ごちゃまぜ詰め込み録   作:puc119

7 / 10


笛さんと相棒さんが雑談をしているお話となります




第閑話~帰り道でお喋り~

 

 

 旧砂漠の夜でリアレイア亜種を討伐しての帰り道。

 いつもの私なら直ぐに寝てしまうところだけど、その日は珍しく起きていることができた。

 

 ガタゴトと揺れる馬車の上、寝転びながら目を開け夜空を見上げてみる。

 そこには、元の世界ではまず見ることのできない満天の星空が広がり、それが何処までも続いている。そんな星空は少し手を伸ばすだけで届くことができそうで――それが何故か無性に悲しかった。

 どうしてなのかは私も分からない。でも、こんなにも非現実的な美しさのものを見ると悲しくなってしまう。元の世界が恋しくなるとか、そういうことではないと思うけど……

 

「あれ? もしかして笛ちゃん起きてる?」

 

 そんななんとも自分でもよく分からない気分になっているとあの娘が喋りかけてきた。

 

「……うん、なんだか今日は眠くなかったから」

 

 相変わらずというか、今日のクエストでもこの娘の活躍は凄まじかった。多分、0分針。使っている武器は強いってこともあるけれど、それはこの娘の実力があってこそのもの。

 純粋なハンターとしての上手さだけなら、私たちのパーティーではこの娘が抜けている。あの彼もよく言っているけれど、今の大老殿で一番上手いハンターは間違いなくこの娘だろう。

 

「おおー、それじゃあせっかくだしお喋りしよ、お喋り」

 

 ただ、その自覚はこの娘にないみたい。

 確かにスイッチの入ったあの彼の動きはすごい。でも、毎回毎回そうはならないし、普段の彼とこの娘を比べた場合、上手いのはこの娘。そもそも、スイッチの入ったあの彼と並んで戦えている時点で割とおかしい。私なんかじゃ全くついていけない。

 

「それは良いけど、何を話すの?」

 

 星空を見るために寝かせていた身体を起こし、あの娘の方を向いてみた。其処にはいつも通りの明るい笑顔を浮かべるあの娘の姿。夜だというのにも関わらず、星明かりのおかげであの娘の表情をしっかりと見ることができる。

 

「ん~、そう言われると特にないけど……あっ、じゃああの彼のお話をしようよ」

 

 ……これはまた彼の悪口大会が始まりそうだ。ちょっと楽しみ。私だって色々と溜まっているんだ。

 

 ただ、私は一応あの彼の彼女なわけですので、少しだけ申し訳ない気分にもなる。でも、そうなるとただののろけ話になっちゃうだろうし……むぅ、難しいところ。

 だから今日もまたいつも通りな感じになりそう。だいたい、どうしてあの彼の周りには女の子ばかりが集まるんだ。絶対におかしい。なんか悔しいからそういうことは考えないようにしているものの、やっぱりハラハラしてしまう時は私だってある。

 

「あっ、そう言えば、弓ちゃんとあの彼って今は何のクエスト中だっけ?」

「確かグラビ亜種だったと思う」

 

 グラビ亜種とかハンマーでどうすれば良いんだよ……とか彼が愚痴を溢していた気がするし。私もグラビは嫌だなぁ。この娘がいればどうとでもなるけれど、今回の彼は苦労していそうだ。

 

「ほえー、また強そうな相手と……大丈夫かな?」

「大丈夫。問題なくクリアすると思う」

 

 あの彼が失敗する光景はイメージできない。グラビが相手ならあの彼だって無茶はしないだろうし、最近は弓ちゃんも上手く彼をコントロールしてくれている。きっとサクっと倒してくるだろう。

 

「……うん、そうだね。弓ちゃんはちょっと心配だけど、あの彼がいて失敗するとは思えないよね」

 

 私もそう思う。

 弓ちゃんも決して下手なわけではないし、大老殿の中でもかなり上手いハンターに分類されると思う。でも、周りが周りだから……やっぱり見劣りしてしまう。

 ゲーム知識がある私と彼はもちろん、この娘もぶっ飛んでいる。聞いたことはないけれど、弓ちゃんは私たちのことをどう思っているんだろう。

 

「ホント、すごいよね。彼って」

 

 私たちのパーティーで一番上手いのは間違いなくこの娘。でも、私たちのパーティーで中心になる人物はやっぱり彼になってしまう。別にそういうことを決めたわけじゃない。それでも、私たちの中心にはあの彼がいた。

 

 それが少しだけ眩しくて……少しだけ誇らしい。

 

 このパーティー、特に私と彼とこの娘はそれなりに長い付き合いとなっている。そして、そんな長い付き合いだってあの彼がいたから始まった。あと、一応言っておくと、最初にあの彼に声をかけたのはこの娘じゃなく私です。確かに、この娘の方が私よりも早く彼と一緒にパーティーを組んでいたけど、声をかけたのは私の方が早いんです。私はちゃんと第1話から登場しているんだ。

 

「あの彼ってさ、苦手なこととかないの?」

「ニンジンが嫌い」

「あっ、そうなんだ。えっといや、そういうことじゃなくてさ……」

 

 ああ、なるほど嫌いなモンスターとかそういうお話なのかな?

 ん~苦手なものというと……やっぱりハンマーで戦い難い相手ってことになると思う。今回彼が戦っているグラビなんて苦手だろうし。あとはハンマーじゃどうしようもないディアとか、そもそもどう戦えば良いのかが分からないガララ亜種なんかは苦手だと思う。いや、まぁ、ガララ亜種が得意人は少ないと思うけど……

 

 彼の苦手なものはそんなところ。

 でも、もっと彼が苦手にしているものがあったり。私と彼にはゲームを通した溜め込んだ知識があって、そのおかげで今もこうして不自由なく狩りをすることができている。だからこそ、苦手なことがあった。特にあの彼は。

 元の世界のこととかを話すことはできないけれど、丁度良い機会。まだ話をしたことはなかったはずだし、伝えてしまうのも良いかもしれない。

 

「彼が苦手なモンスターはいくつかいる。それでも、あの彼なら大丈夫だと思う。ただ……本当に苦手にしているものもあるよ」

 

 私や彼がこうして活躍できているのはゲームの知識があったから。

 もし、この世界がゲーム通りじゃなかったら、きっとこんなにも活躍することはできなかったはず。つまり、ゲームとは違う動き――自分の知識にない動きやモンスターは本当に苦手だ。

 あの彼のすごいところは、ゲームで得た知識を迷うことなく使えること。確定行動であったり、相手の特性だったり……そんなゲーム知識を全力で、躊躇なく使う。

 

 だからこそ、あの彼は知らない相手に弱い。

 

 私はあの彼ほど吹っ切れていないからまだ大丈夫。でも、あの彼の場合、相手が少しでも知らない動きをすれば固まってしまう。初見のモンスターまでいってしまえば逆に大丈夫だろうけれど、知っているモンスターが知らないことをした時が怖い。

 

 強さと弱さは裏表。

 ゲームの知識を全力で活かせるのが彼の強みで弱み。彼にはそんな弱点があった。

 

 せっかくの機会。全部のことを話せないとしても、そんなことをこの娘に伝えてみようと思う。

 

 あの娘から視線を外し、もう一度私の直ぐ上で輝いている星空を見上げてみた。ああ、すごく綺麗だけど、やっぱり何故か悲しくなるなぁ。本当になんなんだろうこの感情は。

 なんてことを少しだけ思ってから、私は満天に輝く星空へ向かって言葉を落とした。

 

「つまり、あの彼の弱点だけど――」

「首の後ろと耳じゃないの?」

 

 ああいや、それはそうなんだけど、私が伝えたいのはそういうことじゃなく……うん? いや、ちょっと待って。この娘は何故そのことを知っている。

 

 どうやってあの彼のことを伝えようか必死で考えていた思考が一気に変わる。まずは何から聞いたものかと思い、あの娘の方を向き直ると、いかにもしまった。というような表情のあの娘。星明りの影響でそんなあの娘の表情だってしっかりと見える。

 

 これはあの彼も含め色々と聞かなきゃいけないことがありそうだ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。