太陽のような君へ   作:こやひで

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再会

「大丈夫か?」

「うん!!車椅子って楽だね」

「押す方は結構しんどいけどな」

「……重い?」

「いや、軽い」

「良かった~」

 

 胡桃は久しぶりの外にテンションが上がっているようだ。

 顔色もいつもより良い。

 

「あんまりはしゃぐなよ。しんどくなるぞ」

「うん!!」

 

『はあ、急がないとな。時間までに帰れなくなる』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「七時までには絶対に帰ってきてね」

 

 俺は病院の前で祐子さんから注意することを聞いていた。

 

「分かりました。ちゃんと時間は守ります」

「ひーくん早く行こうよ~」

 

 胡桃は早く行きたくてウズウズしているようでさっきからずっと服を引っ張ってくる。

 

「ちょっと待てって。祐子さんと話してるんだから静かにしてろ。すいません、祐子さん」

「いいよ、いいよ。あと車いすはなるべく揺らさないように注意して動かしてね」

 

 胡桃は起きたばかりでまだ足の筋力が戻っていないため車椅子で移動ですることになっている。

 

「分かりました、気を付けます」

「あとは……頑張ってきてね!!」

 

 祐子さんから力強いエールをもらう。

 

「はい、絶対に三人で帰ってきます」

「うん、待ってるよ。じゃあ、いってらっしゃい」

「いってきます」

「いってきま~す」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 電車から降り改札を抜け維織が通っている学校の方へ車椅子を押す。

 

「学校はこの辺りなの?」

「ああ、もうすぐだと思う。てか、シュシュ着けて来たんだな」

 

 去年の胡桃の誕生日に買って置いておいた黄色いシュシュを見ながら言う。

 

「うん、せっかくのひーくんからの誕生日プレゼントだったから。似合ってる?」

「似合ってるよ。その色にして良かった」

「へへへ~。ありがとう!!」

 

 維織の学校は電車で一時間くらいの所にある。

 

「ここだな」

「わー、大きいね~」

「有名な進学校だからな。維織はめちゃくちゃ頭良かったし」

「確かにいーちゃん賢かったよね。私いっつも勉強教えてもらってたもん」

「俺もよく助けてもらったな」

 

 そう言いながら校門の方を注意深く見る。

 

「問題は維織がまだ学校にいるかってことなんだよな。ここまで来たけど別に会う約束をしてるわけじゃないし入れ違いになってる可能性もあるからな」

「そうだね。……学校の中に入ってみる?」

「いや、警備員に捕まって色々聞かれても面倒臭いからな。外で待っとくしかないかな」

「じゃあ、待っておこうか」

「そうだな」

 

 

 三十分後

 

 

「……来ねえな」

「もう帰っちゃったのかな?」

「そうかもな。どっちにしろ電車の時間を考えるとここに居られるのもあとに十分くらい……」

 

 その時校門から見たことのある少女が出てくるのが見える。

 

「どうしたの?」

「……維織」

「えっ!!」

 

 校門から出てきた維織を見つめる。

 面影は残っているが二年前と比べて大人っぽくなっている。

 

「お、俺が声をかけてくる。胡桃はここで待っててくれ」

「わ、分かった」

 

 俺は少し小走りで維織の方に向かう。

 

「維織……」

「!!……」

 

 維織は俺の方を見て驚いたような様子を見せるがすぐに無視して歩いて行こうとする。

 

「ちょ、ちょっと待てよ。無視すんな」

 

 維織はため息をついてこちらを見る。

 

「……何の用なの?」

「相変わらず冷たいな」

「用がないなら私は帰るわ」

「待てって。用もないのに来るわけないだろ」

「じゃあいったい何なのよ……」

「二年前の約束を果たしに来たんだ」

「? どういう……」

 

 俺は胡桃のいる方向を指差す。

 指差された方を見た維織は目を見張る。

 

「……胡桃?胡桃なの?」

「うん、そうだよ。いーちゃん、久しぶり」

「胡桃……胡桃!!」

 

 維織は鞄を放り出して胡桃の胸に飛び込む。

 

「維織……。ごめんなさい……ごめんなさい……」

「ううん。いーちゃんは悪くないよ」

 

 しばらくの間、顔をうずめていた維織は顔を上げて目に涙を浮かべながら少し微笑んで言う。

 

「胡桃……お帰りなさい」

「ただいま、いーちゃん」

                   ・

                   ・

                   ・

 維織の鞄を拾って二人を見ていると少し涙が出てくる。

 

『やっと元に戻ったな。長かった、けど本当に良かった』

 

 時計を見て時間を確かめる。

 電車の時間が迫っていた。

 

「再会も済んだし二人ともそろそろ帰ろうぜ」

 

 そう言うと二人がこっちを向く。

 

「もうそんな時間?」

「ああ、次の電車まで時間がないから」

「胡桃と話していたのに……空気読みなさいよ」

「……相変わらずの毒舌だな」

「悪かったわね」

「はあ、仕方ないだろ。祐子さんに言われてんだよ。守らないと俺が怒られる」

「祐子さんって看護師の?」

「そうそう。ほら」

 

 維織に鞄を手渡す。

 

「……ありがとう」

「じゃあ行こうぜ」

「うん、行こう行こう」

 

 三人で歩き出す。

 

「三人で歩くの久しぶりだね。昔に戻ったみたい」

「そうだな」

「……そうね」

                   ・

                   ・

                   ・

 病院に戻ると祐子さんが出迎えてくれた。

 

「お帰り~。維織ちゃんは久しぶりね」

「ご無沙汰しています、祐子さん」

「まあ丁寧に。大人になったね」

「そんなことありません」

「謙遜しちゃって~」

「……祐子さん、おばさんっぽいですよ」

 

 俺がそういうと祐子さんは自分の口を押える。

 

「本当?」

「はい」

「危ない危ない、気を付けないと。まあ、二人とも今日は疲れたでしょ?家に帰ってゆっくり休んでね」

「はい。じゃあ俺たちはおいとまします。胡桃もまた明日な」

「うん。二人とも今日はありがとう。バイバイ、ひーくん、いーちゃん」

「ええ……」

 

 維織と病院の外に出る。

 外はかなり暗くなっていた。

 

「今日は病院まで来てくれてありがとな」

「今まで行けなかったから……。それじゃあ」

 

 一人で帰ろうとする維織を引き留める。

 

「いや、家まで送っていくよ」

「いいわよ、別に」

「結構暗いし、女子一人で帰るのは危ないから。送る」

「……分かったわ」

 

 並んで静かに歩き出す。

 

「……そういえば、どこに引っ越したんだ?」

「ここから五分くらいの所にあるアパートよ」

「へえ、近いな」

「ええ」

 

 また静かに歩く。

 しばらく歩くと少し古めのアパートが見えてきた。

 

「ここか」

「ええ。……送ってくれてありがとう」

 

 そういうと維織は階段の方に歩いていく。

 

「ああ、また胡桃に会いに行ってあげてくれよ。それじゃあ」

「……博人」

 

 帰ろうと振り返った俺を維織が呼び止める。

 さっきまでの雰囲気と少し違うことに気づく。

 

「ん?どうし――」

 

 頬を伝った涙が光る。

 ……維織が泣いていた。

 

「約束を守ってくれてありがとう。最後に昔みたいに三人で歩けて楽しかった」

「……最後?これから何回だって出来るだろ」

 

 維織は静かに首を振る。

 

「……私はもうあなた達には会わないわ」 「大丈夫か?」

「うん!!車椅子って楽だね」

「押す方は結構しんどいけどな」

「……重い?」

「いや、軽い」

「良かった~」

 

 胡桃は久しぶりの外にテンションが上がっているようだ。

 顔色もいつもより良い。

 

「あんまりはしゃぐなよ。しんどくなるぞ」

「うん!!」

 

『はあ、急がないとな。時間までに帰れなくなる』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「七時までには絶対に帰ってきてね」

 

 俺は病院の前で祐子さんから注意することを聞いていた。

 

「分かりました。ちゃんと時間は守ります」

「ひーくん早く行こうよ~」

 

 胡桃は早く行きたくてウズウズしているようでさっきからずっと服を引っ張ってくる。

 

「ちょっと待てって。祐子さんと話してるんだから静かにしてろ。すいません、祐子さん」

「いいよ、いいよ。あと車いすはなるべく揺らさないように注意して動かしてね」

 

 胡桃は起きたばかりでまだ足の筋力が戻っていないため車椅子で移動ですることになっている。

 

「分かりました、気を付けます」

「あとは……頑張ってきてね!!」

 

 祐子さんから力強いエールをもらう。

 

「はい、絶対に三人で帰ってきます」

「うん、待ってるよ。じゃあ、いってらっしゃい」

「いってきます」

「いってきま~す」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 電車から降り改札を抜け維織が通っている学校の方へ車椅子を押す。

 

「学校はこの辺りなの?」

「ああ、もうすぐだと思う。てか、シュシュ着けて来たんだな」

 

 去年の胡桃の誕生日に買って置いておいた黄色いシュシュを見ながら言う。

 

「うん、せっかくのひーくんからの誕生日プレゼントだったから。似合ってる?」

「似合ってるよ。その色にして良かった」

「へへへ~。ありがとう!!」

 

 維織の学校は電車で一時間くらいの所にある。

 

「ここだな」

「わー、大きいね~」

「有名な進学校だからな。維織はめちゃくちゃ頭良かったし」

「確かにいーちゃん賢かったよね。私いっつも勉強教えてもらってたもん」

「俺もよく助けてもらったな」

 

 そう言いながら校門の方を注意深く見る。

 

「問題は維織がまだ学校にいるかってことなんだよな。ここまで来たけど別に会う約束をしてるわけじゃないし入れ違いになってる可能性もあるからな」

「そうだね。……学校の中に入ってみる?」

「いや、警備員に捕まって色々聞かれても面倒臭いからな。外で待っとくしかないかな」

「じゃあ、待っておこうか」

「そうだな」

 

 

 三十分後

 

 

「……来ねえな」

「もう帰っちゃったのかな?」

「そうかもな。どっちにしろ電車の時間を考えるとここに居られるのもあとに十分くらい……」

 

 その時校門から見たことのある少女が出てくるのが見える。

 

「どうしたの?」

「……維織」

「えっ!!」

 

 校門から出てきた維織を見つめる。

 面影は残っているが二年前と比べて大人っぽくなっている。

 

「お、俺が声をかけてくる。胡桃はここで待っててくれ」

「わ、分かった」

 

 俺は少し小走りで維織の方に向かう。

 

「維織……」

「!!……」

 

 維織は俺の方を見て驚いたような様子を見せるがすぐに無視して歩いて行こうとする。

 

「ちょ、ちょっと待てよ。無視すんな」

 

 維織はため息をついてこちらを見る。

 

「……何の用なの?」

「相変わらず冷たいな」

「用がないなら私は帰るわ」

「待てって。用もないのに来るわけないだろ」

「じゃあいったい何なのよ……」

「二年前の約束を果たしに来たんだ」

「? どういう……」

 

 俺は胡桃のいる方向を指差す。

 指差された方を見た維織は目を見張る。

 

「……胡桃?胡桃なの?」

「うん、そうだよ。いーちゃん、久しぶり」

「胡桃……胡桃!!」

 

 維織は鞄を放り出して胡桃の胸に飛び込む。

 

「維織……。ごめんなさい……ごめんなさい……」

「ううん。いーちゃんは悪くないよ」

 

 しばらくの間、顔をうずめていた維織は顔を上げて目に涙を浮かべながら少し微笑んで言う。

 

「胡桃……お帰りなさい」

「ただいま、いーちゃん」

                   ・

                   ・

                   ・

 維織の鞄を拾って二人を見ていると少し涙が出てくる。

 

『やっと元に戻ったな。長かった、けど本当に良かった』

 

 時計を見て時間を確かめる。

 電車の時間が迫っていた。

 

「再会も済んだし二人ともそろそろ帰ろうぜ」

 

 そう言うと二人がこっちを向く。

 

「もうそんな時間?」

「ああ、次の電車まで時間がないから」

「胡桃と話していたのに……空気読みなさいよ」

「……相変わらずの毒舌だな」

「悪かったわね」

「はあ、仕方ないだろ。祐子さんに言われてんだよ。守らないと俺が怒られる」

「祐子さんって看護師の?」

「そうそう。ほら」

 

 維織に鞄を手渡す。

 

「……ありがとう」

「じゃあ行こうぜ」

「うん、行こう行こう」

 

 三人で歩き出す。

 

「三人で歩くの久しぶりだね。昔に戻ったみたい」

「そうだな」

「……そうね」

                   ・

                   ・

                   ・

 病院に戻ると祐子さんが出迎えてくれた。

 

「お帰り~。維織ちゃんは久しぶりね」

「ご無沙汰しています、祐子さん」

「まあ丁寧に。大人になったね」

「そんなことありません」

「謙遜しちゃって~」

「……祐子さん、おばさんっぽいですよ」

 

 俺がそういうと祐子さんは自分の口を押える。

 

「本当?」

「はい」

「危ない危ない、気を付けないと。まあ、二人とも今日は疲れたでしょ?家に帰ってゆっくり休んでね」

「はい。じゃあ俺たちはおいとまします。胡桃もまた明日な」

「うん。二人とも今日はありがとう。バイバイ、ひーくん、いーちゃん」

「ええ……」

 

 維織と病院の外に出る。

 外はかなり暗くなっていた。

 

「今日は病院まで来てくれてありがとな」

「今まで行けなかったから……。それじゃあ」

 

 一人で帰ろうとする維織を引き留める。

 

「いや、家まで送っていくよ」

「いいわよ、別に」

「結構暗いし、女子一人で帰るのは危ないから。送る」

「……分かったわ」

 

 並んで静かに歩き出す。

 

「……そういえば、どこに引っ越したんだ?」

「ここから五分くらいの所にあるアパートよ」

「へえ、近いな」

「ええ」

 

 また静かに歩く。

 しばらく歩くと少し古めのアパートが見えてきた。

 

「ここか」

「ええ。……送ってくれてありがとう」

 

 そういうと維織は階段の方に歩いていく。

 

「ああ、また胡桃に会いに行ってあげてくれよ。それじゃあ」

「……博人」

 

 帰ろうと振り返った俺を維織が呼び止める。

 さっきまでの雰囲気と少し違うことに気づく。

 

「ん?どうし――」

 

 頬を伝った涙が光る。

 ……維織が泣いていた。

 

「約束を守ってくれてありがとう。最後に昔みたいに三人で歩けて楽しかった」

「……最後?これから何回だって出来るだろ」

 

 維織は静かに首を振る。

 

「……私はもうあなた達には会わないわ」


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