それでもいいという方は第第十四話をお楽しみください。
「どうしたっていうの?…そんなことよりも早く帰って体を洗わないと、血まみれじゃない」
確かに、私の今の体は血まみれだがそんなことはどうでもいい。咲夜と文たちがやりあう前に止めなければいけない。
いくら異変で敵同士になっているといっても、殺すまではしなくてもいいのではないかと。
私の考えをやすやすと読み取った霊夢はまるで私の心を読んだかのように、私のことを見ながら呟く。
「魔理沙、これは異変だけど異変じゃない。…その辺についてはわかってるの?……これはお互いの生存を掛けた戦争よ」
そういいながら霊夢は加速し、後ろを振り返らずに進む私たちに咲夜たちの戦う音が響いてくる。
「そうだとしても、殺すことはないじゃないか…!」
「相手は殺す気でいるのに、こちらが倒す気でいるならば私たちが殺されるわ……考えが甘いわよ…魔理沙」
この世界の異変は、私がいた世界で起こっていた異変の常識は通用しない。私が元いた世界の倒すか倒されるかという生ぬるい常識は、まるで冷水にでも浸っているようだろう。
殺すか殺されるという選択肢しか、この世界には存在しないのだ。
「……く…っ…」
彼女の言葉に私は何も言い返せない。私はこの世界の異変というものを知らないからだ。
「あああああああああああああああっ!!」
半ばから折れ、自分のか敵の血かわからない血がこびりついている大太刀を片手に、十六夜咲夜と呼ばれている紅魔館のメイドに切りかかった。
ガギィッ!!
本当に咲夜が使っている得物はナイフなのかと疑ってしまう。
折られてひびが入って耐久性能の落ちているとはいえ、魔力で強化しているというのに咲夜の扱うナイフと打ち合うごとに細かい金属片が大太刀から舞い。太陽の光の加減で空気中でキラキラと光っている。
「くっ…!」
ちょうどいいタイミングで文が私を援護するためにいくつもの鎌鼬を咲夜に飛ばし、そのうちに私は一時的に咲夜から離れて無理をして動かしている体を休めた。
だが、ずっと休んでいることはできない。咲夜を倒すとまでは言わないが、撃退させるのには文と二人でないとできないからだ。
ボロボロの文が投擲される咲夜のナイフをすべて打ち落とすことができず、腕や足にナイフが突き刺さって彼女の動きをさらに阻害する。
右目を抉り出されて右側を見ることのできない私は、左目だけで文をとらえて全身にある傷から血を流しだしながら、無理やり立ち上がって無意識のうちに走り出していた。
逃げることができない文に向けて咲夜が十数本にもなる量のナイフを投擲し、文を刺殺しようとしている。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
私は雄叫びをあげながら怪我をしていて少し遅いが、今出すことのできる最高速度で走って文の額に突き刺さるはずだったナイフが、彼女に突き刺さる寸前に大太刀で弾き飛ばす。
何とか文がナイフにハチの巣にされる寸前に、彼女がいる場所にたどり着くことができた私はナイフの進路上に立ち、文のことを守るために残りの飛んでくるナイフを撃ち落とすために大太刀を振るった。
「殺させない…文だけは、絶対に殺させない……!!」
私は叫びながら咲夜が飛ばしてくるナイフを迎え撃った。
甲高い金属音を響かせながら、刃先の鋭いナイフが大太刀に弾き飛ばされて回転しながらどこかへと飛ばされていく。
私は弾かれたナイフがどこに飛んで行ったのかを確認する余裕もないまま、手に馴染んでいて軽いはずの大太刀がいやに重く感じ、剣を振る速度に支障をきたしいてる気がする。
私が感じていた大太刀を振る速度は勘違いなどではなくやはり遅くなっていたようで、ついに飛んでくるナイフについていけなくなくなってしまう。
下から斜め上に飛んできた銀ナイフが、大太刀を振るっても遅くて当たらなかった私の太ももに深々と突き刺さる。
「うぐ……!!」
だが、その痛みを気にしている暇はない。次から次へと休む暇もなく咲夜が投げた銀ナイフが飛んできているのだ。
「椛!私はいいから…!あなたは自分の心配だけをしていなさい!」
文が私の身を案じてくれているのか、必死な叫び声が聞こえてくるが私は答えることができずに大太刀をただ振るった。
ガギッ!!
一つの銀ナイフを弾き飛ばすことができたが、代わりにもう一つのナイフを弾くことができずにわき腹に突き刺さる。
「ぐぅぅぅぅぅぅっ…!!」
歯を食いしばって内臓にまで抉りこんできたナイフの痛みに耐える。耐え難いほどの激痛であるはずなのにそう感じないのは、副腎髄質から分泌されたアドレナリンが作用しているからだろう。
「結構粘りますね。どこまで持つか見ものですが」
咲夜が魔力で形成された本物と見分けがつかない、太陽の光で刃がキラリと光る銀ナイフを私たちに向けて大量に投擲する。
すでに動く速さが初めの半分以下の速度になってきている私には、飛んでくるナイフが速すぎて片手で数える程度の本数しかはたき落とすことせず、大部分が腕や肩、足に突き刺さった。
「っ……!」
腹や首にも銀ナイフが突き刺さり、私は動けなくなってしまう。しかし、倒れることはできない。後ろには文が倒れているのだ。
「椛!」
文が何かを叫ぼうとしたが、私は咲夜が攻撃を仕掛けてこないうちに私は叫んだ。
「…文…!」
「…!」
文が口をつぐみ、咲夜が様子見をするために銀ナイフを構えていつでも投げられるように動きを止める。
「文、あなただけでも逃げてほしい」
「…え?逃げて…?何を言ってるの?椛だけ置いていけるわけないでしょう!?」
切り傷だらけで体中から血を流し、貧血を起こしていて青白い顔をした文が私に言った。反発されるのはわかっていたことだ。
「…文もわかってるはず……この戦い。どちらかが犠牲にならなければ…生き残れない……二人で戦いきることも逃げ切ることも不可能だ」
手に持っている半ばから折れている大太刀を地面に突き刺すことで体を支え、ブルブルと震える体が地面に倒れないように大太刀の柄を握りしめる。
「それに、…私はもう死ぬ…!」
「…っ…!」
今いる足元にはすでに血の水たまりが形成されていて、絶えず今もその量を増やしている。
これだけ血を流せば死にそうになるのも当たり前だろう。普通の人間なら三回は死んでいるはずだろう。
「だから、お前もここで無駄死にする前に……逃げて…!」
「…あんただけを残していけない…!それに、私だって死ぬ覚悟ならもうできてる!」
文がいい、切られた腹を庇いながら私に近づいてきて肩に触れるが、私はその手を振り払った。
「椛…!?」
そろそろ私たちの会話に飽きてきたように見える咲夜がいつ攻撃してきてもいいように、私は地面から大太刀を引き抜いて咲夜に向けて構えながら言う。
「死ぬ覚悟はできているということは、死んでもいいってことだよな…?私は、文には生きるために戦ってほしい。……文、これは私の…最後の頼みでもある……私が闘っているうちに全速力で逃げれば、助かる見込みがある……だから……」
私は一度言葉を切り、大太刀を振るって後ろにいる文や私に向けて投げられた銀ナイフを弾き飛ばした。
「……逃げろ!!」
私は撃ち落とし漏らした銀ナイフが文に突き刺さりそうになるが、体を銀ナイフの射線上に移動させ、自分に刺さるのもお構いなしに他の銀ナイフを弾きながら咲夜に向けて全力で走った。
多分明日も投稿すると思います。