彼を思う   作:お餅さんです

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エピローグ

 

 何度目か分からない歓声が後ろから聞こえてくる。

 

 祝勝会の盛り上がりはすごいね。

 若干何処かの中学生男子の悲鳴が聞こえるけど。

 

 

 僕は途中で抜けてきた、元々敵だったしいきなり味方だって言われても気まずいだろうしね。

 

 …決して巻き込まれたくなかったからじゃないよ。

 

 

 でも今回の世界は今までと比べて楽だったからよかった。

 

 というよりかは慣れてきたのかな。

 初めの数回は本当に危なかったし。

 

 

 

 

 

 

「やあ、久しぶりだね。元気かい?」

 

 

 そうして祝勝会の会場である沢田家から離れて行くといつの間にか隣に人が歩いていた。

 その帽子は鉄で出来てるように見え、怪しげな仮面を被ってるけど初めて会う訳でもないし気にせず返事を返す。

 

 

「ああ、久しぶりだね」

 

 それでも少し素っ気なくなってしまうのはこの人が、というよりはこの人の役目と呼べるような物に思う所があるからだろう。

 

 

 

 

「フフフ、相変わらずだね。これでも私は君に感謝してるんだよ。全パラレルワールドの自分を消滅させる為にユニの代わりにアルコバレーノを復活させ、他の世界が滅びないよう死んだ身でありながら力と技術を頼りに他の世界に転生して移動し続ける…」

 

「それもその数ゆうに八兆」

 

「普通の人間なら発狂ものだよ。というより二回目からは消滅させる必要がないから君もユニもおしゃぶりに炎を灯さず移動するだけだったけど、一回目はどうやって二回目の世界に転生出来たんだい? 君あのとき死んでたよね?」

 

 仮面でわかりづらいが笑っているのが分かる。

 生粋の地球人である彼ならどうせ大体分かってるだろうに、態々僕の口から聞きたいんだろう。

 …やっぱり性格も苦手かも。

 

 

「強いて言うなら、経験かな」

 

 

 

「…ふむ、まぁ君には滅びかけた多くの世界を救ってもらった貸しがある。君がそう言うならそういう事にしておこう」

 

 全く、これで悪気がなく素でそう思ってるからタチが悪いよ。

 

 

 それよりも、

 

 

「何で僕の前に出て来たんだい? 一回目はともかくあまり介入をよしとしない君はもう僕と会わないのかと思ったけど」

 

 

 彼と初めて会ったのは二回目の世界に来て暫くしてからだ。

 世界にやって来た異物に気づき向こうからやって来た。

 

 恐らく彼もアニメには出て来なかった原作かゲームのキャラなんだろう、一回目のときにあったGHOSTが吸収した炎全てを使っても勝てるとは思えなかった。

 

 事情を話せばむしろ推奨してくれたけどそれまで気が気じゃなかったよ。

 

 でもそのときにあまり介入はしないって言ってたんだけどどうしたんだろうか。

 

 

「そのことなんだがね。君も分かってると思うが君は今回の世界でついに八兆に及ぶ滅びかけた世界全てを救ったわけなんだが…そこまでしてもらって何もしないんじゃ私も心苦しくてね」

 

「君も元いた世界に戻るとしても八兆分の一の世界、今までは滅びた世界を目印に移動していただろうけど次はそういうわけにはいかないだろう?」

 

「私なら君を確実に君が望む世界へ連れて行くことが出来る。準備がいいのなら今すぐにでも連れて行ってあげよう」

 

 そう言ってまた笑う。

 

 

 だけど僕は何も世界を救う事しかしてこなかったわけじゃない。

 

 次の世界ではもっと確実に、もっとリスクなく救えるよう知識や技術の獲得を怠った事はなかった。

 

 

 

 だから

 

 

「アルコバレーノの継承が近いのかい?」

 

 

 この男の役目も知っている。

 

 

 

「…正直驚いたよ、まさかそこまで掴んでいたとはね」

 

「ああ、君は沢田綱吉くんに次ぐ筆頭候補だよ。アルコバレーノはその世界のトゥリニセッテの管理者、その世界で生まれた者じゃないと何かしらのバグが発生しそうだからね。…意味は分かると思うけど、それでも来るかい?」

 

 心底驚いた風にして聞いてくる。

 うん、何だか気分がいいね。

 いつかはこうやってやり返してやりたかったからさ。

 

 

 それにどうせ、返事は決まってる。

 

 

 

 

 

 

 

 目の前から人が一人消えていった。

 

 髪も服も含めて全身真っ白、

 

 別のパラレルワールドの世界からきた何処か歪な少年が。

 

 

 

『もちろん、ただ…』

 

『貴方の思い通りにいくとは限らないけどね♪』

 

 

 

 フフッ、稀に見る興味深い少年だった。

 

 期待しているよ、

 

 君と君の言う主人公とやらに。

 

 …でも全く、君のお蔭で私は驚きっぱなしだよ。

 

 だから

 

 

 少しならふざけても構わないだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が浮かび上がる。

 

 少し気だるいけどこればっかりは何兆繰り返しても慣れる気がしないね。

 

 さて、

 

 世界はともかく場所は彼に任せたけどここはどこだろうか

 

 

 立っている所は、砂かな。

 少し温かみが感じる砂の上に立ってる。

 

 徐々に照りつけてくる光に目が慣れていく。

 目の前には僕の足元まで寄っては遠ざかっていく波。

 

 

 (マーレ)、か。

 僕への彼なりの皮肉かな。

 

 

 そう少し苦笑してると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

 

 

「ハハン、手紙なんて何かの冗談かと思ってましたがね」

 

 

「ちゃっかり一番に来てたじゃねぇか、バーロー」

 

 

「にゅー、二人とも煩い‼︎ もう何処にも行かないよう捕まえるんだから‼︎」

 

 

「ぼ、僕ヂン…」

 

 

「主よ、お待ちしておりました」

 

 

 

 振り向けばそこには見知った顔が並んでいた。

 

 

 誰の仕業かは考えるまでもないね。

 

 やってくれたよ、

 

 ギリギリまで会わないつもりだったのにさ。

 

 

 そう思ってるとさっきまで黙っていた一人が僕へと向かって歩いてきた。

 

 十年後の世界でも幼い姿だったけど過去だからかさらに幼く感じる。

 

 

 

 

 そんな少女が僕の前で止まり

 

 

 

「おかえりなさい、」

 

白蘭さん

 

 

 

 笑顔で迎えてくれた。

 

 

 

 

 ああ、

 

 やっぱり視界がぼやけてきた

 

 だから直ぐに会う気はなかったのに。

 

 

 ハハッ

 

 格好わるいなあ

 

 

 でも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ただいま、みんな」

 

 

 こういうのも

 

 たまにはいいかな。

 


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