ノイズを串刺しにした巨大な剣の上で少女、風鳴翼は静かに三日月たちを見下ろしていた。
それに三日月は静かにメイスを握りしめて、響に問いかける。
「ヒビキ、俺はどうすればいい?あいつを
「やっちゃうって……そんな事しなくてもいいと思うな?だってさっき助けてくれたと思う……し」
「そう」
そこでようやく戦闘態勢を解いた三日月。ここに戦闘は終結した。だが、三日月の心境はあまりいいものではなかった。
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「ああ、やはり彼もこちらに来ていたか」
金髪の男が、指で髪を弄びながらそう呟く。
「ガンダムバルバトス……なるほど、弱体化は免れなかったか」
映像を何度も再生しながら、男は表面上は落胆したようになるが、その全身から滲み出る喜悦はおぞましいほどの笑みを浮かべさせていた。
「俺では世界を変えることは出来なかった。だが、彼ならば……彼の持つ圧倒的な力であれば、あるいは……」
男はモニターを前に新たな策略を練り始めた。そう、神話を始めるのだ。
「さあ、獣の首輪を外そうか」
男の笑みはおぞましいものから獰猛なものへと変化する。果たして、彼が思い描く未来とは……
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そのあと、特異災害対策機動部一課の人々がやってきて、響たちを保護した。
少女が紙コップに入った飲み物を啜りながら笑顔を見せるのを見て、響はホッとしたように笑う。
その隣でバルバトスを纏った三日月はメイスを地面につけ、ただひたすらに沈黙していた。
「あの」
「はい?」
響に、声をかけた人物がいた。その人は少女に渡されたものと同じ紙コップを響に差し出す。
「あったかいものどうぞ」
「あ、あったかいものどうも」
その紙コップを受け取り、口にした。
ぷはぁ、と肩の力を抜く。その時、響が纏っていた鎧のようなものが光となって霧散した。
いきなりの事で響はバランスを崩してしまうが、それを三日月ががっしりと支えた。
「あ、ありがとうミカ」
「大丈夫?」
「うん!元気いっぱいだよ!って、ミカは元の姿に戻らないの?」
「ん、今戻る」
真っ黒な粒子を放ちながら、バルバトスの中から三日月が世界に舞い戻る。
————上半身裸で。
「うぇい!?」
「っ!?」
それに反応したのはふたり、かたや響、かたや翼。どちらも男性に対する耐性を持たないが故にとっさに反応してしまったのだ。
「……なに?」
「い、いや、なんで上が裸なのかなーって」
「ああ、脱いだから」
「自分で脱いだの!?」
「だって、破れたら困るから」
「あの上着の事?」
「うん、後で探しに行かないと」
「あの、お探しのものはこれですか?」
すっと横から差し出された廃れた緑色のジャケット。それはまさしく三日月のものだった。
「ん、ありがと」
「いえいえ、私も偶然見つけたものでしたから」
「えっと、あなたは?」
響がジャケットを手渡した男性に問いかける。男性は柔らかに微笑んで
「申し遅れました。緒川と申します。以後お見知り置きを」
「あ、これはどうもご丁寧に……」
「で、あんた何?」
ジャケットを着てしまった三日月は唐突にそう問いかける。響は一瞬三日月が何を言っているのかわからなかった。
「ミカ、この人は緒川さんっていうんだって……」
「違うよ、あんた何者?って事」
「それについては私たちの拠点で話しましょう」
そう言いながら緒川と名乗った男は響に手を伸ばす。が
「!」
「なにこれ?」
三日月はその手をがしりと掴んだ。緒川はそれに驚いた。なぜならば緒川が認識できない動きで握られていたからだ。いや、認識できなかったというのは語弊がある。真実は認識できても反応できないように三日月が動いたのだ。
別に三日月はそういった訓練を受けていたわけではない。戦場にいると相手を殺すために最善化された動きを自然に身についていたのだ。
緒川はそれに底知れぬ恐ろしさを抱いた。
ただ相手を殺すためだけに精錬されたその少年に。
「ぐっ!」
その間にも三日月は緒川の腕を圧し折るくらいの勢いで握りしめる。
「す、ストップミカ!折れちゃう!」
「なんで?」
「多分緒川さんは私たちを拠点ってところに案内してくれるんだよ!きっと!だから放して!」
「……分かった」
響からの命令に三日月は素直に従う。解放された緒川はいきなり放された反動から数歩下がり、腕をさすった。
「すみません。説明不足でしたこれから私たちの拠点に同行していただけませんか?」
今度は丁寧に自身の目的を話してから行動する。
「わ、わかりました!ミカもいいよね?」
「ヒビキがそう言うなら俺もいいよ」
三日月はただ、響に従う。それだけだ。
そうして三日月達は黒服の男達に囲まれながら、連行されていった。