「た、ただいまぁ……」
「響!こんな遅くまで!心配してたんだよ!?」
「うん、ごめんねぇ」
フラフラとした足取りで響は座敷に倒れこむ。
それに同室の少女、未来は何かあったことを察した。
「……ミカは?」
「近くのホテルに泊まるって。最初は野宿するつもりだったみたいだけど、なんとか押し込むことができた」
「そう、寝るところに無頓着なミカらしいね。それで?ミカと何かあった?」
その瞬間、響は息を詰まらせた。震えそうになる声で未来に問い返す。
「……なんで……?」
「だって響、辛そうにしてた。私でよければ話して?」
響を抱きしめて、あやすように頭を撫でる未来。それに響はポツリポツリとこぼし始めた。
「……私、ミカのことを全然知らない。一緒にいるのに、ミカのこと全然理解できてない……っ!」
悔しいよぉ。と涙を流す響。
「でもさ、それって当たり前のことじゃないかな?」
「え……?」
未来の言葉に、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。
そんな響に、未来は続けた。
「自分の事だってわからないのが人間でしょ?それなのに他の人のことがわかるなんて事ありえないよ」
「でも……」
「それでも知りたいっていうならまずは自分のことを好きになってからだね。まぁ、その前に着替えようね?お風呂沸かしてあるから、入って来たら?」
「……ん」
素直に未来の言葉に従った響は奥に消えていく。
未来はそんな響、そして三日月のことを考えて、思わず神に祈った。
●
「……」
「君の望んだ拳銃だ。受け取ってくれ」
「ん」
三日月はドーナッツを口に含みながらマクギリスの手にある拳銃を受け取った。
弾倉を確認し、次に薬室を確認する。
そして一度構えて、重さによる咄嗟のズレを確認する。
「……少しなまってる。鍛え直さないと」
「そうかね。喜んでいただけたのなら幸いだ」
「そういえば、チョコの人」
「なんだね?」
「オルガはこっちに来てないの?」
それを聞いて、マクギリスはふむ。と顎に手を当てた。
「残念ながらこちらの情報網では確認できていない。ただ、来ている可能性は大いにある」
「そう」
それきり、三日月はマクギリスに興味をなくしてその場を離れようとする。マクギリスはそれに待ったをかけた。
「三日月・オーガス。私と共に来る気はないかね?」
「は?なんで?」
普通に不思議に思ったのかちらりとマクギリスを見やった。興味を引けたか、とマクギリスは少し笑った。
「王になる気はないかと聞いているのだ」
「王?なにそれ」
「オルガ・イツカが目指したものに興味はないのか?」
「オルガが目指したのはみんなでバカ笑いできる場所だ。王様なんかじゃない」
「だが、王になればそのバカ笑いというものもできるやもしれん」
「俺はオルガの命令を果たすだけだ。それ以外には興味ない」
「彼女、立花響はどうなのだ?」
「ヒビキやミクは俺にいてもいい場所をくれた。だから俺はそれを守りたい。オルガの命令は進むことだから、俺はその場所を守ることで命令を果たす」
「ふむ、そうか」
マクギリスはそこまで聞いて、三日月と反対方向に歩き始めた。
それを見て三日月もまた、自身の向いている方向に向かう。
「やはり、邪魔だなアレは。立花響。研究が終わり次第、早々に死んでもらった方がいいか……?」
●
翌日、響と未来は一緒に登校していた。
響はいつもの元気を取り戻し、それを未来は優しく見守る。
「おっはよー!ビッキー!ヒナ!」
「おはようございます」
「おはよー」
「みんなおはよう!」
「おはよう!」
クラスメイトとも合流し、意気揚々と学校へ向かう。響たち。
そんな二人と校門でばったりと出会う用務員。その姿に響と未来は驚いた。
「なんでいるのミカァッッ!?!?」
「?いちゃいけなかった?」
「いや、響が言いたいのはそういうことじゃないと思うよ?」
「え?なになに?知り合い?」
そしてクラスメイトを巻き込んだ騒動になると、響はなんというか、頭を抱えたくなったのは余談である。