「……」
響は窓の外を眺めながら、課題をしていた。心ここにあらずといった状態の彼女。そんな響に着信があった。
「うわっ!?」
いきなりのことでびっくりした響は思いっきり体をのけぞらせて、床にひっくり返りそうになるのを必死に堪えて、携帯端末を取り出した。
「は、はい!もしもし!」
『ああ、立花響君だね?私だ、マクギリス・ファリドだ』
「ファ、ファリドさん!?」
まさかの大物過ぎて耐えきれずに床にひっくり返った。同室の未来は朝から出ていたのでその姿は見られずに済んだのは幸いだろうか。
「な、なんでしょう!?」
『そう硬くならないでくれ。なに、簡単なお願いがあったのだよ』
「お、お願いですか?」
なんだろう、とんでもない無茶振りがくるのではないか。と響は身構えた。それを悟ったのかマクギリスはフッと笑い、それからそのお願いを伝えてきた。
『風鳴翼の見舞いに行って欲しいのだよ』
「じゅ、十分無茶振りだった……!」
三日月のことで顔を合わせにくいというのに、いや、逆に謝るチャンスかも!?と混乱する響。そんな響を知ってか知らずかマクギリスは続けた。
『彼女の自宅は君の端末に送ろう。では頼んだ』
「へ!あ、あの!?……あ、きれた」
呆然とする響だったが、端末に翼の家が表示されたことで覚悟を決めざるを得なかった。
「……何買っていこう?」
取り敢えず手土産はどうしようかと悩む響であった。
●
「ふむふむ、なるほどね。響が上の空だったのはミカが原因だったんだ」
「なに?」
「ミカ、そこに正座しなさい」
「なんで?」
「いいから、正座」
「わかった」
「全く、ミカは先走りすぎなんだよ。響の気持ちを考えたことある?」
「俺、響じゃないから」
「そういう問題じゃないの。ミカが響のために戦ったのはわかるよ?でもそのせいでミカが誰かを傷つけることになった。それを響は悔やんでるんだよ。響はミカに傷ついて欲しくないし、誰かを傷つけて欲しくないの」
「無理だ。俺はヒビキみたいに誰かの手を取れない。俺は殺すことしかできないから」
「それでもだよ。ミカにこれ以上傷ついて欲しくない」
「ミクもそう思うの?」
「うん、そうだよ。私はね、ミカも響も大好きだから。ミカは?」
「うん、俺も好きだよ。二人のこと」
「そっか、なら。響に謝ろう?私も一緒に謝ってあげるから」
「わかった。ミクが言うならそうする」
●
「えっと……ここ、だよね?」
「そうですよ」
「ひゃわっ!?お、緒川さん!?」
マクギリスが送ってきた地図の道案内通りに進んでいくと、緒川さんがいた。
「い、いつの間に……」
「マクギリスさんから連絡を受け、お迎えにと思いまして。さぁ、こちらです」
いつもの微笑みを浮かべ、緒川は彼女を先導する。
それに響は緊張でカチコチになりながらついていく。
そしてセキュリティを超えて、とある部屋に繋がる扉の前にたどり着いた。
「では私はここまでです」
「へ?つ、ついて来てくれないんですか!?」
「ええ、マクギリスさんのご好意を無碍にするわけにはいきませんから。はい、これ鍵です」
いつもの微笑みをたたえたまま緒川はその場を瞬きの一瞬で去った。もはや影すら見えない。
引きつった笑いを浮かべながら響はその扉へと向きなおる。
手土産の東京バナナを携え、意を決して鍵を使い、部屋の中へと入った。
「へ……?」
そこには荒らされたように荷物が散乱し、その中心となるベッドで横たわる翼の姿があった。
「つ、翼さん!」
響は慌てて翼の横たわるベッドに駆け寄った。そして翼の体を揺さぶる。しかし……
「……なにをしてるのかしら?」
「翼さん!よかった!」
響は翼が目覚めたことに喜び、そして翼はなぜ目の前に響がいるのかわからず目を白黒させていた。
「あの、なぜあなたはここにいるのかしら?」
「へ、あ、はい!マクギリスさんからお見舞いを頼まれたんです!それと、一昨日のことを謝りたくて!」
「ファリドさんが?」
「はい!……って、それよりも!二課に連絡しましょう!」
「なぜかしら?」
「だって襲われたんでしょう!?部屋だって荒らされてるし!……あれ?なんで赤くなるんです?……へ?」
この日、響は翼の意外な一面を知ることとなる。