太陽のような君へ   作:こやひで

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修学旅行~1日目~(1)

学校生活最後で最大のイベントである修学旅行の日がやってきた。

俺達のグループは俺、維織、胡桃の三人だ。

本来は四~五人で一グループなのだが前に俺と維織が教室で起こした事件の影響でクラスの人達が俺達のことを怖がり一緒のグループが嫌だと言ったため溢れてしまったのだ。

しかし、この三人でいる方が楽なので結果オーライなのかもしれない。

 

「修学旅行だね!!」

「落ち着け、胡桃」

「バスではしゃぐと昔の博人みたいになるわよ」

「・・・悪意のある言い方だな」

 

維織の毒舌はどうにかならないのか?

 

「二人共元気ないね。どうしたの?」

 

胡桃は朝の集合場所からずっとはしゃいでいる。

 

「俺はバスの中ではしゃぐと死ぬから」

「私は普段からあまりはしゃいだりしないから」

「確かに維織がはしゃいでるところ見たことないし想像もできないな。逆に胡桃はいつもよりテンション高いな」

「初めての友達とのお泊りだから」

 

胡桃は病気のせいで学校に行けていなかったため、まだ学校の合宿を経験したことがない。

 

「俺達は去年に行ったな」

「楽しかった?」

「私も博人も友達がいないから。基本二人で行動していたわ」

「夜寝るときは男女バラバラだからしんどかったな」

「あれは苦痛だったわね。でも今回は胡桃がいるから安心だわ」

「俺は相変わらず一人だけどな・・・。あと肝試しもヤバかったよな」

 

思い出しただけで背筋が凍る。

俺も維織もホラーが苦手なのであの時は死ぬかと思った。

 

「あれは、、、思い出したくないわ」

「いいなあ。私も行きたかったな」

「まあ、今まで行けなかった分、今日と明日楽しもうぜ」

「うん!!」

 

『何事も起こらず平和に終わればいいけど。胡桃の初めての合宿だからな・・・』

 

バスは順調に目的地に向けて進んで行く。

バス酔いしないように俺は静かに眼を閉じた。

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「・・・くん、ーくん、ひーくん!!着いたよ、起きて!!」

 

肩を揺さぶられる振動と胡桃の声で眼が覚める。

横には呆れた顔をしている維織もいる。

大きく欠伸をする。

 

「ふあ~・・・おはよう。もう着いたのか?」

「ひーくんすぐに寝ちゃったから。もうみんなバスから降りちゃったよ」

 

見渡すと確かにバスには俺達三人しかいない。

 

「わざわざ待っててくれたのか。悪いな」

「同じ班なのだから当たり前でしょ。早く降りるわよ」

「はいはい」

 

バスを降りると他のクラスの人達も集まりかけている。

少し急いで自分のクラスの場所に座る。

しばらく経つと先生の話が始まる。

 

「じゃあ集合が完了したので移動しましょう。まずは昼食です」

 

坂の下にある大きな食堂で昼食をとるらしい。

先生の指示でみんなが移動し始める。

 

「じゃあ俺達も行こうか。」

「うん!!」

「ええ。」

 

坂を下っていく。

その途中にもたくさんの甘味処が並んでいてお腹が鳴る。

 

「おいしそうだね」

「そうだな。昼食の後自由時間があるらしいからちょっと寄ってみようかな」

「そんなにたくさん食べれるのかしら」

「大丈夫だって。甘いものは別腹だよ」

 

昼食を食べる場所に辿り着く。

大きく昔ながらの建物だ。

手を洗い席に着く。

メニューは牛丼で俺の好きな料理の一つだ。

 

「おかわりもありらしいな」

「私そんないっぱい食べれないよ」

「私もよ。この後もバスに乗るのだからあまり食べ過ぎないようにしなさいよ」

「分かってるって」

 

結局お腹がすいていたことや好物だったこともあって二杯も食べてしまった。

 

「ひーくん、いっぱい食べてたね」

「博人が好きなものだったからね」

「美味いからな」

 

その後はしばらく班で自由時間ということで辺りをぶらぶらと歩く。

 

「昔の建物ばっかりだね」

「ここは昔ながらの建物が残っている場所なのよ。といっても火事で消失したものを復元しているらしいけれど」

「詳しいな・・・。調べたのか?」

「事前学習で調べたでしょ?博人は真面目にしていなかったから知らないでしょうけどね」

「いや~、、、俺も調べたつもりだったんだけどな」

「よく言うわよ」

「まあまあ。でも京都も昔の建物多いよね」

「京都は昔から古都と呼ばれているくらいだから。その名残が残っているのよ」

「こと?楽器なの?」

「・・・誰が引くんだよ。巨人か?」

 

維織も頭を押さえている。

 

「・・・古い都と書いて古都よ」

「あっ。そ、そっちか」

「それしかないだろ・・・」

 

呆れた声で言うと胡桃は照れたように笑う。

 

「京都は古都と言われるだけあって他にも伝統的なお寺も多いから」

「あれだよね、金閣寺、銀閣寺とか?」

「そうね。正式には鹿苑寺、慈照寺と呼ばれているわ」

「へえ~。いーちゃんはいろんなこと知ってるね」

「一般的な知識の範疇よ」

 

『また照れてる。維織は褒められるとすぐに照れるな』

 

思わずクスリと笑うと維織が睨んでくる。

 

「・・・何よ」

「いや、なんでも。ほら京都の話は京都に帰ってからすればいいだろ?今はこの場所を楽しもうぜ」

「そうね」

「行こうよ、ひーくん、いーちゃん」

 

胡桃に言われ、その後もしばらく古い建物の風景の中を歩きながらおいしそうな甘味処を覘いていた。

しばらくして集合時間になる。

この後はまたバスに乗りここから少し離れた所に向かう。

 

「今は寝ちゃ駄目だよ、ひーくん」

「いやもう眠くないけど。でも別に話す話題もなくないか?」

「そうね。特に話題があるわけではないけれど」

「そ、そうだけど。せっかくの合宿なのに・・・」

「そうだな~。さっきはバスの中でなんの話をしてたんだ?」

「ひーくんといーちゃんの小さい時の思い出話をしてもらってたよ」

「そんな話をしてたのか。変なこと言わなかっただろうな」

 

維織に確認を取ると視線をそらされる。

 

「・・・おい」

「・・・別に変なことは言ってないわ。全部本当のことよ」

「いーちゃん、すごく楽しそうに話してくれたよ」

「あ、あまり言わなくていいわよ」

「全然気付かなかったよ。起こしてくれれば良かったのに」

「気持ちよさそうに寝てたから」

「昨日ちゃんと寝たんだけどな・・・。じゃあさっきの話の続きでもしといてくれよ。聞いとくから」

「も、もう話は終わったわ。他の話をしましょう」

「他の話か~。そう言えば二人は卒業アルバムの質問書いた?」

 

今月はもう十月で卒業アルバムのクラスのページ制作が進められている。

その中で将来の夢は?という質問があったのだ。

 

「あれか?俺はまだだな」

「私もね」

「私も今考えてるとこなんだけど二人はなに書いたのかな?って思って」

「てかあれ締め切りまだまだだろ?まだ考えなくても大丈夫だって」

「駄目よ。博人、いつもそう言ってぎりぎりになるじゃない。夏休みの宿題だって-」

「わ、分かったよ。帰ったらやるから」

「いーちゃん、お母さんみたい」

「本当だよ。維織がずっと言ってくるから母さんもなんも言ってこなかったからな」

「美由紀さんからは勉強のことはよろしくと頼まれているから」

「・・・母さんはまた余計なことを」

 

『母さんは維織に信頼を置きすぎなんだよな・・・』

 

「二人はなんて書く?」

「そうだな、、、この歳で将来の夢なんて考えても高校生くらいになったら絶対に変わっていると思うけどな」

「そうかしら。将来の夢が変わらない人だっていると思うわ」

「そうだよね」

「そうか?だいたい小学校の頃に野球選手とかサッカー選手になりたいって言ってても高校くらいになるとみんなが目指すのは薬剤師とかの安定した職だからな。みんな現実を見るもんなんだよ」

「夢の話をしているのに夢のない話をするわね」

「悪かったな。でも維織は教師とか向いてそうだよな」

 

頭が良いから教えるのもうまい。

性格も教師に向いていると思う。

 

「いーちゃんの説明分かりやすいもんね」

「あまり乗り気はしないわね。それに私の将来の夢は決まっているから」

 

その言葉に少し驚く。

そんなことは初耳だ。

 

「そうなのか?なに?」

「言わないわよ。言ったら叶わないかもしれないじゃない」

「えっ?なんで?」

「それってあれだろ?神社でした願い事を他人に言うと叶わないってやつ。迷信だって」

「そんなのあるんだ」

「そんなことは信じてないわよ。単純に言いたくないだけ」

「そんなに言いたくないならいいんだけど。ちょっと気になっただけだからさ」

「いつか必ず言うわ」

 

そう言って維織は優しく微笑む。

維織がそう言うならいつか教えてくれるのだろう。

 

「楽しみに待ってるよ。胡桃は候補は考えてるのか?」

「う~ん、、、少し考えてはみてるんだけどこれっていうのがなかなか思いつかなくて。実は私今まで将来のことを考えたことがないんだ・・・。・・・ずっと明日生きてるか分からない毎日だったから」

「・・・でも、今はマシになって京都まで帰ってきたんだろ?だったら将来のことも考えなくちゃ。ネガティブになったら駄目だよ」

「うん、分かってる。でもやっぱり考えちゃうんだよね。・・・私はいつまで生きてるんだろうって」

 

マシになったと言っても胡桃の病気は治ることのない一生付き合っていかなければならない病気だ。

次また酷くなれば命も危ない。

 

「ごめんね、暗い話して。私が始めた話なのに。二人は私に合う職業って何だと思う?」

「そうね・・・。今何か興味がある事あるの?」

「興味があること・・・。絵を描くこと、、、くらいかな?」

「なら単純だけど絵を描く仕事というのはどうかしら」

「例えば?」

「そうね、イラストレーターやパソコンを使うならCGクリエイターかしら」

「いっぱいあるんだね。でも私は全然上手くないし・・・」

「俺達まだ12歳じゃないか。就職するのはまだ十年後なんだから。まだまだこれから練習すればいいんだって」

「そうよ。時間はたっぷりあるわ。それにこれも一つの選択肢ってだけだもの」

「そうだよね。頑張ってみようかな」

「頑張れ頑張れ。また絵も見せてくれよ」

「そ、それはちょっと恥ずかしいかな。ま、また今度ね」

「楽しみにしてるよ」

「そういう博人の夢はなんなのよ」

 

そう維織に言われ考えてみる。

 

「・・・まったく思いつかないな。俺って何に向いてるんだ?趣味なんて読書くらいしかないんだけど」

「博人は、、、そのうち何か見つかるでしょ」

「そうだよ。大丈夫だよ」

「えっ?俺何もないの?」

 

二人は他の話を始め俺は一人取り残される。

 

『・・・家帰ってから考えよ』

 

窓の外を見ると周りは森に囲まれている。

今度は寝ないように到着まで二人の話を聞き続けた。




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