だから俺は、一色いろはが嫌いだ。   作:ゆうむ

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だから俺は、嘘をつく。

「好きです、付き合ってください」

 

 放課後の誰も居ない教室で、俺はクラスメイトの女子に告白した。

 

 俺の言葉に、目の前の少女は一瞬困惑した顔をし、そしてくすりと笑う。

 

 

「いいですよ。付き合いましょう」

 

 告白の返答はYESだが、少女の表情は、どこか人を小馬鹿にするようであった。

 

 だから俺は、一色いろはが嫌いだ。

 

 

 

 

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 当然、俺の告白は本物ではない。

 

 今日がエイプリルフールだから、面白そうという理由でやっただけの嘘である。

 

 

 

 

「それで、月野夜は私のどこが好きなんですか?」

 

 そんなことを聞いてくる一色いろはの表情は、恋人が出来て浮かれている少女の顔ではない。

 人を試す様な顔である。

 

 そう、彼女もまた面白そうという理由でこの告白乗ったのだろう。

 そしてこの質問は、俺に対する軽い挑戦みたいなものだ。

 

「私の何処が好き?」なんて質問は、本当の恋人でも咄嗟に出てこない物。

 しかしそれは想定済みなのだ。

 

「そうだな、まずその小学生が粘土で作った様にしか見えない、雑な作り物の様な性格が好きだ。

後は、上っ面は好意があるかの様に近づいてるくせに、人を馬鹿にしてるのが見え見えで隠しきれてない所も好きだ。そして、自分の都合しか考えてない自己中な所も好きだね」

 

「えっと、それって好きな相手なら短所も受け入れて上げる!というやつですか?」

 

「そういう都合の良い部分しか取り入れずに、都合の悪い事は聞き流す部分とかすごい好きだね。

好き過ぎてお前をそこの窓から突き落としてやりたいわ。もちろん自殺という事にして」

 

「じゃあ恋人同士一緒に自殺するというのはどうですか?私は後を追うので先にどうぞ」

 

「嫌だわ、お前はそう言って絶対自殺しないだろう。それに俺はお前の死体を火葬したと見せかけて死姦趣味の奴に売り払わなきゃいけない」

 

「えっ、なんですかそれは。流石に気持ち悪すぎです。キモすぎて引きます」

 

「キモい事くらい自覚してる。だが、お前の脳みそよりは数倍マシだ」

 

 一色いろはとは、普段からゲロをゲロで染める様な話しかしない。

 だからエイプリルフールの嘘で告白をしてからかうのも別に抵抗はないし、一色いろはが俺の告白に冗談で乗ってくるのは想定していた。

 

 一色いろはは相手を手玉に取るのは好きだが、手玉に取られるのは嫌いな奴だ。

だから「えっ、何言ってるんですかエイプリルフールでもやめてください」と、言って軽くあしらってくる事もあり得ただろうが、 どうやらこちらの冗談に乗る方向で来たらしい。

 

 

「ところで、恋人って何するんだろうな」

 

「え、考えてなかったんですか?」

 考えてなかったというより、わからないというのが正しい。

 余計な事は考えているくせに、根本的な部分は無計画なのであった。

 

 とりあえず、飴でもやろうかと思いポケットを弄る。

 出てきたのは、昨日買ったエロゲのレシートであった。

 

「一色、食うか?」

 

「なんですか、それ」  

 

「飴」

 

「いやいや、それレシートですよね?私、ヤギじゃないですので。月夜野が食べてくださいよ」

 

「俺はもう食べた」

 エロゲだけに、とは言わない。寒いから言わない。

 

「というか恋人らしい事で、飴あげる事を思いついたんですか?ちょっと幼稚じゃないですかね・・・」

 

「俺はさ、そういう「彼氏ならもっと楽しい話してくださいー」みたいのが嫌いな訳よ。せっかく人が思いついた善意を踏みにじる奴は、人として終わっていると思う訳」

 

「月夜野は常日頃から、私の事を踏みにじってますよね?」

 

「あっ、一色?スカート捲れてパンツ見えてるぞ」

 

「はっ!?マジですか!?」

 慌てて立ち上がり、体を捻じってスカートを確認する一色いろは。

 

「嘘」

 

「何なんですか・・・」

 

「今のは結構、面白かった」

 座ってるときは見えてなかったのに、勢いよく立ち上がったせいでパンツが見えた所は予想外に面白かった。

 色は白だった。

 

「いや、それ面白がってるのは月夜野だけですよね、私は楽しくないです」

 

「やっぱり、予想外の事が起きる方が面白いよな」

 パンツ見えたし面白かった。これは言わないでおこうか。

 

「はぁ。相変わらず月夜野は良く分からないですね。というか、折角なのでこれから何か食べにいきましょう」 

 

「は?」

 

「いや、何処かお店に行こうってことですけど、わかります?超恋人らしいじゃないですか?」

 

 突然話を変える一色いろは。

 

 何?何処か店に行くって言ったのか?

 

 正直、それは予想外だった。  

 

 

 

 

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 一色いろはは、俺のクラスメイトである。

 

 見た目は可愛い、男子にも良く接する、少し天然の入ったゆるふわな性格と話し方。

 

 そんな彼女に好意を向ける男子も少なくはない、はず。

 

 問題は、その性格と態度が明らかに作り物だとバレバレな所だ。

 

 なので、一色いろはは同性からの印象が悪い。

 

 この性格なら、ぶりっこだビッチだの陰口が起きるのは当然だ。

 

 けして、一色いろはには友達がいないという訳ではない様ではある。

 だが前に、一色いろはは周囲からはめられ、本人の意思を無視して無理やり生徒会長選挙に立候補させられていた。

 

 それに同性だけでなく、一部の男子からの評価も悪いらしい。

 

 それは彼女が自分は可愛いという事を使って、男子を利用したがるからだ。

 

 猫かぶるくらいなら、正直どうでもいい。

 けれど、それを利用して面倒な責任や作業を押し付けて、更に金にたかる様なら嫌われるのも無理はない。

 

 実際、一色いろはがそれをどこまでやってるのかは知らないが、

「好きだから」という理由を除けば、基本的に彼女が男子と関わるのは「使えるから」だろう。

 

 それに、異性の知り合いが多い方が、同性として上、みたいな所もある。

  

 最初のきっかけは忘れたが、恐らく一色いろはが俺に話しかけたのも、あまり周囲と関わりを持っていない、いわゆるぼっちと呼ばれる俺なら使いやすそうとか、そんな理由だろう。

 媚び媚びの顔と態度でそれはすぐわかる。

 

 

 だから俺は、一色いろはが嫌いだ。

 


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