太陽のような君へ   作:こやひで

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放課後(博人の家)

「どうぞ。何もないけれど」

「なんで維織が言うんだよ・・・」

「お邪魔します」

 

今日はこの間約束した通り三人で俺の家で遊ぶことになった。

 

「いらっしゃ~い」

 

ドアを開けると母さんが出迎えてくれた。

 

「は、初めまして。こ、駒井君とは同じクラスで仲良くしてもらっている栗山胡桃です」

「博人の母の駒井美由紀です。胡桃ちゃんね、博人と維織ちゃんからよく話は聞いてるわ」

 

そう言いながら母さんは栗山の顔をじろじろと見る。

胡桃は気まずそうにたじたじとする。

 

「えっ、、、あ、あの・・・」

「胡桃ちゃんかわいいね~。モテるでしょ」

「そ、そんなことありません!!」

「へえ、そうなんだ」

 

今度は俺の顔を見てニヤニヤし始める。

 

「・・・なんだよ」

「博人あんたいいねえ~。胡桃ちゃんと維織ちゃんなんて可愛い子二人と仲良くなって、両手に花じゃない。・・・どっちにするの?」

「なっ!?」

「えっ!?」

 

母さんがそう言った瞬間、栗山と維織が変な声を出して凄い勢いで喋りだす。

 

「博人は頼りなくてあの私には会わないというかでも嫌いという訳でもなくてじゃなくてあのその・・・」

「わ、私は引っ越してきたばっかりでえと駒井君のこともまだ全然知らなくてだからその・・・」

 

二人の動揺の具合が半端じゃない。

慌てている二人を見ながら母さんはケラケラと笑っている。

 

「・・・母さん、そういう冗談言うのやめろよ。二人とも凄いことになってるぞ。あと笑いすぎだ・・・」

「あははは・・・。思ったよりも反応が面白かったから」

 

栗山と維織は顔を真っ赤にして肩で息をしている。

 

「み、美由紀さん!!そういう冗談はやめてください!!」

「う~、、、私そういう話は苦手なんです・・・」

「ごめん、ごめん。でも胡桃ちゃんはお付き合いとかしたことないの?」

「あ、ありません!!わ、私なんてそんな・・・」

「へえ、意外。胡桃ちゃん可愛いのに。ねえ、博人」

 

『こっちに話を振るなよ・・・』

 

「まあ、そうだな」

「えっ!?あ、ありがとう」

 

胡桃が照れているのを見て母さんはなぜか頷いている。

 

「ひ、博人もう部屋に行きましょうよ」

 

三人で話していると維織が何故か焦り気味に言ってくる。

 

「なんで焦ってるんだ?」

「あ、焦ってないわよ」

 

それを聞いてまた母さんがニヤニヤし始める。

 

「維織ちゃん、焼きもち?」

「ち、違います!!そんなのじゃありません!!」

「本当に~?博人どう思う?」

「俺?」

 

なんで俺?

 

「ひ、博人は関係ありません!!」

「そうなの?てっきり博人が胡桃ちゃんにしか可愛いって言わないから嫉妬してるのかと思った」

「えっ?そうなの?」

「ち、違うわよ!!私先に部屋に行ってるわ!!」

 

維織は走って階段を上がっていく。

 

「あいつどうしたんだ?」

「ちょっとからかいすぎたかな?後で謝らなくちゃ。それで博人の部屋で遊ぶの?」

「うん」

「じゃあ後でジュースとお菓子持っていくよ」

「ありがと。じゃあ栗山行こうぜ」

「うん」

 

二階に上がり部屋に入る。

しかし維織の姿が見えない。

 

「あれ、白瀬さんどこ行ったんだろ?」

「・・・維織、ベッドから出ろ」

「えっ?」

 

布団がモソモソと動く。

栗山は維織の意外な面を見て驚きの声を出す。

 

「白瀬さんってこんなことするんだ」

「維織は恥ずかしがると何か被って丸まるんだよ」

「・・・別に恥ずかしがってないわよ」

 

維織が布団から顔を出す。

その顔はまだ少し赤い。

 

「まあ、母さんの言うことなんて気にしなくていいよ。昔からだろ?」

「・・・気にしてないわ」

 

俺たちの会話を尻目に栗山は本棚を見ている。

 

「わあ~、本がいっぱいある」

「父さんが本好きでさ、読みやすい本とかを貸してくれるんだよ」

「凄~い。私も本は読むけどこんな難しそうなの読んだことないなあ」

「その難しそうな本は維織しか読んでないよ。俺は普通の小説しか読まないから」

「そうなんだ。白瀬さん凄いなあ」

「そ、そんなに難しい本ではないから」

 

維織は栗山から褒められて嬉しそうに話している。

少しは元気になったようだ。

 

「栗山は普段家でなにしてるんだ?」

「う~んと・・・絵を描いたり、本を読んだり、ママとかパパと喋ったりしてるかな。・・・外では一人で遊んじゃ駄目だから」

「まあ、俺達なんて外で遊べても遊ばないけどなあ。疲れるの好きじゃないし。ずっと本読んでるだけだしな」

「いいじゃない。本を読むことは将来的に絶対役立つわ」

「まあ、そうだけどな。さて何する?」

 

俺の家にはゲーム機などの遊ぶものがない。

 

「本を読むんじゃないの?」

「それはいつでも出来るだろ。せっかく栗山が来てるんだし違うことやろうぜ」

「それもそうね。博人の家に何か遊ぶものあったかしら?」

「え~と、、、トランプ、UNO、オセロ、将棋・・・あと何かあったかな?」

「ほとんど二人用ね」

「しょうがないだろ。普段やるとしても母さんとしかやらないんだから」

「じゃあトランプでババ抜きする?」

「そうだな。トランプと一応UNOも持ってくるよ」

 

立ち上がった時にドアがノックされ返事をする前に開く。

 

「ふっふっふっ、お困りかなお三方。そんな君たちにこれを貸してあげよう」

 

そう言って謎のポーズをきめた母さんが後ろから取り出したのは人生ゲームだった。

 

「あっ、人生ゲームだ」

「懐かしいわね」

「そういえばそんなのあったな。てかそれは何キャラ?」

「救世主!!みたいな?あとジュースとお菓子持ってきたよ」

「ありがと」

「そうだ、良かったらお母さんも一緒にやりませんか?」

「いいの?私は強いよ」

「・・・本気出すなよ、大人気ないからさ」

「大人気なんて関係ない!!これは人生をかけた勝負だよ!!」

「そうよ博人。そんな甘いことを言っていたらこの厳しい世の中を生きていくことなんて出来ないわ。勝った者が正義なのよ」

 

母さんと維織の盛り上がり具合が半端じゃない。

ただの人生ゲームとは思えない。

ていうか維織は本当に小六か?

 

「ふ、二人とも凄い迫力・・・」

「悪いな栗山・・・。母さんはこういうイベント好きで、維織は負けず嫌いなんだよ」

「わ、私人生ゲームなんて二回くらいしかしたことないんだけど・・・」

「大丈夫だって。人生ゲームなんて運ゲーだからさ」

 

母さんから合図がかかる。

 

「三人とも準備はいい?」

「はい!!」

「はい!」

「おお」

「じゃあ、人生をかけたゲームの始まりだ!!」

 

だから何キャラなんだよ・・・。

                       ・

                       ・

                       ・

そして結果は・・・。

 

一位 俺

二位 母さん

三位 栗山

四位 維織

 

となった。

 

「いや~、博人に負けちゃったか。ちゃっと手加減しすぎちゃったかな。胡桃ちゃん楽しかった?」

「はい!!とても楽しかったです!!」

「ちゃっかり言い訳するなよ・・・。でも、やっぱ人数が多い方が盛り上がるな」

 

そう言いながら盛大に落ち込んでいる維織を横目で見る。

 

「負けた・・・。栗山さんにはともかく博人に・・・負けた」

「・・・維織にとっての俺の立ち位置ってどこなんだ?人生ゲームなんてほとんど運ゲーなんだからしょうがないだろ」

 

しかし、俺のフォローも維織の耳には届いていないようだ。

 

「・・・もう一回やりましょう」

「やらねえよ。もう暗いからそろそろ栗山も家に帰らないと」

「えっ!?本当だもうこんな時間!!まだご飯作ってない!!」

「な、長居してしまってすいません!!もう帰ります!!」

「栗山は悪くないって」

 

栗山を玄関まで送る。

 

「じゃあ、、また-」

「何言っているの博人。胡桃ちゃんの家まで送ってあげなさい」

「えっ、だ、大丈夫です。一人で帰ります」

「いいから。もう暗いし女の子一人じゃ危ないよ。男が女の子を家まで送ってあげるのは当たり前だよ」

「そうなの?分かったよ、送ってくる」

「じゃあ私も行くわ」

「ありがとう、駒井君、白瀬さん。じゃあ、お邪魔しました」

「またいつでも来てね~」

 

外は少し暗くなりかけていた。

 

「結構時間経ってたんだな」

「夢中だったから全然気付かなかったよ」

「でも春だからそんなに暗くなってないわね。良かったわ」

「そうだな。栗山の家はここから遠いのか?」

「え~と、、、ここからだと十五分くらいかな」

「結構遠いな」

「うん。これだったら二人の家の近くに引っ越してこればよかったな~」

「そうだな。それなら一緒に帰れたのにな」

 

三人で栗山の家まで歩いて行く。

見えてきた栗山の家は綺麗な一軒家だった。

 

「二人共、送ってくれてありがとう。また明日ね」

「ええ、また明日」

「また明日な」

 

手を振りながら栗山が扉の向こうに消える。

 

「じゃあ、帰ろうぜ。お腹減った」

「そうね、今日のご飯は何かしら」

「・・・カレーがいいな」

「博人は本当にカレーが好きね」

「しょうがないだろ。美味しいんだから」

「まあ、確かにね」

 

今日も普通に流れていく。

これからもそうだと思っていた。

しかし、暗い影が俺たちに静かに覆い被さった。


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