太陽のような君へ   作:こやひで

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慣れない環境

「・・・もう、、、嫌だ」

 

俺達にしか聞こえないくらいのか細い声。

思わず維織と顔を見合わせる。

 

「く、胡桃?どうしたんだ」

 

突然のことに驚きを隠しきれず問いかける。

維織も戸惑ったように胡桃を見ている。

しかし、胡桃は俺の問いかけでハッとしたように慌てて俺から離れる。

 

「ご、ごめんね!!ごめん・・・」

「い、いや。大丈夫だよ。それより、、、」

「な、何でもないの。気にしないで」

 

そんなことを言われて気にならないやつなんていない。

 

「そんなこと言われても—」

「胡桃。ご飯はもう食べたの?」

 

維織は俺の言葉をさえぎる。

 

「えっ?ま、まだだよ」

「なら一緒に食べましょうよ。この学校には食堂があるらしいから。そうなんでしょ、博人?」

「そ、そうだけど」

「だから一緒に食べましょ?」

「・・・うん。分かった。お弁当持ってくるね」

 

そう言うと胡桃は自分の席に戻っていく。

 

「・・・色々聞きたいことはあるけれど、、、ここじゃ話しづらいわ。場所を変えましょう」

 

維織の視線の先を追うと色んな人がこちらをちらちらと見ている。

思ったよりも注目を集めてしまったみたいだ。

 

「そうだな。その方が良さそうだ」

「お待たせ!!」

 

胡桃がお弁当箱を持って戻ってくる。

 

「じゃあ、行きましょう。博人お願いね」

「はいよ」

 

もちろん二人は食堂の場所など知らないので俺が先導して案内する。

お昼真っ只中の食堂は学年性別問わずたくさんの人でごった返している。

なんとか席を見つけることができた。

 

「さて、食べようか。いただきます」

 

維織にもらった弁当を開く。

色鮮やかなおかずははとてもおいしそうだ。

卵焼きから食べてみる。

 

「うん、おいしいな」

「そう。良かったわ」

 

維織はほっとしたように微笑む。

 

「いーちゃんの作ったご飯は本当においしいね!!私もこのくらいの作れるようになりたいなあ」

「練習すればなれるわよ。胡桃、手先は器用なんだから」

「絵が上手いくらいだもんな」

「あんまり関係ないんだけどね」

 

そう言って胡桃は笑う。

お昼の時間も少なくなってきて、大量にいた生徒の数も段々と少なくなってくる。

俺達もお弁当を食べ終わり、片付ける。

人がすくなってきたのを見計らい、維織の方をチラリと見る。

維織は小さく頷き、あのことについて聞く。

 

「ところで胡桃、さっきは一体どうしたの?」

「えっ?な、なんでもないよ!!本当に!!」

「そんなわけないでしょ。・・・まさか、クラスの人に何か?それなら、、、」

 

それなら、、、。

その後の言葉は聞かなくても分かる。

もしそれが本当なら俺も強行策は辞さない。

 

「そ、そんなことないよ!!みんな凄く優しくて、声も掛けてくれて・・・」

「ならどうして」

 

胡桃は少し狼狽えていたが、俺達の視線に耐え兼ねゆっくり口を開く。

 

「ひ、久しぶりにひーくんといーちゃん以外の大勢の人達と接して、、、その、、、不安になるというか、、、怖くなっちゃって・・・」

「怖い、、、か」

 

元々胡桃は引っ込み思案で人見知りだ。

その上病院ではほぼ決まった人としか会うことはなかったので、胡桃からすれば俺達以外の歳が近い人に会うのは二年半ぶりということになる。

胡桃の性格を加味しても人と触れ合うのが怖いというのは起こってもおかしくない感情だ。

 

「色んな人が話し掛けてくれても頭が真っ白になって、上手く話せなくなるの」

「仕方ないわよ。胡桃はそういうことが苦手なんだから」

「・・・確かに仕方のないことだろうけど、直さなくちゃいけないことだとも思うぞ。俺達がずっと近くにいないと駄目なんて」

「わ、分かってるよ。今日は一日目だから・・・」

「そりゃいきなりは無理だよ。でもこれからずっとは一緒にはいられないんだから、俺達がいないことにも慣れていかないとな」

 

ガチャ

胡桃が片付けようとしていた箸箱を机に落とす。

 

「・・・どういうこと?」

「えっ?」

「なんでそんなこと言うの?私は一緒にいられるよ。ずっと、、、一緒にいたいよ・・・」

 

自分の言葉が足らなかったことに気付き慌てて訂正する。

 

「ち、違う!!これからっていうのはそういう意味じゃなくて学年が違うから俺達の方が先に卒業するだろ?そうなったらって話だよ」

 

胡桃はハッとしたような顔をする。

 

「あっ!!そ、そうなんだ。ごめんね、私が勘違いしちゃって。うん、そうだよね。私も頑張らないとだね」

「まあ、胡桃なら大丈夫だよ」

「あっ、そろそろ授業が始まるわよ」

 

言われて時計を見ると授業が始まるまであと十分くらいだ。

そろそろ教室に戻ろうと席を立つ。

 

「ちょっと俺トイレ行きたいから先帰っといてくれ」

「ならお弁当箱持って行っておくわ」

「ありがとう」

 

お弁当を維織に渡し、トイレに行く。

さっさと済ませて教室に戻る。

その途中で先生に会う。

 

「やあ。君のことで色々と噂になっているぞ」

「噂ですか?」

「転校してきた美少女と手を繋いで教室を出ていったり、転校してきた一年生の美少女と抱き合ったりとな」

 

な、なんだそれ・・・。

 

「それだけ聞くと凄い奴ですね・・・。てか朝のは分かりますけど昼のはなんで知ってるんですか?」

「ああ。うちのクラスで昼休みのを見た奴がいたらしくてな。教室に少し用があっていった時に聞いたんだよ」

「嫌な情報ですね。教室に戻りたくないな・・・」

 

そんなことは言っても先に維織が教室に戻っているため、俺も早めに戻ったほうが良さそうだ。

 

「君たちにとっては当たり前かもしれないがここは学校だぞ。ああいうことは少し自重してもらわないとな」

「別に当たり前ってわけじゃないですよ。とっさに、無意識にってやつです」

「その方が少し困るな」

 

確かに。

 

「まあ久しぶりの学校ですから、色々とまだ慣れないんでしょう」

「だからと言って君達ばかりに助けてもらうわけにはいかないだろう。君たちのほうが先に卒業するんだから」

「全く同じことを胡桃に言いましたよ。胡桃は頑張るって言ってたんでそれを信じるしかないですね」

「それならいいが。ほら、授業始まるから早く教室に戻れよ」

「はい」

 

教室に戻ると色々な人の視線が気になる。

気にせず椅子に座り、静かに座っている維織に声を掛ける。

 

「大丈夫だったか?」

「何が?」

「いや、色々聞かれてないかと思って。先生に朝のこととか噂になってるって言われたからさ」

「別に、平気よ」

「ならいいんだけど」

 

授業が始まり、シャーペンを握る。

胡桃とは学校が終わってからでもまた話せばいい。

それにしてもと隣で真面目にノートをとっている維織をチラリと見る。

しかし、すぐに気付かれ前を向くようにシャーペンで黒板を刺される。

へらっと笑いながら前を向き、頬杖をつく。

初日から色々なことが起こり、これからが少し不安だなあとため息をついた。


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