鉄血絶無オルフェンズ   作:東雲兎

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すみません。遅くなりました。


チョコの人

炸裂音と歓声と拍手が耳を、そして三日月にとっては懐かしい火薬の匂いが鼻を突いた。目の前には同一の制服を着ている人達が沢山待ち構えていて、その真ん中に人一倍目立つ紅いワイシャツのを着た筋骨隆々な大男が立っている。大男は両手を広げて言った。

 

「ようこそ! 人類最後の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

 

ポカンとする響。いや寧ろそうならない三日月の方がおかしい。三日月はデーツを口に含みながらいつでも折りたたみ式ナイフを抜ける体勢でいる。

 

「熱烈歓迎!……立花響さま……ええっ!?なんで私の名前が!?」

「へー、ヒビキ、有名人なんだ」

「ち、違う違う!違うから!というかなんで知ってるんですか!?」

 

響の問いかけに大男は答える。

 

「我々二課の前身は、大戦時に設立された特務機関なのだよ。調査程度お手の物だ」

「はいこれ、返すわね」

 

科学者らしき女性職員が鞄を差し出した。それはまさに響が自分で破棄した彼女の鞄だった。

 

「わぁーッ! 私の鞄! なーにが調査はお手の物ですか! 鞄の中身を覗いただけじゃないですかぁー!」

 

文句をぶーぶー言いながら響は女性職員から鞄を奪い返す。

それに大男は苦笑した。そんな彼に対して緒川がこっそりと近づく。

 

「司令、お耳に入れたいことが……」

「ん?なんだ?」

 

笑顔のままの司令と呼ばれた男は耳を貸し、それに緒川は耳打ちする。すると男は顔色を変えて三日月に目を向けた。

三日月はマイペースにデーツを頬張っている。だが、完全に男の視線に気がついていた。

それを理解した男は少し考え、そして緒川を下がらせる。

 

「それでは、改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

 

緒川を下がらせた男がワイルドな笑みを見せて自己紹介を始めた。

そして響に鞄を渡した白衣の女性職員がそれに続いた。

 

「そして私は、出来る女と評判の櫻井了子。よろしくね」

 

そうウインクする彼女、そして弦十郎に対して、響はおどろおどろに受け答えする。

 

「こ、これはご丁寧にどうも」

 

それを終えると、弦十郎は口を開いた。

 

「君たちをここに呼んだのは他でもない。君たちに協力を要請するためだ」

「協力……って」

 

響は怪訝な表情をしながら、先ほどまでに起こった出来事を思い返す。歌うと自分の姿が変貌した事について、そして三日月が纏っていたロボットについて。

 

「あ、あの!あれは一体なんだったんですか?」

「貴方たちの疑問に答えるためには、2つばかりお願いがあるの。一つ目は今日の事は誰にも内緒。そしてもう一つは……」

 

櫻井女史は響を抱き寄せ、色っぽく耳打ちする。

 

「取り敢えず、脱いで貰いましょうか」

「だから……なんでぇっ!?そしてミカァッ!なんで素直にぬいでるのぉっ!?」

 

涙目で叫ぶ響。そして横で三日月がさっさとジャケットを脱いで上半身裸になっていた。

 

「え、だって脱げって」

「素直な子は好きよ……って」

 

櫻井女史は三日月の背中に気がついた。正確には背中から生えているものに目を奪われた。

そして弦十郎もそれを見て苦々しい面持ちになる。

 

ハッとした響はそれを隠すように三日月を抱き締める。

 

「え、えっと、こ、これはですね!お、おしゃれです!ねー、ミカ?」

「なにが?」

 

首を傾げる三日月に作り笑いでその場を誤魔化そうとする響。

 

そんな時、思わぬところから救援が出た。

 

「皆、そこまでにしておくべきだ」

 

その一声と共に部屋の奥からスーツに身を包んだ金髪の男が現れた。

それにいち早く反応したのは三日月だった。

 

「あ、チョコの人」

「久しいな。三日月・オーガス」

 

その男の名は……マクギリス・ファリドといった。

 

 

 

 

 

 

「知り合いか?マクギリス君」

「ああ、その通りだ司令。彼とは昔からの顔見知りだよ」

 

そう、にこやかに対応するマクギリス。しかしそれに不信感をあらわにする弦十郎。何故ならば……

 

「我々の情報網をもってしても知り得なかった彼の素性を知っているのか?」

 

そうだ。彼、三日月・オーガスには日本の戸籍が全く存在しなかったのだ。世界にも目を向けて見たものの、これといった情報が存在し得なかった。

 

だというのに、彼の素性をマクギリスが知っているのかと、疑問を抱いているのだ。

 

「ああ、彼と出会ったのは戦場でね。何を隠そう、彼は少年兵だったのだよ」

『!』

 

それにその場にいた者たちが一斉に驚いた。そして響はとても辛そうな顔をした。

 

「なにを驚く。今も戦争は存在している。そして、そこでは子どももまた戦力として使われるのが常だろう。彼もまた、その運命に翻弄された一人なのだよ」

「別に、俺は翻弄されたつもりはないよ」

「ああ、すまない。決して君達が犠牲になっているという意味ではないんだ。許してくれ」

「でも、チョコの人だってギャラルホルンの兵士だったよね?」

「そうだな。だが、軍の兵士なので、君たちよりも待遇は良かったのだろうが斟酌に値せんさ。生まれや思想など関係ない。戦場においては力こそ全てなのだからな」

 

目を瞑り笑みを湛えるマクギリスに響は問いかける。

 

「えっと、あなたは?」

「ああ、自己紹介が遅れてしまったな。私はマクギリス・ファリド。一介の市民だ」

「マクギリス!?マクギリス・ファリドってあのセブンスターズ社、社長の!?」

「ふむ、確かにそうだが。そこまで驚くことかね?」

「お、驚きますよ!世界で一番有名な企業ですよ!?今の技術はセブンスターズ社がなければ存在しないって言われるくらいなんですから!」

 

そんなべた褒めに対してマクギリスは全く動揺した様子もなく、ただただ笑顔で対応する。

 

「はは、そんな事はないさ。私はただ必要なものを必要な場所へと送っただけだ」

「へー、チョコの人。クーデリアみたいに会社やってるんだ」

「彼女ほど高潔なものではないさ。……さて、どうやら周りは君の持つ力についての秘密を待ちきれぬようだな」

「その、ヒレのような突起についても知っているのか?」

「ああ、これは阿頼耶識といってな。パイロットの脊髄に埋め込まれた「ピアス」と呼ばれるインプラント機器と操縦席側の端子を接続し、ナノマシンを介してパイロットの脳神経と機体のコンピュータを直結させることで、脳内に空間認識を司る器官が疑似的に形成され、これによって、通常は兵器のディスプレイなどから得る情報がパイロットの脳に直接伝達され、機械的プログラムに縛られない操作が可能となるのだ。これによって知識のない兵器でも容易に動かすことを可能にする代物だ」

 

まるで神話を語る吟遊詩人のように語り始めたマクギリスに対して皆が困惑しながら必死に情報を飲み込もうとする。

 

「待って、脊髄に埋め込まれたと言ったわね?まさかとは思うけど……」

「ご明察だ櫻井女史。これは非合法の手術によって埋め込まれたものだ。失敗すれば下半身不随になる」

 

その瞬間、周りは息を飲んだ。そしてそんな危険な手術を受けた彼に対して同情の念が送られた。

 

「だが、私は彼に対して敬意を表したい。彼は天羽奏のように力を手に入れようとした!その手術を使ってでも力を手に入れようとした!生き延びる術を手に入れようとしたのだ!これは敬意を払うに値する行為だ!決して同情をしてはいけない!何故ならばそれは必死に生きようとした彼への侮辱になるからだ!それを覚えておいてほしい!」

 

皆に行き渡るように、大声で謳うマクギリス。そして一息つくと、マクギリスは櫻井女史に向かって口を開く。

 

「さぁ、櫻井女史。彼らに検査を」

「え、ええ。わかったわ」

 

次にマクギリスは弦十郎に詰め寄った。

 

「司令。三日月・オーガス君の身柄はこちらで保護させていただきたい」

「む、しかし……」

「ならば、彼の日本での戸籍は私に用意させていただきたい。その程度ならば良いでしょう?」

「わ、わかった。だからそこまで熱くなるな」

「申し訳ない。彼のことになるとつい」

 

そこは素直に頭を下げるマクギリス。

 

「さて、皆解散して各々の仕事に戻ってくれ。そして風鳴翼君」

「は、はい!」

「肩の力を抜きたまえ、天羽奏は君のそばに存在しているのだからな」

 

そうしてその場はマクギリス・ファリドによって締められた。

だが響は彼からもたらされた情報に顔をしかめたままだった。そして彼女は呟く。

 

「私、ミカのこと、全然知らない……」

 

 




ぜ、全然進まない……!マクギリスに喋らせると予想以上に文字数使う件について!つうか、キャラ崩壊してないかな……?それだけが心配だ……

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