ごちゃまぜ詰め込み録   作:puc119

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『嘘つきな僕と素直な君と』の後日談となっております




嘘つきな僕と素直な君と【後日談】
始話


 

 

「ああ、やっぱり君は綺麗だねぇ」

 

 季節は春。朝早いこともあり、誰もいない公園。

 その公園にある1本の大きな大きな桜木。今の季節が春ということで、その桜木につく薄桃色の花弁は満開となっていた。

 そして、その満開の桜木の下にいる僕の口からは、無意識のうちに言の葉が落ちた。

 

 だから、その言葉は嘘つきな僕には珍しく嘘偽りのない、本当の言葉。

 

 春。公園。満開の桜。

 それはあの物語の始まりの季節で終わりの季節。

 それは嘘つきな人間に騙された天使が堕ちた物語。ここはそんな物語が始まり終わった場所。

 

 満開の桜木につられてか、踊るように舞っているふよふよ達へ手を伸ばし、壊さないよう優しく優しく触れてみる。普段ならひんやりといった印象のはずのふよふよも、まだまだ肌寒い日々の続く季節の影響か、ほのかに温かく感じた。

 

 人間に騙された天使は翼をもがれて地へ堕ち、その天使に殺されるはずの人間は天使に助けられた。

 つまるところ、天使は堕天使に。人間は半天使に。それがあの物語の終わりできっと何かの物語の始まり。1年という短そうで長い物語も言葉にしてみればたったそれだけの出来事。

 

 うむうむ。普段はだらだらと話を伸ばしてしまう僕ではあるけれど、どうやら今日はサクっと結論を話すことができたらしい。

 

 あの物語が終わり、僕と彼女の関係は大きく変わった。

 1年間、一緒に暮らし、殺す側と殺される側。殺伐とした関係だった僕と彼女。そんな僕とあの彼女だけど……また一緒に暮らし始めることに。今度は殺すとか殺されるとかそんな関係ではなく、普通の関係として。

 そう考えてみると、別段彼女と僕の関係は変わっていないのかもしれないね。

 ただ、春というこの季節、何かを変えるのには丁度良いと僕は思うんだ。

 

「あー! またどこか行っちゃったと思ったらこんな場所にいたんですか。んもう、どこかへ行く時はちゃんと声をかけてくださいって言ったじゃないですか! 探したんですよ?」

 

 満開の桜木へ何かしらの想いを馳せていると鈴の音のような綺麗な声が聞こえた。いや、まぁ、鈴の音はこんなに騒がしくはないけどさ。

 

 そんな声の方を向くと、其処には人間にしては綺麗すぎる女性がひとり。

 あの純白の翼はもがれてしまったけれど、この彼女が人間じゃないと言われて信じる人も多そうだ。それほどに彼女の容姿は整っている。それこそ、異常なほどに。

 

「ずっとさ、考えていたんだ」

「え、えと……何をですか?」

 

 彼女は人間じゃない。

 そしてどうやらこの僕だって人間ではなくなってしまったらしい。そんなこと信じられるはずもないけれど、あのふよふよ達を触れるようになり、睡眠を必要としなくなり、人間にしては異常な身体能力を持ってしまったことを考えるに、どうやら信じるしかなさそうだ。

 

 人間、やめちゃったなぁ。

 

「堕天使って響きがもうエロいよね」

「死ね」

 

 さて。

 さてさて。あの物語は何処かで終わってしまったけれど、この春という季節、何かを始めるのにも丁度良いだろう。

 

 あの物語はバッドエンドってことで締めさせてもらった。だから、今度の物語ばかりはハッピーエンドってことで締められるよう頑張ってみようと思う。

 嘘つきな人間が素直な天使を堕とした物語は終わった。きっと次は、嘘つきな半天使が素直な堕天使を昇らせる物語。君がため、この嘘つき者が少しだけ頑張ってみよう。

 どうせ上手くいかないだろうことも分かってはいるけれど、僕が彼女のため頑張る理由くらいにはなるだろうから。

 

「ほんっと、最初から貴方は変わりませんね!」

「変わるってのはなかなかに難しいことだよ」

 

 変わらないものはないけれど、変えるのは難しい。理不尽なものです。

 それに、僕から見れば君だって変わったようには感じない。堕ちてしまったのは事実。でも、ただそれだけなんだろう。あの1年が終わっても君は君のまま。僕は僕のままだ。

 

「はぁ、それで今日はどうするんです? 明日から大学も始まりますし、のんびりできるのは今日くらいですが」

 

 ……大学、行くんだ。

 いや、まぁ、他にすることもないんだけど、もっと何かあるものかと思っていた。そんなことをしていて良いのだろうか。

 

「ん~、そうだねぇ。君は何かしたいこととかある?」

 

 あの1年間は彼女のやりたいことをとにかくやった。

 とはいえ、たったの1年。全てをできたわけじゃないだろう。今後の予定だとか、彼女を天使に戻す方法とか色々と聞かなきゃいけないこともあるけれど、のんびりのんびりいかせてもらおう。

 

「あっ、じゃあお花見したいです!」

「もうしてるじゃん。ほら、この桜も満開だよ?」

「いや、まぁ、そうですけど、ここじゃなくてもっと別の場所で……」

 

 なるほどねぇ。僕はこの1本の桜木を見ているだけで十分だけど、どうやら彼女にはそれだけじゃあ不満らしい。

 僕の住んでいるこの付近に桜の名所と呼ばれる場所は多数ある。その場所にはそりゃあもう沢山の桜木が植えられているわけだけど、どの桜を見れば良いのか分からず目が回る。だから、僕は1本の桜木を見るくらいが合っている。あと、人混みが嫌いだったり。

 

「了解、了解。それじゃま、あのお城跡とか行ってみようか。あそこなら桜木も沢山あるだろうし」

 

 絶対に人が沢山いるよなぁ。やだなぁ、人混みはなぁ、酔うんだよなぁ。アレじゃあ桜を見ているんだか、人を見ているんだか分からない。

 

「ありがとうございます! それじゃあ、お酒をたくさん買っていきましょうよ。あとお弁当持って……あっ、お団子も!」

 

 とはいえ、心から楽しそうにしている彼女を見ることができるというのなら……そんなことは小さなもの。花より団子より、僕はこの彼女が楽しそうに笑う顔を見ている方が好きなんだろう。

 

「あー……お酒はいいけど、あんまり飲みすぎないようにね」

「ふふん、心配はいりません」

 

 ……毎度毎度、飲みすぎてくれるってのにその自覚はないのか。嘘をつくことのできない彼女だから、自覚ないんだろうなぁ。

 はぁ、今日もまた酔いつぶれた彼女を背負って帰ることになりそうだ。役得といえば役得だけど、正直、面倒なんだよなぁ。まぁ、それは僕にしかできないことなんだ。それならしっかりやらないといけないんだろう。

 

 それにこの彼女からは色々なものをもらっている。だから、その恩返しって意味を含ませてみるのもいいかもしれないね。

 

「それじゃ、お弁当を作らないとだから一度帰ろっか。あっ、今日は君も手伝ってよ? きっと自分で作ればよりいっそう美味しく感じると思うから」

 

 天使。なんていうと何でもできそうな気もするけれど、どうやらそうでもないらしい。事実、この彼女ったら料理はダメだし、勉強だってそれほどできるわけじゃない。掃除も苦手なのかどれだけ言っても部屋は汚いまま。彼女の下着をリビングに飾っているのがバレてから、洗濯だけは自分でやるようになったけど。

 

「えー……」

「お弁当の中身が椎茸だけになるよ」

「なんてことを言うんですか! わ、わかりました、頑張ります……」

 

 うんうん、最初はなかなか大変だと思うけれど、やってみないと覚えない。少しずつでも良いから色々とやってみるのが大切だと思う。

 

「うん、頑張れ。よし、それじゃ帰ろっか」

「はい、お花見楽しみです!」

 

 この僕の人生が幸せなものだったのかどうか。それは分からない。

 何がなんだか分からないまま天使に殺されることになり、人間もやめさせられた。誰かが悪いわけじゃなく、ただただ運が悪かっただけ。きっとそういうことではあるけれど、普通の人とはちょいと違う1年間を歩んだ。

 

 普通とは違うせいで、比較できるものがない。

 ただ、この彼女が今もこうやって僕の隣で笑ってくれていることばかりは、胸張って幸せなことだって言っていいと思うんだ。

 な~んて、思ってしまうのはちょいと格好つけすぎだろうか? 少なくとも僕には合っていないかもしれないね。ただ、最初くらいはさ、やっぱり格好をつけてみたいのです。

 それくらいは許してもらいたいかな。

 

 あの物語は終わった。

 だからもう一度、僕と彼女の物語をこの桜木の下から始めてみようと思うんだ。

 

 

 






いろいろと考えてはいますが、今後の展開はまだ決めていません
できれば新しいキャラを……な~んて思っています

それでは、次話でお会いしましょう

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