太陽のような君へ   作:こやひで

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修学旅行~二度目の沖縄へ~

「祐子さんに迷惑かけないようにな」

「……うん、分かってる」

 

 俯き気味の胡桃は元気がない。

 今日から二泊三日で俺と維織は修学旅行で沖縄に行く。

 一人きりで何かあったら心配なので、俺達がいない間だけ祐子さん家にお世話にならせてもらうことになっている。

 

「お土産買ってくるわ」

「……ありがとう」

 

 今日は関西空港に現地集合で、そろそろ出発しないと電車に乗り遅れてしまう。

 

「じゃあ、行ってくるよ。学校に遅れないようにな」

「行ってくるわ。胡桃も気を付けて」

「うん……」

 

 名残惜しそうな胡桃の頭に手をポンと置く。

 

「二日間だけだからさ。そんな顔しないでくれよ」

 

 そう言うと胡桃は少し浮かんでいた涙を拭き、無理に作った笑顔を見せる。

 

「ごめんね。いってらっしゃい。お土産楽しみにしてる」

「うん。いってきます」

 

 手を振りながら駅に向かう。

 

「胡桃、大丈夫かしら」

「心配だけどしょうがない。ちょくちょく連絡してあげよう」

「そうね……」

 

 最寄駅から京都駅へ行き、関西空港まで向かう電車に乗り込む。

 

「でも、こうして博人と二人きりになるのはいつぶりかしら」

「いつも三人で行動してるからな……いや、久しぶりでもないぞ」

「そう?」

「去年の夏に俺ん家に泊まったじゃないか」

「……そういえばそうだったわね」

 

 あのことは結局、胡桃には言っていないらしい。

 別に隠すことでもないと思うが、わざわざ言うことでもないと言われ納得した。

 空港までは一時間くらいかかる。

 外の景色を見たりすることしか時間を潰す術がないため、自然に維織との会話が多くなる。

 

「胡桃の気持ちが表情に出るのは羨ましいと思うわ」

「そうか?でも維織も……そんなことないか」

「ええ。いつも不機嫌な顔をしていると思うから」

「俺達の前ではそんなこともないと思うけど。けどそう思うなら今回の修学旅行では全部顔に出してみたらどうだ?」

 

 そんな冗談に維織は思いの外真剣に悩んでいたが

 

「止めておくわ。それでなくても普段話さない人達との泊りがけで疲れるというのに、余計な負担は勘弁だから」

「負担って……。もうちょっと喜怒哀楽ははっきりした方が良いと思うけど」

「昔からだもの。もうしょうがないわね」

 

 そう少し諦めたように笑う。

 

「でも、維織は笑ってる方が可愛いと思うぞ」

 

 そう言って維織の顔を見て、クスリと笑う。

 

「ほらっ、俺達の前ではちゃんと顔に出る」

「あ、あなたはいつも唐突なのよ」

 

 昔からこうやってからかうのが少し癖になってしまっている。

 そんな話をしていると到着のアナウンスが響く。

 

「行くか」

「ええ」

 

 キャリーバッグを引き、しおりを見ながら集合場所に向かう。

 その地点に近付くと、ざわざわとうるさい私服の集団見えてくる。

 そこに近づくと先生の姿が見える。

 

「おはようございます」

「ああ、おはよう。じゃあ、クラスの所に並んでおいてくれ。あとこれと」

 

 キャリーバッグに付けるタグを渡される。

 

「分かりました」

 

 並びに行こうとすると先生に呼び止められる。

 

「栗山は大丈夫だったか?」

「ええ、まあ。何とかって感じですけど。連絡はちゃんとします」

「そうか。まあ、君たち二人ではあまり楽しめないかもしれないが、せっかくなんだから楽しみなさい」

「大丈夫ですよ。いっぱい楽しんで胡桃に話してあげないといけないので」

 

 そう言って笑う。

 大人しく待っていると全員が集まったらしく、荷物を預け、飛行機に乗り込んでいく。

 そして、飛行機が飛び立ち、歓声が上がる。

 

「すげえ景色だな。なあ」

「……そうね」

 

 完全にあっちを向きながら答える。

 そういえば維織は高所恐怖症だった。

 

「本でも読んでたらどうだ?」

「ええ。そうするわ」

「……前の時もずっと本読んでたのか?」

「前は……ぼおーっとしていたわ。眼をつぶると思い出してしまうから」

「そうか……」

 

 俺もあの時はずっと外の景色を見ていた。

 なんて維織に話しかけるかずっと考えていたような気がする。

 取りあえず、しおりを取り出し今日の予定を見る。

 

「今日は……まずは着いてバスに乗って移動か。へえ……」

「へえって。しおり読んでないの?」

「……持ち物のところは熟読したんだけどな」

「予定くらいは読んでおきなさいよ」

「は~い」

 

 一通り眼を通しとりあえずの予定を頭に入れておく。

 

「まあ大体分かったよ。じゃあ俺は寝るから」

「ええ。……胡桃がいないと静かになるわね」

「俺達は元々あんまり喋らなかっただろ?こういう時はいつも俺は寝て、維織は本読んでた」

「確かにそうね。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

 

 関西空港からは二時間半ほどで那覇空港に到着するらしい。

 眼を閉じる瞬間に維織が本を取り出すのが見えた。

 やっぱり本読むのが好きなんだなと思いながら眼を閉じた。

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「博人。行くわよ」

 

 肩をゆすぶられる。

 

「んっ……。おう……」

 

 飛行機から降りる。

 ドアから一歩出ると二月とは思えない暖かい風が身体を抜けていく。

 

「やっぱり京都に比べたら暖かいよなあ」

「そりゃそうでしょ。沖縄だもの」

「だな」

 

 必要なものだけを入れたバッグを持ち、俺達はバスに乗り込んだ。

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「ふう」

 

 大浴場の脱衣所で髪を乾かしながら、息を吐く。

 今日は平和祈念公園、祈念資料館、ガマなど沖縄の歴史に関するところを周った。

 明日も色々な所を周るらしい。

 ホテルの部屋に帰る前に胡桃に連絡をいれておく。

 メールなどはしていたが電話をするのは今日初めてだ。

 

《ひーくん!!》

 

 大きめの声が聞こえてきて、耳から携帯を少し話す。

 

「胡桃?元気か?」

《うん。今からお風呂入ろうと思ってたとこなんだ》

「そうか。俺は風呂から上がったとこでもう寝るんだよ。祐子さんは?」

《いるよ。代わる?》

「ああ、頼む」

《分かった》

 

 ちょっと待っててと言って声が遠くなる。

 そしてすぐに祐子さんの声が聞こえてくる。

 

《祐子です。修学旅行楽しんでる?》

「はい。といってもまだ初日なんですけどね。胡桃の様子はどうですか?」

《特に問題ないよ。ちょっと寂しそうだったけど今はましになったかな》

「そうですか。頼りきりになってしまってすいません。胡桃を一人にするのは心配だったので」

《大丈夫だよ。ふふっ》

 

 祐子さんの笑い声が聞こえる。

 

「?」

《いや、さっき維織ちゃんからも電話があってね。博人君と同じこと言ってたから》

「そうだったんですか。まあ、やっぱり心配ですよ」

《気持ちは分かるけど、こっちのことは私に任せて思いっ切り楽しみなよ》

「はい、ありがとうございます」

 

 じゃあねと言って電話はまた胡桃に渡される。

 

「維織も電話してたんだな」

《あっ!!言うの忘れてた。ひーくんから電話掛かってきたのが嬉しくて》

「別にいいよ。じゃあ祐子さんに迷惑かけないようにな。また、明日連絡する」

《うん!!おやすみ》

「おやすみ」

 

 通話を切り、まだ少し湿っている髪を触る。

 この暖かさなら自然に乾くだろう。

 明日も早い。

 さっさと寝ようと部屋まで歩いて行った。


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