彼を思う   作:お餅さんです

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八話 「稀有な霧」

 

「面、ですか?」

 

 いつも通り訓練を済ませた後、呼ばれたので主の部屋を訪れれば珍しく命令…というよりかはお願いのようなものをされた。

 

 

「そっ、なんか最近出るらしくてさ。何か怖いし見つけ次第壊しておいてくれないかな」

 

「あぁ、別に直ぐじゃなくていいから。最近忙しそうだしね、むしろゆっくり休んでからにして」

 

 そしてついでに会ったら他のみんなにも言っておいてと言い、話しは終わった。

 

 

 

 

 

 主の部屋を出て真6弔花が普段暇なときに集まる部屋へと向かう途中考える。

 主が言っていた面のことについて。

 

 偶に廊下ですれ違う部下達が似たようなことを話していたのを聞いたことがある。

 

 何でも夜中に廊下を歩いていてふと後ろを振り返ると鬼のような面を被った大男がおり、お前ではないと言って消えるらしい。

 成る程確かに不気味だ。

 

 だが所詮は噂、このミルフィオーレ本部には主の力のお陰でかなりのセキュリティが施されている。

 

 術師ならあり得なくもないがこのセキュリティを騙せる程になると俺と同等なものだ。

 驕る訳ではないが、そうそういないだろう。

 

 気づけば目の前に目指していた部屋の扉があった。

 どうやらかなり長い間考え込んでいたらしい。

 

 以前雲の真6弔花である桔梗に悪い癖だと指摘されたのを思い出し、少し反省してから扉を開ける。

 

 

 

 

 部屋の中は作戦を立てる会議室のように仰々しいものではなくソファやテレビなど真6弔花や主が持ち込んで来たもので溢れ、生活感すら感じられる。

 だが部屋の中には誰もいなかった。

 

 

 

 桔梗は事務仕事に追われているのだろう、さっき主の部屋には多くの書類の山が四、五ほどそびえ立っていた。

 

 普通のファミリーならそこまではいかないがミルフィオーレは今やあのボンゴレと同等の規模を誇り主の力によって様々な技術の使用、開発が行われている。

 

 真6弔花の中で唯一事務仕事が出来る桔梗は他と比べて優秀な分その仕事量は他よりも多く、見ていてつい同情してしまうほどだ。

 俺は剣しか取り柄がなく手伝うことは出来ないが…今度何か奢ってやろう。

 

 

 

 ザクロは考えるまでもない。

 部屋に取り付けられている冷蔵庫に酒が一本もなく、部屋の中を見渡しても酒がないからな。

 どうせ何処かで酒を飲みながら酔い潰れているに決まっている。

 

 ただ酒を飲むだけならいいのだ、俺だって偶に仲間を労うときや今はもう合併されてなくなったがジッリョネロであったときはガンマと二人で飲み比べをしたこともある。

 

 だが煩い。

 酔えばしつこく絡んできて煩い。

 物理的に寝かせてもいびきで煩い。

 

 あいつと飲んでしまったときは部下からも苦情がきたほどだ。

 覚えてないとはいえ何故俺が部下に頭を下げなければいけないのだ。

 あいつとはもう二度と飲まん。

 

 

 

 ブルーベルとデイジーはついさっきまではいたようだ。

 さっきも言ったがこの部屋は真6弔花が集まる部屋としてそれぞれが私物を持ち込んでいる。

 

 その中でも一番持ち込みが多いのはやはり主だろう。

 

 ソファに冷蔵庫、テレビ、様々な機種のゲームとそのソフトに人数分のコントローラー。

 俺はやる側よりも見ている方が多いのだが仲間が楽し気にしているのは見ていて気持ちがいい、いつまでもそうしてありたいものだ。

 

 そしてそのときやっていたゲームの電源がついてテレビに映っており、ソファ近くのテーブルに飲みかけのジュースが二つ置いてあることから誰かに呼ばれたかブルーベルの気まぐれで出て行ったのだろう。

 

 

 どちらにせよもう数時間しない内に誰かはここに来る筈だ。

 探しに歩いてもいいがここは本部というだけあってそこらの支部とは段違いの広さだ。

 もし知らない内に行き違いになったら目も当てられない。

 

 最近は色々と計画の為に動いて忙しかったし主からのお言葉もある。

 人が来るまで休憩するのも悪くないだろう。

 そう思い自身の定位置であるソファの端に座り目を瞑る。

 

 久しぶりのゆっくりとした時間というのもあって自分でも驚く程の早さでその意識は沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 意識が浮かび上がる。

 

 少しの間休むつもりだったがかなり眠っていたらしい。

 窓から見える外は暗く、壁に掛かっている時計を見れば夜中の十二時ごろ。

 

 自分らしくない失態に驚き、焦る。

 主からのお言葉だとしても一度命じられた事を遂行せず、あまつさえ惰眠を貪るなど部下としてあり得ない。

 

 まだ起きているか分からないが直ぐに謝罪に向かおうと部屋から出れば、

 

 そこにはついさっき向かおうとしていた主がいた。

 

 

「っ、申し訳ありません。主のお言葉に甘え未だ命令を果たせておりませぬ。この無礼はいかようにも」

 

 直ぐに片膝をつき謝罪を口にする。

 すると主は何時ものように笑い、言葉を発する。

 

 

「全然大丈夫だよ、僕もさっきまで寝ちゃってて桔梗に怒られたばっかりだしさ♪」

 

 その口調はどこまでも無邪気で

 

 

「でも幻ちゃんそういうお咎めなしって絶対いやそうだよね〜」

 

 その顔はどこまでも笑顔で

 

 

「そうだなぁ、僕も大事な部下に手をあげるなんてしたくないし…そうだ‼︎」

 

 その言葉は…

 

 

 

 

「霧のマーレリング返してよ」

 

 俺に深く突き刺さった。

 

 

 

 

「マーレリング、ですか。それはつまり…」

 

 顔が能面のように無表情を保ち、

 言葉が上手く出せない。

 

 

「そう、幻ちゃん真6弔花やめなよ♪」

 

「使えない駒は僕のファミリーには必要ないよ。それに分からないかなぁ、君と他の真6弔花の、差ってやつ? ハッキリ言って一番弱いよね。僕が持ってるヘルリング使えばまだマシになるだろうけどそれでも彼ら以下。だからさぁ…」

 

 

 

「返しなよ」

 

 そう言い手のひらを俺に見せるように右手を伸ばしてくる。

 

 

 やはり間違いなかった。

 この主は俺にマーレリングを返せと、

 真6弔花を降りろと言ったのだ。

 

 それならば

 

 …俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 自分に何が起こったのか理解が追いつかず惚けた表情と声を出すが体はそうはいかない。

 

 右腕と右脚が無くなったことで体が地面に崩れ落ちる。

 

 

「グアアアァああああ⁉︎」

 

 続いて上がる叫び声。

 圧倒的上位から出していた声音と一緒だが出していた右手と右脚を切られたことで這いつくばる様は先ほどと比べて見る影もない。

 

 さらにその姿も変わっていく。

 

 先ほどまでは白髪に白い服と全身真っ白だったが今は体格が一まわりも大きくなり、全身を黒のローブで覆って顔の見える所には鬼のような恐ろしい仮面をつけていた。

 

 

 それを上から見下し吐きすてる。

 

 

「白蘭様は俺たちの事を駒などとは決して呼ばない。術師としての腕は本物のようだが真似る相手を間違えたな。正面から術師として戦えばまだ分からなかっただろうに」

 

「お前の目的はマーレリングと…まぁいい、噂の面とはお前の事だろう。見つけ次第破壊せよとのご命令だ。そして何より…」

 

 

 

「お前は俺を怒らせた」

 

 言葉と共に剣を振るえば仮面の男の体は霞となって消え、割れた仮面が残り世界にヒビが入る。

 

 仮面の男を屠った事で幻術で作られた世界が終わるのだろう。

 

 意識が今度こそ浮かび上がる感覚を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 目の前には割れた見覚えのある仮面を無理矢理顔にあてがった赤髪の男。

 

 

「あがっ⁉︎」

 

 無言でその横っ面を殴る。

 

 

「あぁ、起きましたか幻騎士」

 

 少し強く殴り過ぎたか吹っ飛んでいったザクロを無視しながら桔梗がコーヒーを渡してきた。

 

 

「すまない…悪いが何があったか教えてくれるか?」

 

 手渡されたコーヒーに少し口をつけ聞いてみる。

 時計を見る限り休憩しようとしてからそこまで経ってはいないようだが。

 

 

「もちろん、ですが驚きましたよ。私達四人は偶々食堂ではちあったんですがね、貴方が私達を探してると聞いてこの部屋に来てみればソファで眠る貴方の近くに割れた仮面と地面に横たわっている体中に文字が書き巡らされた部下が一人」

 

「仮面は以前潰した東洋のマフィアが所持していた呪われた品でしてね、倒れていた部下が勝手に持ち出していたみたいです」

 

「それにしても…結構いい所に入ったみたいですね。あそこで倒れている男は貴方を驚かそうとしてふざけただけですよ。もう何もなさそうですが、よくあんな物被れますよ」

 

 そうやって心底理解出来ないと床に転がって動かないザクロを見る。

 

 

「そうか、この事を主は?」

 

 

「知っていますよ。ですがブルーベルとデイジーには少し刺激が強過ぎたみたいでしてね…もう大分落ち着きましたが、あちらでゲームをしてあやしてるところですよ」

 

 そういう桔梗の視線を辿れば確かに三人でゲームをしている所だった。

 

 コーヒーを飲み終わり桔梗に美味かったと一言告げそちらへと向かう。

 無愛想に見えるが桔梗とはもうそこそこの付き合いで俺がそういう人間だと分かっているのだろう、いえいえと返しカップを下げてくれた。

 

 

よっぽど熱中しているのだろう、ブルーベルとデイジーはまだだが主は直ぐそばまで来てやっと気づいた。

 

 

「あ、幻騎士起きたんだね。もう大丈夫かい?」

 

 顔を若干此方に向け、声をかけて下さる。

 その声音も口調もあの幻術世界の主と変わらない。

 

 

「はい、ご迷惑おかけしました。…お忙しい中申し訳ありませんが一つよろしいでしょうか?」

 

 迷惑をかけたと自ら言ったにも関わらずさらに続けようとする。

 無礼なのは承知だが何故か今聞いておきたいと思った。

 

 

「ん?珍しいね。いいよ、なんだい?」

 

 そう言ってわざわざゲームを中断したために一緒にしていた二人から不満の声が上がり、少し悪く思いながらも尋ねる。

 

 

「我々は…」

 

 

 

「貴方にとってなんでしょうか?」

 

 その言葉に主だけでなくさっきまで不満の声をあげていたブルーベルとデイジー、倒れていたザクロ、カップの片付けをしていた桔梗までも珍しい物をみたような顔で見てくる。

 

 

「…ほんとに珍しいね。でもそうだね、強いて言うなら…」

 

 

 

 

 

「家族かな? 」

 

「…そ、それよりさ、新しいソフト持ってきたんだけど幻騎士もやらない?」

 

 自分で言っていて照れたのか少し顔を赤くして普段は誘っても見るだけでやらない俺にゲームを誘ってきた。

 

 俺はゲームをあまりやらない。

 別に悪く言うつもりはないがそれをするならば訓練をする方が有意義だと感じるからだ。

 

 でも

 

 今日はなんでだろうか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やり方を教えて頂けますか?」

 

 彼らと過ごす事より有意義な物はない。

 

 俺の返事に驚いたのかまた驚いた顔をした彼らを見て、

 

 少し笑いながらそう思う。

 


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