それでもいいという方は第十六話をお楽しみください。
勝ったという余韻を味わう前に、後ろで誰かが私が落としたナイフが地面に刺さる音と似たような音を出しながら土を踏みしめる音が聞こえてきていて、振り返ろうとした私の背中に鋭い刃物が潜り込んでくる感覚を味わった。
「……へ…?」
何が起きているかわからない私の脳は、後ろにいる人物を見てさらに混乱してしまう。
「倒したと思いましたか?……あの程度の戦いで私が死ぬと思いましたか?残念、死んではいません」
二本の銀ナイフを携えた咲夜が、私の背中を両手の銀ナイフで切り付けながら、私の正面方向に移動した。
「…なん……で………確かに…この手で殺したはず…じゃ…!?」
新たな傷で服を真っ赤に染めながら、私は疑問を口にする。
「ああ、それですか」
咲夜が私の足元に転がっている自分の死体を見ながら呟くと、能力を解除したのか死体が綺麗さっぱりに消え去った。
「…そうですね…これはタイムパラドクスみたいなものですよ……厳密にはそれを応用して、便利にしたものですけどね」
咲夜がそう言いながら両手にある二本の銀ナイフを取り出して両手でクルクルと回して弄ぶ。
「…タイム…パラドクスを…応用した……?」
説明を受けても何が起こっているのか全く理解ができない私は、じりっと後ずさって咲夜がどう出るか様子を見ようとしていたが、膝がガクガクと震えて言うことを聞いてくれない。
「動けないのは当たり前でしょう?これだけ無理をしているんだから、限界がきてすぐに動けなくなるのは目に見えてる」
咲夜がそう言って私に近づいてくる。使っていた大太刀ですら持てなくなっていた私はそれでも大太刀を振ろうとしたが、その重量に振り回されかけたのともう持っていられずに地面に落としてしまう。
拾おうとしたが、咲夜が目の前に現れて私の胸を手に持っている鋭利な銀ナイフでぶった切ってくる。
「か……ぁ……!」
胸を押さえる私に休む暇を与えずに、咲夜は続いて私の脇腹に銀ナイフを突き立てた。
ひんやりと冷たくて鋭利な刃物が私の体の中にもぐりこんでくる感覚というのは、何百年も生きてはいるがやはりなれるということはなく、その不快感は耐え難いものだ。
「…っは……ぐ…っ…!!」
咲夜が銀ナイフを私の体から引き抜くと、そこからダムが決壊した時の水のように、真っ赤な血が噴き出してくる。
そこで気が付いた。咲夜はタイムパラドクスを使ったもので私を騙したとき、私が彼女に切りかかった手順を真似ているのだ。
つまり、この次は、
「……あ………」
私の声は咲夜に切られる前に出たものなのか、切られた後に出たものなのかは定かではない。もしかしたら切られているときかもしれない。
でも、そんなことはもうどうでもいいことだ。
視界に映る景色が私の意識に関係なくグルグルと様々な場所を移し、最後は地面にぶつかることで動きを停止する。
視線の先には見慣れている自分の体が、首から血を吹き出しながらゆっくりと崩れていくのが見えた。
「……」
生物は首を切断された瞬間に即死するわけではない。首を飛ばされて数秒後には死ぬわけだから即死とあまり変わらないが、血が脳にめぐるわずかな時間は見たり聞いたりすることができるという。
近くに立っていた咲夜が片目が潰れて半分しかない視界の私に、近づいてくると目の前で立ち止まって私を見下ろしながら呟いた。
「さすがは白狼天狗…まだ意識がるようですね…ですが、今…楽にさせてあげましょう」
咲夜が足を上げて私の頭に向けて足を下ろし、頭蓋を踏み砕いた。木の枝が折れるのとそう変わらない乾いた音が頭の中に響くと同時に、脳を破壊されて私の視界は真っ黒に染まる。
私の意識はそこで途切れ、何も考えることができなくなってしまう。
眠るとは違う、一度途切れたらもう戻ってくることはできないだろう。それはある意味では眠るということとにている。
私という意識は消え去った。
謝罪から
本当に申し訳ございません。
データが消えてしまい、この話を続けることができなくなってしまいました。
勝手ですが、この話で東方異戦線は最後とさせていただきます。