彼を思う   作:お餅さんです

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最終話 「まだ見ぬ大空へ」

 あつい

 

 それに体がいまにも消し飛びそうだ

 

 これ以上は耐えられないと全身から悲鳴が上がってる

 

 全然笑えないね

 

 もういっそ楽になりたいよ

 

 でも

 

 もう少し

 

 

 あと少しで…

 

 

 

 

 

 

 

 気づいたのは五歳の頃。

 両親をマフィアに目の前で殺された時に思い出した。

 

 その時駆けつけて助けてくれた警官が言うには両親は麻薬密売の取引現場を偶然見てしまい口封じに殺されたらしい。

 

 

 その後僕は孤児院で過ごす事になった。

 周りの人達は歳の割に落ち着いた俺を見て目の前で両親を殺されたのがよっぽどショックだったんだろうと思ったのかそっとしていてくれた。

 

 でもいい方は悪いけどそんな事を気にする余裕がなかっただけだった。

 

 

 

 自分があの『家庭教師ヒットマンREBORN!』の未来編に出てきたシリーズの中でも特に性格が酷かった白蘭だと気付いたから。

 

 自分に与えられた部屋の中にある鏡を見れば直ぐに分かった。

 元からなのか精神的にショックを受けたのかはそれまでの記憶がないから分からないけど白く染まった髪、左目の下に独特な形の痣がある。

 

 それだけならただ似ているだけかもしれないけど間違いようのないこともあった。

 

 

 別のパラレルワールドの自分との情報や意識を共有する力。

 

 史実通りなら過去からやって来た入江正一に二度会うことで自覚する力だけど僕は自分が本当に白蘭なのならそうなると初めから知っていた。

 そのせいだろうか、まだ入江正一に会っていないにも関わらず力を使う事が出来た。

 

 

 …だけどよく考えればそう慌てることはないか。

 記憶はリボーンの事しか覚えてはないけど僕は史実の白蘭のように世界征服にも神にも興味ないから。

 

 精々不思議がられない程度に力を使って過ごすさ。

 

 

 

 

 

 

 両親が殺されてから十三年、力を偶に使いながら過ごしていた僕は孤児院を出てアメリカの工科大学に進学した。

 

 確か史実の白蘭もそうだったけど興味あったしアメリカには工科大学がいくつもあるから同じ大学になる事はそうそうない、なっても何もする気ないしね。

 

 

 

 そんな風に過ごしていたらふと気になった…

 

 僕が史実通りに動かなかったのなら

 

 物語はどう進んで行くのだろうか。

 

 僕が持つ力の対象は自分の存在するパラレルワールド

 

 なら

 

 

 少し進んだ僕がいる世界も

 

 見れるんじゃないか

 

 

 

 

 

 

 

 上がる怒号

 

 悲鳴

 

 嗚咽

 

 

 家は崩れ

 

 ビルは倒れ

 

 山は燃える

 

 

 マフィアだけじゃない

 

 一般人まで

 

 裏も表も関係なく

 

 

 

 

 

 

 

 もうあの光景が終わったのに息が荒く、苦しい

 

 前に力を使ったときも凄く疲れたけど今ほどじゃなかった

 

 それはきっと、気づいてしまったから…

 

 

 この僕がいる世界は入江正一が主人公である沢田綱吉と偶然出会った世界。

 つまりは漫画やアニメの舞台となった世界だということに。

 

 

 パラレルワールドの数は入江正一の言う通りなら約八兆は少なくともある。

 

 その中からたった一つの世界、まずあり得ないと思ったし別に何もする気はなかったから気にも止めてなかった。

 

 だけど少し時間をかけて調べれば直ぐに分かった。

 

 僕がいる世界以外は全て他の白蘭によって征服されている。

 これだけで僕が今いるのが唯一征服されていない世界、物語の舞台だと分かる。

 

 でもそれは問題ない。

 問題なのは…

 

 

 

 他の征服された世界全てが

 

 

「ハハハ…知らないよ、そんな奴ら」

 

 

 全く知らない奴らに滅ぼされてた。

 

 

 

 アニメは原作の途中で終わった。

 僕は漫画やゲームを買ってないからそのぐらいしか知らないけど、多分そういう事だろう。

 

 未来編の最後は主人公である沢田綱吉が白蘭を倒す事で他の世界の白蘭も消え去って過去に至るまで白蘭がしてきた事が無かったことになり終わる。

 

 …なら沢田綱吉が白蘭を倒さなかったら?

 

 この世界も他の世界もそのまま進む。

 それだけだ。

 

 

 そう…

 他の白蘭に支配されていた世界が全て原作かゲームのオリキャラ達との戦いで滅ぶだけ。

 

 

 

 そしてこの世界にもいつか来る。

 

 このまま未来編を経験しないボンゴレはほぼ間違いなく負ける。

 

 そしてその戦いの影響を受けて裏表の世界関係なく巻き込まれ、やっぱり滅ぶ。

 

 

 …ただこの世界だけを救うのなら簡単だ。

 そこそこ戦って最後にネタばらしすればいい。

 

 貴方達を強くするための嘘でしたって。

 思うところもあるだろうけど一緒に仲良くこれからやって来る敵と戦いましょうって。

 

 実際にその時が来れば賞賛すらされるだろう。

 

 

 だけど他の世界はそうはいかない。

 他の世界は僕以外の要因で滅んでる、その要因を取り除けたとしてもその世界の白蘭が消えなければ世界は支配されたままだ。

 

 それはつまり

 

 

 

「僕に、死ねってか…」

 

 嫌だ

 

 死にたくない

 

 心から断言出来る。

 少し前の僕なら誰に頼まれたって断るだろう。

 

 

 

 …だけど見てしまった。

 

 本当にこの世界が原作の舞台なのか確かめるために。

 

 

 態々大学に休学届まで出して何年もぶっ続けで、

 

 もしかしたら他の世界がそうじゃないのかと

 

 もしかしたらどこかの世界では解決出来ているのではないかと

 

 

 

 

 

 

 約八兆にも及ぶ、世界が滅びゆく様を全て。

 

 

 馬鹿だよね。

 

 あんなのみたら

 

 もう見捨てられるわけないじゃないか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …っ‼︎

 

 声が聞こえてくる

 

 

 …まっ‼︎

 

 ずっと遠くから、聞き覚えのある声が

 

 

「白蘭様っ‼︎」

 

 っ⁉︎

 

 

 いつの間にか最後の撃ち合いも終わってた。

 

 

 危なかった

 

 桔梗の声が無かったらそのまま気を失って全部台無しになるところだった。

 

 でも頭以外の右半身がかなり吹き飛んで残った体も火傷だらけなら仕方ないよね。

 

 あぁ、痛いなぁ…

 

 自分でもよく立ててると思うよ。

 

 

 …ハハッ

 みんなすごい目で見てくるね

 

 やったの綱吉くんなんだけどな

 咄嗟に雨属性の炎で鎮静してなかったらアニメみたいに消し飛んでたよ。

 

 

 

 そんな事考えてたら体が崩れ落ちちゃった

 

 右足がないからね

 

 

 でも、

 

 進まない訳には行かないから

 

 

 それでも前に進もうと体を引きずり出すと固まってた桔梗が空へと合図を出す。

 

 すると計画通りバッテリー匣を開けた真6弔花が僕の周りに集まってくる。

 

 桔梗とブルーベルは周りを警戒してザクロと幻騎士は僕に肩を貸し、デイジーは必死に治療を進める。

 

 みんな何も言わないけどそんなに泣かれるとすごく申し訳ない。

 

 ゆっくりと全員で進んでく中、周りは武器を構え直し警戒してる。

 

 そりゃそうだよね、自分達はGHOSTのせいでもう炎がないのに真6弔花のみんなは炎を回復して敵の親玉である僕と一緒に自分達のボスに向かうんだから。

 

 

 ここで攻撃してこないのは綱吉くんへの信頼かな?

 

 全く羨ましいよ、

 

 僕は信頼してくれてる仲間を何人も看取ったこともあるのに、君は誰一人欠けてないんだから。

 

 漫画の数十分もあれば読み終わるような数話分だけの修行しかしてないわけじゃないのは知ってるけどさ、

 

 それでも主人公の仲間っていうのもあると思うからどうしてもそう考えちゃう。

 

 

 

 そう思ってるとやっと着いた。

 

 この漫画の主人公、中ボスだった僕を倒したボンゴレⅩ世沢田綱吉、そしてその隣の僕の言う通り何もせずに終わるのを待っていたユニちゃん達の前に。

 

 

「改めて…初め、まして綱吉くん」

 

 うん、やっぱりデイジーはすごいね。

 まだ少し苦しいけどこの短時間で喋る程度なら申し分ないよ。

 

 

「…ん、少し時間がないから省くけどとりあえずおめでとう。君は僕達の期待通りに成長してくれた」

 

 周りから驚きの声が上がる。

 さっきまで散々暴言を吐き散らしていた僕が賛辞の言葉を送ったからか、それともこの結果を僕が望んでたと知ったからか。

 

 別にどちらでも構わない。

 

 もう終わるのだから。

 

 

「分からない事はあとでユニ達が教えてくれることになってる…君には損なことばかり押し付けることになって申し訳ない。けどどうか頑張って欲しい、そして不甲斐ない僕を許してくれ」

 

「それと真6弔花のみんなは元々表の人間で僕が勝手に引っ張ってきただけなんだ。殺しどころか犯罪は何一つ、誰一人犯していない。今回のも僕の命令なんだ、それだけでも心に留めておいてくれ」

 

「…他にも言ってたらキリがないね。そろそろ終わろうか」

 

 そう言うとユニのからだが大きく震えた。

 

 彼女は優しい

 

 他のパラレルワールドでは一般人の盾になるぐらいに

 

 だから

 

 自分がそれをすればどうなるか分かってるから

 

 

 

 

 

 

 

 震えながらも僕におしゃぶりを渡した。

 

 

 それを見た周りの反応は様々。

 

 驚き固まる者

 遠慮なしに攻撃を繰り出す者

 その攻撃から僕を守る者

 何かを察し周りを諌める者

 

 それらを歯牙にもかけずユニにお礼を言い何かの一部が出ているおしゃぶりを受け取ると崩れ落ちて泣き出した。

 

 それを見て申し訳なく思いながらもさっきから一番ついていけてないであろう、慌てた顔をしている主人公に向き直り喋り出す。

 

 

 

「僕は君のようになりたかったよ」

 

「あらゆる世界が終わりを望むような中ボスなんかじゃなく、」

 

「誰もが認める」

 

 

「君のような主人公に」

 

 

 

 今の僕の顔はどうなっているだろうか

 

 これから先無理難題を押し付ける事になってしまった中学生の少年に対して

 不安を残さないよう、

 

 

 ちゃんと笑えているだろうか。

 

 

 

 

「さぁ、そんな凄く羨ましい君にいい事を教えてあげよう」

 

 空気を変えるように口調を明るくするとそれに合わせて肩を貸してくれていた二人が少し離れ、匣から車椅子を取り出し僕に座らせる。

 

 

「僕が何年もかけて得た未来の知識に何年もかけて形にしたとっておきの技術をね」

 

 僕が残せるのはこんな物ぐらいだから。

 

 

「大空の属性は唯一全ての匣を開ける事が出来る」

 

「だから僕はこう考えた。…大空の死ぬ気の炎を扱う人間とは全ての属性の炎を持ち、その炎を無意識に調和という素質をもって纏め上げる事の出来た人間が扱える物なんじゃないかとね」

 

「そして僕のその仮説が正しければ調和という性質は炎に依存するのではなく扱う人間にある。だからこうやって…」

 

 ⁉︎

 

 ここにきて周りを諌め、成り行きを見守っていた世界最強のヒットマンリボーンが声こそあげなかったが目に見えて驚いた。

 

 それもその筈、

 

 何故ならこの炎は

 

 

 

「ユニの炎だよ」

 

 

 

「炎は指紋のようなもの、個人によってその色や形、強弱は異なる。だけど僕のように何年も見続け、調和の素質を持ち、それを扱う技術をもつ人間なら、」

 

「全く同じ炎を灯す事が出来る」

 

 

 両手にのるおしゃぶりを包む程度の炎は次第に大きくなりボク一人を丸々包む程になって留まる。

 

 戦ったあとだけどGHOSTで吸収した炎は殆ど使わなかったしアニメではユニと吸い取られたガンマ二人分の炎で成功したから何とかなるだろう。

 

 

 これは維持はともかく灯す際はとても集中力を使う物だから周りを気にする事が出来なかったけど、周りを見た限りリボーンから説明があったらしい。

 

 高密度の炎が周りを覆ってるからあまり聞こえないけど綱吉くんも計画を知ってたユニやブルーベル、デイジーまで僕を止めようとして周りに組み伏せられてる。

 

 

 みんな目から涙を流してる。

 

 それを止めようとする他の真6弔花のみんなも歯を食いしばり何かに堪えようとしてる。

 

 ボンゴレ側の人間もようやく事情を知ったのか顔を俯かせたり、

 

 正ちゃんに至っては顔が真っ青じゃないか。

 

 

 でもああ、

 

 不謹慎かな、よかったと思った。

 

 ずっと不安だったんだ。

 

 

 僕みたいな物真似でいいのかって、

 

 君達が苦しんでる姿を上から見下ろしていた僕なんかでいいのかって、

 

 

 みんなのせいだよ

 

 笑っていくつもりだったのに、

 

 目の前が滲んできたじゃないか。

 

 

 

「…ありが、とう」

 

 

「僕の為に…泣いてくれて、」

 

 

 

 

 

「僕、は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸せだったよ

 

 

 

 もう目が霞んできてどんな顔してるか見れないや

 

 みんなには、聞こえたかなあ…

 


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