃない!!事故に遭ってあなたの体には大きなダメージが残ってる。昔よりも確実に弱ってきてるのよ。これ以上無理したら……」

 

 ここまで言う必要はないと思い言葉を途中で止める。

 

「……分かってます、自分の体ですから。でも……だからこそ早く行きたいんです」

 

 胡桃ちゃんは頭を下げる。

 

「お願いです、祐子さん。一度だけでいいんです。一度会って駄目だったら次はちゃんと退院してから行きます。だから……お願いします」

「今無理するのは本当に危険だよ?何度も言うようだけど取り返しのつかないことになっちゃうかもしれない」

「分かってます。それでも私は会いたいんです。今いーちゃんに会いに行かなくちゃ私が起きた意味がありませんから」

 

 ……彼女は本当に二人のことが大切なのだ。

 自分の体のことより優先するほどに。

 だからもう一度私は考える。

 どちらの方が彼女にとっての正解なのか。

 ……そして。

 

「……分かった。でも私の判断では決められないから担当の医師に決めてもらう。私もできるだけ胡桃ちゃんの味方をするから」

「ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」

 

 胡桃ちゃんはもう一度深く頭を下げる。

 胡桃ちゃんの嬉しそうな顔を見ながら本当にこれが正しい答えなのかと思う。

 私の胸の中にはモヤモヤが残った。


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