東方異戦線   作:albtraum

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好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六話をお楽しみください。


東方異戦線 第六話 疑い

 霊夢がお祓い棒を問答無用で振り下ろし、それに当たったチルノの胸が大きくへこみ、殴られた力に耐え切れなくなった彼女の肉体がまるで体内に爆弾でも仕掛けられていたのかと思うほどに、派手に爆発した。

 ビシャッ!!

 はじけ飛んできた血が勢いよく私の額や頬など、体中に飛び散って白いエプロンや帽子を目で見てわかるほどに赤く染めていく。

「……へ…?」

 初めのうちは私は何が起こっているのか、全く理解できなかった。気が付くと上半身がはじけたチルノの死体が霊夢の足元に横たわり、その死体を中心に木や雑草などの草木、地面、その場にいる人間にチルノの血がこびりついていた。

 霊夢が時折痙攣して、動物のような意志を持った動きの無くなったチルノの死体からようやく手を放す。

「…くっ…」

 妖夢は立ち位置や戦力の差から、自分が置かれている状況があまり好ましいと言える状況ではないと即座に判断し、鞘に楼観剣を収めながら後方に飛びのき、そのまま走り去っていく。

「…」

 霊夢は無言で妖夢が完璧にこの周辺から走り去るのを待ち、顔のあたりを巫女服の袖で拭う。

「……」

 私は自分の手に目を落とすと、生暖かくて皮膚が一部着いたままの五センチ程度の肉片が手のひらにへばりついているのが見えた。

 それはチルノの体の一部であるのだと、血と脂でしっとりとしていて、ときどきびくりと筋肉が硬直することで起こる痙攣からわかり、理解することを拒否していた脳がその皮膚片の端にある、裂け目。いわゆる目を見たことでようやく私は自分が持っている物を察した。

 見開かれ、白目をむいてはいるが瞳の一部が瞼に隠れておらず、その鮮やかな水色の瞳と目が合った。

 今までこんな異常な状況に置かれたことのなかった私にはショックが大きすぎ、失神させるのには十分すぎる物だった。

 体に力が入らなくなり、チルノの血で汚れている地面に私は受け身を取ることができずに倒れ込んでしまう。

「…は…う……ぁ……」

 意味など持たないただ単に口から洩れた言葉が薄っすらと耳に届き、熱を地面に取られて触れるとひんやりと冷たい血だまりを作っている血が、私が体を投げ出して倒れたことで大きな波紋を作る。

「魔理沙!?」

 血で巫女服や顔、お祓い棒を持つ手などを真っ赤に染めている霊夢が驚いた顔をして私に走り寄ってくるが、私は霊夢に抱き起されるまで意識を保っていることができず、意識を失ってしまった。

 

 誰かが叫んだ。その叫び声は周りに何も見えないこの空間に不自然に響き渡る。

「止めて!殺さないで!!」

 恐怖に染まっている彼女の瞳からは、助けてだったり、見逃してくれという懇願が見て取れる。

 しかし、彼女を掴んでいる霊夢は彼女の懇願など聞こえてはいないようだ。チルノが私の方向を向き、助けてと叫んだ。

 私は霊夢に掴まれているチルノに向けて手を伸ばして何かを叫ぶが、彼女の表情は恐怖に歪んだまま私にまた何かを叫ぼうとした。

 霊夢は彼女にそれをさせずにお祓い棒を振り下ろすと。まるで、豆腐でも殴ったようにチルノの体がはじけ飛び血肉が周りにまき散らされる。

 胸を殴られたことでチルノの頭が首から千切れて弧を描いて宙を舞う。

 ドンッ

 と私の胸に向かって飛んできたチルノの生首が胸に当たり、反射的にキャッチするように手を出してしまった私の手に重力に従って落ちてきた彼女の頭を取ってしまう。

 キャッチしたチルノの顔がこちらを向き、触れた感触は触れたこともないというのに、サラサラな髪の毛の感覚や、首から出てきて私の手を濡らす血の感覚まで感じることができた。

 そして、目が合った生気がなく、濁ったチルノの両目はあの肉片についていた瞳と同じ目で私を見ていた。

「うあああああああああああああああああああっ!!?」

 夢の中で叫んだのか、現実の私が叫んだのかはわからない。だが、この地獄のような夢からは現実に引き戻されたようだった。

 

「…っ……!」

 現実に引き戻された私は全身にぐっしょりと汗をかいていて、息も大きく乱れた状態で目が覚める。

 悪夢ではよくあるような夢だ。でも、自分が本当にこんな夢を見るとは思わなかった。

「……はぁ……はぁ…」

 妙にリアルで感触まで感じることができていたが、寝ている布団から手を出して眺めると、夢で見たような血はついておらず、失神する前までこびりついていたはずの血なども綺麗にふき取られている。

 こっちの世界では私と霊夢の仲が良いのかはわからないが、異変が起きている最中に助けてくれたということは、決して仲が悪いというわけでもなく、敵対はしていないという判断ができる。

 そう思いながら私は自分の手のひらに合わせていた焦点を、指の隙間から見える天井に移すと、天井は古い木などではなく作りが洋風で博麗神社ではないことが伺える。

 私は悪夢の影響で乱れた呼吸をやっと整えることができ、気分が落ち着き始めたころにすぐ横から視線を感じ、首を傾けて見られている感覚のする方向を見た。

「すごい声だったけど…大丈夫?」

 少し心配そうな表情を向けた霊夢が私の顔を覗き込んでいる。夢の中ではなく、現実でも叫んでいたらしい。

「…霊夢……」

 霊夢を見て、実際のところは怖かった。チルノをあんなやり方で殺すなんてと、でも、それ以上にとても安心した。こっちのチルノの戦闘力はわからないが、妖夢を戦わずに撃退するぐらいには強く、私を覗き込む彼女の表情はとても優しそうだ。

「大丈夫そうで何よりよ、魔理沙…あなたが妖夢とチルノに後れを取るなんて、珍しいこともあるのもなのね」

 霊夢はいきなり核心に触れるような内容を放し始めてくる。

「……ああ、そのことなんだが……」

 下手をしたらこの会話だけで、霊夢に異世界の住人だとバレてしまう可能性だってある。でも、霊夢は味方なわけであるから、本当のことは話していいのではないか?という提案を思い浮かぶが、私はすぐに自分自身で否定した。

 さっきのチルノと霊夢の戦闘から、この異変は死人が出るレベルのやばい異変だ。疑われれば即座に殺されかねない可能性がる。正直に話すのはもう少し後の方がいいかもしれない。

「…どうしたの?」

 少し考え込んだ私に大丈夫?といいたげな霊夢がずいっと体を寄せてくる。

「いや……チルノに頭を殴られたせいなのかわからないんだが……記憶が一部ない気がするんだ……」

 私がそう呟いて霊夢が怪訝そうな顔をしたとき、この部屋で唯一廊下につながっているドアが開かれ、少し青色に近い紫色っぽい髪の毛の色と、その髪の毛の色に近い瞳を持ち、霊夢と同じぐらい整った顔立ちをしているメイド姿の咲夜が部屋の中に入ってきた。

 少しだけ私を見た後、ゆっくりと口を開いて話し始める。

「捉えようによっては随分と都合のいい記憶喪失ですね。魔理沙」

 表情や言い回し、咲夜の目つきからかなり色濃い警戒心と不信感を抱いているのが勘の悪い私でもわかり、疑いの眼差しを向けられた。

「ま…まあ、確かに人の名前は覚えているに…今までのことを覚えていないとは、取りようによっては確かに都合がよすぎる。…それ…でもこうしてそんな状態になってるんだ…そこのところは考えておいてくれ」

 多少不信感を持たれるのは仕方のないことだが、それでも無理を押し切ってそう言うことにしなければ、記憶がある前提だとどこかでボロを出しそうだ。

「…百歩譲って何かしらのショックを頭部に与えられたことで記憶障害が引き起こされてしまったとしましょう。…そうだとしても、あなたが本物の魔理沙でない可能性は捨てきれません」

 鋭い目つきで腕を組んだまま、咲夜はいいながら私のことを威圧し続ける。

「た…確かに……」

 もともとあまり頭が回る方でもないため、咲夜の言葉が正論に感じて何も言い返せなくなってしまう。

 それに加えて現在、この世界にいる私は、この世界にいた魔理沙と自分は同一人物だと証明できる記憶や物などを持ち合わせてはいない。

 絶体絶命である。

 うまく言い返すことができず、ダラダラと冷や汗を流している私に、咲夜からの疑いの眼差しがさらに強くなる。

「……」

 私に向けて目を細める咲夜に対して、霊夢は私と咲夜の話を黙って聞いていたが、咲夜が何かを放そうとしたときに彼女はゆっくりと動き出した。

 こちらに手のひらを向け、ゆっくりと腕を伸ばしてくる。私を捕まえる気なのだろうか。そう思って逃げ出したくなるが、逃げようにもさっきのチルノのことがあったせいで、私もああやって殺されるかもしれないと考えると、体が動かなくなってしまう。

 首かもしくは胸倉を掴まれると思った私はビクッと肩を震わせるが、霊夢はもっと下の位置にある。この世界の私に似せるために大きくなった胸を鷲掴みにした。

「うひゃぁっ!!?」

 今度は別の意味で肩を震わせて、胸を触られている羞恥心で顔が熱くなっていくのがわかるが、そんな私の状況などは関係なく。霊夢は私の胸を二度も三度もニギニギと触り、ふむっとうなづいてから言う。

「魔理沙で間違いないわ。この柔らかくてどんな形にも変わりそうな質感、手に収まるか収まらないかのちょうどいい大きさ、見た目のわりに重すぎず軽すぎない重量…いつも触ってるから間違いないわ!」

 どんな確認方法だよっ!と叫びたかったが、あまりの衝撃に舌が喉にへばりついた様に動かなかったため、言えなかった。

「霊夢がそう言うなら間違いはないんでしょうが、誰かが化けている可能性はないんですか?」

 そんな放心している私を置いて、咲夜は私をじろっと睨みながら霊夢に話しかける。だが、霊夢はその咲夜の意見を否定する。

「いや、無いわね…完璧に姿を真似ることができていても、質感なんかはここまで精巧にまねはできないと思うわ。集中すればできないことはないかもしれないけど、これだけ長い時間ずっと最高レベルで姿を変えるのは無理よ。それに、今やったみたいに不意打ちみたいな感じなら特に質感なんかは変えられないと思うわ」

 霊夢がそう言うと、咲夜はとりあえずは私が本物と認めたらしく、うなづいて私に向けていた疑いの眼差しをやめた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

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