太陽のような君へ   作:こやひで

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変わらない笑顔

 五月も終わりに近づいてきた。

 テレビで来週あたりから梅雨入りと報道していたので、今日みたいな晴天もしばらくは見ることが出来なくなるのかもしれない。

 そんな晴天の中を俺は全力疾走していた。

 それはほんの十分前にかかってきた電話を聞いたからだった。

 

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 今日もいつもと変わらず購買で昼食を買い教室に帰る途中だった。

 携帯がポケットの中で震えだす。

 

『誰だ?こんな時間に』

 

「はい」

 

 不思議に思いながらも電話に出ると聞こえてきたのは聞き慣れているが、普段とは雰囲気が違う祐子さんの声だった。

 

《博人君?祐子です》

「祐子さん?どうしたんですか?こんな時間に」

 

 話しながら自分の心拍数が上がっているのを感じる。

 今まで俺が学校にいる時間に祐子さんから電話がかかってきたことはない。

 ……胡桃に何かあったに違いない。

 

《とりあえず状況だけ伝えておいた方がいいと思って。落ち着いて聞いてね》

 

 珍しく真剣な祐子さんの声に嫌な汗が出る。

 

《胡桃ちゃんが一回、目を覚ましたの》

「……えっ?ほ、本当ですか!?」

 

 祐子さんが言ったことを理解するのに数秒固まる。

 しかし理解したところで祐子さんの言葉に少し違和感を覚える。

 

「……一回?一回ってどういうことですか?」

《その通りの意味だよ。十時頃に一度目を覚ましたの。しばらくは意思疎通を図ることは出来てたんだけどその後すぐに苦しそうにして気を失っちゃって》

「‼ い、今はどうなっているんですか!!」

《今は安定してる。でもいつまた状況が変わるか分からないから油断は出来ないわ》

「……分かりました。今日は病院には――」

 

 その時電話から祐子さんではない女の人の慌てている声が聞こえてくる。

 その人が何を言っているのは聞き取れない。

 でも、何かが起こっているようだった。

 

「ゆ、祐子さん」

《ごめん、博人君。胡桃ちゃんの具合が少し変わったみたいで行かなくちゃ。今日は病室に来るのは控えてね。また連絡は入れるから。それじゃあ》

「え!?ちょっ、ちょっと待っ――」

 

 ツーツーツー

 

 早口で捲し立てた後祐子さんは電話を切った。

 電話の切れた携帯を持って呆然と立ち尽くす。

 

『胡桃が目を覚ました……。やっと、やっと目を覚ましてくれた』

 

 喜びが身体中を駆け巡る。

 しかし、胡桃の今の状況を思い出す。

 

『でも、今また胡桃は苦しんでる。なら――』

 

「そんな時に呑気に授業なんて受けてられるか!!」

 

 手に持っていた携帯と買い物袋を放り出して走り出す。

 靴を履いて玄関から飛び出した時に後ろから怒鳴り声が聞こえたが構わず走り続けた。

                   ・

                   ・

                   ・

「はあっ、はあっ、はあっ」

 

 病院までは十分程で着いた。

 あまりの苦しさに病院の玄関の椅子に倒れこむ。

 汗が顔を滑り椅子の上に落ちる。

 

『心臓が破裂しそうだ。でもこんなところで休んでいられない。あと少しなんだ』

 

 呼吸を荒げながら階段を駆け上がり胡桃の病室の方を見る。

 そこには沢山の人が集まっているのが見えた。

 

『……なんであんなに人がいるんだ?看護師も医者もあんなに。目が覚めただけなら関係のない人がいる必要なんてないはずだろ?』

 

「ま、まさか……死っ――‼」

 

 嫌な想像を頭から払い落とす。

 必死で病室前まで走り、入り口に集まっている人たちをかき分けて中に入ろうとする。

 

「どけ‼どいてくれ‼」

「な、なんだね君は‼今はまだ――」

「うるさい‼どけ‼」

 

 止めようとする人たちを押しのけて病室の中に飛び込む。

 

「胡桃‼」

 

 急に飛び込んできた俺に病室の中にいた何人かの看護師が悲鳴をあげる。

 そこには祐子さんもいて、俺を見て目を丸めているのが見える。

 そんなものは意識の外に置いて慌てて胡桃の方を向く。

 そして、目に飛び込んできたのは

 

「あっ、ひーくんだ~」

 

 二年前と変わらない笑顔を浮かべた胡桃だった。


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