それでもいいという方は第十五話をお楽しみください。
豊富に余っている魔力を使って折れた大太刀の刃先を一時的に形成させ、投げられたほぼすべての銀ナイフを叩き落とす。
「おおおおおおおおっ!!」
私が後ろの文に銀ナイフが当たらないように、文がいる場所の軌道上の銀ナイフは完璧に大太刀で砕いていく。
咲夜がいる場所に向かって進んでいた私が、敵のいる場所まであと十メートルといったところで、後方にいたはずの文の気配が消えた。断腸の思いだったのか、ギリッと歯を食いしばり悔しくも名残惜しそうにも、この場所から彼女は姿を消した。
短い時間とはいえ、咲夜がどう戦うかを見た。すべての戦い方を見たわけではないが、基本的なところはわかるようにはなっているだろうから、文にとってマイナスにはならないだろう。
背中から魔力を放出し、体の進む速度を加速させて咲夜がいる場所まで一気に近づき、大太刀を全力で振り下ろす。
咲夜は両手に一本ずつ銀ナイフを持ち出し、私の大太刀をその大太刀よりも細い銀ナイフで受け止める。
鍛えられた鉄と銀がこすれあうことで火花が発生し、鉄粉などが空気中で燃焼牛手火の粉となって消えていく。
鍔迫り合いは少しの間だけ力が釣り合っていたが、咲夜に大太刀を押し返され始めてしまう。
「くっ…!!」
押し返そうと大太刀に出し惜しみをせずに力を込めたとき、魔力で作られていた大太刀が咲夜がナイフをさらに押し込んだだけであっさりと砕け散る。
私から見て、咲夜は左側に回り込み、左手に持っていた銀ナイフを逆手に持ち替えて私の左手に突き刺した。
痛覚がマヒを起こしているのか、ナイフに刺されたというのにじんわりとした形のない違和感程度の痛みが腕に広がる。
ナイフが根元まで刺さっているが、お構いなしに私は折れて半分もない大太刀を振るって咲夜を自分から引き離させた。
「…そろそろ飽きてきましたし…この戦いも終わりにしましょう」
咲夜がいきなりそんなことを言いながら右手に持っていた魔力で形成されている銀ナイフを手から消し去り、ポケットから小さな懐中時計を取り出す。
「っ!?」
あれはまずい。咲夜は時を操る程度の能力を持っていて、千里眼で遠くを見渡したりすることしかできない私には太刀打ちすることはできないだろう。
能力を発動させられる前にあいつを
「『昨夜の世界』……時よ止まれ」
私が行動を起こそうとしたが、すでに咲夜は能力を使って時を止めていた。
そして、次の瞬間。
私の正面や左右の方向にずらりとナイフが空中に敷き詰められており、時速数百キロという猛スピードで私に向かってカッとんでくる。
「っ……!!」
魔力を大量に消費し、今出すことのできる全力で大太刀を振るう。それによりあたりに金属音が絶えず響き、大量の銀ナイフが自分の周りに山住になって転がっていく。
しかし、数百本にもなる銀ナイフを一人でさばくことは骨が折れるとかそういう問題ではない。不可能だ。
ある銀ナイフは刺さらずに肉だけを削いでいき、ある銀ナイフは私の胸に突き刺さって呼吸を阻害し、ある銀ナイフは私の首に刺さって私を出血死させようとした。
得物が一本では全く足りない。腕の回転が負傷などにより全く追いつかないのだ。でも、この問題はすぐに解決する。ないなら増やせばいい、それだけだ。それに刃物なら腐るほどある。
自分の膝に深々と刺さっている本物のナイフを掴み、一気に引き抜きながら振り上げたときに来ていた魔力で形成されている銀ナイフを弾き飛ばした。
私をこの位置に縫い付けるための当てるのが目的ではないナイフ以外、つまり私に当てるためのナイフも致命傷になる場所に刺さる銀ナイフ以外は無視して走る。
壁ともいえる大量のナイフをやっとの思いで潜り抜けた先には、二本のナイフを構えている咲夜が待ち構えていた。
待ち構えている咲夜の顔が驚愕を示している、私がこのナイフの壁を生きて潜り抜けてくるとは思わなかったらしい。
反応が遅れている咲夜に私は大太刀で切りかかった。外すわけのない一撃は、彼女の胸を肋骨や胸骨ごと、骨の内側で保護されている肺を切り裂いた。血や肺組織、たたき砕かれた骨片が切り口から飛び散る。
「…………っ!!?」
肺を切り裂かれたことで口から空気を出すことも取り入れることもできず、目を見開いて咲夜は胸を押さえて後ろに下がろうとした。
それだけでは終わらない。左手に持っている銀ナイフを咲夜のわき腹に下から突き刺した。肉に銀ナイフが抉りこむ感触はそこに咲夜がいることを実感させる。
「お前も……道ずれだよ…咲夜!」
私がガクッと膝を地面に打ち付けて崩れ落ちた昨夜の首元を、半分に欠けている大太刀を大振りで振り回して切り裂いた。
「―――――っ!!」
何かを叫ぼうとした咲夜の首が回転しながら宙を舞い。数秒してから地面にドンッと生首が転がり落ちる。
ころころと転がっていく咲夜の首は、首のなくなった胴体が地面に倒れるのとほぼ同時に動きを停止し、私が切り裂いた首の切断面からダラダラと赤黒い血が滲みだして垂れ流す。
「……勝った…」
時折体を痙攣させる咲夜の体を見下ろしながら、私は小さな声で誰に言うわけでもなく呟く。
ポロッと手から銀ナイフを落とすと、ザクッと銀ナイフは刃の中間ぐらいまで地面に突き刺さった。
多分明日も投稿すると思います。