「ていうか、なんで私が店決めないといけないんですか、それでも彼氏ですか」
ということで、俺と一色いろはは、街のカフェに来ていた。
「うわそんな事でキレるとか短気過ぎかよ引くわ。
お前のその「私は男子にエスコートしてもらって当然なの」みたいなお花畑理論言っちゃうとこ好きだわ。吐きそう」
というか、こんな女子に人気ありそうな店は普段来ないから、聞かれても困る。
「言っときますけど私、実はそんなお姫様みたいな頭してませんから。
この前だって学校の先輩を自分から遊びに誘いましたし。こう見えてエスコートするのは慣れてるんですよ」
一色いろはは色っぽい表情を作りながらそう言う。
すごくビンタしてやりたかったけど、何とか踏み留まる。
「でもお前、その先輩に奢ってもらったんだろう?」
「まぁ、そうですけど。奢ってくれると言ってくれましたし」
「ふーん。あ、俺は奢らないからな。お前が奢ってくれるってのは良いけど」
「月夜野って、私の事何だかんだと言う癖に自分も結構自己中ですよね?」
「目には目を歯には歯を、って言葉知ってる?自己中なことする奴には自分も同じ事をするわけ」
注文していた、良くわからない飲み物を吸う。甘くて美味しい。
「このなんちゃらって飲み物中々美味しいわ。一色いろはと違って、安っぽい甘さじゃない。
それに、一色いろはと違って有毒な食品添加物とか入ってなさそう」
「やっと私を馬鹿にする事以外の話を始めたと思ったのに、結局私を馬鹿にするの止めましょう!?いい加減、怒りますよ?怒ったので、月夜野は女の子に奢ってくれないケチな奴って言いふらしますね。誰が良いかなー、それじゃあ、結衣先輩にしますね。由比ヶ浜結衣先輩って知ってますよね?」
一色いろはは、まさか結衣先輩を知らない?とでも言いたそうな目で俺を見る。
「知ってるよ。奉仕部の、たまーにお前と一緒にいる先輩だろう」
「へー、ぼっちのくせに知ってるんですね。あ、もしかして結衣先輩の事狙ってるとか?」
「お前よりは数倍良い人だろうな。お前と結衣先輩、どっちと付き合うと言われたら結衣先輩かな」
由比ヶ浜結衣という先輩は、その明るい性格の御蔭で顔が広いのと、奉仕部という一部では有名な部活に入っているので、話は良く聞く。
直接会話をしたことがあるのは一度くらいだが、少なくとも一色いろはより良い女である事はまちがいない。
一色いろははあざと過ぎるから。
「あの、彼女の前で別の女子が良いとか、普通言わないですよね?というかそれ嘘じゃないですよね?素になってませんか?エイプリルフール忘れてますよね?」
つい本音が出てしまった。
「エイプリルフールだからって嘘しか言ってはいけないというルールはない」
「あ、嘘じゃないんですね。もしかして本当に結衣先輩狙ってるんですか?でも諦めた方が良いと思いますよ。月夜野じゃ結衣先輩と釣り合わないですし」
「葉山先輩に告白して振られたお前に言われると説得力あるな」
「それ言いますか!?結構気にしてるんですけど!?てか結構色んな話知ってるんですね、ぼっちのくせに」
「まぁ、お前に話する良いネタになりそうだったから当然」
「うわー、性格悪すぎです。というか歪み過ぎです。比企谷先輩より酷いです。
月夜野も奉仕部入ってその性格を治して貰ったらどうですか?一度、雪ノ下先輩に説教された方が良いと思いますよ?」
身内のネタを容赦なくぶち込んでくるなんて、少々失礼では?
まぁ、俺は比企谷先輩も雪ノ下先輩も知っているんだけど。割と有名人だし。
雪ノ下先輩は美人秀才完璧な、学校じゃ知らない人はいないくらいの超有名人で、
比企谷先輩は、前に一色いろはが無理やり生徒会長選挙に立候補させられた時に助けてもらったという話だ。
ちなみに、2人とも学校ではぼっちらしい。ちょっとした親近感と、妙な対抗心が沸く。
「奉仕部ねぇ、俺が出来るとは思えない部活だな」
いや、あのぼっちで有名な比企谷先輩が出来るのだから、俺にも出来るのでは?
しかし、雪ノ下先輩はなんというか、正論の塊みたいな人だ。俺では間違いなく太刀打ち出来ない。
いや、あのぼっちで有名な比企谷先輩でも出来るのだから、俺にも出来るのでは?
それに雪ノ下先輩はかなり美人だし、一色いろはの様に媚びて男子を利用する様な人じゃない。
そんな先輩と関わりが持てるのは、俺的にポイント高い。
だが、そういう人こそ、実は色々めんどくさかったりするのだ。
うん、雪ノ下先輩は中々めんどくさそうだ。完璧主義そうで。
そして意外と、恋愛面ではメンヘラに違いない。愛が重そうだ、雪ノ下先輩。
いや、しかし。あの雪ノ下先輩がメンヘラは少しそそる所がある。あれ?もしかしてそういうの好きなのか?俺は。
「え、もしかして本気で入ろうとしてますか?正直、奉仕部に月夜野が入る場所なんて無いと思いますけど。というか、入れる雰囲気じゃないと思いますよ」
「入らねぇよ」
そう。ただ考えていただけだ。途中から少し熱が入ってしまったが、実際に入る事はない。
「いや、今絶対考えてましたよね?顔見ればわかりますよ、そうですよね?可愛い女の子が二人もいるんですから気にもなりますよね?うわ、そんな下心あるんですか?キモ・・・凄いですね」
意外としつこい一色いろはである。
「え、お前一人で何言ってるの?一人コントの新しいタイプか何か?芸人目指すの?
それなら、もう少しインパクトある顔にした方がウケるんじゃないか?ちょっと顔面殴ってやろうか?安心しろ、非力な俺の力なら鼻の骨が折れたりはしないだろう」
「さて、そろそろ次のとこにいきますか」
なんて奴だ、食いついてきたと思ったらすぐに離しやがった。
「まじでお前のその都合悪くなったら逃げるの好きだわ。ほんと好きだわー」
「いや月夜野も結構同じことしてると思いますけど。というか、その好きだわーってやつ持ちネタなんですか?正直つまらないですよね」
「持ちネタでもギャグでもないから面白さとか求められても知らんぞ。お前みたいに芸人目指してないし」
「いやそこを引っ張るんですか!?芸人目指しませんから、いい加減にしてください」
流石にからかいすぎただろうか。
「ってか何、まだどっか行くの!?」
「え、行きますよ?もしかしたら「お二人は恋人ですか?ただいまカップル割引をしていましてー」みたいなお店があるかもしれませんよ?
月夜野の事なのでそういう経験ないでしょうし、というか一生出来なさそうですし、今日しかチャンスないですよ?」
「いや別に興味ないし、てかそんな店実際にあるのかよ」
「え、知らないんですか?本当に童て・・・ぼっちなんですね。流石に可哀想になってきました」
今、童貞って言いかけたよな?これだからゆるふわビッチは困る。
「無知なのは認めるが、別にどうでもいいじゃねーか。お前の頭よりは可哀想じゃないし問題ない」
「いやー、男として可哀想というか」
「お前のその、自分は性別以前に人間として可哀想だと言うのに、他人には好き勝手言うところマジ好きだわ」
「はーい、それじゃあ次へ行きましょうねー」
また、そうやって話を反らす一色いろは。
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「お二人は恋人同士ですか?今日は特別にカップルサービスをしておりまして」
会計に来た俺たちへ、若い女性店員がそう告げる。
カップル割引の店が本当にありやがった!?しかも、今いた店がそうだったとは。
ちらっと一色いろはを見ると、何だか自慢げな顔をしていた。
ち、やっぱり鼻をへし折ってやった方が良いだろうか。
政治はアニメを規制する暇があったら、一色いろはの事は殴っても許されるみたいな法律を作れ。
「はい、恋人です!」
勢いよく宣言する一色いろは。
「では、その証明としてキスをしてください」
店員が笑顔でそう言う。
「は?」
しまった、思わず声が出てしまった。
キスしろって言ったのかこの店員は?なんだ、これはアニメかエロゲなのか?
ちらりと一色いろはの様子を見ると、一瞬、俺と同じように「は!?マシ!?」と言いたげな顔をしたが、すぐ作り笑顔になり、
「らしいですよ、月夜野」
ぐい、と一色いろはの顔が近づいてきて、俺は思わず後ずさりした。
あんまり下がり過ぎたので、コツンと背中が壁にぶつかる。
「あらあら、初々しいですね。うふふ」
そんな俺の様子を見て、店員が微笑んでいた。
そして、続けて。。
「あ、キスしてくださいというのはエイプリルフールです。うふふ」
「あのさぁ」
いやほんとに、冗談にならんだろう。何を考えているんだ、この店員は。
ほっとした様な一気に疲れた様な、そんな俺を見てか一色いろははくすくすと笑っていた。
だから俺は、一色いろはが嫌いだ。