太陽のような君へ   作:こやひで

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男なら

『……顔合わせづらいな。胡桃と喧嘩したのなんて初めてだからな』

 

 俺は病室の前で中に入る勇気を持てずに佇んでいた。

 本当は昨日の今日だったので病院に来るつもりはなかったのだが、昨夜祐子さんから電話がかかってきたのだ。

 

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「はい」

《博人君?ごめんね、夜遅くに》

「どうしたんですか?ていうか、なんか騒がしくないですか?」

《ああ、今薫ちゃんの家にいるの。薫ちゃん今少し荒れてて》

 

 すると急に祐子さんの声が遠くなり小さく声が聞こえる。

 

《えっ?博人君だよ。喋る?駄目だよ、薫ちゃんベロベロでしょ?ちょっと水飲んできたら?はいはい伝えておくから、行ってらっしゃい》

 

 また祐子さんの声が近くなる。

 

《ごめんね、薫ちゃんに電話代わったら話が長くなりそうだったから》

「いや、ありがとうございます。確かに長そうですからね。それで何か用事ですか?」

《……胡桃ちゃんから話は聞いたよ》

「……そうですか。すいません、我が儘ばっかり言ってて。でもこれで胡桃も諦め――」

《違うの》

「えっ?」

《……外出する許可を胡桃ちゃんに出したわ》

 

 祐子さんの言った言葉に耳を疑う。

 

「な、なにを考えてるんですか!!胡桃の今の状態、祐子さんが一番知ってるでしょ!!」

《私の独断ではないよ。担当の医師とも話し合って許可をもらった》

「そういう問題じゃないですよ。今胡桃に無理させたらどうなるか分からないでしょ」

《それは私達も胡桃ちゃんも分かってるよ。それを分かった上でこの決断を出したの》

「どうしてそんなことを……」

 

 祐子さんは普段は緩いが仕事に関してはしっかりしている。

 そんな祐子さんがこんなことを許すはずがないのに。

 

《胡桃ちゃんの話を聞いてあの子に今一番必要だと思ったから。あの子にはあなた達二人が必要なんだよ》

「だからって……」

《それに私たちは胡桃ちゃんに外出するための条件を二つ出した》

「条件?」

《一つ目、二日後にある定期検査で異常が見つからないこと。二つ目、博人君が外に行くことを許可して胡桃ちゃんと一緒に行くこと》

「……俺が?」

《うん。胡桃ちゃん一人で行かせるわけには行かないし。それに維織ちゃんを迎えに行くなら二人でないとね》

「……でも。俺は……」

《博人君の気持ちはよく分かる。私も本音を言えば外出なんてさせたくない》

「祐子さん……」

《でも……私は胡桃ちゃんの意見を尊重してあげたい。あの子にとっての幸せを叶えてあげたい。博人君はどうなの?胡桃ちゃんのことを気遣うのはよく分かる。でも本当にそれが本心?博人君の本当に思ってることは何?》

「俺の……本心……」

 

 俺だってそうだ。

 胡桃の言う通りにしてあげたい。

 そして、早く維織に会いたい。

 

「俺は……昔の三人の関係に戻りたいです」

《そのためには博人君が必要なんだよ。博人君がいなかったら時間は動き始めない。君たちは三人で一人なんだから》

 

 三人で一人。

 その言葉にハッとする。

 小学校の頃からずっと三人でいる俺たちを見て胡桃の母親がよく言っていた言葉だ。

 

《明日もう一度胡桃ちゃんに会ってあげて。そして、博人君が思ってる本心をぶつけてあげて》

「……分かりました。もう一度話してみます」

《うん、ありがとう。それじゃあね。夜遅くにごめんね》

 

 それじゃあ、と言い電話を切ろうとする俺を祐子さんの声が遮る。

 

《そうだ、一つ言い忘れてた。薫ちゃんからの伝言があるんだった》

 

 コホンと小さな咳払いが聞こえる。

 

《”喧嘩していようと大切な人のためならなんでもするものなんだよ。男ってのはそういうもんだ。”だってさ。似てた?》

「いや……あんまり似てませんでした。でも、本当に先生は男らしくてカッコいいですね」

《だから結婚できないんだろうけどね~》

「ですね。先生はそこら辺の男より男前ですからね」

 

 祐子さんとクスクス笑いあう。

 

「先生には分かりました、ありがとうございますって伝えといて下さい」

《分かった。じゃあね》

「はい、また」

 

『男なら・・・か』

 

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 覚悟を決めて扉を叩く。

 

 コンコン

 

「はーい」

「博人だ。入るぞ」

 

 ガラガラッ

 

「ひ、ひーくん……」

「……よう」

 

 重苦しい空気の中、いつもの席に座る。

 

「えーとだな……」

 

 言葉が上手く出てこない。

 すると先に胡桃が口を開く。

 

「昨日はごめんなさい!!酷いこと言っちゃって」

「いや、俺も胡桃の話もちゃんと聞かず自分の意見ばっかりぶつけて悪かった」

 

 お互いが謝りあうとまた部屋が静かになる。

 しかしすぐに胡桃が言葉を続ける。

 

「それでも私の気持ちは変わらない。身体に何かあったとしても私はまたいーちゃんに会いたい。……二人で!!」

 

 胡桃のまっすぐな瞳を見つめる。

 

『あの胡桃がこんなにはっきり言ってるのに……。やっぱり俺は駄目だなあ』

 

「だから、その……」

「分かってる。昨日祐子さんから全部聞いたよ」

「……そうなんだ」

 

『ここは覚悟を決めないとな。……男なんだから』

 

「……行こう、二人で。維織を迎えに」

「!! いいの!?」

「ああ……なんたって俺たちは三人で一人だからな」

「!!……ママの言ってた」

 

 俺はニッと笑いながら頷く。

 ありがとう、と胡桃は涙を浮かべながら言う。

 

「まあ、それも明日の検査に通ったらの話なんだけどな」

「絶対大丈夫だよ!!」

「それなら良いんだけどな」

 

 その後は昔の思い出話に花を咲かせ、次の日の検査に備えて早めに病室から出た。

 そして次の日、胡桃は検査に通り維織に会いに行けることが無事に決まったのだった。


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